Side:アインス


将の導きで時を越えてるのだが……此れは何とも奇妙な感覚だな?
まるで空に掛かる大きな雲の中を突っ切っているような感じだ……長い雲のトンネルを通っていた感じだが、その先に遂に出口が来たみたいだ
な?道の先に光が見えたからね。



「お前は……!」

「ふ、久しいな九葉。」



そしてその先に居たのは十年前の九葉と、トキワノオロチ……こんな場面でも、将が九葉に挨拶をしたのは正しい。挨拶は大事だからな。
だが、其れは其れとして貴様を過去には行かせん……誰が如何足掻いた所で過去を変える事は出来ないからな――過去はもう無い、未来は
未だ無いとはよく言ったものだと思うよ。



「幾万の夜を越えて、時の彼方より来たらむ。
 私は終わりにして始まり。破壊者にして解放者。人に真の自由と平等を与えるモノなり。
 今こそ真なる救済の時。邪魔をする者は、等しく滅びるがいい!」



尤も、貴様には言うだけ無駄の様だけれどな。



「だね……言って分からない奴は殴って分からせるしかないよ。私も、口で分からない奴を何度も殴って分からせたもんさ。」

「……今思えば、闇の書だった頃に殴って分からせようとさせられていたな私も……」

その為に自分もダメージを受けるゼロ距離砲を叩き込むと言う事は中々出来る事ではないと思うが……改めて恐ろしい子だなあの子は。
だがまぁ、識?トキワノオロチ?……もう何方でも良いか。私達が追って来る事は流石に計算外だったんじゃないか?しかも、此れだけの戦力
でだ。
先程は時間軸がずれていたせいで攻撃が効かなかったが、今度は同じ時間に居るのでそうは行かない……一線級のモノノフが此れだけ集ま
っている上に、『鬼』をも超える破壊神と夜の王が揃っている。
私達を敵に回した時点で、既にお前は詰んでいたのさ……其れをその身で知るが良い!











討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務193
現在を守る為の過去の戦い』










そして、もう一つだけ教えてやろう識。
仮に過去をやり直しても、其れで果たしてお前の家族を救う事が出来るかどうかは分からんぞ?……『鬼』を使った戦争が起こらないようにした
所で、別の要因で家族を失う可能性は充分にあるからな。
取り敢えず此れは、挨拶代わりだ!!六爪流をその身で味わえ!!



――ガキィィィン!!



「私を追ってきたか、愚かなモノノフ達よ。何故分からぬ。この時間を滅ぼす事が唯一の道だと
 まあいい……革命の前の余興だ。さあ、その力を見せろ!世界を滅ぼした終末の『鬼』よ!」

「オヤッさんが鍛えてくれた刀が通らないとは、その鱗は中々頑丈なようだな?終末の『鬼』の名は伊達ではないようだ……此れは少しばかり
 解体するのに時間が掛かるかも知れん。」

「炎を纏わせた十束でも傷一つ付かんとは、呆れた頑丈さだ。」



私の先制攻撃を皮切りに、一斉に攻撃を開始したのだが、流石は終末の『鬼』と言うだけあって頑丈さはハンパではないな?大型の『鬼』をも一
撃で部位破壊する程の切れ味なんだがな私の刀は。
更に、将の炎の斬撃も弾かれ、時継と博士の弾丸も鱗を通すには至らないか……負ける事だけはないが、此れは少しばかり骨が折れそうだ。



「はぁぁ……でやぁぁぁぁ!!」



――バガァァァァァァン!!!



「ぐはぁ!?」



って、アーナスの一撃が効いている?一体何をしたんだアーナス?



