Side:アインス


九葉からの命令を受けて私とアーナスはマホロバの里周辺に出撃して、里周辺に現れた『鬼』を滅殺!抹殺!!瞬獄殺!!!この程度でマホ
ロバを攻め落とす事が出来ると考えるとは笑止千万!恥と知れい!!



「アインスさんが銀髪になったら誰も勝てないって。」

「お前がナイトメアになっても誰も勝てないと思うけどな。」

「大分ヨルドに血を吸わせたから変身できるよ?」

「OK、其れじゃやってくれ。」

「分かった……ヨルドの力、格の違いを思い知るが良い!」



はい、アーナスがナイトメア解放!――そして、同時に貴様等は此処でお終いだぞ『鬼』達よ……一匹残らず駆逐してやるだけだ。私とアーナス
が本気を出せば、貴様等程度はゴミクズでしかないからな!

そして其処からは私とアーナスの独壇場だ。
小型と中型は勿論、大型の『鬼』であっても相手ではない――流石にカゼキリが十匹纏めて掛かって来たのには周囲のモノノフが慌てていたけ
れど、私とナイトメアアーナスの敵ではなく、私の六爪流とナイトメアアーナスの爪による攻撃で纏めて細切れにしてやった……鎧袖一触とは此
此の事なのだろうな。――細切れにしたカゼキリは、後で久遠にカレーにして貰うとするか。『鬼』カレーと言うと、恐ろしく辛いカレーみたいだ。



「ウタカタの里からやって来たモノノフ……大型の『鬼』をもモノともしないとは何と言う強さだ……!六本の刀を一気に使うアインス殿と、その姿
 を変えるアーナス殿……これ程のモノノフが存在していたとは……!」

「だが、姿を変えたアーナス殿は、まるで『鬼』の様だ……同じ人間とは思えない……」



「アーナス、『鬼』みたいだと言われているぞ?」

「ナイトメアは其処まで『鬼』っぽくないと思うんだけど……寧ろ見た目だけならなデモンフォームの方が『鬼』じゃない?」

「まぁ、確かにそうだな。
 そう言えば、デモンフォームの時は必要最低限しか隠してないが……アレって何で隠しているんだ?あの黒いのは、獣の皮か何かか?」

「いやぁ、実はアレって体毛……つまり自前なんだよね。」

「マジか……」

つまりは事実上の……うん、此れ以上は考えないようにしておくか。
さて、将が仲間達と共にシンラゴウを討つまで里を守らねばだ……最悪の場合は私とアーナスが『乱』の領域に出張る事になるが、将が敵を討
ち漏らす事などあり得んか。
烈火の将・シグナムは、守護騎士たちを纏め上げるリーダーにして私の最高の妹として誕生したのだからね……大丈夫、将ならばやれるさ。












討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務190
シンラゴウ討伐戦~十年越しの決着~』










Side:シグナム


タマハミ状態になったシンラゴウは、四肢が復活し、更に腕には巨大な爪が生えてより攻撃力が高くなった印象だが、其れ以上に異様なのが、
背中に現れた巨大な棘と、その棘の先にある黒い球体……あの球体は瘴気の塊か?
もしも瘴気の塊だとしたら厄介な事極まりない……シンラゴウに近付くだけで活動可能時間が短くなってしまうと言う事だからな。



「ふむ……確かにアレは瘴気の塊のようだが、外に向かって瘴気を放出している様ではないな?寧ろ、内部――シンラゴウに向かって放出して
 いるように見える。
 ……恐らくだが、タマハミになったシンラゴウは、瘴気の塊を背負う事で己の力を増しているのかもしれん。」

「そんな事が出来るのかアイツは……!」

だが、そうであるのならばアレを破壊する事が出来ればシンラゴウは大幅に弱体化すると見て間違いは無かろうな――瘴気の塊から力を得て
居ると言うのならば其れを破壊してしまえば弱体化するのは道理だ。



