Side:梓
ふあぁ~~……良く寝た。
身体の方は……うん、問題なく絶好調だな!……如何に手術が成功したとは言え、致命傷に近い怪我を負っておきながらもう回復して
いるとは、我ながら中々インチキな身体の構造をしているな。
書の管制人格だった頃ならいざ知らず、人の身になった今でもこれほどとは、如何やら梓の身体は可成り頑丈に出来ていたのだと思わ
ざるを得ないよ。
尤も、そのおかげでこうして動き回ることが出来る訳だがね。
さてと、今日も頑張ってお仕事だ!木綿、新たな任務は出ていないか?
「梓さん!……大怪我をしたって聞きましたけど、大丈夫ですか?」
「うん、大怪我はしたが那木のおかげで助かった。もう余裕だ。」
「す、凄いです!流石は梓さんです!
でも、気を付けて下さい……大事なお身体ですから。」
あぁ、そうだな。
ドレだけ頑丈とは言っても、この身体は人の身……死んでしまったら、其処で終わりだ。書の恩赦がない今、無限再生の力を当てにする
事は出来ないからな。
でも、大丈夫。私は滅多な事では死なないさ。
何よりも、私はこの世界で成すべき事を、まだ成し得ていないのだからね。――さぁ、今日も張り切って御役目を熟すとしようか♪
討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務20
『鬼の猛攻-進撃のタケイクサ』
とは言え、新たな御役目が出てる訳でもないから得にする事がある訳でもない。
一応この間のツチカヅキの素材で、地烈斬を強化できるとの事だったのでオヤッさんに鍛え直して貰ってる最中だが、流石に未だ出来
てはいないしな。
「梓、少し良いか?」
「大和?あぁ、別に構わないが……如何した?」
「ミタマを、また一つ取り戻したようだな。……死にかけた甲斐はあったか?」
「ツチカヅキから1つ、そして那木からの分霊で1つ、計2つのミタマを得る事が出来たから、確かに死にかけた甲斐はあった様だ大和。」
「そうか……だが、あまり無茶はするな。お前は此の作戦の要、失う訳には行かん。――もっと、自分を大事にしろ。」
……了解だ。
如何やら私は、過去に数多の命を奪ってしまった経験から、自分の命を軽く見る傾向があるようだ……が、私が死んでしまったら、ウタカ
タの戦力は大きく落ちてしまうだろうから、此れは絶対に死ねないな。
「分かっているのならば、其れで良い。
どうだ橘花。新たなミタマから、何か感じ取れるか?」
「…………すみません……このミタマからは何も……。『鬼』の指揮官とは関りがないのかも知れません。」
「そうか……」
残念、坂本龍馬はハズレか。
歴史上の有名人でも当たりであるとは限らない訳だ……流石に、そう簡単には行かないみたいだな。
とは言え、討つべき鬼は無限に存在しているから、来る端から打ち倒し、ミタマを回収して行けば、其の内『指揮官』に通じるミタマに大当
たりだろう?今は、鬼を倒すに尽きるさ。
「其れしかあるまい。お前は引き続き鬼の討伐に当たれ。
傷が癒えたばかりでスマンが、確実にミタマを取り戻せるのはお前だけだ――頼りにしているぞ。」
「ならば、其れには応えるよ。」
さてと、そろそろオヤッさんの仕事も終わったかな?
物見の連中も本部に来ていたようだから、新たな御役目が出ているだろうし、オヤッさんから刀を受け取ったら試し斬りも兼ねて幾つか
任務をこなすとしよう。ミタマが手に入れば儲けものだしな。
「オヤッさん。」
「おう梓。相変わらず、良い所に来るなオメェは。
ちょうど仕上がった所だぜ。コイツがツチカヅキの素材を使って強化した地烈斬の上位武器『金剛刀・断裂』だ。
前よりも刀身をちょいと肉厚にしてある分だけ重量は増したが、攻撃力は高くなってるぜ?刃で斬れない鬼でも、刀の重さで叩き斬る
事が出来るって訳だ。」
うん、確かに前よりも重量が増したみたいだが、此の程度ならば使う分には問題ないよ。
其れに、此の刀ならばモノイワの強固な甲羅でもビスケットの様に粉々に砕く事が出来るかも知れないし、何よりも武器としての性能が
向上しただけじゃなく、見た目にも良くなってるじゃないか。
前の赤銅の様な輝きのある刀身も良かったが、この漆黒の刀身は如何にも強そうだし美しい。
ありがとうオヤッさん、新たな御役目が出ているだろうから、早速この刀を使ってみるよ。
「おうよ。実際使ってみて、何か改善点が有ったら遠慮なく言いな。お前さんの望むように調整してやる。」
「オヤッさんの仕事に間違いは無いと思うが、万が一にも改善点が有ったら言わせて貰うよ。さてと……それじゃあ、行ってきます!」
「気を付けて行けよ!」
は~~い!