「私の武器は、全ての形態で半妖の力を使った特殊技があるんだけど、ダガーとセンツインの特殊技は、相手の防御力を無視してダメージを与
 える事が出来るんだ。
 一撃で部位破壊とまでは行かなくとも、堅い『鬼』にも充分なダメージが与えられる訳さ。」

「其れは中々にチートだな。」

だが、此れは有効な手かも知れん。
鬼の目を使ってトキワノオロチを見たら、アーナスの特殊技がヒットした所は一撃で表層生命力がオレンジになったからな……防御力無視の一
撃と言うのは表層生命力をごっそりと持って行くみたいだな。

となれば、やる事は一つだな。

「アーナス、隙の少ないダガーの特殊技で連続攻撃をしてくれ。
 そして、皆は一斉にフラムをぶつけるんだ!!」

「了解だよアインスさん!」

「ソフィーが丹精込めて作ってくれたフラム、早速だが使わせて貰うぜ!!」



私の号令でアーナスはダガーでの特殊攻撃をトキワノオロチに連発し、そして他のメンバーはフラムをぶつけてトキワノオロチを大爆撃!!そし
て私もフラムを……

「其の力、貰うぞ!」

トキワノオロチに投げつけず、空中に投げて爆発させてその爆発のエネルギーを吸収して一時的に大幅なパワーアップだ。ドラゴンボールの悟
空が元気玉を吸収してパワーアップしたのと似た様な感じだな。



「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!」



私がパワーアップしたのは良いとして、全身の表層生命力をアーナスによってごそっと削られた所にフラムを大量に投げつけられたトキワノオロ
チは表層生命力がゼロになってマガツヒ状態になったか。
此れで私達の攻撃も届くようになった訳だ。



「この好機は逃さん!」



更に此処で、将がフラムを十束のカートリッジ装填機構にフラムを押し込んで炸裂させ、十束に紅蓮の炎を宿す……フラムをカートリッジ代わりに
して、カートリッジ以上の強化をしたと言うのか!
まさか、こんな方法を使うとは予想外だったよ。
そして、将はそのまま業炎の剣と化した十束でトキワノオロチの首を三本纏めて切り落とす!……実に見事な一撃だよ。



「良いぞシグナム。其れでこそ私の助手だ。」

「また腕を上げやがったなシグナム!何処まで強くなる気だ、チクショウめ!」

「見事な一撃です。私も遅れは取りません。」

「最高の一撃だ、シグナム!」

「やるじゃねぇかシグナム?テメェには驚かされっぱなしだな。」

「強いなシグナム。お前は何時も俺の想像を超える。」

「流石!ホントに頼りになるんだから、シグナム!」

「見事だ、カラクリ使い。」

「流石だ、シグナム。卿には敵の動きが見えているらしい。」

「其れが貴様の実力か、カラクリ使い。……見事だ。」

「やるじゃねぇか、シグナム。」

「やるな、シグナム!俺と肩を並べる奴はそうは居ないぞ。」

「さっすが!私も負けてられないわ!」

「君の強さも素晴らしいなシグナム?君程のモノノフが居れば、マホロバの里は安泰だろうな。」

「一撃で複数の部位破壊って、アインスさん以外では初めて見たよ?やっぱり貴女も強いねシグナムさん。」



皆口々に将を賞賛するか……姉として鼻が高いな此れは。
だが、妹にだけ良い格好はさせられないからな――私も姉の意地として尻尾と足を破壊しておくか。マガツヒ状態になった今なら、鱗の堅さも失
われているから、切り落とすのは造作も無い事だからね。



「どうした、トキワノオロチよ。これが貴様の力のすべてか!
 太古の文明を滅ぼした異形の力、ここで解き放ってみせろ!」

「ふ、其れは無理だと言うモノだぞ識。」

「なにぃ?」



カラクリ石の力でトキワノオロチと融合し、其の力を操った心算なのだろうが、その身体は貴様にとっては所詮借り物に過ぎん。
トキワノオロチの身体は、ソイツが数多の時を生き、そして作り上げて来たモノ……純粋な『鬼』にしか扱う事の出来ない、破壊の力と言うモノが
あるんだよ!!
覇ぁ!!



――バリィ!!



