Side:梓


初穂も無事に帰還して、此処から『鬼の指揮官』の探索が再開した訳なのだが、全く持って成果は上がっていないのが現状だね。
手強い鬼をそこそこ葬って来たが其れでも奴等は指揮官級とは言い難いからね――橘花の千里眼で何か分かると良いんだが……。

ミズチメを討つ事で手に入れた『卑弥呼』のミタマも鬼の指揮官については何も知らなかったからね。



「ミズチメに捕らわれていたのは、女王卑弥呼のミタマだったか……如何だ橘花、何か感じられるか?」

「…………申し訳ありませんお頭、『鬼』の思念は残っていないようです。」

「そうか……」



卑弥呼のミタマは外れだったみたいだな。
だが、私が新たに宿したミタマは『神君』なる者が知っていると言っていた――そこにヒントがあるんじゃないかって思うのだが……」



「ほう……?神君を知っていると言ったか。」

「神君――家康公の事ですね。」


って、神君はかの天下人の徳川家康公の事だったのか!?……まさか、其れ程の人がミタマとなっているとはな――まぁ、武田信玄
や上杉謙信がミタマとなっているのだから、あり得ない事ではないのかも知れないがね。
だが、そう言う事なら家康公のミタマを取り戻すまでだ――そうだろう大和?天下人のミタマ、是非お目にかかりたいからね!!












討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務27
『指揮官の鬼を探索中也』











とは言え、如何に有効な作戦であっても、この前の様に敵に筒抜けになってしまっているのでは意味がない――その辺は大丈夫な
のか大和?



「問題ない。
 物見達には、引き続き『鬼』の探索にあたらせる…発見の方がある度に、お前には討伐に向かって貰う――頼りにしているぞ梓。」



上等だ。寧ろ、期待されているのならば、其れに応えないのは嘘なのでね。
寧ろ、その様な重要な任務を私に任せてくれた事に礼を言うぞ大和?――私の力を過不足なく正当評価してくれたのだからね。



「……礼を言われる筋合いではないかもしれんがな。
 俺の方こそ、改めて礼を言おう……初穂を連れて帰って来てくれた事、感謝する――今後も、任務に励め。」



ふ、其れは言われるまでもないさ。
其れに初穂の帰還に関しても、私は少し手を貸しただけで、目覚める決意をしたのは初穂なんだ――初穂の心の強さが、過去との決
別を選択させたんだ……大したものだよ彼女は。
後でお前も声をかけておけよ大和?お前が大好きだった『初姉』は、時を越えて、今この世界に居るのだからね。



「ふ、そうだな。」

「そうしてやってくれ。」

さてと、物見からの連絡待ちと言うのも少し暇だね?
確か、指揮官の鬼の討伐とは別の御役目が上がっていた筈だが……ふむ、タケイクサの討伐と、ミフチとマフチの同時討伐が出てい
るみたいだが、桜花、一緒に蜘蛛退治に行かないか?



「いぃ!?蜘蛛だって!?」

「スマン間違えた、鬼退治だ。蜘蛛によく似た鬼の退治に行かないか?もっと言うなら、ミフチとマフチを叩きのめしに行こう。
 人の平穏な暮らしを喰い破る、鬼と言う名の害虫は、駆除するに限るだろう?――其れに、相手を鬼と割り切れば、見た目が蜘蛛
 でも大丈夫だろう桜花?」

「いや、其れはそうなんだが、矢張り嫌いな物は嫌いと言うか……と言うか、君は分かってやっているだろう梓!」



流石にバレたか。少し悪ふざけが過ぎた、謝るよ。
だが、普段は清廉として一分の隙も無い凛としたサムライガールの桜花が、蜘蛛には此処まで狼狽すると言うのが、何と言うか可愛
いのも事実だな。
人間、一つくらい苦手な物があった方が好感が持てるって言う物さ。

「そう言う物か?
 まぁ、任務だと言うのならば付き合うが、如何して私なんだ?別に他の者でも良いだろう?」

「桜花の他に速鳥と初穂を連れて行って、ミフチとマフチの2体を相手に最短記録を出そうかと思ってな。
 斬属性が弱点のこの2体を相手に最短記録を出すのならば、出撃メンバーは全員斬属性の武器を装備している方が記録を狙い易
 いからね。」

