Side:梓


「…ずさ……梓!起きろ、もう良い時間だぞ!!」



この声は……桜花か?
あふ……何なんだ一体?もう朝になったのか?もう少しだけ寝ていたいんだが…流石の私も、昨日は連続出撃だったから疲れてるんだ。



「其れは分からんでもないが、もう昼間だ!いい加減に起きろ!目が腐ってしまうぞ?」

「此の程度で腐るなら、もう腐ってる。」

「……いや、まだ大丈夫みたいだから、起きよう。お頭から招集もかかっているからな。」



大和から?……其れは、流石に起きない訳には行かないか。
よし、目が覚めた!!それじゃあ、本部に行くとするか桜花!!



「君は一体誰に話しかけているんだ?私はこっちだぞ?と言うか、其れは箪笥だろう?」

「おや?」

う~~ん……まだ少し寝ぼけているみたいだ……此れは、任務にでも出て強制的に目を覚ました方が良いのかも知れないな……鬼から
一発喰らえば目が覚めるかも知れないしね。



「そんなのは多分君だけだぞ梓……(汗)」

「かも知れないけどね。」

取り敢えず、本部に行くか。














討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務18
『ミタマを奪還せよ!英雄を解き放て!』











という訳で本部。みんな集まって居るみたいだね。



「皆、留守の間よく里を守ってくれた。橘花は快方に向かっている……何れ全快するだろう。」



橘花は快方に向かってるか……其れは良かった。
矢張り、昨日は病み上がりで多少無理をしたのだろうからね……今は少しでも安静にして、全快になるまでゆっくり休んで欲しいモノだよ。
桜花も那木に礼を言っているしね。


「さて、本題だ。霊山で開かれた御所会議に出て来た。
 各地で『鬼』が活発化し、組織行動を取っている事が報告された――矢張り、何処かに『鬼』の指揮官が出現してると、俺は見て居る。」

「『鬼』に指揮官なんているの?」

「8年前、俺は其れと思しき『鬼』を討った事がある。」



大和は鬼の指揮官とやり合っていたのか……ならば、鬼の指揮官と言う話も、信憑性が出て来る。つまりは存在しているのだろうね。



「あの時、俺達は圧倒的な『鬼』の力に対抗できず後退を続けていた。だが、その『鬼』を討って以降、急速に攻勢が衰えた。
 代わりに片目を持っていかれたがな……。
 今回も、指揮官を討てば状況を好転できると俺は考えている。」

「其れはそうかも知れないが……どうやって見つけるんだ大和?」

「橘花の千里眼では、正確ない場所までは分からないと聞いていますが……」

「御所会議では、大した策も出なくてな……」

「オイオイ……なら、如何すんだ?」

「逸るな、方法はある。古い友人に助言を貰ってな――ミタマに残った『鬼』の残留思念を探る。」



ミタマの?


「あぁ、ミタマは『鬼』に取り込まれ、一時その体内で『鬼』と同化している――故に、ミタマの中には『鬼』の思念が残されている。
 指揮官に近い『鬼』からミタマを奪還し、其処に残った思念を橘花の千里眼で追う。」



そんな事が可能なのか?俄かには信じがたいのだが……



「此れまでは出来なかった――だが、梓。此処にはお前が居る。」

「私が?」

「お前だけが、数多のミタマをその身に宿すことが出来る。
 お前がミタマを宿し、橘花が其処に残った思念を追う。其れが出来れば、敵の計画の内奥にまで迫る事が出来る筈だ。
 その為に、少しでも多くのミタマを集めろ――其れは、お前にしか出来ない事だ。」



私にしか出来ない事か……ならば分かった。出来るだけ多くのミタマを奪還してみよう。



「良い返事だ。
 では、此れよりミタマの奪還部隊を編成する。梓、お前が隊長だ。手隙の者を好きに使え。」

「た、隊長!?いいなぁ……」

「テメェがなるよか1000倍マシだ。ごちゃごちゃ言うんじゃねぇ。」

「ムカ!まぁ、確かに梓なら安心だけど……」

「私も、しばらくは君の矛となろう梓。」

「では、私が盾に。」

「自分は影。必要とあらば、付き従おう。」

「よろしくな、隊長。」



オイオイ……着任してワンシーズンも経ってないって言うのに、私が隊長か?……まぁ、数多のミタマを宿せる特異体質の事を考えれば、
ミタマ奪還部隊の隊長と言うのも分からなくはないが……。
だが、こうして任命された以上は、役目を果たすだけだ。力を借りるぞ皆。


「「「「「「おーーーーー!!!」」」」」」

「よし、話は以上だ。
 『鬼』に囚われた英雄達を取り戻す――各員、任務に精励しろ。」



了解だ!
が、そう言って来たという事は、大和はもう奪還作戦の為の準備を進めていた筈だ。
となれば、早速任務だが……木綿、新たな御役目は来ているかな?



