Side:梓


此処は、何処だ?あたり一面真っ白な空間だが……此れはアレだな、夢だな間違いなく。そうでなかったら、私がこんな場所に居る
事の説明が付かないからね。
しかし、幾ら夢とは言え、何なんだこの真っ白な空間は?もう少し飾り気が有っても良い気がするんだが――



「ふがく、ふがくぅー!」



子供の声?其れも富嶽を呼んでいる?



「ようちびすけ。何か用か?」

「ち、ちびじゃありません!――あのね、此れあげる。」

「あ?なんだこりゃ?」

「双子石!こうやって近づけるとね……ほら、光るの!
 いっこは私が持つから、もういっこはふがくが持っててね。これで、ふがくを見つけられるね!」

「……しょうがねぇなったく。」



此れは、富嶽と……若しかしてホオズキの里の神垣ノ巫女の思い出?それが、私の夢で再生されていると言うのか?果たして、そん
な事があり得るのか……数多のミタマを宿せる、この身体の事を考えれば、あり得ないとも言い切れないが……此れは、誰かに聞い
た方が良いかも知れないな。












討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務28
『破滅の悪天狗-ホオズキの仇』











さてと、目が覚めた訳だが、見て居た夢の内容を詳細に覚えていると言うのも、中々妙な気分だね。

夢に出て来たのが神垣ノ巫女ならば、此処は一つウタカタの神垣ノ巫女を頼るのも一つの手だろうね――橘花にはあまり負担をかけ
たくはないのだがな。

橘花は……本部前に居たか。……調子は如何だ橘花?



「あ、こんにちは、梓さん。どうかされましたか?――今日はいい天気ですね。つい里を散歩したくなります。」

「確かに良い陽気だが。世間話をする為に来た訳じゃないんだ。
 夢で、富嶽の過去を断片的に見たんだが、そう言う事って言うのは起こり得る事なのだろうか?だとしたら、トンでもない事態になり
 そうな気がするんだが……」

「不思議な夢ですね……誰かの魂の声……でしょうか?普通は聞こえない筈ですが……私の力を使っても、感知する事は困難です
 ――梓さんのミタマの力を借りて、漸く少し聞き取れたくらいですから。
 若しかしたら、強い力の持ち主が、直接声を送って来ているのかもしれませんから――私が結界子を通して声を送るように……
 そうだとしても、余程近くに居ないと届かないと思いますが………富嶽さんに、話を聞いた方が良いかも知れません。きっと、大切な
 ことです。」



富嶽に直接か?確かに其れが良いかも知れないな。
もしも夢に出て来た『ちびすけ』が本当にホオズキの里の神垣ノ巫女なのだとしたら、富嶽が何か知って居るかも知れないしね。確か
富嶽は石段の下に居たから丁度良い。

「とう!」


――バッ!

――スタッ!!



「のわ!?てめ、どっから現れた梓!!」

「やぁ、富嶽。何処からと言われれば上から。もっと分かり易く言うなら本部の石段の最上段から飛び降りて来た。」

「飛び降りたって……30段の石段をか?」

「うん。」

「マジか?」

「本気と書いてマジと読む位マジだ。」

「まぁ、テメェならその高さから飛び降りても大丈夫だろうな。
 んで、態々石段から飛び降りてきて如何した?俺に何か用でもあんのか?でなきゃ、俺の前に飛び降りて来たりはしねぇよな?」



あぁ、実際に用がある。
単刀直入に聞くが、富嶽『双子石』とは、一体なんだ?それと『ちびすけ』と言うのは?



「テメェ……何処で聞いた?」

「妙な夢を見てな……『ちびすけ』がお前に双子石とやらを渡している場面を見たんだ。
 橘花に聞いてみたら、強い力の持ち主が、直接声を届けていたのかもしれないとの事だったんだ……だが、其れも可成り近くに居
 ないと届く物ではないらしくてね。
 そこで、お前を訪ねた次第なんだ。」

「まぁ良い……双子石ってのは、二つ一組の石の事だ。
 対になる石を近づけると、青く光る。ちびすけ……ホオズキの里の、神垣ノ巫女から貰った代物だ。
 テメェの話をまとめると、その声の主ってのが俺に双子石を渡した――んで、近くにいるってか?はっ、そいつぁとんだ御伽噺だ。
 んな話を信じるたぁ、テメェもおめでてぇな。」



おめでたいだと?……失礼な、此れでも真剣なんだぞ私は。
それに、息吹と比べたら私は全然おめでたくない。アイツは年中頭の中がおめでたい。今日も里の女性を適当にナンパしていたぞ?



