Side:梓


息吹と初穂が戦線離脱し、桜花がミズチメの捜索に出たとなると、戦力は大分ガタ落ちしたのは否めない……如何に私が強いとは言っ
ても、此れだけの戦力低下の全てをカバーする事が出来るかと言われれば、其れは難しい。
何とか息吹には戦線に復帰して貰わねば困るから、何があったのか聞きたいのだが……居た。息吹!



「あんたか……何の用だ?
 俺には……守れないさ――里も、あんたが居れば大丈夫だ。」

「私の力を評価してくれるのは嬉しいが、だからと言って丸投げされても困るぞ息吹……お前もウタカタのモノノフの1人だろう!里を守
 るべきモノノフが、守る事を放棄してどうなると言うんだ!」

「放棄した訳じゃない。俺は酒でも飲みながらのんびりやるさ。其れが、俺の分てやつだ。」

「息吹……お前は………」


――カンカン!


っと、此れは警鐘!
如何やら鬼が現れた様だな!


「……くそっ……俺は……早く行け。手遅れになるぜ。」


息吹……何とか説得したい所だが、此処は仕方ないか――鬼の襲撃となれば見過ごす事は出来ないし、手遅れになってしまっては大
事に成るからな。
だが、私はあきらめないぞ息吹……必ず、お前を元に戻して見せる!飄々として掴みどころのない伊達男にな。












討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務24
『祝福の怒りと伊達男の再起』











大和、新たな鬼が現れた様だな?



「桜花達から狼煙が上がった。見つけたぞ、夢患いの首魁、ミズチメを。」

「やりやがったな……!捻り潰してやるぜ!!」



遂に見つけたかミズチメを!
夢患いの元凶である『鬼』……其れを打ち倒す事が出来れば、里で夢患いにかかっている者は目を覚ますだろう。無論初穂だって目
覚める筈だ。



「だが、帰還の途中で別の『鬼』の襲撃を受けている――以前、お前達が戦ったタケイクサだ。
 俺達が捜索に出ると読んで、待ち伏せていたのだろう……お前の考えが当たったな、那木……」

「矢張り……」



此方を狙ってきていたと言う事か……ならば、何とか桜花達を安全に撤退させねばならないが、果たして如何した物か……何か策は
有るか大和?



「増援を送り、撤退を援護する。梓、指揮はお前に任せる。息吹を連れて救出に向かえ。
 奴ならば、タケイクサと戦いなれている。この任にはうってつけだ。
 なんとしてでも桜花達を救い出せ。我々には、桜花達が持ち帰る情報が必要だ……時に、息吹は何処で油を売っている?」

「其れなんだが、大和……息吹は……何やらやる気をなくしているみたいなんだ。」

「……如何言う事だ?」



如何やらこの間のタケイクサとの戦いの時に思う所があったみたいで、すっかり腑抜けた状態になっているんだ……完全にモノノフとし
ての己を見失ってる……そんな感じだ。



「息吹が?」

「どういたしましょう?」

「……馬鹿は放っとけ。」

「きついな、富嶽……まぁ、少しばかり同意するが。」

とは言え、息吹をあのままの状態にしておく事も出来ないからな……さて、如何した物か?息吹を立ち直らせる事が出来れば、其れが
ベストなんだが……



「……待っている余裕はない。速鳥、息吹の代わりにお前が行け。」

「……承知。」

「其れで良いな、梓。」



……良くない。息吹を連れて来る!



「……待っている暇はないぞ………5分やる。桜花一人で陵には其れが限界だ。今すぐ息吹を連れてこい。」

「了解した!」

何よりも、あの飄々とした伊達男が、腑抜けたダメ男になってしまっていると言うのは見るに堪えないし、初穂が夢患いに倒れた今、ア
イツまで居なくなったら、里は灯が消えた様になってしまうからね。

息吹は……さっきと変わらず同じ場所にいた。息吹!!