『ウゴガァァァァァァァァァァァ!!』



とは言え、タマハミ状態になって狂暴さが完全開放されたシンラゴウの動きは先程までとは比べ物にならん……この巨体で身軽に飛び跳ねると
言う事までしてくれるからな……!
この巨体に踏み潰されたら間違いなく一撃でお陀仏だろう。

……ギリギリで踏み付け攻撃を回避したが、回避したシンラゴウの足は地面に40cmほどのめり込んでいたからな……この堅い地面を40cmも
抉るとは恐ろしいモノだ。
回避出来ていなかったらと思うとゾッとするが、踏み付け攻撃は思い切り地面を踏み抜くだけに次の行動までに隙が出来る……僅かとは言えそ
れは絶対的な隙故に、其れを見逃しはせん!

「はぁぁぁ!!」

連結刃状態の十束で足を切りつけて切り飛ばす……矢張り炎を纏わせた十束はその威力も段違いである上に、炎を纏っているにも関わらず、
鬼の耐性属性を無視出来るらしい。見た目は炎属性だが、その実は無属性と言う事なのかも知れんな。
そして、足を破壊されて転倒したシンラゴウに、私は陣風を、雷蔵は百裂拳を繰り出し、時継と博士は霊脈を攻撃する……間違いなくシンラゴウ
の生命力は削り取っているだろう。



『ウ……ガァァァァァァァ!!!』

「がっ!?」

「「「シグナム!!」」」



だが此処で、起き上がったシンラゴウから強烈な一撃を喰らって吹き飛ばされてしまった……クソ、全身を大分強く打ったな?……否、其れだけ
ではなく、あの爪で腹も貫かれたか……普通ならば致命傷だが、私にはソフィーに渡された回復薬がある。
此れを飲めば――



――シュゥゥゥン……



致命傷もあっと言う間に完治か……錬金術様様だ。――まぁ、流石に破損した防具を元に戻すまでの力はないみたいだけどな。尤も、防具が壊
れても私が戦えるのならば問題はない!
悪いが、未だ終わりではないぞシンラゴウ!!



「シグナム、生きてやがったか!ったく、死んじまったかと思ったじゃねぇかよ!」

「こう見えてしぶとくてな……私が死んでしまったかと思って、少しばかり動揺したか勇者殿?……だとしたら悲しいな。私はそんなに簡単に死ぬ
 と思われていたと言うのか?」

「んな訳ねぇだろ!オメェと博士は殺したって死なねぇよ!」

「……確かにコイツ等は殺しても死にそうにゃねぇな。」

「殺しても死なない……矛盾の極みだな。」



本当にな。
それにしても、今の一撃は相当に効いたぞシンラゴウ?……だが、やられっぱなしと言うのは好きではないのでな、此れはさっきのお返しだ!



――ギュン!!



鬼の手を使ってシンラゴウを引き倒し、其のまま鬼の手で自分を引き寄せてシンラゴウの真上に飛び上がり、そして鬼の手を巨大な拳にしてシン
ラゴウの背中の突起を瘴気の塊ごと粉砕してやった。
力の源になっていた瘴気の塊を失えば、もう先程までの様な苛烈な攻撃は出来まい!



「でかしたぜシグナム!この機を逃すかよ!行くぜ……勇者の、一撃だ!!」



更に追撃として時継が鬼の手を巨大な剣に変化させてシンラゴウの足を完全破壊だ……内部生命力諸共消し飛ばす完全破壊で足を失ったら、
もう立つ事は出来まい。
未だ片方の足が残っているとは言え、片足で立って戦うのは困難極まりないからな。



『グガァ……ググ……!!』



そして思った通り、シンラゴウはもう立って戦う事は出来ず、這って移動しながら戦うしかないらしい……だが、その状態での攻撃などと言うのは
腕での叩きつけか薙ぎ払いの二択。
しかも己の身体を支える為に片方の腕は地面に肘をつかねばならないから攻撃も読みやすい……敢えて警戒するとすれば、全身のバネを使っ
て飛び上がってからの押し潰しだが、それも予備動作が大きい故、喰らう事は先ずないか。
ゴウエンマをも上回る指揮官級の『鬼』もこうなっては形無しだな……そろそろ終わりにするか!



