Side:梓


鬼の行動に変化がないか調べると言う事で、今日も今日とて、元気に鬼討ちなんだが、クエヤマ程度ではハッキリ言って私の相手で
はない。
巨体から繰り出される攻撃は確かに重いが、私ならば、其れを喰らっても平気だし、タマハミ状態の突進攻撃だってタイミングさえ合え
ば片手で防ぐ事が出来るからね――そう言う訳で、お前は私の敵じゃないから、遠い空に飛んで行け!!

そして、此れで終わりだ!!


――ポイ!!

――ドガァァァァァァン!!



「フン、汚い花火だな。」

「あの巨体を投げ飛ばした上で爆発四散させるとは、相変わらず凄いな梓。
 君の前では如何に強力な鬼であってもおそるるに足らないと思ってしまうよ――君は、鬼をも超えた、最強の鬼神なのかもな。」



鬼神か……ふむ、破壊神を名乗るよりも鬼神の方がカッコいいかも知れないな。
だが、楽勝だったとは言え、鬼の行動に少し変化があったのは間違い無いと思うぞ?此れまでよりも小型の鬼は軍勢が多かったし、
クエヤマは行き成りタマハミ状態で現れて積極的に攻撃をして来たからね。
如何やら指揮官が討たれた事で、逆に攻勢に出て来たのかも知れない。

此れは、里に戻って大和に報告すべき最重要情報だな。大和ならば、必ず対抗策を考えてくれるだろうからね。












討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務32
『新たなる脅威~オオマガドキの影~』











Side:速鳥


戦の領域に、これ程までの小型の鬼が集まって居るとは、尋常ではない……しかも、鬼が領域内の遺物を持ち寄って、塔のような物
を造っているとは。

あの塔、只の塔ではなさそうだ――なれば、今此処で塔の完成を阻止するのみ。
数は多いが、ガキならば相手ではない。



――ズバズバズバズバズバァ!!



よし、このまま殲滅………



『グガァァァァァァァァァァァァァァ!!!』

『ゴアァァァァァァァァァァァァァァ!!!』

「!!!」

此処で大型の鬼が2体も!
それも、2体ともミフチ等とは比べ物にならない程の体躯である上に、周囲に放出している瘴気が並みの大型鬼の其れとは比較にな
らない。
加えて結界を張られたか……此れでは手出しが出来ぬ。

く……敵に背を向けるのは無念だが、討伐が困難である以上は里に戻って皆に伝えねば。――此処は、戦略的撤退をさせて頂く!








――――――








Side:梓


「ふむ、小型鬼の軍勢が前よりも増え、クエヤマは行き成り凶暴化した状態で現れたか……確かに、此れまでには確認されていない
 行動だな。」



あぁ、加えて領域内の瘴気が此れまでよりも濃い気がした。
私達は指揮官を討ったが、其れが却って鬼達に危機感を募らせて攻勢に出させてしまったのかもしれない――まぁ、逆に言うなら、今
度は指揮官ではなく、総大将が出てきてくれるのかも知れないがな。



「総大将だぁ?上等じゃねぇか、そいつを討てば万事解決ってモンだ!」

「そう簡単に行くとは思えんが、少なくともオオマガドキを防ぐ事は出来よう。
 もうじき、別行動を取っていた速鳥が戻って来る。奴も奴で何か掴んでいるだろうから、其れを聞いてから此れからの事を決める。」



居ないと思ったら、速鳥は独自に動いていたのか。
1人で行ったのが気掛かりだが、天狐や小動物が絡むとポンコツになってしまう事を除けば、モノノフとしての腕前は確かだから、必ず
帰還して何らかの情報を持って来てくれるだろうからね――と、噂をすれば影だ。
おかえり速鳥。何か情報はつかめたか?



「……戦の領域で、只ならぬ事態が起きている。」

「なんだって!?」



反応速いな息吹。
だが、私も同じ気持ちだよ。戦の領域で何が起きていたんだ速鳥?



「『鬼』が『塔』のようなモノを造っている場所を見つけた。――だが、『鬼』に気付かれ、結界を張られた。
 今はもう、近づけぬ……」

「『塔』だと……?」

「……1人で突っ込んだってか?如何して、俺達に知らせなかった!」

「弁解の余地はない。」



気持ちは分かるが、今は押さえろ息吹。
其れよりも、『塔』とは、何とも妙なモノを拵えているな『鬼』達は?――速鳥、その『塔』と言うのはどんな物なんだ?ザックリと大雑把
で良いから教えてくれ。



「形は歪な円錐形。
 領域内にある遺物を、『鬼』達が集めて積み上げて作っている様だった。」

「『鬼』が自ら造る『塔』……一体何なのか?――大和、8年前のオオマガドキの時にはそう言った物は現れなかったのだろうか?」

「……分からん。
 8年前にそう言った物があったのか、そして今回造られている『塔』が如何言った物であるかもな。」




「その『塔』を破壊しないと、オオマガドキは防げませんよ。」




この声は、秋水!
相変わらず帽子と眼鏡が胡散臭さ大爆発で、キャッチセールスでもやっていそうな喋り方だが、『塔』を破壊しないとオオマガドキを防
ぐ事が出来ないとは、どういう事だ?



