Side:梓
新たな鬼が発見されたのは『乱』の領域だったか……普通ならば寒くて仕方ない場所なのだろうが、異界の特異性のおかげでマッタクも
って寒くないな――と言うか、此処で寒さを感じたら富嶽は凍死確定だからね。
「相変わらず、一面の雪景色ってか……まぁ、どんな鬼が居た所でぶちのめすだけだ。」
「英雄の魂、必ずや取り戻しましょう。」
「そうだな。」
「しゃー!いくぜぇ!!……と行きてぇところだが、テメェ何してやがる梓?」
ん?見て分からないか富嶽、雪だるまを作ってみたんだ。
これ程の雪と言うのは滅多にお目にかかることが出来なかったから、思わず張り切ってしまって自分の身の丈を遥かに超える雪だるまを
作ってしまったよ。
途轍もなく巨大ではあるが、何となく可愛いだろう?
「此れから大型鬼と戦うってのに余裕だなテメェ?」
「心に余裕が無ければ、勝てる戦いも勝てないと言うからね。」
まぁ、そんな物は関係なく、私が只単純に巨大な雪だるまを作りたかっただけの事だ。本音を言うなら、超リアルな雪ウサギとか、富嶽の
雪像とかも作りたかったんだが、如何やらそんな時間はなさそうなのでね……そろそろ始めるとしようか、新たな鬼の討伐をね。
討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務19
『雪原を泳ぐ潜鬼~ツチカヅキ~』
そう言う訳で出撃したのだが、大型の鬼とは未だに遭遇せず、その代わりの様にマフウが現れてくれる……進路を阻むのが目的なのだ
ろうが、貴様等如きは私達の敵ではないから、大人しく落ちろ!
下手に抵抗すると、焼き鳥にするぞ!!って言うか、問答無用でする!喰らえ!!!!
――ゴォォォォォォォォ!!
「上手に焼けましたー♪でございます。」
「オニビを使っての火炎放射攻撃って、アリかオイ?」
「少なくとも、私の中ではアリだな。
敵は平和を侵す鬼だ……そんな敵相手に彼是こだわってやる必要はないさ――使えるもの全てを使って勝つ、其れが一番だろう?」
「まぁ、否定はしねぇけどな。」
なら良いじゃないか。何よりも、小型の鬼程度は私の敵ではないから、本命との戦いの前のウォーミングアップには持って来いさ!!
おかげさまで、良い感じに身体が温まって来たからね……此処からが、私の真髄の見せ所だな?それ、全力で行くぞ!!
「何だコイツは……」
「身体の底から、力が湧き上がってくるようでございます……!」
「2人に身体強化魔法を使ったんだ。
攻のタマフリの『渾身』に近い効果だが、此方は攻撃力だけでなく、身体の耐久力、素早さなども上昇させる事が出来る。流石に全体
強化をする分、攻撃力の上昇値では『渾身』には劣るけれどね。」
「何とも便利な代物じゃねぇか?
なら、この状態で『渾身』を使えば、攻撃力は更に上がるって訳だ……行くぜぇ!!」
――バッキィィィィィィ!!!
……富嶽に殴り飛ばされたマフウが、周囲のガキとかオニビなんかも巻き込んで吹っ飛んだな?
殴られたマフウは勿論の事、巻き込まれた鬼まで絶命しているな此れ。……攻守速の全てが上昇した富嶽は中々どうして凄まじい物が
あるみたいだ。
さて、小型の鬼とのウォーミングアップも些か飽きたのでね……そろそろお相手願おうか?新たな大型鬼よ!!
富嶽、那木、来るぞ!!!
――ゴゴゴゴゴゴゴゴ……バガァァァァァァン!!!
『キシャァァァァァァァァァァ!!!』
「地面の中から!地中を掘り進んで来たのでございますか!?」
「如何やらそうみてぇだが……如何でも良いぜそんな事は!とっとと片付けるぜ!!」
そうだな、速攻で終わらせよう!
地面を掘り進んで来た事を考えると、此の鬼は地属性である可能性が高いから、風属性の嵐迅が有効だろうな。其れと、此れだけ雪深
い場所に居たという事は、案外炎が苦手なのかも知れないから、焔重ねを魔力で操作しておくとしよう。
「切り裂く!!」
「ぶっ叩く!!」
「天の破魔矢!!」
『グガァァァァァァアァァァァア!!!』
ただ、地面を掘り進んで来たとなると、あのヒレの様な腕の力は相当なモノがあるだろうね。
あの巨体ならば、腕を振り回すだけで、其れは近付く者を両断する斧となるか……ならば、先ずは其れから破壊するまでの事。
だが、一撃で斬り飛ばすのは少し難しいか?……ならば!
「富嶽、奴の両腕に『切り取り線』を入れるから、綺麗に切り取ってくれるか?」
「おう!任せな!!」
頼もしいな……其れじゃあ行くぞ!!せい!!
――シュン!!
此れで切り取り線は入れた、頼むぞ富嶽!!
「よっしゃぁぁぁぁぁぁあ!往生しやがれ!!」
――バキィィィィ!!!
よし、両の腕破壊完了だ!
