Side:梓
さてと、今日も今日とて元気に鬼退治と行こうかな?
今日の任務は『古』の領域におけるクエヤマ討伐の任務だ――ふむ、領域の瘴気の影響か、武や戦の領域に現れた個体とはまるで違
うな此のクエヤマは?
図体こそ変わらないが、強さは此れまで戦ったクエヤマの中でも最強と見て良いだろう……尤も、私にとっては10が11になった程度に
過ぎないけれどね。
『ガァァァァァァ!!!』
だから、その巨体での踏み付け攻撃も効かないよ――ふんす!!
「あの巨体の踏み付け攻撃を受け止めただと!?――梓、今更ながら、君の身体は一体どうなっているんだ?
普通は出来ないぞそんな事……と言うか普通は踏みつぶされて終わりだと思うんだが……つくづく君には驚かされてばかりだよ梓。」
「まぁ、大概規格外だからね私は――と言うか、安倍晴明のミタマが魔法を解禁してくれたおかげで、私は人外まっしぐらだよ桜花。」
「テメェは、元々人外級の強さだろうが。」
「是非も無し。」
まぁ、否定はしないし出来ないけれどね。
取り敢えず此のクエヤマは此処で滅する――終わりだ!!!
――ポイ!……ドガァァァァァァァァァァン!!!
「フン、汚い花火だね。」
「クエヤマ……倒すべき鬼とは言え、梓と対峙してしまった事を同情しておくよ。」
取り敢えず、此れにて任務完了!里に戻ろうか。
討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務22
『奇病発生!その名は夢患い』
さてと、戻って来たぞ大和!クエヤマを、バッチリ倒して来た!
「物見からの報告は受けている……大活躍だったそうだな梓。そして、桜花と富嶽と速鳥も、見事な働きをしたと聞いている。ご苦労だ
ったな。」
「いえ、里を守るモノノフとして当然の事です。」
「ほとんど梓が持って行っちまったから、俺としては暴れ足りねぇがな。」
「隊長の力、正に鬼神の如き――隊長が居る限り、我等に負けは無いかと。」
まぁ、皆と力を合わせたから出来た事だよ――私一人では、クエヤマをあそこまで簡単に倒す事は出来なかっただろうからね。
其れで大和、何かあったのか?
「ふ、相変わらず鋭いな?
任務を終えたばかりで悪いが、一つお前達に調べて貰いたい事が有る――謎の病の噂は聞いているか?」
「謎の病って…何それ?知ってる梓?」
初穂、居たのか。
いや、私も初耳だが……謎の病とは一体如何言う物なんだ大和?
「ここ最近、眠ったまま目覚めなくなる者が里で急増している。
身体には何の異常もないが、何をしても目覚める気配がないそうだ――此のままでは全員が衰弱死しかねんが、原因が分からん。
里の者に話を聞いて、病の情報を集めてきて欲しい。」
其れは、また何とも奇怪な病だな?
闇の書の意志であった頃の私が使っていた、吸収した相手に最も幸せな夢を見せる力によく似ているが、此方は身体は残ったままだ
から……確かに目覚めねば衰弱死は間違いないだろうね。
我が主の居た世界ならば、医療機関で点滴を受けさせることで生き長らえる事は出来るだろうが、此処には其れは無いからな。
だが、そう言う事ならば、病の情報集めだ――集めた情報の中に、解決策が有るかも知れないからね。
「目覚めないって……ドレ位の人がそうなってるの?」
「ざっと数十人、と聞いている。」
其れは大変な事態だな!――急ぎ原因を調べねばだ!!
「うん!急いで原因を調べよう梓!
善は急げよ!早く里の人達に聞き込みに行きましょ!!」
「どんな些細な情報でも構わん――頼んだぞ。」
了解だ大和。早速初穂と一緒に、聞き込みに行ってみるよ。
其れだけの人が発症しているのならば里の人も何か聞き及んでるかもしれないし、樒やオヤッさんも何か知ってるかもしれないからね。
早速行こう、初穂。
「うん!……と、丁度良いわ、貴方ちょっといいかな?私達、大和――お頭の命令で、例の病気の事を調べてるんだけど、何か知ってる
事は無いかな?
何でもいいの、何か手掛かりになりそうな話は無い?」
「そうだな……妙な夢なら見たぜ?