「言葉通りの意味です。」

「如何して、お前にそんな事が分かるんだ?」

「……僕は、正確には『モノノフ』の人間ではありませんから。」

「んだと……?」



落ち着け富嶽。すぐに熱くなるのは時と場合によっては悪癖だぞ。
で、秋水。『モノノフ』の人間ではないと言うと、お前は一体何者なのか聞かせて貰えるかな?



「僕は『モノノフ』とは異なる、別の組織に所属しています。
 其れがどのようなものかは明かせませんが……彼方達とは、全く異なる情報を握っているとお考え下さい。」

「其れはつまり、お前はどこぞの組織の間者と言う事か?
 仮にそうだとして、何故そんな事を私達に話した?――場合によっては、お前をこの場で拘束する事態に発展するかも知れんぞ?」

「其れでも、伝えておいた方が良いと思いまして。
 ……彼方達に、少し興味が湧きました。此のまま全滅していただいては面白くない――組織の長老達の小間使いと言うのにも、少
 々飽きていたところです。
 行動の自由さえ保証していただけるのでしたら、僕は協力したいと思いますが、如何ですか?」

「貴様、ぬけぬけと……」



待て、桜花。
確かに今此処で秋水を取り押さえるのは簡単だが、同時にコイツが持っている情報と言うのも私達にとっては貴重なモノだ。何よりも
コイツは計算高いから、自分の素性を明かすリスクまで侵して私達に嘘情報を流すような事はしない筈だ。

或いは、私が規格外すぎるから嘘は無駄だと思っているのかもしれないがね。
尤も、最終的な判断を下すのはお頭になるのだが――如何する大和?



「……是非もない。お前の力が必要だ、秋水。」

「ちょっと大和……!」

「此れまで泳がせてやったのだ、この辺りで、借りを返して貰おう。」

「大和、お前気付いていたのか?いや、私も怪しい奴だとは思っていたが……」

「流石はお頭と言った所ですね。――分かりました、では、お話ししましょう。
 さて、『鬼』がこの世界にあらわれる為に必要なモノが、何か知っていますか?――命の源たる魂と、その依り代となる『モノ』、即ち
 ハクです。
 強大な『鬼』ほど、その身体を構成するのに多くのハクと魂を必要とする。速鳥さんが見たのは、その集積物。
 強大な『鬼』を召喚する為の依代です。」



鬼が出現する条件か……成程、だから大型の鬼の方が小型の鬼よりも骸を払った際に得られるハクの量が多く、ミタマを取り込んで
いる場合が多いのか。
そして速鳥が見た塔は、強大な鬼を召喚するためのモノ……差し詰め、悪魔召喚の儀式で使われる魔法陣のようなモノか。



「あぁ、梓さんは西洋の事にも精通していたのでしたね?えぇ、概ねその認識で合っています。
 『鬼』は、その塔を使って呼ぼうとしているんですよ――扉を開く、終末の『鬼』を。」

「扉を……開く……?」

「此方と彼方、幽明の間を結ぶ門。
 時の因果を越える、オオマガドキの扉――其れを開く『鬼』が、此れより現れます。」



成程な。
しかし、まるで見て来たような口ぶりだな秋水?『講釈師、見て来たような嘘を言い』と言う言葉があるが、お前の言う事がそうである
とは思えない――如何して、其処まで分かる?



「無論、見てきたからですよ。
 8年前のあの日、オオマガドキが起きた時、僕はその場に居たのですから。」

「まさか……北の大地の災禍……君は、その生き残りだと言うのか秋水。」

「……ご想像にお任せします。
 其れよりも、速鳥さん、『塔』は赤く光っていた……そうですね?」

「……その通りだ。」



北の大地の災禍……うん、梓の記憶のお陰で分かるが、オオマガドキのせいで一つの里が壊滅したか……その生き残りならば、確
かに『実際見てきた』のだろうな。
其れよりも秋水、件の『塔』が赤く光っていると言うのは何か意味があるのか?……とても嫌な予感がする。と言うか、嫌な予感しかし
ないのだが……



「ならば、もう猶予はなさそうです。
 おそらく、既に十分な量のハクと魂が『塔』に蓄えられつつあるのでしょう――『塔』が赤く光るのは、そう言う意味です。
 時が満ちれば、『塔』を依代にして、『鬼』が此方の世界に現れるでしょう……そして、今度こそ人の世は滅ぶ。」

