Side:リインフォース


「……ずさ……梓。」



ん……んん~~~……あれ、もう朝か?
そして今の声は桜花だな?――スマナイな、態々起こしに来てくれたのか?手間を取らせてしまったね……あふ、おはようございますだな。



「あぁ、おはよう。まぁ、気にしないでくれ。私が好きでやった事だからな。
 だが、呼びかけて10回目で目を覚ましてくれた事を考えると、君は大分寝坊助さんなのか?其れとも、あまり寝起きは良くない性質なのか?」

「そう言う訳ではないが、昨日は長旅に加えて、着任早々に任務だからね。
 如何に体力に自信があるとは言え、あのハードスケジュールは流石に堪えるんだよ桜花。正直な事を言わせて貰うならば、あと1時間は寝てた
 かったくらいだからね。」

「あと1時間て、幾らなんでも寝過ぎだろう?目が腐ってしまうぞ?」



其れなら大丈夫だ。私の目は既に防腐処理が施されているからな。たとえ24時間寝た所で目が腐る事はないさ。



「そう来たか……戦闘能力が高いだけでなく、君は中々洒落も通じるらしい。ガチガチの生真面目さんよりも好感を覚えるな。
 まぁ良いさ。昨日は突然の襲撃も有って、里を案内することが出来なかったから、改めて里の案内をさせてくれ。顔を覚えて貰った方が都合の
 良い人達も居るからね。」

「是非もない。お願いするよ桜花。」

此れから私はこの里で暮らす事になるのだから、里の事は知っておきたいからね。












討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務2
『ウタカタの里を見て回りましょう』











で、里巡りで最初に案内されたのはモノノフ本部の片隅……何やら、眼鏡の青年が居るが――



「おや?貴女は……噂の新人の方でしたか。
 僕は秋水。モノノフの研究員を務めています。何か分からない事があれば、なんなりとご相談ください。」

「秋水か……此度ウタカタの里に着任したリインフォース梓だ。宜しく頼む。」

「えぇ、此方こそ。」

「ふふ、秋水は少々胡散臭い所もあるが、里一番の切れ者であるのは間違いないし、その知識量は凄まじい物があるから必要なら頼ると良い。」

「胡散臭いとは、中々に手厳しいですね桜花さん?――ま、僕自身、自分が普通の人間とは異なる感性をもってると言う事は自覚してますが。」



自覚していたのか……否、自覚しているのならば大したモノか。
多くの人間は、自分が他者と違う部分をもって居たとしても、それを自覚する事は出来ないからね――まぁ、此れから宜しく頼むよ秋水。



「……貴女は、どことなく変わった雰囲気をお持ちですね?
 滅びに魅入られたこの世界で、貴女がどう生きるのか楽しみにしていますよ、梓さん。」



……意味深な発言だな。確かに、捉え方によっては胡散臭い感じがしなくもないが――此れもまた、秋水の個性と言うモノなのかも知れないね。
如何に梓の記憶があるとは言え、この世界はまだまだ知らない事の方が多いからな……必要な事があれば頼らせて貰うとしよう。

さて桜花、次は何処だ?



「次は樒の所に行こうか?
 彼女はこの里の祭祀堂の巫女だ――ミタマの力を引き出す力を持っているから、会っておいた方が良い。」

「そんな者が居たのか……だが、確かに其れならば会っておいた方が良いだろうね。」

という訳で、本部を後にして、今度は祭祀堂に直行だな。
ふむ、中々大きな社の前に簡易の鳥居が設けられ、その下に机……うん、如何にも何かを祭る為の『祭司堂』と言った感じの場所だよ此処は。



「……誰?」



で、其処に居る巫女なんだが、何と言うか独特の雰囲気だな?
と言うか、巫女装束を肩まではだけさせてる時点で普通ではないか……え~~と、新たにウタカタの里に着任したリインフォース梓だ。よろしく。



「噂の新人……そう。私は樒。宜しく……
 其れにしても貴女…ミタマ、良い物をもってるね。」

「分かるのかい?」

「ミタマの事なら、私が専門……だから、貴女が良いミタマを宿している事も分かる。
 モノノフにとって、ミタマはとても大事な存在――だから、大事にしてあげて。貴女がミタマを大事にすればするほど、ミタマは貴女に力を貸してく
 れるのだから。
 ミタマは、貴女の半身でもある。其れを忘れないで。」



あぁ、肝に銘じておくよ樒。
しかし、ミタマの力を引き出す事が出来ると聞いているんだが、其れは一体如何やるモノなんだ?其れ以前に、ミタマは力が制限されているモノ
なのだろうか?