夢の中に死んだ母ちゃんが出てきてな。ずっと一緒に居てくれとか言ってたぜ?――もう少しそっちで待っててくれるかって言ったら、
そのまま消えちまったが……」
「夢にお母さんが……?」
「その時首を縦に振ってたら、俺も今頃は目覚めなくなっちまってたかもな。」
ふむ、夢に死んだ親がか……益々、闇の書の力と似通っているな?
だが、まだ情報が足りないな?……と、其処の君、例の病気について何か知らないか?お頭の命令で調べているんだ――どんな些細
な事でも構わないんだが。
「眠ったまま起きない病気?
あぁ、噂になってるアレか。うちの爺さんが言ってたぜ、アレは『夢患い』だって。」
「「夢患い?」」
「何でも、曾祖父さんの代に流行った事が有るらしい。
そん時は、結局『鬼』の仕業だったとかで、モノノフ達が討伐に行ったらしいぜ。」
ふむ、件の奇病には鬼が関わってる可能性が浮上したが、此れだけでは少しばかり判断材料としては足りないな?もう一押しが欲しい
所だが……此処は矢張り、物知りな巫女に聞くのが一番だ。
「そう言う訳で、夢患いについて何か知らないか樒?」
「『夢患い』……?」
「そうなの。樒、何か知らない?」
「さぁ……さっぱり……でも……現実が辛くて堪らない時、夢は格好の逃げ場……
取り戻したい過去がある人ほど、きっと夢患いになりやすい……二人とも気をつけて……」
「取り戻したい過去と『夢患い』……其れに『鬼』……情報は十分に集まったわ!大和の所に行こう!」
そうだな。
夢患いに『鬼』の力が関与している事と、取り戻したい過去がある者ほど夢患いになり易い――現状では十分と言える情報だからね。
しかし、取り戻したい過去がある者ほどか……闇の書のアレも、取り戻したい過去がある者に対して程力を発揮したが、其れを超えた金
色の少女は大したモノだよ。
「と、言う訳だ大和。」
「『夢患い』だと?」
里の人達が言っていたんだ、100年ほど前にも同じ事があったとな。
取り戻したい過去や、会いたい人が居ると夢の中に閉じ込められてしまうと言う事らしい――如何考えても普通ではないだろう此れは。
過去の夢患いの流行は『鬼』の力が関わっていたらしいが、今回もそうだと見て間違いんじゃないか大和?
「…………如何思う、秋水?」
「そうですね……?
夢患い……100年前……調べてみましょう。どうも信憑性がありそうです」
「あぁ、頼む。
お前は胡散臭いが、その知識は大したモノだと持ってるからな私は。」
「……胡散臭いとは、容赦ないですね梓さん?」
「特に、その帽子と眼鏡が胡散臭い感じがするんだけどな?」
「……此れは、僕なりのこだわりと言う事で。」
そうか、其れなら仕方ないな。
――そんなこんなで、秋水調べ中だから、少し待っていてくれ。
で、如何だった秋水?何か分かったか?
「なるほど……確かに過去の文献に記録がありました。――夢を見せ、人の魂を喰らう『鬼』の記録が。」
「矢張り『鬼』が関与していたか……」
「『夢患い』……『百日夢』との異称もあるようです。
懐かしい過去の夢を見せられ、夢の中に閉じ込められる――眠り始めてから100日が過ぎた頃に『鬼』に魂を持ち去られ塵となって
消える……文献にはそう記述があります。
……病が流行り出してから、既にかなりの日数が経過しているのでは?」
「残された時間は少ない、か……」
ならば、やる事は決まっている。
皆に夢を見せている『鬼』を倒すだけだ――幸せな夢に生者を閉じ込める胸糞の悪さは、私が一番知っているのでな……其れを行う鬼
を生かしておく事は出来ん!
「そうしたいのはやまやまだが……見つける手段がないぞ。」
「その点については、方法がありそうです。
文献によれば、夢患いを起こした『鬼』は蛇のような姿形をしていたとあります。水を好み、必ず水脈に沿って移動するとありますので、
水脈をたどって行けば、見つけられる可能性は高いと思いますよ。」
ナイスだ秋水!それならば、件の『鬼』を見つける事も出来るかも知れない!!大和!!
