Side:梓


ミタマを手に入れる事が出来たとは言え、物見が全滅しながらもミタマが一つだけでは、大凡等価と言う事は出来ないだろうな……とは
言え、この辺りも割り切る事が出来なければ意外と辛いかもだな。

其れよりも気になるのは、タケイクサとの戦闘後に息吹が苦い顔をしていた事だ……息吹の事は分からないが、だからこそ知る必要が
有るのかも知れな。

さてと何処にいる?…オヤッさんの所に居たか……何をしているんだ息吹?



「………
 あぁ、あんたか。ひょっとして、俺を心配して来てくれたのか…?……前から思ってたが……、本当にお人好しだぜ、あんた。
 ………目の前じゃ、もう誰も死なせない。そう誓ったはずだった……どんなに願っても果たせないなら、願うべきじゃないのかもな。
 期待した分だけ、苦しくなる……俺も、俺を頼った人間も――結局、自分の分をわきまえて、ほどほどに生きるのが良いのさ。」

「息吹……其れは、お前の本心なのか?」

「さぁ……如何だろうな?」



息吹……此れは、これ以上何かを言ってもどうにもならないだろうね……仕方ない、取り敢えずは御役目の消化に当たるとしようかな。












討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務21
『鬼の目的はオオマガドキ?』











そんな訳で毎度お馴染み総合本部だが、大和と橘花が向かい合ってる?
若しかして、鬼に対抗するための策が浮かんだのだろうか?だとしたら、何とも心強い事だが……大和。



「お前か。どうだ、ミタマの奪還は進んでいるか?」



あぁ、思った以上にスムーズに進行しているよ。
この間のタケイクサとの戦闘で、平将門公のミタマを宿す事が出来たからね……将門公は、鬼について何か知っているらしい…此れは
とても重要な事だと思う。



「ほう……?平将門のミタマが己の『中』を探れと言って来たか――何か感じるか橘花?」

「…………はい……微かですが……。確かに人の思念とは異なる何かを……」

「……行けるかも知れんな――全員に招集をかけるとしよう。
 『鬼』の思念を探り、俺達の為すべき事を見つけ出す。」



そうだな、其れが一番面倒な事がない――皆が集まったら儀式開始だな。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

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・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



という訳で、全員が総合本部に集まって来た。何か、壮大な儀式が始まると伝えたから、余計に全員が集まったのかも知れないな。
だが、本番は此処からだ。



「梓さん、準備は良いですか?」

「橘花、無理はするな。下手をすれば、あちら側から戻れなくなる。『鬼』の思念に飲み込まれるな。」

「分かってる、姉さま――では……始めます。
 科戸の風の 天の八重雲を吹き放つ事の如く 朝の御霧 夕の御霧を 朝風 夕風の吹き払う事の如く 祓へ給ひ 清め給へと
 八百万の御魂集いて 聞こし召せと白す……此れが……本当の『鬼』の思念……感じます、これまでにない強力な『鬼』の存在を!
 『鬼』に喰われた、無数の人々の魂の叫びを!呪いと、悲しみと、怒り……その中に……確かな思念が……
 ウタカタへの……強い敵意……障害……脅威の排除……殲滅……」



其れは……私達が脅威だと言うのか?……いや、私に限って言えばあながち否定も出来ないのだが……



「それと……声が……聞こえます…………あなたに……会いたい……?」

「如何した橘花。何が聞こえている?」

「人々の魂の……声が……聞こえます……とても強い……会いたいという想い……遠い、時の彼方から…呼びかける……声が……
 う……!!」


橘花!!
これ以上は危険だ!『鬼』に飲み込まれてしまう!!もう十分だ、戻って来るんだ!!!



