Side:梓


鬼の指揮官であるゴウエンマを討ったからと言って、鬼との戦いの日々が終わった訳ではないので、今日も今日とて元気に鬼討ちと
言う所だな。
指揮官を失ったとは言え鬼の勢力が衰えた訳ではないから、此れまで通り、出てきた端から狩るだけの事さ――まぁ、私の前に現れ
た『鬼』に情けをかけてやる心算など毛頭ないがな!!



「好機だ、一気に決めろ梓!!」

「任せろ桜花!!」

大分派手に暴れてくれたが、遊びは終わりだアメノカガトリ!!
泣け、叫べ、もがけ苦しめそして死ね!!――だが、楽には死ねんぞ!!!此れで、燃え尽きろぉぉぉぉぉ!!!



――バガァァァァァァァァァン!!!



「ヒノマガトリの変異種であるアメノカガトリが即時滅殺されるとは、君は本当にすさまじい力を秘めているんだな梓?」

「アンタの活躍を見てると、俺達は必要ないんじゃないかって思っちまうぜ、割と本気でな。」



オイオイ、そんな事を言うなよ息吹。
確かに私は強い、其れは認めるが、お前だってウタカタの大切な仲間であり、欠ける事は出来ないんだ――お前は絶対に必要なんだ
よ息吹。お前の存在は仲間の士気を上げるからね。
だからお前は、何時でも『伊達男』で居てくれ。そっちの方がなじみ深いからね。



「了解。其れに従うぜ。」



頼むぞ。
さてと里に帰るか――この前のアマキリの素材と、今回のアメノカガトリの素材を合わせれば、可成り強力な天属性の武器を作ってく
れるかも知れないからね。












討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務31
『指揮官を討っての日常』











と言う訳で、里に帰還して、オヤッさんにアマキリとアメノカガトリの素材を使った天属性の武器の開発を依頼中です。
この2体の素材ならば、最高性能の刀になるだろうからね――さてと、首尾はどうですかねオヤッさん?オヤッさんの腕前なら、1時間
もあれば、最高の武器が出来るって、そう信じているのだけれどね?



「オメェ、ワシを誰だと思ってる?天下の鍛冶屋のたたら様だぜ?
 1時間なんざ必要ねぇ……30分で、お前さんにピッタリの天属性の刀を拵えてやる――出来るまで、適当に時間でも潰してな梓。」

「いや、見学させて貰うよオヤッさん。
 物が出来上がっていく過程と言うモノを見るのも面白いから好きなんだよ。」

「好きにしろい。
 ワシの仕事を見て面白いと思うなんざ、オメェさんも相当な代わりモンだな。……折角だ、他の刀も見せな。鍛えておいてやる。
 何か要望が有れば言いな、細かい調節なんかもしてやるからよ。」



そうか?
其れじゃあ、柄の鍔のすぐ下、指1本半分くらいの幅で少し細くしてくれないだろうか?強度に問題がない範囲で。



「そりゃあ構わねぇが、何だってそんな事をするんでい?」

「いや、折角6本揃ったので、必殺の六爪流を使ってみようかと。
 アレを使う場合には、刀を指の間に挟んで6本同時に使うから、少しでも細い方がやり易いんだ。」

「二刀流ならぬ六刀流ってか?……トコトン規格外だなオメェさんは。
 分かった、その要望を叶えてやろうじゃねぇか。天属性の刀も同じように作ってやるから、そいつで確りと鬼を倒してきな。」



うん、約束するよオヤッさん。

そう言えばオヤッさんは家族は居ないのか?ウタカタで其れらしき人を見た事はないのだが……年からして独り身と言う訳ではないな
いのだろう?



「家族は霊山に居るが、ワシは一人でウタカタに来ちまってなぁ、もう大分長い事会ってない――娘も良い年頃だろうがなぁ。
 如何言う訳か、ワシに似て気の強い娘だった……其れが悪いとは言わねぇが、あんなに気が強くちゃ、嫁の貰い手がねぇんじゃねぇ
 のかって心配になっちまうぜ。」

「オヤッさん並みに気の強い子か……其れは、確かに相当に強い男でないと夫は務まらなそうだ。」

「ありゃぁ、絶対に旦那を尻に敷くって奴だろうなぁ。流石に見た目は女房に似て美人だがな。」



ほう?オヤッさんの奥さんは美人なのか?