「…あんたもしつこいな。」

「ミズチメの捜索に出ていた桜花がタケイクサからの襲撃を受けた。だが、撤退に手間取っている――お前はタケイクサとの戦闘経験
 が豊富なんだろう?力を貸してくれ。」

「……!桜花達が……?………くそっ……俺は……俺には、誰も救えないさ。」

「そんな事はない!一緒に来て欲しい。」

「……この様を見ても、まだそう言えるか?早く行け、俺には……助けられない。」

「――!……息吹。」

「……なんだよ、怖い顔して。」

「歯を食いしばれ、此の大馬鹿者!!」


――バキィ!!!


「ぐっ!?……あ、梓?」



助けられないだと?誰かを助ける事を許されてる人間が、その権利を放棄して、自分には無理だと言って諦めるだと?ふざけるな!!
お前の過去に何があったかは知らないし、この間の物見の連中を助けられなかった事がお前の中では途轍もなく己を許し難い事だっ
たのだろうが……だが、其れでもお前は助けようとしたじゃないか!助けに向かう事が出来たじゃないか!

不幸自慢をする心算は無いが、私には助ける事すら許されなかったんだ!助けたいと思っても、助けに行く事すら出来なかったんだ!



「アンタが……?」

「前に言った事があったな、私は只の破壊者だと。アレは冗談でもなんでもなく真実だ。
 今は違うが、この身は嘗て呪われていた。守るべき者を憑り殺し、共に戦う仲間を手にかけ、最終的には全てを破壊する呪いが私に
 は纏わりついていた……自分ではどうしようもない呪いがな。
 その呪いのせいで、私には助けに行くと言う行為すら出来なかったばかりか、助けを乞う者達を無慈悲に葬る以外の事が許されなか
 った――分かるか?助けると言う行為そのものが許されない辛さが!
 勿論、助ける事が許されている身であっても、全てを助ける事なんて出来はしない。人は全知全能の神ではないのだから。
 だが、動く事で助かる確率は上がるだろう!出来ないからって動かなかったら、本当にゼロなんだ!分かっているのか息吹!!!」

「………」



「……ったく、てめぇは如何しようもねぇ間抜けだな。」

「富嶽?」

「……何しに来た。」

「ガキが駄々こねてるっつーからな。一発打ん殴りに来てやったぜ――尤も、俺より先に梓がキツイ一発お見舞いしたみたいだがな。」

「…………」

「……はっ、まだそんな顔できんじゃねぇか。
 テメェが何に悩んでるかなんざ知らねぇし、興味もねぇ――だがな、此処で行かなきゃテメェは終わりだ。二度と戦えなくなる。
 其れで良いのかよ?」



富嶽の言う通りだぞ息吹。
お前は本当にこのままでいいのか?助ける事を許されているのに、其れを放棄したままでいいのか?



「……分かっちまったのさ。俺はとっくの昔に死んでたってな
 ――8年前、惚れた女を死なせた時に。此処に居るのは只の亡霊だ。あんた達が構う様な相手じゃない。」

「惚れた相手を……」

それが、息吹の抱える闇か……惚れた相手を守る事が出来ずに、そしてまた今回も護る事が出来なかったからか。



「…………俺にも守ろうとして守れなかった奴等が居る。ホオズキの里の神垣ノ巫女は、まだ10歳のガキだった。
 そんなガキすら、俺は助けてやれなかった。」

「富嶽?……お前も仲間を――」

「……やめろ。」

「どいつもこいつも蠅みてぇに叩き潰されて行ったぜ……気付いてみりゃ里は全滅、後に残ったのは俺だけだ。10歳のガキを死なせて
 俺だけが生き残った。
 そのガキが、最後になんつったか分かるか?」

