Side:梓


桜花達がミズチメの捜索に出かけて大分経つが、この間に鬼が里に近付いてくる様子は無かったね……矢張り、正面から戦いを挑む
のは得策じゃないと思ったのかな?



「かもな?
 テメェはトンでもねぇ力を持ってるからな……鬼だって、本能的に戦うのを拒否したくなるんじゃねぇのか?」

「梓様の力は、並のモノノフを遥かに上回っていますからね。」

「隊長の実力、疑う余地は無い。」



私に恐れをなして鬼が逃げてるって……流石にそれは無いだろうと思う――と言うか、ない筈だと思いたい。
確かに私は、規格外の力を持った、チートバグなモノノフかも知れないが、だからと言って無限に鬼を倒す事が出来る訳じゃない――強
い鬼との戦いでは流石に消耗が激しいからね。

だが、里に鬼が侵入してこなかったと言うのは嬉しい事だ――私達は里の守りと言う役目を全う出来たのだからね。

さて、ここ等で一度本部に戻ろうか?ソロソロ桜花達が帰ってくる頃だろうからな。












討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務23
『時の迷い子の夢患い』











おかえり、桜花、息吹、初穂――如何やら、全員無事だったみたいだな。
お前達が簡単にやられるとは思わないが、だからと言って楽観視できる物でもない――若しかして、ミズチメにやられてしまうのではな
いかと、内心冷や冷やしていたよ。



「少し心配し過ぎじゃないか?
 幾ら夢患いを引き起こしている鬼とは言え、私達がそう簡単にやられる筈がないだろう?今回の探索では見つからなかったが、見つ
 けたらその場で討伐してやるさ。」

「かも知れないが、相手は夢患いを引き起こしている元凶だからね?戦闘中に、此方を眠らせるような技を使ってくるかもしれない。
 如何に鍛えられたモノノフとは言え、強制的に眠らされてしまっては、敵の攻撃を回避する事は出来ないんだ……心配もするさ。」

「……確かに、アンタの言う事は尤もだな梓。
 戦いの最中に、強制的に夢の世界に引き込まれたんじゃあどうしようもない――次に探索に出る時は、眠気覚ましでも持って行った
 方が良いかもしれないねコイツは。」



眠気覚ましね?……例えばこんなのは如何だろう?



「何だい此れ?」

「飲んでみれば分かるぞ?」

「その時点で嫌な予感しかしないが……物は試しだなっと。
 ………~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!な・ん・だ、こりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?辛い!?否、痛い!!?」

「息吹様!?」

「口から火を吐くとは……見事な火遁の術。」

「伊達男、テメェいつの間にそんな技覚えやがった?」

「違う!今飲んだ物が滅茶苦茶辛かったんだよ!
 ふぅ……辛い物を食べた時に『口から火を噴く』なんて表現をするけど、本当に火を噴く事に成るとは思わなかったぜ……」

「梓、一体何を飲ませたんだ?」



ん?最近作った『激辛唐辛子油』だ。
ごま油に、生の青唐辛子と、塩漬けの青唐辛子と、干して粉末にした青唐辛子を漬け込んでじっくりと唐辛子の辛さと、生と塩漬けと粉
末の3種の唐辛子の旨さを加えた調味料だ。
料理に適量使えば旨さと辛さを追加してくれるが、そのまま飲むと今の息吹のようになるから要注意だ。――だが、目は覚めるだろう?



「覚めるどころか、この辛さの炎で鬼が倒せるんじゃないかと思うよ……って、こう言う事に成ると真っ先に突っ込みそうなお子様が大人
 しいな?
 如何した、鬼の探索で疲れちまったかい?」

「………」



初穂?
何か様子がおかしいな?オイ、如何した初穂?何かあったのか?



「わ……たし……」

「……如何した?」


――グラ……


「「「「「「「!!?」」」」」」」

「初穂?確りしろ、初穂!!初穂!!!」



初穂……行き成り倒れてしまったが、一体何が?
探索がきつかった――と言う事は無いだろうな。桜花と息吹の様子を見る限りでは、特に戦闘行為を行ったと言う訳でもないだろうし、
何よりも元気が取り柄の初穂が、探索程度でへばるとも思えない。

……まさか!!