強化魔法と渾身を重ね掛けし、更にコイツとの戦いが始まった時に使った『軍神招来』の効果で富嶽の攻撃力は限界まで上がっていた
からね?此れならば行けると思ったが、予想通りにやってくれたな。
『シャァァァァァァァァ!!!!』
「きゃあ!?」
「おわ!!ヤロウ、地面を滑って攻撃して来やがるだと!?……随分と面白れぇ攻撃して来やがるじゃねぇか!!」
「あの巨体での高速体当たりは、其れだけで人にとっては脅威になる物だからね。……だが、そんな攻撃は最初の一度しか通じない。」
Uターンして戻って来たが、其れは愚策だ!
――ひょい
「えぇ!?鬼の上に、乗っかってしまいました!?」
「だけじゃなくて、アイツ、鬼の動き操ってないか?」
少し難しいが、操っているよ富嶽。
可成り大きい上に厚みも相当に違うから簡単ではないが、途轍もなく巨大なスノーボードと思えば扱えない事もないからね?
だが、残念だったな鬼よ?私達を轢き殺す心算だったのだろうが、その目論見通りに行かなくて。それどころか、私に良いように乗られ
ているのだからな。
取り敢えず、此れでも喰らえ!!
――バガァァァァァァン!!!
「頭から岩に突っ込ませやがった……こう言う言い方も如何かと思うが、鬼かアイツは?」
「突っ込まされた方も、鬼にございます。
ですが、今の一撃ならば大型の鬼とて可成り堪えた筈……このまま一気に畳み掛けましょう。」
「あぁ、一気に行こう!!」
――ギュイィィィィィィン……
『ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!』
と、此処でタマハミか!
生体スノーボード攻撃は、思いのほか効き目があったようだ――だが、タマハミで斬り飛ばした両腕が再生したか。背ビレも大きくなって
いるし、攻撃力は高くなったようだ。
「ヤロウ、地面に潜りやがった!!」
「此れでは、手出しが出来ません。」
おまけに地面に潜ってしまったから、此れでは此方から攻撃する事は出来ない。
此方を攻撃する為に地上に現れた所を攻撃するしかないのだろうが、そんな事をしていたら、先に此方の方がバテてしまうからな……仕
方ない、消耗は大きいが強制的に地面から引き摺り出すとするか。
富嶽、那木、力の限りその場で飛べ!!思い切り飛ぶんだ!!
「梓様?」
「テメェ、行き成り何言ってやがる?」
「良いから言う通りにしてくれ。其れでアイツを地面から引き摺り出す事が出来るんだ。だから、頼む。」
「そう言う事でしたら、了解にございます!」
「しゃーねぇなぁ?しくじんなよ!」
任せろ!
よし、富嶽と那木がジャンプしたのを見計らって……此れでも喰らえ!!!
――ズゥン!!!
『ギャギャギャ!?』
「魔力を地面に送り込んで、強烈な地震を発生させたんだ。地中に居たお前には可成り効いただろう?」
と言うか、効果覿面だな?驚いて地面から出てきてしまったのだからね。
そして、もう2度と地面には潜らせない!!捉えろ、封縛!!
――ガキィィィィィン!!
此れで動きは封じた、那木、富嶽、今だ!最大の一撃を叩き込め!!
「参ります!一発必中にございます!!」
「隙だらけだぜぇ!!」
――ドゴォォォォォォォォン!!
渾身の鬼千切りが見事に炸裂したな。
如何に大型の鬼と言えど、其れを真面に喰らったら只では済まないだろう……私達の勝ちだ、新たな大型鬼『ツチカヅキ』よ。(トドメを刺
す直前に、物見から、『此の鬼の名称をツチカヅキとする』って言う伝令があった。)
――シュウゥゥン……パシュン!
『もっと良い世の中にせんとな!』
――ミタマ『坂本龍馬』を手に入れた。
そして、ミタマも回収できた――此れは、幕末の英雄と名高い坂本龍馬か。人気の高いヒーローのミタマを奪還する事が出来たか。
さて、目的は果たした。里に戻るとしよう。
「ったく、手こずらせやがって……って、オイ、コイツ未だ!!那木、後だ!!」
「!!」
ミタマは取り返したが未だ死んではいなかったのか!
いや、断末魔の前の悪足掻きだろうが、鋭利な岩を飛ばしてくるとは……那木!!
「梓様!!」
咄嗟に那木を突き飛ばして、射線上から外したは良いが、私の回避は無理か……ならば、障壁で防ぐだけの事。
あの小さな勇者の砲撃をも防ぎきった私の障壁ならば、岩礫程度で破られる事も無いからな!……って、馬鹿な、魔力が集中しない?
まさか、奴を地面から引き摺り出す為の地震を発生する為に、自分でも思った以上の魔力を使ったというのか!!
此れは……拙いな……!
――ドガァァァァァァァァァ!!!
「ガハッ……」
「梓様!!」
那木……無事でよかった………
――――――
Side:那木
「クソがぁ!!!」
――バキィ!!!
『ギャァァァァァァァァァァァ!!!』
鬼は、富嶽様がトドメを刺したようですが……しっかり、しっかりして下さい梓様!どうして、こんな!!