「なに、昔の話よ。
 若い頃は、そりゃあいい女だったが、今じゃ見る影もない婆だ。ま、かく言うワシも見事なまでに爺だがな。
 まぁ、ワシの家族ってのはそんな感じだ。――で、オメェさんの家族は如何してるんでい?」



む、私の家族か……さて、どう答えるか?
海鳴での事を話すと彼是面倒な事になりそうだからなぁ……此処は矢張り、梓の記憶を使うのが一番だろうね。嘘は言ってない訳だ
しな。

私の家族も霊山で暮らしているよ。
両親との3人暮らしだったんだ。――こちらに派遣される事が決まった時は、旅立ちの朝に『頑張って来い』と言われたが、私がモノノ
フになると言った時には大反対されたよ。

『1人娘を危険な戦場に送り出せるか』ってね。



「そりゃあ、親として当然の反応だろうよ。
 どんな親だって自分の子供の心配をしねぇ奴は居ねぇ――その子供が、鬼と戦うモノノフになるなんて言い出したら、先ずは反対す
 るだろう。
 だが、オメェの親御さんは、最終的には認めてくれたんだろう?」

「必死だったからね私も。
 全ての鬼を討ち倒し、人の世を取り戻すと、父と母に平和な世界で暮らして欲しいんだと言って何とか納得してもらったんだが、その
 お陰で、今私は此処に居る事が出来る。
 両親の為にも、私はモノノフとして功を立てねばだ。」

「……その心意気だ。
 まぁ、桜花達から聞いた話から考えるに、オメェさんは既に立派にモノノフとしての役目を果たしてると思うがな――ったく、何処の世
 界に大型の鬼を蹴り一発で吹き飛ばす奴が居るってんだ。」

「いや、此処に居るが?」

「分かってらい!
 そんな規格外のオメェさんが、ワシの武器を使うんだ、余程の『鬼』が相手でない限りは負けるこたぁねぇ筈だ。いや、絶対にない。
 ほらよ、出来たぜ。天属性の刀『妖刀不二』だ。柄の部分はオメェさんの要望通りに作ったぜ。」



此れは、まるでガラス細工の様な透明度を持った金色の刀か!刀として十分な強度を持ちながら、これ程の透明感を持った刀身を作
るとは……何時もの事ながら見事な業物だオヤッさん。
刀身の細い部分も、私の指で挟むのにピッタリの太さだよ。



「そいつは良かった。
 他の5本の柄も同じように直しといた。コイツで、鬼を地獄に送り返してやんな!」



うん、他の5本も良くなじむ。
ありがとうオヤッさん!この前仕込んだ山ブドウの酒が出来たら持って来るよ。



「オメェさんが仕込んだ酒かい?そいつは楽しみだ。」

「あぁ、楽しみにしていてくれ♪」

そう言えば、他にも梅酒や杏酒や桃酒など色々仕込んでいたな……折角だから、出来たら全種を差し入れるとするか。其れ位の礼を
しても罰は当たらないだろうからね。




さてと、自宅に戻って来た訳だが……流石に大型鬼と連続で戦うのは疲れるな?
なはととりひとに御飯も上げたし、今日はもう寝るとしよう――明日も、また鬼との戦いが待っているのだろうから、確りと身体を休めて
おかないとだからね。



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『……我の声が届くか?』



ん、聞こえているよ。
此れは、毎度お馴染みの夢でのミタマとの邂逅と言う所かな?――此れは、ゴウエンマから手に入れたミタマかな?