「ミタマは『鬼』に囚われた英雄の魂……貴女が『鬼』から解放したから、今は貴女の中に有るけれど、鬼に囚われていた事で魂の力が弱まって
 本来の力を発揮できないでいる。
 この祭祀堂は、ミタマを祀る所……そして私は祭祀堂の巫女……ミタマとの結びつきを強めて、本来の力を引き出してあげる……」

「……取り敢えず、お前に頼めばミタマの力は強くなるという事だね?」

「そう。でも、ハクが必要……確り貯めてきて……」



ハク……この世界で通貨として使われているモノだったな。
其れがミタマの強化に必要という事は、『お賽銭』や『お布施』の様なモノなのかもしれない――まぁ、鬼を倒せば得られるモノだし、任務を熟せば
報酬と言う形で手に入るから、足りなくなることはないだろうね。



「ミタマの声が聞こえるのは、特別な才能。大事にして……」

「あぁ、分かった。此れから何かと世話になる事も多いと思うけれど、改めて宜しく樒。」

「此方こそ……」



祭祀堂の巫女・樒――中々にミステリアスな女性だが、不思議と不気味な感じはしなかったな?
しかし桜花、巫女服って言うのはあんな風に着崩していい物なのか?一部の男性諸氏は大喜びかも知れないが、アレは流石に如何なモノか…



「私も其れに関しては以前に指摘したんだが、本人に『この格好の方が本来の力を出せるから』と言われてしまっては、それ以上は言えんさ。
 其れに、樒の格好に関しては里の皆もスッカリ慣れてしまっていて誰も何も言わないからな?……君も、慣れてしまった方が楽だぞ梓。」

「慣れとは、ある意味で恐ろしい物だな。」

「言い得て妙だが、ある意味で真理だ。
 さてと、よろず屋は特に説明しなくても分かるだろう?生活に必要な物を始め、武器の製造や打ち直しに必要な素材等を売っている場所だ。
 昨日のペンの様に、時々珍しい異国の物も売って居る事がある。新商品の入荷は、里の掲示板で確認できるから、小まめに見ておくと良い。」



了解した。
で、次は……ここは鍛冶屋かな?



「おう、桜花じゃねぇか?……だれでぇ、その連れは?見ねぇ面だが……」

「あぁ、彼女は昨日着任したばかりの新入りでね。里を案内していたんだ。」

「新入りだぁ?……ワシはたたらだ。覚えておけ。」



此れはまた何とも厳ついお爺さんだな?……職人気質と言うのか、仕事には一切妥協を許さないと言う感じがする。何とも頑固そうな感じだな。
昨日付でウタカタの里に着任した、リインフォース梓だ。此れから、何かと世話になるかと思うから、宜しく頼むよたたら。



「梓か……良い名前じゃねぇか。
 オメェの装備は、ワシが鍛えてやる。必要なモンがあったら、遠慮なく来い。」

「ふむ……其れじゃあ早速お願いしようかな?
 私の刀なんだが、手入れはしていたんだが昨日の戦闘で少々刃こぼれをしてしまったみたいでね?研いでも良いんだが、折角だから鍛え直し
 て貰っても構わないだろうか?」

「ドレドレ?……ほう、打ち刀とは珍しい武器を使いやがる。
 オオマガドキ以前は、刀といやぁこっちが主流だったんだが、オオマガドキ以降はより広い間合いで戦える太刀が主流になっちまって、今じゃ使
 う奴は殆ど居なくなっちまったんだが、ソイツをこうして拝めるたぁな。
 しかもコイツはよく手入れされてやがる。刃こぼれしたのも、長年大事に使われて来て刀身が少しばかり疲れちまったからだ。
 ようし、出会った記念て事で、只鍛え直すんじゃなくて、コイツをよりお前さんに合った刀に打ち直してやろうじゃねぇか。ちょっと待ってな!!」



お、オイ……あぁ、打ち直し始めてしまったよ。
まぁ、私としても自分の武器がより強くなるのだから異論はないのだが、了承位は取っても良いんじゃないか?――否、此れが職人なのかな。








――カン、カン!


――只今打ち直し中につき、少しだけ待っていてくれ。Byリインフォース








「よし出来たぜぇ!ほれ、持って行きな。」



――『闇払い』が『闇払・弐式』になった。



此れは……凄いな。
刃の鋭さと輝きが増したのは勿論だが、柄の部分が打ち直す前よりも手に馴染む……まるで、最初から私の為に作られたのではないかと思って
しまう位だよ此れは。



「実際にオメェさんの為に打ち直したんだよ。
 良い打ち刀だったが、汎用性を重視して作られたモンだから、誰にでも使える反面、使用者の手に完全に馴染むモノでもねぇんだ……大体8割
 の馴染み具合って所だ。
 だが、武器ってのは8割じゃなくて使用者に10割馴染まなくちゃ意味がねぇ。
 長年の経験で、俺は武器の使用者の体格やら何やらが分かるようになっちまったみてぇでな?そいつを活用して、お前さんの手の大きさに最も
 適した柄の太さと長さにしたって訳よ。」