って、何だかお爺ちゃんと孫みたいだな私とオヤッさんは……いや、見た目の年齢差から言えば間違っていないのか?実際の年齢なら
ば、私の方が遥かに上だけどな。
さてと本部だが……新たな御役目は、ミフチ2体の討伐とドリュウ100体討伐だが、ドリュウの方は既に初穂と息吹と那木で受注済み。
なら、ミフチ2体討伐で行くか――桜花、富嶽、速鳥、一緒に来てくれるか?
「ミフチか……あまり戦いたい相手ではないが、君の使命とあれば仕方ない。鬼を討つ鬼の役目、果たすとしよう。」
「いいぜぇ?てか、復活したばかりだってのに元気だなテメェは?一体どんな身体してやがんだか……」
「隊長の命令とあらば、従おう。」
助かる。
如何にミフチとはいえ、2体もの大型鬼を同時に相手にすると言うのは流石にキツイと思うからね。多分、きっとな。
兎に角、出撃だ。
で、やって来ました『武』の領域。
ミフチが発見されたのは、仁王像がある場所との事だったが……居た居た、ミフチが2体!何方も、私がこの世界に来た時に倒した個体
よりも強そうだ……行くぞ!!
「蜘蛛じゃない……鬼だ、鬼なんだ!!」
「っしゃー!叩き潰すぜ!!」
「いざ、共に行こう。」
「鬼は鬼らしく、地獄で暮らしていると良いさ……私達が、地獄へ送り返してやろう。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
と言う訳で、ミフチの2体討伐だったんだが、案外あっさり終わってしまったな?
今回は魔法無しで、更には焔重ねは使わずに新武器の断裂を使ったにも拘らず、2体のミフチを討伐するのにかかった時間は3分弱と
言った所だからな?
まぁ、何だか知らないが桜花がリミットブレイクしたせいもあるかも知れないが……あそこまで苛烈になるとは、若しかして桜花は蜘蛛が
苦手なのか?
「苦手どころか大嫌いだ……よりにもよって、蜘蛛の姿をした鬼が居るなど私にとっては悪夢でしかない。
君は良く平気だな梓?気持ち悪くないのか?」
「蜘蛛程度ならば平気さ……何よりも、台所に出現する黒光りするG様や、厠の中から大量に飛び出してくる便所コオロギの生理的嫌悪
感に比べれば、蜘蛛など可愛い物だよ桜花。」
「何だか物凄く納得した。」
だろう?
それにしても便所コオロギとは、何とも不名誉な俗称が付けられたモノだなカマドウマも……人間だったら、名誉棄損で訴訟を起こしてる
かも知れないな。
さてと、無事に2体のミフチを撃滅して里に戻って来た訳なんだが……何やら物々しい雰囲気だな?
アレは、里の住人の女性か?如何したんだ、態々モノノフの本部まで来るとは。
「お願いします、彼を助けて下さい!」
「何かあったのか?」
「?何だ、どうした。」
息吹、御役目から戻って来てたのか。
其れよりも大和、一体何があったんだ?如何して、彼女はこんなにも狼狽している?ただ事ではない事態だと言うのは分かるのだが…
「お前達か。……物見の一隊が消息を絶った。」
「お願いします、恋人が戻らないんです!」
物見が消息を絶っただって!?
其れに恋人って……その物見の一隊には、彼女の大切な人が居たというのか!?……そう言う事ならば、この慌てようも理解できる。
「……!……何処だ?」
「息吹?」
「何処まで行った?
俺が助けに行く。アンタは此処で待っててくれ。」
息吹!……中々格好良い事を言うじゃないか?
だが、お前1人では行かせない。私も力を貸すぞ息吹、戦力と言う物は多いに越した事は無いからな?嫌だと言われても手を出させて
貰う!!