「梓さん!ミタマの奪還作戦が始まりましたね!物見の皆さんが、各領域で『鬼』の探索に当たっています。
 ミタマを持って居そうな、強力な『鬼』の発見報告が相次いでいます。
 ちょうど『乱』の領域での任務が出てます!動乱の時代、幕末の遺構が沢山出現している領域です。鳥羽伏見や五稜郭など、名立たる
 戦いの痕跡が見られるそうです。
 あーむすとろんぐ砲という、巨大な大砲もあると聞きます。――鬼の指揮官を倒す為、頑張りましょう!!」

「あぁ、そうだな……ならば、早速『乱』の領域での任務を果たすとしよう。」

内容は、マフウの討伐か……此れ位ならば、私1人でも楽勝なんだが、初めての領域でもあるから、誰かと一緒の方が良いか?


「よう、早速任務かい?」

「息吹か。如何した?」

「いや、橘花ちゃん、無事でよかったな。
 神垣ノ巫女だって言うから遠慮して来たが、最近随分身近に感じるようになってきた……こりゃ、本格的に口説くしかないな。
 ……なんてな、冗談だ。」

「だろうな、橘花に下手に手を出したら桜花に斬り殺される。死にたくなければ、木綿と橘花には手を出すな。ウタカタの鉄則だ。」

「はは!そう来たか。……巫女は命を燃やして結界を張る……か。
 宿命を受け入れて、気丈に振る舞ってるが、其れを貫くのは楽じゃない――押し潰されない様に、守ってやれ。
 守りたくても、もう守れなくなっちまった奴もいる……っと、余計な話したな。さぁ、任務に邁進するとしようか、隊長殿。」



なんだ、少し聞き取り辛い部分があったが?……まぁ良い、任務に邁進すると言うのなら一緒に来てくれ息吹。
この間の『安』の領域ではないが、今回も初出撃の『乱』の領域なのでな、道案内を頼みたい。



「ウタカタ一の伊達男を道案内に使うとは、アンタも大したモンだが……隊長からのお願いとあらば、聞き入れない訳には行かないよな。」

「理解が早くて助かる……と、あれは、桜花か?
 如何した桜花?そんな所で何をしている?」

「君か……改めて、君には礼を言いたい。橘花を救ってくれた――ありがとう。
 ……君は如何思う?巫女の犠牲の上に成り立つ今の仕組みを。――間違っていると思わないか?」



其れは、間違いなく間違っているさ。他に方法が無いとしてもだ。
私も、橘花一人に負担を強いるのはオカシイと思ったから、私の結界を上掛けしたのだからな……誰かの犠牲の上に成り立つ平和は、本
当の平和ではないと思う。



「……良かった、そう思ってくれる者がいて。
 全てのツケを巫女に背負わせ、滅びを未来に先送りする。其れで良い筈がない。誰かを救うために剣を振るうと、そう誓ったのだから。
 ……すまない、此処で言葉を重ねても仕方がないな。
 先ずは現状を打破する事から始めよう。さぁ、一働きするとしようか、隊長殿。」

「そうだな。ならお前も、息吹と一緒に来てくれ桜花。『乱』の領域での任務……マフウの討伐だ。」

「ふふ、了解だ!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



という訳で、『乱』の領域にやって来たんだが、見渡す限りの雪か。
正に白銀の世界と言う所だが、それでいて不思議と寒さは感じない……この世界もまた、鬼の浸食を受けた異界であるが故だろうな。

取り敢えず、その辺に居るマフウを纏めて狩るとしよう!



「任せた!ってのは、冗談だ。一気に仕留めるとしますか!」

「行くぞ!一気呵成に攻め立てる!!鬼は、何であろうと討つだけだ!」

「マフウ……所謂鴉天狗だが、天狗風情が私に勝てると思うなよ?私は、悪魔すら凌駕する破壊神だ!」



――で、5分後。



逝っちまいな!!

これが、モノノフの力だ!

無に帰るが良い……!

息吹、桜花、そして私の鬼千切り三連弾が炸裂してマフウを纏めて鎧袖一触!!負ける相手ではなかったが、此れではハリがないな。
まぁ、後ろから喰らわされた蹴りは少々効いたが、おかげで完全に目は覚めたからな……次の任務からは、ノーダメージ勝利確定だ。

って、物陰に何かいるな?……鬼ではないようだが?