「だ、大丈夫橘花?」

「見えました……『鬼』の目的が。
 『鬼』に囚われた魂の、大切な人に会いたいという願い……その願いを使って、門を開く心算です――オオマガドキです。」



オオマガドキ……!其れは、見過ごす事は出来ないな。
だが橘花、お前は力を使い過ぎた……元より丈夫な身体ではないんだ……もう休め。桜花も、気が気ではないようだし、私も心配してい
るからな。



「はい……そうします。」

「橘花、ゆっくり休むと良い。お前は良くやった。」

「はい、姉さま……」



矢張り巫女の力と言うのは、相当に身体に負担がかかる物の様だ……強大な鬼の思念を探ると言うのだから、体力だけでなく精神力
も強くなくては巫女は務まらない、か――結界の負担だけでも軽減できたのは良かったのだろうな。
今度、体力の回復や疲労に効く甘い物でも差し入れてやるか。……彼女もまた、我が主と同様に守るべき存在なのだからね。

さて、鬼の目的は分かったが、此れから如何する?当面の事を決めておいた方が良いと思うのだが……



「是非も無し。ならば、隊長の家で話し合いをするのは如何だろうか?
 総合本部よりも、あちらの方が静かで落ち着いて話も出来るのではないだろうかと、自分は思うのだが……」

「私の家?まぁ、別に構わないぞ。」

見られて困る様な物は置いてないし、私以外に家にいるのはなはととりひと位の物だからな。




と言う訳で、私の家にモノノフ全員集合。7人入っても、まだ余裕が有るって、思った以上に広いんだなこの家は?ワンルームとは言え。



「にしても、オオマガドキとはな……」

「この前の『鬼』は、やっぱりそのせいか。」

「……8年前でさえ、中つ国を守るので精一杯だったのです。
 今の戦力は、その数十分の一……オオマガドキとなれば、今度こそ人の世は滅びます。如何にかして防がねばなりません。」



オオマガドキか……確かにそうだろうな。
私の中の梓の記憶が教えてくれる――彼女は、オオマガドキの時は10歳ほどの子供だった故に、鬼が世界を蹂躙する様は、正に地獄
其の物だっただろう……記憶を頭の中で再生するだけで、私ですら寒気がしてくる。
確かに、当時よりも圧倒的に劣る戦力で、もう一度アレが起きたらどうしようもないかもしれないな……幾ら、私が魔法を取り戻したとは
言え、世界中の鬼を一度に相手をする事は出来ないからな。
とは言え、情報が足りない……先程の話だけでは、具体的に如何動くか決めるのは難しい。結局、今までと同じように虱潰しに鬼を倒し
て行くしかないのだろうね。



「『鬼』が『鬼』を呼ぶ……オオマガドキを引き起こす『鬼』が居るって事なのかな?」

「問題は如何起きるかじゃない。どう防ぐかだ。」

「……そうね、方法はあるのかしら?」



どう防ぐかか……息吹の言う事も尤もだが、初穂が気付いた事も無視は出来ないんじゃないか?
オオマガドキを起こす『鬼』……その正体を明らかにし、其れを討つ事が出来ればオオマガドキを防ぐ事だって出来るのではないかな?



「かも知れねぇが、ソイツが分からねぇ以上は手がねぇのと同じだ。――誰も、オオマガドキを防いだことはねぇんだからな。」

「結局はそうか……」

「……橘花が目覚めるまで待つしかないか……」

「……是非も無し。」



あまり負担はかけたくないが、結局は橘花の千里眼頼みになってしまう訳か。――こんな事を言っては何だが、闇の書であった時の蒐
集能力が今は欲しい。
あの力が有れば、橘花の力を蒐集して、私も巫女の力を使う事が出来たというのに……世の中は、本当に儘ならない物だな。



「ところで、梓殿…………貴殿の天狐……………………モフモフしているな。」

「「「「「「(汗)」」」」」」



速鳥……空気をぶち壊すな!
お前の一言のせいで、此れまでのシリアスな空気が一気に霧散してしまっただろう!!序に、私の悩める思いを返せ、そして謝れ!!