「そうだな、コイツで終わりにしようぜ!コイツを倒せば一件落着だからな!」

「勇者に倒して貰えるんだ、有難く思いな。」

「オイオイ、私は勇者ではないぞ?だが、お前との戦いは良い経験になった。指揮官級の『鬼』の行動……今後の研究に役立たさせて貰うぞ。」



雷蔵、時継、博士が鬼千切りを発動して、残った足と両腕を消し飛ばす!
トドメは私が……と、そう言えばフラムが未だあと一つ残っていたな?此れを使えばトドメになるだろうが、だからと言って其れで終わりと言うの
は何だか味気ない気がする。

む?此のフラムの大きさと形、ソフィーが十束に新たに追加してくれた『カートリッジシステム』で使うカートリッジとやらと同じじゃないか?……此
れは試してみる価値があるかも知れん。
フラムを十束に装填して、そして炸裂させる!!


――ドガァァァァァァン!!


瞬間、十束から凄まじい爆音が発生し、同時に刀身に此れまでとは比べ物にならない程の激しい炎が宿る……まさか、こんな事になるとは思わ
なかったが、此れは嬉しい誤算だ!

「十年前の横浜での戦いの決着、此処でつけさせて貰う!」

シンラゴウに肉薄して肘打ちを叩き込み、其処から逆袈裟に切り上げ……そして十束の炎を極限まで巨大化させて刀身を三倍以上に巨大化さ
せた後に、両手で振り下ろして一刀両断!!
流石のシンラゴウも、身体を真っ二つに両断されたら生きている事は出来なかったらしく、其のまま骸になったか。



――キィィィン……シュン!

『おはんが夢、おいが支える。』

――ミタマ『西郷隆盛』を獲得




そしてミタマも手に入れたか……此れはまた、中々の大物のミタマだな。



「守ったぜ西歌……マホロバをよ!」

「はっはっはっ!伊達に禁軍指揮官はやってねぇのさ!」

「……よくやったな、シグナム。」

「私だけではどうにもならなかったよ博士……近衛、サムライ、カラクリ部隊と禁軍、そして九葉と共にマホロバに来た百鬼隊をはじめとしたモノノ
 フ達の力があったからこそこの危機を乗り越える事が出来たんだ。」

正に『人の力』がこの危機的状況を退けたと言う訳だ。……私を単体で『乱』の領域に向かわせ、行く先々で仲間と共に道を切り拓いて進むと言
う作戦を考えた九葉も、其れが一番いい結果を生むと考えていたのかも知れないな。
兎に角、シンラゴウは倒したのだからマホロバの危機は去った……里に戻るか。



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「良く戻ったのだ、シグナム!」

「おかえり、シグナム!」

「よくやったな、カラクリ使い。」

「『鬼』の群れは雲散霧消した。」

「……俺達の勝ちだ。」

「正確には『鬼』の群れは私が纏めて吹き飛ばしたのだがな……乗りと勢いで身勝手に20倍界王拳を重ね掛けしてファイナルかめはめ波を放っ
 てみたんだが、よもやあれで『鬼』の群れが全滅するとは思わなかった。
 ファイナルかめはめ波でアレなのだから、100倍ビックバンかめはめ波だと如何なっていたのか少し恐ろしく感じるな。」

「其れを使ったら間違いなくマホロバ周辺の地形が変わってると思うよアインスさん。」



里に戻った私達を迎えてくれたのは主かぐやと仲間達……アインスが何やら恐ろしい事を言っている気がするが、此れは聞かなかった事にしよ
う、そうしよう。……と言うか、私の所には向かわせずとも里周辺には出撃させたんだな九葉よ。
さて……主かぐや、騎士シグナム以下四名、全員帰還しました。約束は、守りましたよ。



「うむ……良く戻って来た。良く戻って来てくれたなシグナム!ずっと心配していたのだ……もしもお主が帰ってこなかったらと思うとな……本当
 に戻って来てくれてよかった。」