「ウム、全員に招集をかける。
夢患いの『鬼』を見つけ出して討つぞ!」
「任せて大和!」
「その鬼は、私が叩きのめしてやろう。」
何よりも、仮初の幸福を与えた上で魂を持ち去ると言う、その卑劣な手段を『はいそうですか』と見過ごせるほど、私は出来た人間では
ないのでね……絶対に滅してやるさ。
・・・・・・・・・・・・・・・
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・・・・・・・・・
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・・・
「全員、話は聞いてるな?夢患いを起こしている『鬼』ミズチメを討つ。
秋水の情報によれば、敵は水脈に沿って移動している筈だ。速やかに探し出し、討ち果たすぞ!」
「……お待ちください。
此れも、件の『鬼』の指揮官が、裏で糸を引いているのではありませんか?」
「……確かに、偶然にしては出来過ぎている――ウタカタを攻め落とせず、搦め手に出て来たと見るべきか。」
ふむ、確かにその可能性も否定できないな?
そうなると里を空けるのは危険か――以前の様に、陽動の可能性と言う物を排除する事は出来ないからな。或は、待ち伏せと言う事も
あるかも知れないからね?
其れを考慮すると、此処は隊を二分し、探索組と、里の防衛組に分けるのが良いと思うのだが、如何だろう大和?
「……そうだな、お前の策で行こう梓。
桜花、息吹、初穂、お前達は探索に当たれ。手が足りなけば物見を使え。
そして梓、お前は残りの者を率いて里の守りにつけ。」
「了解しました、お頭。」
「ま、頑張りますか。」
「任せなさい大和!」
私も了解だ大和。
富嶽と那木と速鳥が残ってくれるなら里の守りは何とかなるからね。我が身に変えても、里を守るよ――尤も代価としてこの身を差し出
す心算は無いけれどね。
「最初の被害者が出てから間もなく100日だ――もう時間がない。急ぎ、敵を見つけ出すぞ。」
「はっ、随分とセコイ手を使うじゃねぇか?……陰でコソコソと気に入らねぇ。見つけ出して挽き肉にしてやるぜ!!」
「鬼の挽き肉か……ハンバーグにしても不味そうだが――如何した息吹?」
「……夢患いってのは、過去に未練がある奴が鳴るモンなんだよな?」
らしいが……如何したんだ行き成り?
「いや……ちょっと気になっただけだ。」
「息吹……」
若しかして、取り戻したい過去が有るのかお前にも?其れなのに夢患いを発症していない自分が不思議だと、そう言う感覚なのかな?
よくは分からないけれどね
それにしても夢患いか……
「アタシには、夢から覚めたくない人の気持ち、ちょっと分かるかも――もう、夢の中でしか会えない人達が沢山いるから。
出来たら、お父さんとお母さんに謝りたいかな?突然いなくなっちゃって、ごめんなさいって…って、やめやめ!もっと確りしなくちゃ!
君の前だと、つい気が緩んじゃうのよね……さぁ、今日も頑張って行こう……って、ぶはぁ!!!
な、何て顔してるのよ梓!!」
――ミョイ~~ン
いや、ちょっとしんみりしてたから、元気出してもらおうと思って顔芸をな?
更に此処から、目をより目にして、顔をこうガバッと広げたらどうだ?さぁ、この顔芸に耐えられるモノなら耐えてみろ!この顔芸は星を
砕く力を持った勇者ですら陥落したからな!!
「無理!無理無理絶対無理!此れで笑うなって、拷問以外の何物でもないわ!!」
ハハハ、元気が出たようで安心したよ初穂――鬼の探索、任せたぞ?里の方は、私が守って見せるからな!!!
「うん、里の事は任せたわ梓。君なら安心だからね!」
「ふふ、任せておけ!」
後は必ず守ってやるさ――其れが私の務めだからね。
だが、この時は予想もしていなかったよ――まさか、あんな事に成ってしまうなんて言う事はな……
To Be Continued…
おまけ:本日の禊場
さてと、里を守るには穢れを落としておかないとだが……どうやら、禊の時間を間違えた様だ――素顔は中々のイケメンだな速鳥?
「自分に気付かれずに入って来るとは……隊長の隠形の技には感服するのみ……」
「忍びのお前に気付かれないとは、此れは自信を持っても良いかな速鳥?」
「是非も無し。」
其れは嬉しいな。
お前にそう言って貰えるのは嬉しいよ――その礼と言う訳ではないが、後で家に来ると良い。なはととりひとが、お前に会いたがってい
るようだったから、きっと喜ぶだろうさ。
「それは、身に余る光栄。」
そんな訳で速鳥と禊をした――次の任務、気力が途切れる事は無さそうだ。
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