「……さぁて、俺はそろそろ戻るとしますか。」

「ったく、コイツの家で話し合おうとか言うから妙だと思ったぜ……」

「な、なんか変な場面を見ちゃった気がするわ。」

「まったく……この隊に真面な奴はいないのか?」

「桜花、私とお前がこの隊の良心だ……苦労を掛けるが支え合って行こう。
 と言うか、ミタマ奪還部隊の隊長は私だが、副隊長は桜花に務めて貰おうかな?腕は確かで、戦闘時にも冷静さを失わないからね。」

「君の補佐か?其れも良いかもしれないな。」



うん、其れじゃあ副隊長は桜花だな。



「異論無しでございます。
 それにしても、速鳥様は動物好きなのでございますね……実に、興味深いです。」

「フ……フフフ……」



興味深いというか怖い。
この世界だから良い物の、海鳴で野良猫相手にこんな事をしていたら、間違いなく通報されてお縄になるぞ?……尤も、速鳥は警官等
は蹴散らして逃げることが出来そうだがな。





――で、数時間後。




「皆さん、お待たせしてすみません。」



橘花復活!……僅か数時間で、略全快してしまうとは、橘花は見た目以上に回復力が有るのかも知れないね。
其れで橘花、改めて教えてくれ、一体何が見えたんだ?



「……私にも、正確な事は分かりません。
 ただ、『鬼』がオオマガドキを起こそうとしている事――そして、その為の力を、人の魂を欲しているのを感じました。
 『鬼』の攻勢が激しさを増しているのは、その為ではないでしょうか?」



その可能性は高いかもしれないな?
ミタマをその身に取り込んでいたという事は、人の魂を喰らったからであり、人の魂が『鬼』の力の源になってるのは間違いないだろうか
らね……人の魂を喰らう為に、攻勢を強めているか。
胸糞の悪くなる話だ!!……紅の鉄騎ならば、きっとこう言うのだろうが、私だって同じ思いだよ。



「魂を集めてオオマガドキを起こすだ?そりゃ、如何言う理屈だ?」

「……分かりません。
 人の魂には、互いに呼び合う力があります。――モノノフがミタマを宿すように。其の力を利用しようとしている……としか。
 すみません、其れが私に感じ取れた全てです。」

「人の魂で鬼門を開く、ね……」

「って事は、此のままウタカタを守り通せばオオマガドキは起きないって言う事?」



そうとは限らないんじゃないか初穂?
例えウタカタを守り通すことが出来たとしても、他の里が落とされてしまったら同じ事だ……矢張り、『鬼』の指揮官を討ち、今の戦況を好
転させない事にはな。
あぁ、本当にこの世界にあの小さな勇者が居ない事が悔やまれる!彼女の集束砲だったら鬼だろうと何だろうと一撃で消し去る事が出
来ると言うのに!!



「件の『鬼』の居場所は分からなかったか?」

「申し訳ありませんお頭。『眼』を奪うまでは追えませんでした。」

「手掛かりは無し……か。」

「だが、作戦が有効である事は証明された。
 この短期間に、此れだけの情報を得る事が出来たのは収穫だ――敵の意図がオオマガドキにあるなら、其れを挫くために動くのみ。
 俺達が早いか、奴らが早いか……後は時間との勝負だ。
 捜索の範囲を拡大するぞ。奴等を狩り出し、ミタマを取り戻す。」

「ったく、またミタマ集めか?いい加減飽きて来たぜ。」



ふふ、そう言うな富嶽。
刺激が足りないと言うのならば、私と一緒に任務に当たれ……とびっきり刺激的な光景を見せてやるぞ?例えば、大型の鬼をチェーン
バインドでぐるぐる巻きにして、ぶん回してぶん回して、富士山の火口にカップインなんて言うのは如何だ?



「テメェが言うと、冗談に聞こえねぇのが怖いぜ……」

「…………」



自分で言うのもなんだが、この身は無限チートのバグなのでね?鬼を投げ飛ばす等造作もないんだよ富嶽……で、如何した息吹?
何時もなら軽口上等で口をはさんでくるところだが、大人しいね?らしくないな……



「ん?いや……ちょっとな……」

「息吹?……まぁ良い。梓、皆の指揮を頼むぞ。」



うん、分かったよ桜花。
ミタマ奪還部隊の隊長は私だから、その務めは果たすさ――どうせやる事は変わらないんだ……これまで通り、来る鬼を来た端から残
らず討ち倒して、ミタマを奪還する!
其れを繰り返して行けば、何時かは『鬼』の指揮官に大当たりだからな。