簡単に言うが、其れは凄い事だぞ!?
初見の相手の体格を正確に把握するなど普通は絶対に不可能だ――余程の観察眼をもって居ない限りはな。
だが、たたらは其れをものの見事にやってのけてくれた……最高なんて言葉じゃ足りない位の職人なのだろうな、たたらと言う人は。



「良いか、簡単に死ぬんじゃあねえぞ?……ワシの仕事が無駄になる。――確り戦ってきな。」

「言われずとも、簡単に死ぬ心算などないよ。」

何よりも、本来だったら消滅を待つだけの身だった私が、何の因果か攻して新たな世界で新たな生を得るに至ったんだ――ならば、何があっても
生きるのが務めだからな。

にしても、たたらは本物の職人だ……となると、矢張りこう呼ぶべきなのだろうか?主はやてが、そう仰っていたからな。

「取り敢えず『オヤッさん』と呼ばせて貰っても良いか、たたら?」

「オヤッさんだぁ?……まぁ、好きに呼びなぁ。」



では、以降『オヤッさん』と呼ぶ事にしよう。こっちの方が、何ともしっくりくる感じがするからね。――で、次は何処に連れて行ってくれるんだ桜花。



「此処で最後なんだが、此処が禊場だ。
 禊場は神聖な場所で、任務で身体に染みついた穢れを払うと同時に、己の潜在能力を一時的に開放する力もあるから、君も任務から戻って来
 たら使ってみると良い。
 だが、禊場の使用時間は男女で決まっているから其処は注意してくれよ?」



禊場か……此れも重要そうだね。
しかし、禊と言うと、衣服を全て脱いだ状態で行うモノだと記憶しているんだが……矢張り、衣服着用では駄目なのか桜花?



「禊をする場合は、専用の白装束を纏ってくれ。
 薄い木綿の装束だが、此れを纏えば他者に肌を曝す事もない……まぁ、申し訳程度かも知れないけどな。」

「専用の白装束って……木綿生地だと透けると思うんだが?」

「実際透ける。だから絶対に時間帯は間違えないでくれ。
 君は其の……服の上からでも分かる位に、立派な物を装備しているようだからね……絶対に時間帯を間違えないでくれ!!割と本気で!!」



立派な物って…言わずともこの胸か。
確かに、着衣の上からでも分かるって言うのはトンでもないからね――ヴィータからは『乳魔人』なるあだ名を貰ってしまった位だからな……実に
嬉しくないあだ名だったけどね。



「乳魔人……言い得て妙だな。」

「いや、其処で納得しないでくれ桜花。――納得されると、割と落ち込むから。」

と言うか、そもそも夜天の魔導書を作った人物は一体何を想定して、管制人格であった私の容姿を設定したのだろうか本気で悩むぞ?
――まさかとは思うが、製造者の趣味だったからではないよな?……だとしたら、自分自身の事ではあってもドン引きしてしまうな……其れを否
定する要素がないのが悲しい所ではあるけれどね。



「如何した梓?」

「いや、何でもない桜花。
 少しばかり、この身の彼是を考えたら少し欝な気分になってしまっただけだ……大した問題ではないから気にしないでくれ。と言うか、気にしな
 いで下さい、お願いします!!」

「あ、あぁ……良く分からないが、分かった。さて、それじゃあ次は………」



――カンカン!カンカン!!



「「!!!」」


此れは、鬼が現れた事を知らせる警鐘……如何やら、里の案内は此処で一旦お終いの様だね桜花?――さて、如何したものかな?



「鬼が現れたというのならば、それを討つのが我等モノノフの務めだ。
 昨日の今日で連日の出撃となるが、来てくれるか梓?」

「確認不要だ桜花――私は鬼を討つために此処に来たのだからね。
 其れに、折角オヤッさんに刀を打ち直して貰ったんだ…其れの性能を確かめたいと思っていたから、このタイミングでの襲撃は寧ろ好都合だよ。
 逆に鬼どもに教えてやろうじゃないか……ウタカタの里に手を出すと言うのが、如何に愚かな事であると言う事をな。」

「確かに、其れもアリだな?――では、行こうか梓?」



あぁ、言われるまでもないし是非もない!!
人に仇なす鬼は、全て私が狩りつくしてやる!!――それが、きっとこの世界で果たすべき私の使命なんだろうから、ならばやり切ってやるさ!

「戦の始まりだね。」

「行くぞ……一気呵成に攻める!!」



先ずはモノノフの使命……其れをキッチリとやり遂げねばな――精々覚悟しておくと良いさ、下賤な『鬼』共よ!!
お前達は一匹残らずに狩り尽くしてやる!!――お前達『鬼』は、この世に存在していてはいけない存在であるのは明白――全て滅すだけだ!

行くぞ、桜花!!












 To Be Continued…