「……何て言った?」

「守ってくれてありがとう、だとよ。」



其れは……重い一言だな。
結果だけ見るなら、守る事は出来なかっただろう……だがその子は、実際に守れたかどうかではなく、守ろうとしてくれた事に感謝した
んだ……命は守れなかったが、其の子の心は、確かに富嶽が守ったのだろうな――矢張り、強いな富嶽は。



「俺は生き残った。なら俺は戦う。
 テメェが如何しようが、俺の知った事じゃねぇ――テメェは一生そこで地べたを這いずってろ。其れがテメェにゃお似合いだ。
 おい、行くぞ梓。速鳥と任務があんだろ。」

「そう…だな。
 大和から貰った5分も、そろそろタイムリミットだ――息吹、残念だ。」

「……あばよ、伊達男。」



何とか息吹を立ち直らせたかったが、駄目だったか。
大和から与えられた5分間もタイムリミットだし、これ以上は桜花が危険だからな……速鳥と出撃してタケイクサを討つしかない。
待っていてくれ桜花、今助けにくからな!








――――――








Side:息吹


あの野郎……好き放題言ってくれるぜ……其れに梓も、思いっきり殴ってくれたな?……口の中切れてるじゃないか。
……カナデ……お前が生きていたら、こんな俺を許さないだろうな――俺は……俺は、お前を守りたくてモノノフに……


「あの……すみません。」

「アンタは、あの時の……
 アンタの大切な人を見殺しにしたのは俺だ……好きにしてくれ。」

「そ、そうじゃないんです……あの時、如何しても言えなかったから……あの……彼を救おうとして下さって、ありがとうございました。」


!!!!!!!

ありがとうって……何でそんな――俺は何も出来なかったのに!!其れなのに、助けようとしてくれた事に感謝してくれるだなんて。
いや、富嶽も言ってたじゃないか……!其れに、梓に至っては助ける事その物を許されていなかった――助けようとした事に感謝され
る事すらなかったって事だろ其れは。

クソ……俺は――一体何をやってるんだ!俺が、俺が今成すべき事は!!

梓、まだ出撃しないでくれ!俺も、今行く!!








――――――








Side:梓


「息吹は来ないか……」



結局息吹を連れて来る事は出来なかったな……大口を叩いてこの様だ、情けなくなって来るよ。



「……ならば速鳥と行け、最早一刻の猶予もない。」

「だろうな……行くぞ速鳥!」

「御意に。」




「……待て。待ってくれ。」



この声は……息吹!



「酒は……もうやめだ。俺も……行く。
 漸く目が覚めたぜ。俺にも、まだ誰かを救う事が出来るなら……もう一度懸けてみたい。一緒に行かせてくれ!!」

「息吹……目の色が変わったな。
 さっきまでの濁った目とは大違いだ……それでこそ息吹だ。ウタカタ一の伊達男だ。――だが、遅刻は遅刻だ、その分は働いて返し
 て貰うから覚悟しておけよ?」

「……恩に着る、隊長。アンタが居てくれてよかった。さっきの一発、可成り効いたぜ。」

「まぁ、結構本気で殴ったからな。」

「だが、おかげで目が覚めた。行こう、仲間を救いに!」



是非もない。
そう言う訳だから、悪いが速鳥は里に残って富嶽たちと里の守りを固めてくれ――大和、息吹と共に出撃するが問題はないな?と言う
か、今の息吹なら問題は何もない筈だ。



「あぁ、良いだろう行ってこい。そして必ず桜花と共に戻って来い――汝に、英雄の導きがあらん事を。」



あぁ、必ず戻って来るさ。
何よりも、己を取り戻した息吹が一緒なんだ……タケイクサなど、最早塵芥にしかならないだろう――対タケイクサのエキスパートが居
る訳だからな。

行くぞ息吹!



「おう!」



待っていろ桜花、今助けに行く!
そして、覚悟しろタケイクサ……祝福の風と、再起した伊達男が、貴様に鉄槌を下してやる!ウタカタのモノノフの、強烈な鉄槌をな!












 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場