「あの野郎は、立ち直ったら立ち直ったでか……まぁ、この話は此処までだ。
 ……さっさと行きな。んな声の事は知ったこっちゃねえ。」



……そんな態度を取られると何も言えないが、其れは逆に『よく知っています』と言っているようなものだぞ富嶽――まぁ、あまり追及
するのも良くないから今は退こう。
時が来れば、富嶽の方から話してくれるかもしれないからな。








――――――








Side:富嶽


…………梓のやつ、ちびすけの声を聞いたってか。
余程近くに居ないと届かねぇって事は、あの野郎が……『羽付き』がウタカタの近くまでやって来てるって事か――アイツの腹の中に
は、ホオズキの連中の魂がたんまり収まってやがるからな。

行くしかねぇな…………後は任せたぜ、梓。テメェなら、俺が居なくてもやれんだろ。

俺は、俺の仲間を取り戻しに行く。俺の全てを懸けて、奴を倒す!

じゃあな梓。テメェと一緒に戦うのは、悪くなかったぜ。








――――――








Side:梓


緊急の任務がある訳でもないし、御役目も出ていないから里をぶらぶらしているのだが、祭祀堂にいるとは珍しいな桜花?樒にミタマ
の力を引き出して貰っていたのか?



「やぁ、梓。別にそう言う訳じゃないよ。少し世間話をしていただけだ。
 其れよりも『鬼』の掃除を引き受けてくれて助かった。此れで、少しは橘花の負担も減るだろう――改めて礼を言わせてくれ。」

「なに、大した事じゃないさ……出来る事なら、早い所『天』属性の武器を手に入れて、私の結界を万全にしたい所だしね。」

「なるほど。……そう言えば、富嶽は如何かしたのか?さっき、血相を変えて本部に向かって行ったが……」



さて?何かあったかな?
私が見た不思議な夢の事を話しはしたが……



「不思議な夢だと……?
 まさかとは思うが……富嶽の探していた仇と関係があるのかもしれん。だとすれば……奴め、一人で行ったな!!」

「何だと!?」

幾ら富岳が腕の立つモノノフであろうと、里一つを滅ぼした鬼に一人で挑むなど自殺行為だぞ!如何して、私達に言ってくれなかった
んだ!――追うぞ桜花!!



「応!」

「桜花様、梓様……如何なされました、血相を変えて?」



那木か。丁度良い、お前も手を貸してくれ。
如何やら富嶽が追っていた仇とやらがウタカタに近付いてるらしく、富嶽が単身で其れの討伐に向かったんだ。恐らくは双子石の力を
持ってして仇を追う心算だろうが、相手はホオズキを全滅させた鬼だ――単身で挑んでも勝ち目は薄いからな。



「!!――承知いたしました。お供いたします!」



よし、なら二人とも私につかまってくれ。
富嶽の気配を探って、其処に瞬間移動する!………見つけた!此れは、『安』の領域か!



――バシュン!!



はい、到着!!所要時間、1秒!!



「瞬間移動とは便利なモノだが、富嶽のすぐそばに移動する訳じゃないんだな?」

「大型の鬼ならば近くに出る事も出来るのだが、人の気配は其れよりも小さい上に、領域内では瘴気が邪魔をしてくれるから、最大で
 20m近い誤差が出てしまうんだ――其れでも、便利な事に変わりはないけれどね。」

さて、スタート地点の『イ』の場所に出た訳だが、『ロ』の場所に通じる鳥居以外は赤い結界で遮られて通行不可か……ならば、この
先に、富嶽の仇の『羽付き』が居るって言う事だな。

と言う事は、この先には間違いなく……

「富嶽!!」

「あぁん?テメェ等、どっから湧きやがった!!」



ウタカタの里から直接だ!
一体如何言う心算だ!断りもなく里を空けるとは――大体……



「……その辺にしときな……来るぜ!」



……何が?などと野暮な事は言わない。
来るんだな?ホオズキの里を壊滅させた『鬼』が……お前の仇である『羽付き』が!!



『キョアァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!』


――轟!!!




此れは……凄まじい衝撃波だな?
空を疾駆する大型の鬼……同じ翼を持った鬼でもヒノマガトリとは比べ物ならない程の『鬼』――羽付きの正体はお前だったのか『ダ
イマエン』!!
秋水から『悪天狗』と呼ばれる鬼がいるとは聞いていたが、お前が富嶽の仇だったとはな……異常成長した鴉天狗が!!


