Side:シグナム


「さて、シグナム準備は良いか?」

「あぁ、行こうか。」

「ならば、此れより作戦を開始する。
 シンラゴウは決して自分からは前には出ない。後方に構えて群れに指示を出す。横浜で奴が退いたのは、奴自身が群れの頭だったからだ。」

「群れの頭……だとすれば、シンラゴウさえ倒してしまえば群れは止まる、そう言う事か?」

「其の通りだシグナム。相変わらず聡いな。」



此れ位の事ならば、余程の馬鹿でない限りは予想が付くさ……だが、本来前に出ない筈のシンラゴウがマホロバから視認出来る場所に現れた
と言うのは、己自身が前線に出なくとも群れに襲わせる場所を自ら確かめに来たと言う事か?
だとしたら、中々に優秀な指揮官と言えるだろう――指揮官が敵を知らずに戦をする事は出来んからな。

「其れで、奴は今どこに?」

「今は『乱』の領域に陣取っている。
 此れより其処に決戦部隊を送り込む!無論、行くのはお前だシグナム!敵の群れの中を突き進み、奴の居場所まで辿り着け!
 良いか、可能な限り力を温存して進め!仲間達に力を使わせろ!そして、シンラゴウを討て!」

「了解だ。」

『乱』の領域までは各部隊の面々の力を借りながら突き進み、『乱』の領域に辿り着いたら今度はシンラゴウの捜索と討伐か……中々骨の折れ
る任務だが、マホロバを守り抜く為にも必ずやり遂げなくてはなるまい。
さて、其れでは行くか。



「シグナム!」

「主かぐや……?何故このような所に……此処は危険です、岩屋戸の中に戻られた方が……」

「其れは分かっておるが……如何してもじっとしていられなかったのだ。
 ……今回の戦いは此れまでの戦いとは訳が違うと言うのは私でも分かる――だからこそ心配なのだ!不安なのだ!この戦いが終わった後、
 お主が戻ってこないのではないかと!」

「主かぐや……大丈夫です、私は必ずや敵を打ち倒して戻って来ます。
 私は貴女の騎士です。騎士は主をお守りする事が使命故、その使命を果たすためにも簡単に死なないモノなのです……信じて下さい、必ず私
 は生きて貴女の許に戻って来ます。
 必ず生きて戻る事を、此の剣に誓いましょう。」

「必ずだ、必ずだぞ!マダマダ聞きたい話もあるのだからな!」

「御意に。」

ふ、シンラゴウよ……悪いが貴様には主かぐやへの新たな話のネタになって貰うぞ?――そして、指揮官として後方で指示を出してるだけで潰
せるほどマホロバは柔ではないからな。












討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務189
マホロバ防衛戦~前線を突っ走れ~』










主かぐやと別れ、今度こそ出撃しようとしたら今度はソフィーに呼び止められ、『良かったら使って下さい!』と小型の手投げ弾の様な物と袋に入
ッタ丸薬を渡されたのだが……何でも此れは、アインスの協力を得て作った『新型のフラム』と『万能の回復薬』らしい――アインスが一緒に作っ
たと言う時点で、トンデモない物な気がしてならないのは私だけか?
反則級の強さのモノノフは最後の切り札故に前線に出る事が出来ないが、その代わりに反則級の逸品を作り出したとか、そう言う事なのだろう
か……まぁ、タマフリを温存する必要がある故、新型フラムは有り難く使わせて貰うがな。

さて、里を出て直ぐに現れたのはヒダル……その討伐を行っているのは相馬と初穂か。



「さぁ、行くぞ!『鬼』は皆殺しだ!」

「負けるもんですか!」



赤い結界が張られている以上、ヒダルを無視して進む事は出来んが、恐らく道中に出くわす中型以上の『鬼』との戦闘は無視出来ない――だか
らこそ、九葉もあの様な事を言ったのだろうな。
だが、中型程度に時間はかけてられんのでな、一気に決めるぞ!!