・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



取り敢えず、初穂は家の床に寝かせたが――大和、初穂は……



「駄目だ、目覚めない。……『夢患い』と見て良いだろう。」

「矢張り夢患いか……」

初穂が抱える事情を考えれば、其れもまた納得できると言う物かも知れない。
寧ろ、よく今まで夢患いに侵される事が無かったと言った方が良いかも知れないからな――初穂は、取り戻したい物が多過ぎるだろう。
まぁ、此の事を知るのは、初穂本人以外では私と大和だけだがな。
現に、息吹達は信じられないようだからね。



「アイツが……?」

「話がおかしかねぇか?
 夢患いになるのは、現実から逃げたいと思ってる奴だけだろ?アイツが、んなタマか。」



確かに普段の彼女からはそう思うかもしれないが――彼女には彼女の事情と言う物が有るんだ。
大和、こうなった以上は、話しておく必要があるんじゃないのか?……初穂の過去って言う物を―――



「あぁ、そうだな。……今まで黙っていたが、話しておかねばなるまい――初穂の過去をな。」








――大和説明中に付き、少し待っていてくれ。







「浦島太郎……?」

「あぁ、俺が10歳の時の事だった。初穂は神隠しに遭ったように姿を消した。
 そして、40年後に戻って来た時には、初穂の家族は誰一人生きていなかった。……友人さえもな。」

「40年の時を越える……そんなことが……」

「……じゃ何か?アイツは、そん頃に戻りたくて…………ちっ、しけた話聞いちまったぜ。」



富嶽……まぁ、お前の性格的にそう言うだろうな。裏を返せば其れは、初穂の事を心配していると言う事の現れでもあるんだろうがね。
だが大和、『鬼』を倒せば初穂も目覚めるのだろう?
此れが『夢患い』なら、ミズチメを倒せば他の『夢患い』の者達と同様に初穂も目覚める筈だ!!



「梓の意見に賛成だ――さっさとそいつを見つけようぜ。」

「……あぁ、そうだな。お前達にも働いてもらうぞ。」



あぁ、言われるまでもないさ大和!
初穂は、ウタカタのモノノフにとって欠かす事の出来ない大事な仲間だし、何よりもムードメーカーが居ないと言うのは、現場での士気に
も影響が出るからね。

だが、ミズチメの情報は少ない上に、水脈と言っても数は少なくないから特定も難しい。
初穂を『夢患い』から目覚めさせるためにも、ミズチメを討たねばならないのだが手掛かりは無い……此れは、捜索を兼ねて、今出てい
る御役目を虱潰しに熟して行くしかないか。
その中で、ミズチメと出会う事が有るかも知れないからな。








――――――








Side:息吹


…………あのお子様がな……
現実から逃げたい奴、取り戻したい過去がある奴、其れが『夢患い』になる……なら俺は……俺は、如何して『夢患い』にならない…?

「ハハ……そりゃそうか――万事適当にやり過ごす。其れが俺の生き方だったな。」

……装ってただけのつもりが、いつの間にか本当になっちまった。
…………カナデ……お前を救えなかった後悔まで、俺は無くしちまったらしい――なら、俺は……俺は、何のために此処に居る……?








――――――








Side:梓


と言う訳で、雅の領域での任務を熟して無事帰還だ。
大型鬼の討伐と言う事だったが、出て来たのはミフチの変異種であるマフチ――ミフチと比べれば多少手強かったが、其れでも所詮は
討伐最短記録狙いの鬼の亜種でしかないから、速攻で叩き伏せてやった!
討伐時間は1分11秒だ!!

で、戻って来た訳だが――



「よう、桜花じゃないか!アンタみたいにな良い女が独り身なんてな――マッタク勿体ないぜ。早く相手を見つけたらどうだ?」

「……息吹、酒臭いぞ。酔っているのか?」

「あぁ、酔ってるさ。大いにな。」



息吹?大層酔っているようだが……如何した?何が有った?