「何を狙っているんだ君は……ちなみに目標討伐時間は?」

「2体で1分。」(実際に可能。)

「無茶だ!と言いたい所だが、君が居る時点で可能だと思えてしまう辺り、私も大分君の強さと言う物に慣れてしまったらしいな。
 だが、そう言う事なら了解した。と言うよりも、タケイクサ討伐の方は、息吹が那木と富嶽を連れて出撃してしまったようだしね。」



あら、何時の間に。
まぁ、タケイクサが相手なら息吹に負けはない。息吹は対タケイクサのスペシャリストだからな。

ならば、先に出撃した息吹達よりも早く任務を終えて里に戻ってこようか?後から出撃し、しかも鬼の2体討伐に出た私達が先に里に
戻って来たとなったら、きっと驚くだろうからね。



「確かに。息吹の唖然とした顔は、見物かもしれないな。では、行くとしよう梓。」

「うん。お前達も力を貸してくれ、初穂、速鳥。」

「りょーかい。任せときなさい!」

「是非もなし。隊長の命とあらば従おう。」



では行くか――蜘蛛2体討伐の最短記録を出しに。



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2体討伐と言う事で、少しは苦戦するかと思ったが、決してそんな事は無かったな。
先に現れたミフチは、鬼焔を装備して、更に桜花達の武器に、私の魔法を応用して火属性を追加したら、思った以上に瞬殺出来たか
らね……15秒は此れまでの最短記録だ。

続いて現れたマフチに関しても、武器を嵐迅に変えて、同じ要領で皆の武器に風属性を付与してやったら、あっさりと全部位破壊をす
る事が出来たからね。
まぁ、その影響でタマハミ状態になったが……させないよ!


――ガシィ!!


「えぇ!?マフチの頭を掴んで、強制的に回転攻撃を止めたですって!?」

「其れだけじゃないぞ初穂。本番はここからだ……お別れです!!ふはははははははははははははははははは!!!!」


――ゴォォォォォォ!!!


「更に竜巻を発生させて攻撃だって!?
 魔法を応用したものなのだろうが、風属性が弱点のマフチに対して、この攻撃は有効極まりないだろうな……鬼の表情など分から
 ないが、マフチが苦しんでいるのは良く分かるからね。」

「これぞ、八岐大蛇の風の奥義『真八稚女ЯМИДОКОКУ(やみどうこく)』!塵に帰るが良い!!」


――ズガァァァン!


「そして地面に叩き付けてトドメ……流石は隊長、見事なり。」

「こんな事言ったらアレだけど、君を見てると、君の方が『鬼』なんじゃないかって思えて来るわ。」



鬼か……まぁ、否定はしないよ。
だが此れで討伐完了だ。記録は……2体で42秒か。マフチの討伐はミフチよりも時間がかかったが、目標の1分は切れたので良しと
しておこう。






で、里に戻って来た訳なんだが……如何かしたか桜花?任務は終わったばかりだが……同じく戻って来たばかりの富嶽を呼び止め
て何かあったのか?



「君達に頼みたい事があってな。」

「どした、あらたまってよ?」

「鬼の指揮官を探す為に監視の目を強化しているんだが、最近、里の周囲に『鬼』が増えてな。
 監視の間を縫って、結界に干渉してくる――今回のミフチとマフチ、そしてタケイクサもその類だろう。我々を揺さぶっているのか知ら
 んが、しつこくてな。
 梓が結界を上掛けしてくれたお陰で、何とか持ってはいるが……」



鬼の攻勢が激しくなれば、何れ限界を迎えるし、そうなった場合は橘花の負担が増えてしまう――そうなってしまう前に、周囲の鬼を
倒してほしいと言う所かな?