「捕った!!」

十束を連結刃状態にしてヒダルに巻き付け、其処に炎を宿して丸焼きにしてやる――此れだけでも充分だろうが、其処から強引に連結刃を引き
絞る事でヒダルの身体を両断だ!
如何に生命力が残っていようとも、バラバラにされたら流石に手も足も出まい。



「相変わらず見事な強さだシグナム……コイツ以外は雑魚に過ぎん。お前は先に進め。
 此の俺が露払いと言うのは少しばかり不満だが、今回は主役を譲ってやるから精々楽しんで来い――くれぐれもアインス達が出張る事態にだ
 けはなるなよ?」

「勿論、其れは心得ている。」

「シグナム、必ずシンラゴウを倒すのよ!」

「帰ったら飲み明かすぞ!」



其れはまた……もう一つ、生きて帰る理由が出来たな。
其処からクロガネ鉱山跡を通って、『乱』の領域に……クロガネ鉱山跡には大した『鬼』は居なかったが、里周辺の他の場所には中型や大型が
居るのかも知れん。
翡翠と琥珀、梓も其方に出向いているのかもしれん……何とか無事で居て欲しいモノだが、私は私の役目を果たさねばだ。
『乱』の領域で私を待っていたのは八雲と刀也と真鶴――九葉の奴、完全にシンラゴウ討伐の為に戦力を分けたな?マホロバの防衛には最低
限の戦力を継ぎ込み、シンラゴウ討伐の為に主戦力を投入した布陣だからな此れは。
だが、此れならば私は力を温存してシンラゴウまで辿り着く事が出来るやもしれん。



「卿を送り出す為に戦おう。私達の命を賭して……!」

「私が共に行ってやろう!」

「悪を斬る。只それだけだ。」



此れまでならば不協和音になっていたであろう布陣だが、里の危機を乗り越え、互いに協力する事を覚えた今、サムライと近衛の長と、サムライ
の副長が一緒だと言うのは頼もしい事この上ない。
道中に現れたマカミも、難なく撃破出来たからな。



「行け、カラクリ使い!」

「必ず勝って戻って来い!」

「卿ならば出来る、そう信じているぞ。」



ならばその期待には応えるのみだ。
此処で真鶴達と別れ、今度はグウェンと紅月と桜花と合流――した途端に、今度はムクロマネキと遭遇か……良いだろう、シンラゴウ戦の前の
準備運動には持って来いだ!



「行くぞ、一気呵成に攻め立てろ!」

「行こう、マホロバを守る為に!」

「貴女と一緒なら、何も恐れはしません。」

「ならば、一気に決めるか。」

堅い外殻が厄介なムクロマネキだが、其れも新型のフラムをぶつけてやれば一撃で木っ端微塵……だけでなく、自慢の巨大なハサミも吹き飛
んだが。恐ろしい威力だな此れは。
だが、最大の鎧と武器を失ったムクロマネキは私達の敵ではなく、トドメに四人一緒に鬼の手を発動して、巨大な拳で殴りつけてやったらアッサ
リと絶命したか……鬼の手の力、矢張り凄いな。



「よし、此処は任せて行ってくれ!」

「大丈夫、貴女なら勝てます。」

「行けシグナム。君ならばきっと出来るさ。」

「あぁ、此処は任せる。」

紅月達ならば、余程の『鬼』が現れない限りは大丈夫だろうからな。


そして次に待っていたのは、椿、焔、神無だったのだが、その場に現れたダラシとカバネヒキは行き成りタマハミ状態だった……他のモノノフに
追い詰められながらも、何とか生き延びたと言う所か。



「やるわよ、皆!タマハミがなんぼのもんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「ぼちぼち行くか!」

「俺の命、お前に預けたぞ!」



相変わらずだが、しかしこの空気に落ち着きを感じている私が居るのもまた事実……如何やら私は、自分でも思って居る以上にカラクリ部隊の
空気に馴染んでいたようだ。
それだけに中型二匹も相手ではない――もとより、タマハミ状態と言う事は『鬼』の方も後がない背水の陣と言う事だからな。
なので新型フラムを使う事もなく略苦戦せずに二匹を葬ったのだが……


――キィィン……シュゥン!