「断る筈がないだろ?アンタが一緒なら百人力だぜ。」
「……だが、行動限界が近い筈だ――間に合うかは賭けだぞ?」
「可能性がない訳じゃない……救える命は救う。そうでしょう、お頭?」
「……そうだな。
富嶽、那木、お前達も2人に同行してくれ。」
「人命救助だからな……まぁ、正直暴れ足り無かったから丁度良いぜ!!」
「畏まりでございます。」
富嶽と那木も一緒か……此れは負ける気がしないな。
どんな鬼が待っているのかは分からない上に、物見を助けることが出来るかどうかは賭けになる勝負だが、やらなかったら僅かな可能
性を掴む事すら出来ないから、その可能性を掴むためにも行くぞ皆!!
そして、速攻でやってきた『雅』の領域!……心持ち、何時もよりも瘴気が濃いか?其れだけ強力な『鬼』が居るという事か。
「行くぞ、手遅れになる前に!!」
「あぁ?何時になく熱くなってんじゃねぇか?」
「熱くなって上等だ……事は一刻を争うからな。皆、私の左手に手を重ねてくれ。鬼も居る場所に転移する!!」
「魔法、でございますか梓様?」
最近、大型鬼の気配を感じ取れるようになってね。
位置は大まかだが、誤差20mの範囲で大型鬼の近くに瞬間移動をする術を身につけたんだ。急を要する場合には便利だ――今の様な
状況ではな。
「瞬間移動とはな……ホント、アンタ凄いよな?」
「テメェ、やろうと思えば連続で大型鬼10体討伐とか出来るんじゃねぇか?」
「梓様なら出来そうでございます。」
「微妙に否定できないのが辛い所だな此れは。」
兎に角、行くぞ?……鬼の気配は――見つけた!!
――バシュン!
――シュイン!!!
『ウガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!』
で、転移した場所には居たよ大型鬼が。
4本の腕を持った凄まじい力を持った鬼……確かコイツは『タケイクサ』だったか?火と水の2つの力を宿した強力な鬼だった筈だ。
「コイツ、8年前にも……!」
「8年前と言うと、オオマガドキの時にも?」
「あぁ、現れた……其れよりも、物見の連中は!!」
そうだ、物見の一隊は………まさか!!
「「「「「「「「「「………………」」」」」」」」」」
タケイクサの下の骸……遅かった、間に合わなかったのか!!
「くそ……間に合わなかったのか!!
如何して、俺の腕はこんなにも短い……俺の足は、こんなにも遅い――せめて、仇を討ってやる!!!」
「ちぃ、遅かったか!
其れに何だコイツは、瘴気の濃さがハンパじゃねぇぞ!!
「コイツは人間の土地を瘴気で穢して回る鬼だ!
逃せば、穢れが広がる……絶対に逃がさねぇ!!」
「随分と詳しいじゃねぇか?……ようは、ぶっ倒せばいいんだろ!!」
其れに尽きるな。
火と水の力を宿しているという事は、裏を返せば火と水が弱点という事でもある…物見の仇、討たせて貰う!覚悟は良いなタケイクサ!
――――――
No Side
到着した先で物見は全滅……かの女性の恋人も帰らぬ人となってしまったが、だからと言って其処で終わりという訳にもいかない。
タケイクサとの交戦に入った一行だが、矢張りここでも梓の凄さと強さは際立っていた。
「よくも彼等を、仲間達を……絶対に許さんぞ貴様!!!」
焔重ねと霞斬りの二刀流で挑んだ梓は、タケイクサの炎の攻撃を霞斬りで、氷の攻撃を焔重ねで斬り払いながら的確に攻撃を叩き込ん
で行く。
其れに続くように、富嶽と那木も攻撃するが、この戦いに於いて、梓に次いで凄かったのは息吹だ。
「吹き飛びな!」
怒涛の槍捌きだけでなく、魂のタマフリを最大限に使用してタケイクサを攻め立てる。
其れも的確な攻撃方法を持ってしてだ……恐らく、息吹は過去に何度かタケイクサと戦った経験があるのだろう。そうでなくては、此処ま
で的確な攻撃をする事は出来ないだろう。
正に圧倒的なモノノフの攻勢に、タケイクサもグラつくが、其処は大型鬼、只ではやられない。
――ギュイィィィィン!!
此処でタマハミ状態となり、4本の腕を足にしての逆立ち状態となり、まるで複数の触手を持つ軟体生物の様な姿へと変貌する。
クエヤマほどではないが、中々の衝撃的なタマハミ状態だが……この人の存在を忘れてはいけない。
「其れが如何した?……大人しく死んでいろ!!」
『!?』
タケイクサのタマハミを感じ取った梓は、逆さまになった事で『頭』となった胴体の根幹だった部分を掴むと、あろう事か其れを持ち上げて
から、上空に飛び立ち、其処から地面目掛けて全力投球!!