『?』

「へ?」

「此れは……天狐か?」

「いや、違う……頭に生えた短い角に、背中に生えた羽――此れは、ハネキツネだ!」

「「ハネキツネ?」」



日本ではとても珍しい動物だが、海外では意外と人気でな……手の平サイズの大きさと、此の愛らしい見た目で、ペット――もとい、愛玩
動物として良く飼われているんだが、其れをこんな所で見つけるとはな。
だが、此処な鬼が多くて危険だから、私と一緒に来ないか?此処と比べれば、ずっと安全だし、我が家には既に天狐のなはとが居るから
お前も退屈はしない筈だ。


『♪』

「ありゃりゃ……懐いちまったよ。」

「君は、武に長けているだけではないのだな……」



何故か、動物に懐かれる体質らしくてね。まさか、この世界にもハネキツネが居るとは思わなかったが……先ずは名前だな。
天狐がなはとだから、お前は『りひと』だな。


『♪』

「気に入ったか?其れは良かった。」


「……なぁ、桜花。アンタアレの言ってる事理解できるか?」

「いや、無理だ。梓には、魔法以外にも、私達にはない力があるらしい。」


まぁ、何となく分かる程度だけれどね。
さて、里に戻って次の任務だ。物見が発見した鬼が、全てミタマを宿しているとは限らないが、手当たり次第に討っていけば、それなりにミ
タマを解放できるはずだからな。

物見が発見した『鬼』……一体漏らさず、討ち果たしてやろう!








――――――








Side:桜花


『乱』の任務に同行した後も、梓と共に任務に出撃したのだが……何と言うか、彼女の強さは、武が冴え渡ってるとか言う物じゃないな。
先ず『戦』の領域でのカゼキリ討伐の任務では……


「貴様の下賤な遊びは終わりだ……朽ち果てろぉ!!」


私からしても、見事な居合からの連撃で斬りまくり、締めに地面に叩き付けて爆発させて倒し――


「お前のタマハミはとっても気持ち悪いから、タマハミになる前に叩きのめす!!」


『雅』の領域での、クエヤマ討伐の任では、クエヤマのタマハミが余程嫌だったのか、クエヤマを発見する也怒涛の猛攻で攻め立て、タマ
ハミを発動させる事なく、一方的に蹂躙し……


「咎人達に滅びの光を。星よ集え。全てを撃ち抜く光となれ。貫け閃光!スターライトブレイカー!!


『安』の領域でのヒノマガトリ討伐の任では、毎夜夢に出てきそうな桜色の光の奔流を持ってして、ヒノマガトリを跡形もなく消し去ったのだ
からね。
富嶽、今更彼女が新人と言うのはこの際なしにするが、それ以前に梓は本当に人間なのだろうか?


「人間だろ?ってか、そうであると思いてぇ。
 まぁ、強けりゃ何だって良いだろ?仮にあいつが『鬼』でも、俺達に敵対する気はねぇ訳だし、敵には回したくねぇが、味方ならこの上なく
 頼もしいってモンだろ?」

「それは……そうだな。」

何よりも、この三連戦で、梓は新たに『雑賀孫一』、『清少納言』、『天草四郎』のミタマを宿す事が出来たのだから、ミタマ奪還作戦は順調
と言っていいだろう。
梓が隊長であるのならば、さらに多くのミタマを奪還する事も可能だろうからな。――頼りにしているぞ、梓。








――――――








Side:梓


ふぅ……幾ら何でも、大型との三連戦と言うのは、流石の私でも少しばかりきつかったかも知れないな……負ける相手ではないとは言え
ども、だからと言って簡単に勝てる相手ではない。(桜花からしたら、私は大型を秒殺してたらしいが。)

だが、物見からの『鬼』発見の報告は次々と入って来るからね……取り敢えず、私はミタマを宿していそうな大型の『鬼』に標的を絞って討
伐する事にしよう……全部打って出て居たら、流石に身体が持たないからね。
仮に、別動隊の討った小型の鬼が『ミタマ』を宿していたとしても、其れは即座に私に宿るのだろうしな。

さてと、次はどの任務を受けようかな?



「梓様、さがしておりました。」

「那木?其れに富嶽も……如何かしたのか?」

「先程物見からの報告があり、新手の『鬼』を発見したとの事。」

「相手は大型だ。ミタマを手に入れるにゃ、好都合だろ?――ぶっ飛ばしに行くとしようぜ!!」



其れは……確かに其の通りだな。
小型の『鬼』よりも、大型の『鬼』の方がミタマを宿している確率は高いし、其れが新手だと言うのならば尚更だ。討伐一択だな此れは!!



「梓様、私も御一緒してよろしいでしょうか?
 私が道を誤らずに済んだのは、梓様のお陰です……最近は、少し手当なども出来るようになって参りました。
 是非、貴女のお役に立たせてください。」

「良いも何も、大歓迎だよ那木。寧ろ私の方からお願いしたいくらいだ。一緒に来てくれ!」

「はい、お供いたします!」

「うっし!さぁ、派手に暴れようぜ!!」

「いざ、参りましょう!!」



新手の『鬼』が如何程かは知らないが、ドレだけの鬼であろうとも、討ち果たしてミタマを奪還するだけの事だ、全力を持って討ち果たす!
見せてやろう、祝福の風の力と言う物をな――!












 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場