「別に、如何もしないさ。今を楽しんでるだけさ。
 アンタ等も少し、肩の力を抜いたらどうだ?人にはそれ相応の分ってモンがある。全てを守ろうなんて高望み、するだけ無駄だ。」

「オイ、息吹!」

「テメェ……この前の事をまだ……
 ……寝言は寝て言えよ。強けりゃ、守れるモンがあるだろうが!!テメェの弱さを、何かのせいにすんじゃねぇ!!」

「……で、アンタは何を守った?自分の里を守れたのか?」

「テメェ……」



オイ、幾ら何でも言い過ぎだぞ息吹!
お前だって富嶽の過去は知ってるだろう!其れなのに、如何してその過去を抉るような事を言う?一体如何してしまったんだ息吹!!



「アンタだって、骨身にしみてる筈だ。
 真剣になればなるだけ辛くなる……なら、適当にやり過ごすだけさ。」



息吹……本当にそれでいいのか?



「良いも悪いもないさ……其れが現実って奴だ。」

「息吹、確りしろ!
 お前は何の為に、此れまで戦って来た!お前自身の生き様を否定するな!!」



桜花の言う通りだぞ息吹!
今のお前の物言いは、お前の今までを、モノノフとして鬼と戦って来た過去を否定する事に成るんだぞ!お前は自分を否定するのか!



「……酔生夢死ってね。其れが俺の生き様さ――万事適当に、ほどほどにやる。其れだけだ。」

「息吹……」

一体何が有ったって言うんだお前に?
確かにどこか軽薄な面はあったが、鬼との戦いに関しては真剣そのものだった……だと言うのに、今の息吹からは鬼との戦いですら適
当に熟せば良いと言う感じを受けてしまう……お前に一体何が有ったって言うんだ?

だが、だからと言って鬼の討伐を止める訳にも行かないからな……息吹は無理だろうが、残った面子で任務を熟さねばだ。



で、本部。
息吹の事を皆に伝えたよ――流石に黙って居る事は出来ないからね。



「息吹様……一体何が?」

「さぁな……あんな奴の事は知らねぇ。」

「桜花殿は、何か知らないか?」

「……オオマガドキで、大事な仲間を失ったと聞いている――だが、それ以上の事は知らん。
 私は物見を率いて、夢患いの『鬼』の捜索に当たる――梓、あの馬鹿者の事を頼む。」



あぁ、任されたよ桜花。
自力で立ち上がるのが一番なんだろうが、其れは望み薄だろうからね。とりあえず話を聞いてみる事にするさ。



「……頼む。…………それにしても、静かだな。」

「あん?」

「いや……初穂も息吹も居ないと、静かになるモノだと思ってな。」

「はっ、アイツ等もザマぁねぇぜ。『鬼』の揺さぶりにまんまとはまりやがって。」

「富嶽様、その様な物言いは酷でございます!」

「あぁ?分かってねぇようだから言っとくがな、この世にゃ親も居ねぇ、ダチも居ねぇ天涯孤独の奴らがごまんと居る――いちいち、夢患
 いなんざに浮足立ってたらキリがねぇんだよ。」



其れは、確かに一理あるな富嶽。
だが、そうやって割り切る事が出来ないのが人間と言う物だろう?――其れを考えると、お前は強いな富嶽。

しかし、初穂と息吹が居ない状態で、桜花がミズチメの捜索に出るとなると、里の守りは大分手薄になってしまうが、其処は何とかして
見せるさ。



初穂が夢患いにかかり、息吹は謎のやる気0状態――初穂は兎も角、先ずは息吹を何とかしないといけないだろうな此れは。
息吹まで居なくなったとなると、流石に里の戦力低下は否めないからな……だからこそ、話を聞く必要がありそうだ――一体過去に何
が有ったのかをな……

大切な仲間を守れなかったとの事だが、お前は一体どれだけの過去を背負っているんだ息吹……












 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場