更に力を開放して身勝手の極意を発動……こうなった以上、もう私に貴様の攻撃は間違っても当たらんぞ?この状態では、頭で判断するよりも
先に身体が動くからな。
来いよ識、相手になってやる。借り物の身体で何処まで出来るかやってみるがいい。



「借り物?……違うな、私はトキワノオロチの制御に成功したのだ。私はこの力で時を超え、過去を破壊して家族を取り戻す!!」

「俺も真鶴も、幼くして親を喪ってるからお前の気持ちは分からんでもないが……最悪の『鬼』と融合した以上、お前は悪だからな――斬り捨て
 る。其れだけだ。」



神無は中々にバイオレンスだが、『鬼』と融合した以上、識は悪か……確かにな。
人の世に仇なす存在と融合した時点で、貴様は滅ぼすべき悪でしかないからな……徹底的に叩きのめすだけの事!

「直ぐ楽にしてやる!泣け!叫べ!もがけ、苦しめ!そして死ねぇぇぇ!!」

六爪流で滅多切りにした後に、首の一本を掴んで爆発させて破壊する!更に追撃にアーナスがヨルドを地面に突き刺して無数の棘を発生させ
る攻撃を行い、メテオボマーの回転ビームも炸裂させる。
勿論、トキワノオロチもやられているだけではなく、口から火を吐いたり巨体での体当たりをしてきたりして、此方も全く無傷ではないのだが、真
鶴の癒のタマフリと、アーナスの従魔のラウネーの回復技で即時に回復出来るのでまるで問題ないな。



「残りの首も、貰い受ける!!」



此処で将が鬼の手を発動して、トキワノオロチの首を引き千切る……絵面的には物凄いモノが有るな。……素手で鬼の部位を引き千切る私が
言っても説得力がないが。



「ありえぬ……なんだこの力は。貴様はただの実験体のはず……それが何故これほどの力を……!貴様は一体何者だ!」

「私はシグナム。マホロバの里を守るモノノフだ。其れ以上でも、其れ以下でもない!」

「貴様……もういい。過去への扉を開き、貴様らを時間流の彼方に放り出してくれる!
 さあやれ、トキワノオロチよ!
 ……? どうしたトキワノオロチよ?何故だ……何故私の命令を聞かぬ!
 石の制御が及んでいないのか……?馬鹿な……『鬼』の本能がカラクリの力を上回り始めたか……!」

「無駄だ、識。お前にはまだ分からないのか?
 『鬼』を制御することなど不可能だ。何故ならそれには自らの意志があるからだ。
 私達人がそうであるように、従属と屈服から強い力は生まれはしない!例え時の流れを変えようとも、強い意志を芽吹かせる事はできない!
 お前はそこで眺めていろ。己の意志でここに来た英雄達の戦いを!」

「おのれ……!」

「私達が憎いか、トキワノオロチよ
 お前達は何を考え、何のために生まれた?いつかその答えを教えてくれ。」



『鬼』が生まれた理由か……実は『鬼』は、人が道を誤った時に現れ、人を絶滅寸前まで追い込んでからやり直しをさせる為に生まれた――と言
うのは流石にないか。
何故『鬼』が生まれたのかは如何でも良いが、其れが人の世に仇なす存在であると言うのならば討つ。モノノフには其れで十分過ぎるさ。



「ま、こんな奴等が居る世界じゃ、安心してチンチロも出来やしねぇからな。」

「焔、モノノフに博打は御法度ですよ?」

「金を賭けてる訳じゃねぇんだからかてぇこと言うなよ紅月。賭けてんのは装備品だぜ?」

「余計に大問題です!」



……何だか、富嶽も似た様な事を言っていた気がするな。
まぁ、其れは其れとして、大分生命力を削ったから、そろそろ……



――ギュイィィィン……バガァァァァン!!



「フハハハハ!此れが神話に語られた大蛇の姿だ!」

「マジかよ、首が八個になりやがった!でもな……全部ぶっ壊せば済む話だ!」

「これがテメエの奥の手か?おもしれえ、相手んなってやるぜ!」

「首が増えた……?……ならすべて射抜くだけの事。」

「ハハハ! 来い!俺がお前に引導を渡してやる!」



来たかタマハミ!
破壊した首が全て再生し、その数は八本に……その姿は正にヤマタノオロチだな?――だが、私にはそのヤマタノオロチを倒したスサノオノミコ
トのミタマも宿っているのでな、その程度では相手にならん!
そしてタマハミになったと言う事はトキワノオロチも後がないと言う事……此処で一気に決めるぞ!アーナス!!



