Side:シグナム


ビャクエンを倒し、紅月達の方に加勢しようと里の中心部に戻って来たのだが……



「私だって……出来るんだからーーー!!」



――ドッガァァァァァァン!!



「何してやがる馬鹿共……囚人を殺せって命令は出してねぇぜ。
 オメェ等は禁軍のモノノフの筈だ……何時から識の私兵に成り下がった?」



ソフィーが謎の攻撃で禁軍の兵を吹き飛ばし、其処に雷蔵が禁軍の兵達を咎めたか……禁軍は所謂『嫌われ者役』の部隊だが、それでも雷蔵
は雷蔵なりに禁軍としての誇りをもって任を全うしている事は、前に話をしてみて分かったからな――識の言いなりになっている今の禁軍に我慢
出来なくなったと言う所なのだろう。

「識は既に里から逃げた。……逃げ切れんだろうがな。お前達も観念しろ。」

「逃げただと?……あの野郎。」



「……良い頃合いに到着出来たようだな。」



そして、此処で相馬と桜花が百鬼隊と……アーナスの従魔達を引き連れて登場だ。
桜花は抜刀して『武器を下ろせ』と言い放ち、相馬も『霊山君の名を借りた蛮行、此れ以上許してはおけん』と言った上で、識を捕縛した旨を伝え
て『投降しろ』と言った……そして、其れだけでなく『其れとも俺達と遣り合うか?』とまで言ってな。
アインスとアーナスには劣るとは言え、桜花と相馬も紅月と比肩する程の強者故、迫力が違う――禁軍の兵は、その迫力に圧されている様だ。



「やれやれ、遅いぞ相馬。」



!!そして、この声は……九葉!!矢張り、矢張り生きていたか!!












討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務187
マホロバ奪還!そして次なる脅威!』










「ふ……矢張り生きていたか九葉。まぁ、お前は殺しても死なないような奴だから生きているとは思っていたが……一体何処に雲隠れしていたと
 言うんだ?全くお前の気配を探る事が出来なかったんだがな?」

「……何を言っている。私はずっと里に居たぞ。
 川に落ちてから直ぐに這い上がってな……カラクリ研究所の世話になっていた。」

「……私が治療しておいた。軍師にしておくには惜しい体力だな。」

「成程、カラクリ研究所にか……あそこならば確かに人の気配を遮断する事位は出来るかも知れないな。怪しいモノが色々あるしね。」



灯台下暗し、と言う奴か。
つまり博士は知っていたと言う訳か……其れでも、何も言わなかったのは『敵を騙すにはまず味方から』と言う事なのだろう。――実際に『九葉
が生きている事』が識に伝わったら、其れこそ今度はなりふり構わず九葉を殺しに来ていたかも知れないからな。
相馬は『そんなのってありか?』、初穂は『そうよ、心配したんだから!』と言っているが、其れに関しては私も全く同じ気分だ。お前が死んだと聞
いて、とても悲しくなったからな。



「結果的には生きていたのだ、素直に喜んでおけ。
 ……禁軍よ、武装解除しろ!お前達に大義はない!!其れとも、お前達を見捨てた主に忠誠を誓って犬死にするか?」

「其れが望みならば、抵抗するが良い。せめて苦しまないように、『自分が死んだ事にすら気付かない』と言った感じで逝かせてやる。一瞬で塵
 になってしまえば、苦しむ暇すら無いだろうからな。」

「塵にされるのは少し困るよアインスさん。そろそろヨルドに血を吸わせてやらないと……」

「なら、ヨルドをぶっ刺して血を吸い上げてミイラにするか。失血死は痛みを感じないらしいから丁度良いだろう。」



九葉が一喝し、更にアインスとアーナスが恐怖を煽って……そして、其れを聞いた禁軍の兵達は大人しくなった。
アインスが手に溜めていた魔法の力は冗談抜きで『一撃で一つの里を灰燼に帰す』事が出来る位の力が凝縮されている様だし、アーナスの剣
も見た目の凶悪さが凄いからな……禁軍の兵も大人しくなると言うモノだ。
『申し開きは百鬼隊にしろ!』と九葉が強い口調で言い、禁軍の兵達は収監される事になったか……これで、マホロバの動乱も一段落と言った
所だな。