ミタマを取り戻し、全ての鬼を我が刃の錆としてくれるさ。








――――――








Side:橘花


此れは……少しし力を使い過ぎましたか……梓さんが結界を重ね掛けしてくれた事で、結界維持の負担は減っても此れとは……覚悟し
ていたとは言え、此れは辛いですね。



「貴女も大概命知らずですね橘花さん。」

「秋水さん……」

「千里眼の多用は、禁じ手ではありませんでしたか?――一度使うだけで、多大な負荷が身体にかかると聞いています。
 里を守りたい気持ちは分かりますが、貴女の身体が持ちませんよ?」

「……いいえ、大丈夫です。此の程度なら……」

「……この際、逃げてしまってはいかがですか?」



……え?



「何も、貴女一人で全てを背負い込む必要はありません。
 巫女を犠牲にして成り立つこの世界の仕組み、其れ自体が間違っているのですから。逃げても、誰も貴女を責める事は出来ません。」

「…………」

「……そう、怖い顔をしないでください。一つの思考に囚われるのは、危険だと申し上げたいだけです。
 なにも貴女一人が犠牲になる必要はない――その事を忘れないでおいてください。」



犠牲……確かに、秋水さんの言うように、巫女は犠牲なのかも知れません。
ですが、其れが私の役目だと言うのならば、私は其れを受け入れましょう――姉さまや里の皆の命を守る事が出来るのならば、私の命
をかけても釣りが来るくらいです。

そして、私が犠牲になる事はありません――姉さまと、梓様が必ず何とかしてくれますから。



「桜花さんと梓さんですか……確かに、彼女達ならばなんとかしてしまうかもしれませんね。
 桜花さんの実力は疑いようもありませんが、梓さんの強さは規格外だ……確かに、彼女ならば、大概の事を如何にかしてしまうでしょう
 ね……僕自身もそう思っていますから。」



大丈夫……姉様と梓様ならきっと何とかしてくれる……私は、そう信じています。








――――――








Side:梓


新たに『古』の領域での任務が出ていたが、極めて楽勝だったな?
少々手強い、ツチカヅキやらが居たが、魔力切れを起こしていないのであれば、モグラたたきなど造作もない――私を殺しかけたのとは
別の個体だが、思い切り叩き伏せてやったわ!!

この前にタケイクサ戦で手に入れた素材で、オヤッさんが霞切りと焔重ねを強化して『霜払い』と『鬼焔』にしてくれたのも大きいけれど。



「其れはあるかも知れないが、君の力は相当だぞ梓?
 5任務を一緒したが、其の5任務で君が倒した鬼は大型を含めて合計100体……一任務平均20体の鬼を撃破しているんだ――此れ
 は、並のモノノフでは出来ない事だ。」

「ならば、私は相当に規格外なのだろうね。
 だが桜花、お前だって、私と一緒に任務に出向いたら、平均で鬼を10体は撃破しているじゃないか?本気で、仲間で良かったよ。
 私が鬼だったら、お前が出てきた時点で敵前逃亡する。」

「ふふ、其れは私もだよ梓。」



どうやら、互いに同じ事を考えていたようだな。
何にしても、『鬼』との戦いは、これからもっと激しくなるだろうから今まで以上に気を引き締め、そしてミタマの回収に務めなくてはだな!












 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場



で、任務後の禊はお約束で常識なんだが……今日はお前か木綿。



「あ、梓さん来たんですね?
 実を言うと待っていたんです――ゆっくりできるように色々考えてきましたから、ゆっくりと任務の疲れを癒してくださいね?」

「……笑顔が眩しいな?……お前と会えただけで、私の疲れは癒されてしまう気がするよ。」

尤も、そう思うのは私だけではないだろうけれどな。
木綿が里の皆に好かれる理由が分かった気がするよ――これ程の癒しキャラを失うのは、里壊滅以上の里への大打撃だからな。

そんな訳で木綿と禊をした。防具の馴染み度が上がった気がするな。