『会津に根付くは守護の魂!』

――ミタマ『松平客保』を獲得


此処で新たなミタマを得るとは予想外だったな。



「行け、シグナム!此処は俺達に任せろ!」

「気ぃ付けてけよ!」

「貴女なら……信じてるわよ、シグナム!」



あぁ、信じてくれていいぞ椿……任せておけ、必ずやシンラゴウは打ち倒してやる!!



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・・・



その後、時継、博士、雷蔵と合流して辿り着いたのは五稜郭……何とも言えない独特の雰囲気があるが、それだけに分かるぞ此れは。記憶は
無くとも、五感と直感が教えてくれている、奴は此処に居るとな!!



――ゴゴゴゴゴゴ……



『ウガァァァァァァァァァア!!』



五稜郭に瘴気の穴が現れ、そして其処から姿を現したのはシンラゴウ!……マッタク持って懐かしいな?お前が覚えているか如何か知らんが、
十年振りの再会だ。――尤も、再会を喜ぶ状況ではないがな。



「出やがったな!行くぜ、お前等!!
 此処は西歌の里だ!『鬼』に手出しはさせねぇ!」

「俺のセリフ取るんじゃねぇよ!マホロバは……俺が守る!」

「全力で行くぞシグナム。コイツさえ倒せば『鬼』の群れは止まる。
 確かお前は、横浜でコイツと戦ったんだったな?十年越しの決着だ。お前自身の手で横浜防衛線を終わらせろ!」



言われずともその心算だよ博士。シンラゴウは、私が此処で倒す!!
十年前の横浜での一件もあるが、私のモノノフとしての本能がお前を倒せと告げているし、此れが終わったら相馬と酒を酌み交わす約束もして
いるだけでなく、何よりも主かぐやに必ず生きて帰ると約束したのでな!!



『グガァァァァァァァァァ!!!』

「オォォォォォォォ!!」



――ガキィィィン!!



先ずは挨拶代わりに、シンラゴウが放って来た拳に炎を纏わせた十束で対応する――普通ならば力負けしてしまうが、渾身と軍神招来を使って
己の力を底上げすれば打ち負けない事は出来る。
そして其れだけではなく、十束に纏わせた炎の出力を上げてシンラゴウの拳を弾く……と言うよりもシンラゴウが拳を引っ込めたか?地獄に住む
『鬼』であっても炎に怯むとは驚きだ。地獄の業火で慣れていると思って居た。

だが、怯んだのも束の間、シンラゴウはその巨体からは想像出来ない俊敏な動きで攻撃して来たか……巨体で力が強い奴は大概動きが愚鈍
だと相場が決まっているが、コイツに限ってはそうではないようだな?
同じ指揮官級の『鬼』であるゴウエンマですら、タマハミ前はお世辞にも動きが速いとは言えないからな。――此れは、十年前あのまま戦ってい
ても不利になったのは私の方だったかも知れん。

しかしそれはあくまでも十年前の話……今ならばお前には負けん!頼もしい仲間と、そしてこの鬼の手があるからな!



「……此れが鬼の手の力か。理屈はさっぱり分からねぇが、使えるな。」



雷蔵も鬼の手を使い熟しているようだな?
初見の装備を此処まで見事に使い熟すとは、時継が認めた奴だと言うのも頷ける……ふ、此れは私も負けてはいられん!
シンラゴウよ、先ずはその足を貰うぞ!!



――ズバァァァァ!!