「了解!ヨルドの力……格の違いを教えてやろう。」



アーナスがナイトメアに変身!
此れで貴様はお終いだトキワノオロチ!

身勝手の極意を発動した私と、ナイトメアを開放したアーナスの攻撃は苛烈にして猛烈だが、桜花達の攻撃も連携が取れていてタマハミ状態に
なったトキワノオロチを略完封状態だ。
再生した首も、私が六爪流で切り落とせば、アーナスも鋭い爪で切り裂き、将が連結刃を巻き付けて絞り斬る……トキワノオロチが十全の状態
であったのならばこうは行かなかっただろうが、封印を解かれて間もない事と、識に操られていた事で本来の力を発揮出来なかったから、此処
まで楽に事が進んだのだろう。

「さて、そろそろ終わりにしようか!」

「貴様はもうお終いだ!」



私が六爪流で滅多切りにした後に、アーナスがトキワノオロチに連続で錐揉み回転の体当たりを喰らわせた後に無数のビームを放ち、タマハミ
で再生した首を全て、粉砕!玉砕!!大喝采!!!
夜の王の名は伊達ではないな。



「私は正すのだ、この堕落した世界を!私の家族を奪ったこの世の悪を!
 もうすぐ会いに行くぞ!クラネ!愛する娘よ!」



だが、此の攻撃を喰らってもまだ倒せないか……家族を奪った此の世の悪を正すと言う気持ちは分からなくもないが、お前はその行いがお前が
味わった悲しみを多くの人に味わわせる事になると言う事に気付いていないのか?
奪われたお前が今度は奪う側になると言うのは、絶対にあってはいけない事なのだぞ?……と言っても最早通じないだろうがな。
ならば滅するしかあるまい!チェーンバインド!!



――バキィィィン!!!



「此れで奴の動きは封じた!将、お前の最強の一撃でトキワノオロチにトドメをさせ!」

「言われるまでもない!行くぞ、十束!」



将は二つ目のフラムを装填すると、十束に更に巨大な炎を宿し、トキワノオロチに十束を突き刺すと、其処から逆袈裟に斬り上げると、十束を両
手で持って渾身の斬り下ろしを喰らわせてトキワノオロチを一刀両断!!
……と言うか、今のは『月華の剣士』の一作目の覚醒楓の潜在能力奥義じゃないか?……表層記憶は無くとも、深層記憶は覚えているって事
なのかもな。



「ぐおおおおおおお!
 体が朽ちる……私の……!おのれ……おのれえええええ!」



だが、此の一撃でトキワノオロチの生命力は尽きたみたいだな。
トキワノオロチの骸は、其のまま消えてしまったが……逆に言うと、此れは少しばかり拙い状況ではないだろうか博士?



「鬼門が閉じる……急ぐぞ。
 鬼の手に思念を込めろ。元の時代に戻りたいと。」

「私には鬼の手は無いんだが……其処はお前達の鬼の手に便乗させて貰うとしようか?」

思いの力を現実にするのが鬼の手の力ならば、私の思念を便乗させる事位は可能だろうからね――さぁ、戻ろうか?私達が生きる時代にな。








――――――








Side:九葉


シグナムが空の彼方に消えたかと思った次の瞬間に現れた巨大な『鬼』――そして、同じく現れた複数のモノノフ……其の中には、空に消えた
筈のシグナムも居た。
そして、そのモノノフ達は、空から現れた『鬼』を倒すと、その場から消えてしまった。だが……

「そうか……そう言う事か。」

ならば私は待とう。遠い未来でお前達と出会うのを。
そして、そのためにも先ずはこの戦いを生き延びねばだ……北の地は既に『鬼』の手に堕ちたか……生きている者も居る様だが、助ける為の人
員を割いていては、被害が大きくなってしまう故、北の地は斬り捨てるしかあるまい。
十を救う為に一を切り捨てる……最も忌み嫌う選択だが、『鬼』との戦いが此れから激化するのであれば、其れを出来るようにならねばならない
かも知れん……血塗られた外道の道を行く覚悟を決めるべきかも知れんな。











 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場