如何に大型の鬼とは言え、上空1km近い地点から、其れも力任せに叩きつけられてはどうしようもない――叩き付けられたその瞬間に
タケイクサは完全に沈黙したのだった。
『鬼を討つも、また一興!』
――ミタマ:平将門を手に入れた。
そして、梓は新たなミタマをその身に宿していた。
――――――
Side:梓
タケイクサを倒す事は出来たが……すまない、君の大切な人を助ける事は出来なかった。……言い訳はしない、全ては私の責任だ。
「そ、其れじゃあ彼は……」
「スマナイ……助けられなかった。」
「どうして……!助けるって……言ったのに……!」
「すまない……」
「息吹……お前のせいじゃない。
私が、もう少し鬼の気配を早く察知することが出来ていれば間に合ったかもしれない……全ては、隊長である私の責だ。
そうだろう、大和?」
「…………」
……黙して語らずか。
何を思ってるかは分からないが、物見の一隊を失った事を痛手と思い、同時に彼等の冥福を祈っているのかも知れない……大和は、そ
う言う人だからね。
「クソ!!」
「ちったぁ落ち着けよ。テメェは良くやった。」
「……アンタに慰めらるなんてな……惨めで笑えないぜ。」
「…………」
息吹は相当に落ち込んでいるみたいだがな。
だが息吹、今のは幾ら何でも聞き捨てならないぞ?富嶽は、お前の事を心配して言ったのに、其れを惨めだなんて……富嶽に謝れ!
「……悪い。」
「……んな事より、8年前が如何とか言ってやがったな?ありゃ、如何言う事だ?。」
「8年前のオオマガドキ……俺は、あの時最前線で戦ってた。奴は、その時に居た『鬼』だ。」
何だって?
息吹は確か26歳……8年前と言うと、18の身で戦っていたのかお前は!!
「新米のモノノフとしてな。
あの頃の俺は、ガキだった……無理をして突出して、それで…………兎に角、此処8年、奴を見た事は無かった。
何かあるぜ、コイツは……!」
確かに何かあるかも知れないな此れは……
『お前が『鬼』を討った兵か?』
「!!」
この声は……将門公か!!
『フン……少しはやるようだが……我は平将門、日の本を治めるはずだった新皇よ。
朝廷に反旗を翻し、東国を率いて戦った――だが、我が勝利を収めんとした時、あの『鬼』が現れ我を喰らいおった。
朝廷の愚か者どもめ、自分達の手柄の様に喧伝しておったわ。
この上は祟り神となって、日の本を祟ってやろうと思っていたが……我が祟るまでもなく『鬼』に喰い散らかされておるとは、マッタク不
甲斐ないモノよ。
こうなっては仕方ない。先ずは『鬼』どもを駆逐してくれる。祟るのは、其の後にしてくれよう。
我を喰った『鬼』は、お前達が探している『鬼』に近い……我の『中』を探ってみよ。多少の思念が残っている。
居場所までは分からずとも、奴らの企図は知れよう――精々我を失望させるなよ、梓。』
将門公……貴重な情報を感謝するぞ。
多少でアレ、鬼の思念が残っているのならば充分だ……私が魔力的なサポートを行えば、橘花の力で『鬼』の思惑を探る事が出来るだ
ろうからね。
『知の神』としても祀られる将門公が言うのならば間違いない……此れは、思わぬ収穫だったかもしれないな。
To Be Continued…
おまけ:本日の禊場
戦闘で蓄積された穢れは、禊で浄化しましょうそうしましょうという事で、禊場に来たんだが……何と言うか、よく会うな桜花?
「そうだな……だが、君と一緒に禊をすると言うのは悪くないと思うよ。」
「其れは私もだよ桜花。」
時に桜花、お前は息吹の過去について何か知らないか?
先の戦闘で、ガラじゃない位に熱くなっていたんだ……普段は飄々とした伊達男である伊吹が、あそこまで感情を表に出したのは初めて
見た……一体過去に何があったんだ?
「其れは、私も分からないんだ。
息吹は一見軽薄な伊達男を演じているが、本当は誰よりも仲間の事を思っている好漢だ……だが、その過去はお頭ですら詳細は知ら
ないのでな……」
「そうか……」
ならば、折を見て直接本人に聞くしかなさそうだな。
――因みに、この後初穂と那木もやってきて、皆で一緒に禊をした。……大勢での禊と言うのも、偶には悪くないかもしれないね。
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