――ヒィィィィン


って、なんか光ってるぞ富嶽?



「コイツは……クククク……ハハハハハ!
 よぉ、会いたかったぜデカブツ!随分懐かしいモン、腹の中に入れてるじゃねぇか?仲間の魂、返してもらうぜ!!!」

「こ、此奴は一体!?」

「コイツはなぁ、俺の里を襲った鬼だ。
 此奴の腹の中には里の仲間の魂が収まってんだ……逃がす訳にゃ行かねぇ!!
 腹は括った……梓、桜花、那木!テメェ等の力、俺に貸しやがれ!!」



今更だな?元よりその心算で此処に来たんだ。
お前の仇を打つ手助けを、させてもらう!!行くぞ、桜花、那木!!



「仕方ない……行くぞ!!」

「務めを果たします!!」



ダイマエンは地属性で、風属性が弱点だった筈だから、此処は迅嵐の一刀流で挑むのが吉だな?とにかく先ずは先手必勝!!
空を飛ぶ相手と言うのは、其れだけでやり辛い物だ、空を飛ぶ手段を持たない物からしたらな。だからまずは、貴様の飛行能力を奪
わせて貰う!!
封縛、吠えよ!!



――バガァァァァン!!!



よし、両の翼を封縛で壊してやったぞ。
まだいくらか翼が残っているが、アレでは飛ぶ事は出来ない筈だ。飛べなくなった鳥など、気に登れなくなった猿、或は泳ぐ事が出来
なくなったサメの様なモノだ。
弩派手に登場してくれたが、最初から私達のターンだ!



『グガァァァァァァァァ!!!』



って、何だ?地属性の力を集めて、口から岩を吐いて来た!?
直径1メートルは下らない岩が、推定時速50kmで吹っ飛んで来た……うん、当たったら間違いなく即死。良くて複数個所のバラバラ
骨折は免れないだろうね。

だが、私を舐めるなよダイマエン?
消費魔力が大きいから乱発は出来ないが、私は相手の攻撃を跳ね返す魔法を習得する事に成功したんだ!この攻撃位は跳ね返し
てやる!
喰らえ!『聖なるバリア-ミラーフォース-』!!お前が放った岩礫は、其のままお前に跳ね返る!!



――ズガァァァァン!!



『がぁぁ!?』

「攻撃を跳ね返すとは、やるじゃねぇか梓?
 苦しいかデカブツ!だがな、此処からもっと苦しくなるぜ?泡吹いて倒れんじゃねぇぞ!!」

「お前を里に近づける訳には行かない……此処で、斬り捨てる!!」

「御覚悟なさいませ!」



此の程度では、済まさんぞダイマエン?
貴様が滅ぼしたホオズキの里の人々は、死にたくない、生きたいと思いながら貴様に喰われて行ったんだ……その無念を晴らす為
にも、貴様には徹底的に苦痛を与えてやる!
世界を滅ぼす力を持った破壊神と対峙した事がお前の運の尽きだ!

地属性の力を宿し、更に空を舞って戦うお前は確かに脅威の存在であるのだろうね。
だが、其の力が及ばない存在が居ると言う事を知れ!破壊神の私、ウタカタ一の太刀使いである桜花、癒しの射手である那木、そし
て貴様を仇と狙う富岳が此処に居る以上、貴様の運命も此処までだ!!

合わせろ、桜花!!!



「あぁ!魂を込める!花と散れ……橘花繚乱!!

「深き闇に沈め……百花斉放!!



私と桜花の鬼千切り同時撃ちで両足を破壊だ!
此れで貴様は丸裸だなダイマエン?自慢の角も、那木の鬼千切りで破壊されてしまったからな?……だから、此処からはお前のター
ンだ富嶽!
お前の拳に宿った闘気で、お前の仇にトドメを刺せ!!



「ホオズキを全滅させた奴が、こうも簡単にやられるたぁな……マッタク持って大したもんだぜテメェ等は。
 だが、おかげで里の連中の仇を討てるぜ!!あばよデカブツ、地獄で閻魔様によろしくなぁ!!」


――バキィィィィ!!