『我は武蔵坊弁慶。
 かの豪炎の『鬼』に囚われていた者――再び人の世に戻れたは、ぬしのお陰。この力、此の忠義、ぬしに預ける。』



千人力と称された豪傑、武蔵坊弁慶か。其れは頼もしいな。



『百の矢に貫かれようと、九郎殿を守るために我は戦った――だが、其処に『鬼』が現れ、我の身体、我の魂を喰い破った。
 主を守れなかったこの身の弱さ、いかような申し開きも出来ぬ、せめてこの戦に助太刀し、我が主の御魂を慰めん。
 心せよ。災厄は祓われてはおらぬ。
 昼と夜が巡るように、オオマガドキは巡る……『鬼』に喰われたと言う存在しない過去、存在しない歴史。その矛盾の積み重ねにより
 過去と現在の結び付きは解けつつある。
 因果を解き、この世界を虚無に還そうとの『鬼』の企み。其れを挫けるのはぬしのみ…過去と現在の紐帯たる我等英雄を取り戻せ。
 主が立ち続ける事が出来るよう、我が支えよう。最後の一瞬まで……』



矢張り、ゴウエンマを倒して終わりではないか……大型の鬼達はまだ現れているのだからな。
しかし、オオマガドキを防ぐ事が出来るのは私だけとは、些か買い被り過ぎじゃないか弁慶よ?――確かに私は規格外のモノノフであ
るかもしれないが、私一人でオオマガドキを防ぐ事なんて出来ないさ。
仲間達が居るからこそ、私は其の力を発揮できるからね。

何にしてもやってやるさ。
嘗て世界を滅ぼした力を、今度は鬼に対して使う、其れだけだ。



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……朝か。
よく眠っている筈なのに、夢でミタマと話しているから寝たと言う実感が薄いな……疲労が確りと取れているからちゃんと寝てるのだろ
うけどね。
ほら朝だぞ、なはともりひとも起きろ。と言うか、お前達が乗っかっていたのでは起きるに起きられない。


『きゅい~~ん。』

『♪』




よしよし、聞き分けの良い子は好きだぞ。
起きてすぐだが、先ずは本部に行くとするか――鬼との戦いはいつ起きるか分からないからね。そう言う訳だから、今日も留守番を頼
むぞ、なはと、りひと。



『『きゅ♪』』



うん、頼りになるな。

さてと本部に到着――と言うよりも、自宅の裏口から直通なのだけれどね。おはよう大和。



「お前か。よく眠れたか?」

「あぁ、バッチリとね。
 昨日はアメノカガトリとやり合ったが、よく寝たお蔭ですっかり回復したよ。」

「其れは良かった。
 鬼の指揮官を討っても鬼は未だ存在している――が、指揮官を討った事で、『鬼』の行動に変化がないか調べる事にした。
 既に物見が何体か大型の『鬼』を発見している。
 討伐に向かい、不審な動きをするようならば報告しろ。」



昨日討ったアメノカガトリに不審な動きは見られなかったが、確かに指揮官であったゴウエンマを討った以上、『鬼』の行動になんらか
の変化があると考えるのは道理だな。
僅かな変化であっても、其れが結果として大きな事態に繋がると言う事は珍しくないから、其れを調べるのは悪くないと思う。

了解した、桜花達と出撃して鬼の行動に変化がないが調べて来るよ。



「気を抜くなよ。心してかかれ。――汝に、英雄の導きがあらんことを。」



あぁ、気を抜くなんて馬鹿な真似はしないさ。
戦場での慢心は、其れ即ち死に直結するからね――ゴウエンマを討って終わりとは思っていなかったが、寧ろここからが本番なのだ
ろうな。

オオマガドキを防ぐためにも、鬼の行動の些細な変化も見落とさぬようにしなくてはね――何れにしても、この世界を貴様等の思い通
りにはさせん。

この世界は貴様等の物ではなく、この世界に生きる人の物なのだからな!!











 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場



さて、任務前には禊が基本だ、任務の後にも禊は基本だが……此れは、一体如何言う事かな木綿?


『『『『『『『『『『にゃ~~~~♪』』』』』』』』』』



なんなんだ、この大量のネコは!
シュテルか、何処かにシュテルが潜んでいるのかこの猫の量は!!と言うか、一体何処から湧いて来たんだオイ!!



「速鳥さんが領域から連れ帰ってたみたいで、其れが増えに増えて大所帯に……」

「お前のせいか速鳥ーーーー!!!」

アイツは天狐だけでなく、動物なら何でも好きなのか……其れが悪いとは言わんが、拾って来たのなら面倒位見てやれよ。木綿に丸
投げするのは如何かと思うぞ?――お前が動物の世話ができるとは思わないがな。

まぁ、此れは此れで良いとするか。出撃前に、心が癒されたのは、紛れもない事実だからね。