「クソッタレ!おい、ソイツは大丈夫か!!」
「心の臓は外れていますが、他の内臓を傷つけた可能性がございます……手術をすれば、大丈夫だとは思いますが。」
でも、此処で失敗してしまったら梓様は……いえ、今こそ前に進むとき!
失敗してでも、前に進めと教えてくれたのは貴女です。だから、もう少しだけ私に勇気をください!必ずや、貴女を救ってみせます!!
――――――
Side:梓
………此処は?私の家か?
確か私は、富嶽と那木と一緒に任務に行って、そして鬼を倒して……それで、鬼の悪足掻きから那木を庇って攻撃を受けたのだったな。
少なくとも生きているみたいだが……
「目が覚めたみてぇだな?」
「馬鹿……!心配したんだから……!!」
「よかった……!」
「この、大馬鹿者……!!」
「アンタには、ひやひやさせられるぜ……」
「今、隊長に逝かれては困る。」
皆……私は、あの後どうなったんだ?那木を庇ってから、一切の記憶が無いんだ。
「あの世行き一歩手前ってとこだぜ……テメェは確かに規格外のモノノフだが、あんまり無茶すんじゃねぇ。」
「死にかけたという事か……其れならば、アレからの記憶がないのも納得だな――悪かった、心配をかけてしまったな。」
「テメェを救ったのは那木だ。アイツが、テメェの傷を塞いでくれた。
礼を言ってきな。つっても、アイツも礼を言いてぇだろうが。」
「もう、動いて大丈夫なの?」
あぁ、大丈夫みたいだ。
元より頑丈さには自信があったがんだが、如何やら回復力に関しても私は人並み外れているらしい……今直ぐにでも鬼と戦えそうだ。
「コイツは頑丈に出来てる。何とかなんだろ。」
「そんな適当な……」(汗)
まぁ、実際何とかなっているからね。
取り敢えず、那木に礼を言ってくるよ。彼女が居なかったら、私は閻魔大王の前に参上していたのかも知れないのだからな。
で、家を出て来たんだが……本部の前に居たのか那木。
「梓様!お体の具合は……もう少しお休みください、重傷だったのでございますよ?」
「ありがとう。だが見ての通りすっかり全快だ、全く持って問題ないよ。」
「……お礼を言わねばならないのは私の方です。貴女に命を救っていただきました――何と感謝申し上げればよいか……」
仲間を助けるのに理由は要らないだろう?
其れに、私もお前に命を救って貰ったんだから、御相子だよ。
「……二度と、手術は出来ないと思っていました。
あの時……貴女の身体から溢れる血を見て、私は恐ろしさで息が止まりそうでした――只、貴女を死なせたくないと強く思ったのです。
其れからは、無我夢中で、あまりよく覚えていません……貴女を助けられてよかった……」
「那木……泣いているのか?」
「も、申し訳ありません。最近涙もろくていけません。
……アンタは、当代一の医者になりなさい……友との約束、まだ果たせるでしょうか?」
出来るさ。お前が、諦めない限りは必ずな。
「……古い誓約に従い進みます。未だ誓いは果たされてはいないのですから。
梓様、ありがとう……」
――キィィィン!!パシュン!!
!!なんだ此れは?
那木の身体から光が溢れて、其れが私の中に入り込んだ?――此れは、新たなミタマを宿したのか!?
「私のミタマが……此れは、分霊……?」
「分霊?」
「ミタマは、心から信頼できる者に、自らを分かち与える事があるそうです……貴女で良かった。
如何か持って居て下さい。其れは、私の心です。」
あぁ、有り難くもらっておくよ那木。お前の心、確かに受け取った――これからもよろしくな!!!
「はい!此方こそでございます!!」
如何やら死にかけた様だが、そのおかげで那木が一歩を踏み出す事が出来たのならば、其れは其れで悪い事ではないな。
もっと言うのならば、今回死にかけた事で、私の中の無限再生プログラムが起動したらしく、二度と同じ攻撃では致命傷を負う事は無くな
ったからね。
強化されたこの身をもって、此れからも鬼退治に励むとするか!
To Be Continued…
おまけ:本日の禊場
取り敢えず、サッパリしたいから禊に来たのだが……邪魔したかな桜花?
「いや、良い。一緒に禊をして行こうじゃないか。
時に、君は……その、大層豊かな物を持っているが、何か特別な事をしているのか?」
「何が、とは敢えて聞かないが、何も特別な事はしていないぞ?」
と言うか、この身体は夜天の魔導書の製作者が設定した身体だからね……本気で、一体何を考えていたのか理解に苦しむよマッタク。
だが、桜花とて綺麗な髪をしているじゃないか?
その艶のある黒髪、私は好きだぞ?
「そ、そうか?そう言って貰えると嬉しいよ。」
「まぁ、人は誰しも良い所を持っているという事だ。
他人の長所をうらやむよりも、自分の長所に誇りを持った方が良いだろう?」
「ふふ、確かに其の通りだな。」
そんな訳で、桜花と禊をした。あ~~~、久しぶりにサッパリしたな。
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