「一撃で足を……やるじゃねぇかシグナム。此れだけの使い手は滅多に拝めねぇ。……感謝するぜ、オメェがマホロバに居てくれた事に。」

「其れは最大級の賛辞だな。」

足を切り落とされた事でシンラゴウはマガツヒ状態になったが、此れは内部生命力を削り取る好機でもあるから一気に猛攻を掛けるぞ!……今
更だが、此の面子だと私と雷蔵が一番危険なのではないだろうか?
私も雷蔵も近接型だからな……博士と時継は銃だからシンラゴウの攻撃の射程外から攻撃すれば良い話だからな?――九葉、如何してシンラ
ゴウに挑む最終決戦部隊を此の面子にした?
如何考えても銃二人と言うのは良い部隊構成とは思えないんだが……いや、逆に確実にシンラゴウを討つためか?この構成ならば、シンラゴウ
は私と雷蔵に集中して時継と博士への対応は疎かになるし、時継と博士は遠距離の死角から確実にシンラゴウに攻撃を加える事が出来るから
な?……一見すると外れの部隊構成だが、九葉は確りと考えていたと言う事か。
そして、其れは如何やら大正解だったみたいだな?
私と雷蔵が主となって攻撃し、シンラゴウが私達に攻撃しようとしたらその瞬間に時継と博士の射撃が放たれて、シンラゴウの意識を私達から外
した隙に更に私と雷蔵が攻撃を加える……成程、この戦い方ならば指揮官級の『鬼』でも完封できるかもしれんな。

更に――

「此れでも、喰らえ!!」

ソフィーから渡された新型のフラムを目一杯投げつけてやる……フラムの破壊力は錬金術の成果に左右されるとの事だったが、アインスが協力
したのならば、絶対にトンデモないモノになってる筈だ。



――ドガァァァァァァァァァァァン!!!



「シグナム……何だ今のは?」

「ソフィーから貰ったフラム……爆弾だ。」

「奴さんの手足、全部吹っ飛んじまったぜ?鬼祓いする事もなくな。」

「……汚い花火になったようだな。」

その予感は的中し、シンラゴウの四肢は吹き飛んでしまったか……博士の鬼の手と、ソフィーとアインスの合作であるこの新型フラムを大量生産
出来れば、『鬼』との戦いは可成り有利になるのは間違い無いだろう。
鬼の手を作るにはカラクリ石が必要だが、そのカラクリ石もソフィーに錬金術で作って貰えば何とかなりそうだし。



『ウ……ガァァァァァァァァァァァ!!』



と、四肢を吹き飛ばされ、更に爆発で内部生命力を大きく削られたであろうシンラゴウは此処でタマハミ状態になったか……タマハミ状態になっ
た事で、吹き飛ばした四肢が復活し、特に腕にはタマハミ前には無かった巨大な爪が追加されて見るからに攻撃力は上がっている様だ。
本番は此処から……残るフラムは後一発――此れを何処で使うかが重要になってくるかも知れないな。









――――――








Side:アインス


さて、状況は如何だ九葉?



「お前達か……そうだな、可もなく不可もなくと言った所だ。
 里の周辺は今の所持ち堪えている――後はシグナムがシンラゴウを討てるかどうかだが、私の見立てではそう遠くなく『鬼』の軍勢は退く筈。
 シグナムが討ち漏らしをするとは考えられんのでな。」

「将ならば大丈夫だろうな。」

だが、万が一の事も考えて、私とアーナスも出撃するぞ九葉?
可もなく不可もなくと言っていたが、マホロバを守り通す事が一番大切だからな――取り敢えず、里周辺に集まった『鬼』は手当たり次第に殲滅
する。問題は無いだろう?



「そうだな……今の所は可もなく不可もなくと言ったところだが、状況は此方に有利であるに越した事は無い。
 良いだろう。アインス、アーナス、お前達にも出撃を命じる!
 シグナムがシンラゴウを打ち倒し、『鬼』の軍勢が退くまで里周辺の『鬼』を殲滅しろ。一匹たりとてマホロバに侵入させるな!!」

「任せてよ九葉さん。行こうか、アインスさん!」

「あぁ、行くぞアーナス。」

シンラゴウは将に任せるが、里周辺に現れた『鬼』は私が倒す……何よりも、出撃出来ない事に少しばかりイライラしていたのでね、悪いがイライ
ラ解消の為に八つ当たりさせて貰うぞ!!












 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場