「なら、早く『塔』を壊そう!それで、オオマガドキを防げるんでしょ?」

「……いや、恐らくはそう簡単な事ではない。そうだな、秋水?」

「流石は梓さん、鋭いですね。
 ……些か語弊がありましたね。『塔』を破壊するのは、事実上不可能でしょう――あれほど巨大な建造物を壊す手段は、僕達にはあ
 りまえん。
 其れこそ、如何に梓さんが規格外のモノノフであっても無理でしょう――破壊を上回る速さで作られて行くのですから。」



……小さき勇者の集束砲ならば吹き飛ばせるような気がするのだが、私がアレを使うには本家よりもチャージ時間が長くなる上に、威
力だって本来と比べたら可成り落ちるからね。
だが、手がない訳じゃないんだろう?



「はい、機会はあります。
 塔を依代にして『鬼』が現れた、その一時に。
 『鬼』が現れても、扉が開くまでは暫しの猶予があります。その僅かな間で『鬼』を討ち果たす――それが、唯一の勝機です。
 その時に間に合うかは……彼方方次第です。」

「……その話が正しいって保証は?」

「聞くだけ無駄だ息吹。
 お約束的に、こういう場合は秋水を信頼するしかない。そう言うのが世の常だからね。」

「流石は良く分かっていますね――その上で、如何されますか梓さん。」



どうもこうもないだろう?
お前が言った事を本当と信じて行動する以外に道はなさそうだからね――其れに、確かにお前は怪しさ抜群だが、しかし自分に利が
ない事はしないタイプだろう?
なら、私はお前を信じてみるさ。



「……聞いての通りだ。
 どちらにしても『塔』を調べる必要がある。
 秋水の言を信じようと信じまいと、俺達の取るべき行動は同じだ――結界を解き、『塔』に至る道をこじ開ける。」

「……恐らく、自分が遭遇した2体の『鬼』が。結界を張った首魁。あの2体を討てば、結界も解けるはず。」



なら、急がないとな――もう時間はあまり残されていないようだしね。
ならば、何としてでも結界を張った2体の『鬼』を見つけ出し、そして討ち果たさねばな。――見つけ次第、我が六爪流の錆にしてやろ
うじゃないか!!

此処が正念場だ、気合を入れて行くぞ皆!!



「「「「「おーーー!!!」」」」」



オオマガドキ――必ずや防がねばな。








――――――








Side:速鳥


己の不始末で里を危機に陥れるとはな――忍びにもなれず、モノノフにもなり切れん。

自分は……自分は誰だ……?








――――――








Side:梓


オオマガドキを引き起こす『鬼』とは、厄介な者が居た物だな息吹?



「まったくだ。
 折角『鬼』の指揮官を打ち倒して、少しはゆっくりできると思ったら、今度は更なる大物が出て来るってんだからな。
 ……そう言えば、速鳥を見なかったか隊長?本部を出てから姿を見てないんだが……」

「ん?そう言えばいないな?……私も見てないぞ?」

「そうかい……いや、また1人で背負い込んでるのかと思ってな――アイツはずっとそうだったからな。
 誰も頼らず、1人で全部やってのける。其れが巧く行かなくなった時、アイツはどうするのか……少し気になっただけだ。
 さあて、如何にかして、その『塔』ってやつの所まで行かないとな――今日も元気に頑張りますか、隊長。」



そうだな。
禊も済ませたし、改めて本部の方に行ってみるか――新たな動きがあったかも知れないからね。



さてと、本部だが……何か用か秋水?



「いえ、貴女は僕が異分子だと知っても変わらないなと思いまして……矢張り不思議な方です。」

「……生憎と、私は見た目以上に経験豊富でね。
 間者として入り込んでいた者が、何時の間にか本当の味方になっていたと言うのは其れなりに見てきたんだ――だからこそ、お前
 の言う事も信ずるに値すると考えたのだがね。」

「矢張り奇妙なお方だ――ところで、先程速鳥さんを見かけましたよ?何やら只ならぬ様子でしたが……」



速鳥を?……何かあったのか?



「さぁ……そうですね……僕から言えるとすれば……彼もまた、過去の因縁に苦しめられるモノの1人と言う事です。
 後は、ご本人にお確かめください。」



過去の因縁……初穂に息吹に富嶽――此れまでの事を考えれば、速鳥もまた重い過去を背負っている可能性は高いと見るべきか。
速鳥が、一体どんな過去の因縁を背負っているのか、聞いておいた方が良いのだろうな。

受け付けの台帳に記帳は無かったから任務に出てる事はない――と言う事は里の何処かに居る筈だから、探して話を聞かねばな。

マッタク、隊長職と言うのも楽ではないようだ。
アレだけ個性の強い騎士達を纏め上げていたお前の事を尊敬するよ、烈火の将よ。










 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場