「私は貴女の騎士です。そして騎士はそう簡単には死にません……貴女が、私を信じて居てくれる限りは絶対に。」

「シグナム……!!」



感極まったのか、主かぐやが抱き付いて来たので私も其れを受け止めてやった……八雲が物凄い顔で私を睨んでいるが、主かぐやの方から抱
き付いて来たのだから仕方あるまい?……って、血の涙が流れてるぞお前。



「……貴様、幼女趣味か?」

「違うわ馬鹿者!」



刀也、お前其れは……とっても的確な突っ込みだと言っておこう。
主かぐやはこの里の神垣ノ巫女――故に守らねばならない存在なのは間違いないが、八雲の場合は過保護を通り越している気がするからな。
其れはまるでシスコンの兄が妹を守るが如し……兄妹ならばシスコンで済ませられる事も、そうじゃなければロリコン疑惑に早変わりか――主
かぐやの為にも、八雲は少し主かぐやから遠ざけた方が良いかも知れんな。

まぁ其れは其れとして、周りでは口々に今回の事に関する感想が上がり、其の中には『結果論』なモノもあったので、雷蔵が『ったく、調子のいい
連中だぜ』と言っていたが、其れも仕方ないだろうよ、私達は勝ったのだから。今はタダ、喜ぶのも有りだろう。



「あぁ、生きている事を。」

「うっし、此れで暫くサボれるな。」



真鶴が良い事を言ってくれたが、堂々とサボるとか言うな焔……だがまぁ、此れだけの事があった後だ。少しばかりサボっても良いかも知れん。



「サボりついでにちっと付き合えよ。チンチロってのがあんだけどよ……」

「こら焔!貴方は此れから私と哨戒ですよ!」

「はぁ?何で俺ばっかり……」

「止めとけ。また半殺しにされても知らねぇぞ。」

「……お願い出来ますね?」

「…………」

「あらら……可哀想に。」

「……何時もの威勢は何処に行った?」

「うっせー!うっせー!うっせーわ!貴方が思うより健康です!!」

「焔、何それ?」

「……アインスに教えて貰ったんだよ。」




「ヤレヤレ、五月蠅くてかなわんな。」



焔の発言を機に、本部は騒がしくなってしまったが此処で九葉が登場か。――九葉、シンラゴウは倒したし、マホロバに迫っていた大量の『鬼』
の群れもアインスとアーナスが出張ったとは言え退ける事が出来た。
オオマガドキ以来となる未曾有の危機、乗り越えて見せたぞ。



「うむ……また一つ守れたな。」

「一つだが、其れは大きな成果さ。」

一つずつ、しかし確実に守って行けば、それがやがて人の世を『鬼』から取り戻す事に繋がるのだからな……私達が生きている内には達成出来
無い事かもしれないが、その意志が途切れずに続いて行けばどれだけの時が掛かろうとも必ず人の世を『鬼』から取り戻す事は出来る。私はそ
う信じている。



「アーナスが修業してナイトメアへの変身が自由に出来るようになった上で、私とアーナスが出張れば『鬼』を絶滅させるのは楽勝だと思う件に
 ついて。」

「其れに関してはノーコメントだ。」

アインスだけでも充分に強いが、変身したアーナスもまたアインスに匹敵する強さだからな……お前とアーナスが居れば、『鬼』等敵ではなかろ
うよ。



「……其れは如何かな?」

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」



だが、其処に割って入って来たこの声は……識!!
何故此処に……其れ以前にどうやって抜け出した?……シンラゴウを倒して一件落着と思って居たが、如何やらそうはいかないらしいが、最後
の障害が貴様だと言うのならば、私は容赦なく斬り捨てるぞ?

此の世界を人の世に取り戻すためならば、『父親殺し』の汚名を被る覚悟くらいは出来ているからな――作るだけ作っておいて、私を捨てたと言
うお前を父親と言って良いのかは甚だ疑問ではあるけれどね。











 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場