「その通りだ……頼めるだろうか?」

「……んだよ、そんな事か?『鬼』を討つのが俺等の役目だろ?態々頼まれるまでもねぇ。
 おい、梓、嬢ちゃんの負担が増さないよう、周囲の『鬼』を片付けんぞ。」



ふ、言われるまでもないさ富嶽。
私の結界は強固だと自負するが、だからと言って無敵ではないから、許容量を超えた干渉を受ければ砕けてしまうし、そうなったら橘
花への負担が増してしまうからね――里周辺の『鬼』を纏めて撃滅してやるさ。



「ありがとう、2人とも。」



其れじゃあ早速、里周辺の『鬼』の討伐に向かうとしようか――手始めに『古』の領域のミズチメと『安』の領域のアマキリを倒すか。
里に近付く鬼は滅殺するだけだからね。











――ただいま鬼を掃討中なので、少し待っていてくれ。











と言う訳で、ミズチメもカゼキリも私達の敵ではなかったな。
私の剣技に、富嶽のパワーが加わったのだから、並の大型鬼では相手にならないかもしれないけれどね……少し物足りないがな。


「ったく、あくびが出そうな任務だったな。まぁ良い、この調子で片付けて行くぜ――それで、結界が破られる可能性も減るだろ。」

「あぁ、そうだな――」


――ヒィィィィン


って、何だ此れは!?


『お願い……助けて。』


此れは……声?誰だ?


『ふがくを助けて……!』



――!!

な、何だ今のは?頭の中に直接声が響いて来たような感じだったが……其れに『富嶽を助けて』とは、一体如何言う事なんだろう?



「おい?如何したテメェ、大丈夫か?確りしろよな、隊長。」

「あ、あぁ、大丈夫だ富嶽……如何やら、連続で大型の鬼との戦いを続けて、少し疲れてしまったようだ。
 身体の頑丈さと耐久力には自信があったんだが、流石にミフチとマフチの連続討伐から、都合大型鬼との4連戦は、流石に堪えた
 らしい……自宅に戻って、少し休む事にするよ。」

「何だぁ?テメェでも疲れる時は疲れるってか?……ま、其れを聞いて安心したぜ。
 確かにテメェはトンでもねぇ強さを持ってるが、疲れる事が有るって事は、俺達と同じ人であるって事だからな?まぁ、疲れたんなら
 寝るのが一番だぜ?たっぷり寝て、英気を養って来な。」



あぁ、そうさせて貰うよ富嶽。疲れていては、任務をこなす事は出来ないし、疲労が溜まっている状態で戦場に出たら、取り返しの付
かない事になりかねないからね。

まぁ、本当の事を言うのならば不思議な声が聞こえたから戸惑ってしまったのだが、其れを態々言う事でもないだろう。
だが『富嶽を助けて』と言うのは流石に気になるな?――あの声の主は、富嶽と知り合いだったのだろうか?……だとしたら『富嶽を
助けて』と言うのは一体如何言う事なのだろう?

富嶽が居たホオズキの里は、富嶽を残して全滅したと聞いたが……若しかして、其れと何か関係があるのだろうか?
だとしたら、其れは一体なんだ?――富嶽は、一体何を背負っているのだろうか…今の段階で、其れを明らかにするのは難しいか。


お前は、一体何を背負っているんだ富嶽?











 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場



休む前に体を清めておこうと思って禊場に来たんだが……



「お前か、時間を間違えているぞ?」



どうやら時間を間違ってしまったらしく、大和が居た……元より、禊場の入り口の看板など確認してはいないけれどね。私は禊をしてサ
ッパリしたいんだ。だから、異性が居たとかは大した問題じゃない。



「ふ、その大胆さもお前の強さの一部なのかも知れんな。
 なれば強くは言わんが、せめて慎みを持て。今回は俺だから良かったが、そうでなかった場合は危険な場合があるからな。」

「不埒な事をしようとした相手は、磨り潰してやるから問題ないぞ大和。」

「……何を磨り潰すのかは敢えて聞かないが、其れならば大丈夫だろう――穢れを落とし、ゆっくり休むと良い。」


あぁ、そうさせて貰うよ。
少し冷たいが、冷水での禊は気持ちの良い物だ――禊で穢れを落として、そしてゆっくり休んで英気を養うとしよう。