『ギャァァァァァァァァ!!!』




下顎に的確に決まったな渾身のアッパーカットが。
下顎が砕けたのは間違いないが、其れに加えて下嘴も粉砕されたか……富嶽の拳は、文字通りの鉄拳と言う事だな。私だって、大
型鬼の顎を徒手空拳で砕くのは骨が折れるからね。

だが、富嶽の一撃はトドメになったようだな――ダイマエンの巨体が、グラつき、そして倒れたからね。


――ポウ……


ん?祓ったダイマエンの身体から淡い青色の光が……此れは、此奴が喰らった魂か!!



「さっさと行きな、ぼやぼやしてると喰っちまうぜ?
 あばよ戦友……あばよ――ちびすけ。」


富嶽……そうか、仲間の魂を解放出来たんだな。


――ヒィィィン……バシュン!!


『太平の世を作らん。』


――ミタマ『徳川家康』を手に入れた。


其れとは別に、私も神君の『徳川家康』のミタマを手に入れる事が出来たか――此れで、鬼の指揮官について少し分かる事があるか
も知れないな。

さて、里に戻ろう。



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と言う訳で里に帰還。――勝手に出撃したと言う事で、大和からお叱りを受けたが、其処まできつく無かったのは、大和も何時かはこ
んな時が来ると思っていたのかもしれないな。



「……結局、テメェ等の手を借りちまったな。――おかげで仲間を救えた。礼を言うぜ。」

「富嶽……」



水臭い事を言うな、私達は仲間だ。なら、仲間を助けるのは当然の事じゃないか。



「かもな。
 ……あの日、瓦礫の上で目が覚めた時にゃ全てが終わってやがった。里は全滅、仲間は喰われ、俺はガキ一人守れなかった。
 マヌケな話だ――だが、過去は変えられねぇ。テメェの弱さは、無かった事にはできねぇ。だから背負って生きて行く。
 ――お別れだ、ちびすけ。」



富嶽……泣いているのか?



「ざけんなよ、んな訳有るか!」



……月並みな反応だが、ならばそう言う事にしておこう。
だが、お前は此れから如何するんだ?仇は討ったのだろう?



「あ?此れから如何するか?……そういや、考えてねぇな?――取り敢えず、テメェに借りを返すって言う事で如何だ?」



借りね…私としては、お前に貸しを作った気は無いんだが、お前がそう言うのならば、その借りを返してもらうとするさ、利子付きでね。



「うっし、決まりだな。
 テメェが居なきゃ、奴を見つけられたか分からねぇからな――里に居る限り、テメェに力を貸す。それとな……ありがとうよ。」


――カッ!!バシュン!!


『鬼を討つ。ただそれのみ。』


――ミタマ『渡辺綱』を手に入れた。




此れは、分霊か!お前の魂、確かに受け取ったぞ富嶽。



「俺のミタマが……?ったく、勝手な事しやがって――まぁいい、持ってな。テメェに預ける。」



あぁ、確かに受け取ったぞ、お前の魂の半身をな――これからも、宜しく頼むぞ富嶽。お前の剛力は、とても頼りになるからな。



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・・・・・・

・・・



で、自宅に戻って来たんだが……


――キィィィン…



『聞こえる?』



夢の中の声が現実空間でも語りかけてくるとはな――あぁ、良く聞こえているよ、ホオズキの里の神垣ノ巫女殿。



『あ、良かった!まだ聞こえるね!
 あのね……ふがくを助けてくれて……ありがとう。』



仲間を助けるのは当然だ。
だから安心してお前も冥界へ旅立つと良い――何時までも現世に残っていたのでは、其れこそ富岳が心配してしまうからね。

さよなら、ホオズキの里を最後まで守ろうとした小さき勇者よ。――お前の魂は、富嶽と、そして私の中に生きている。だから、私の中
のお前に誓おう。必ず、全ての鬼を討ち倒して、人の世を取り戻すとな。











 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場



さて、任務が終わったら禊は基本だ。穢れを落とさないと良くない事が起きるからな。



「その意見には同意するが、禊場でそのだらけた態度は如何なんだ梓?」

「あ~~~……ミラーフォースで大分魔力と体力使ったから、ちょっと充電中なんだ桜花~~……あ~~、禊は生き返るわ~~。」

「まったく……だが、アレだけの鬼を相手にしたのだから、仕方ないか。
 かくいう私も、結構疲れたからね――禊で穢れを落として、ゆっくり休むとしよう。」

「賛成~~~。」

で、後から入って来た桜花と一緒に禊をした。
気心の知れた仲間と一緒に禊をするって言うのは、やっぱりいい物だね。