「雷蔵、お前にも話を聞かせて貰うぞ?」

「……当然だな。好きにしな。」



恐らく雷蔵は、今回の一件には無関係だろう――だが、識が霊山君の名を使って禁軍を動かそうとしたから、禁軍の隊長として一緒に来たと言
う所だろう。多分な。
そして、九葉の命によってマホロバの戒厳令は解除され、夫々が持ち場に復帰する事になった――と同時に、囚われていた皆の『九葉殺害』と
いう嫌疑も此れにて晴れたな。九葉はこうして生きているのだから。

その後は夫々が持ち場に戻ってすべき事を熟したのだが、カラクリ部隊の面々は主にビャクエンによって破壊された里の設備の復旧を行う事に
なった……修理に必要な部材は、ソフィーが錬金術で作ってくれたのでとても助かったけれどな。
アインス達の助力もあり、復旧作業は日が暮れる前には終える事が出来た……そして、復旧作業が終わった所で、岩屋戸下の鳥居の前にカラ
クリ部隊を含めた全員が集合だ。九葉が私達を此処に集めた訳だ。



「……ご苦労だったな、シグナム。私の指令書、無駄ではなかったと見える。」

「あの指令書は、実に役に立った……だが、其れ以上にお前が生きていた事に安堵している。」

「フン……お互いに悪運が強いな。」

「九葉……良かった。」

「グウェンか……お前もご苦労だった。
 お陰で識を釣り上げる事が出来た。中々良い囮役だったぞ。」



……記憶にある九葉と比べると、かなり偽悪的なのだが、九葉も九葉であのオオマガドキを境に色々あったのだろうな。――私達に『必ず生き
て帰れ』と言った九葉が、『血濡れの鬼』と言われているのだからね。
如何やら身体の方は問題ないみたいだな?銃で撃たれてピンピンしているとは、呆れた頑丈さだ……或は余程九葉を撃った奴は、余程射撃の
腕前がヘッポコだったと言うよりあるまい。



「撃たれてもピンピンしてるって、妖怪みてぇな野郎だな?」

「私がいなきゃとっくに死人だったがな。」

「フン……態々言わんで良いわ。」



だろうな。
其れは其れとして、グウェンが九葉の配下だったと言う事はアインス達も知らなかったらしく、『教えてくれてもいいだろう』と抗議していたが、『そ
れでは密偵の意味がなかろう?』と言われては何も言えまい。
椿は『血濡れの鬼』と呼ばれている九葉が、横浜でグウェンを助けた事に驚いて居たが、『救える命は救え。それが我々に出来る精一杯だ。』と
九葉は返した……『血濡れの鬼』と言われても、九葉の本質は変わっていないようで安心した。

が、グウェンが九葉に礼を言った所で、九葉が驚愕の事実を暴露してくれた……識にビャクエンの事を教えたのは、他でもない九葉自身だと。
『霊山に救う敵を炙り出す為に、餌となる情報を流した。其れに敵が喰い付くのを期待してな』との事だが……其れを聞いたグウェンは驚いた様
子だったが、九葉は有無を言わせぬように『『血濡れの鬼』の名は伊達ではない』と言ったか。

『多くの犠牲を払って、勝利を手にして来た……今回もそうしたに過ぎない』か……本心では欠片もそうは思っていないくせによく言うモノだ。
だが、自ら『悪役』にならねばならない事を経験した故の事なのだろうな……己が進む道を『外道』と称し、その道を一人で歩むと言う等と言う事
は、相当壮絶な経験をしていなければ言えない事だからな。



「お前達は正道を行け。私には歩めぬ道を……」

「だが、断る!!」

「あぁ、やっぱり言うんだねアインスさん。」



良い感じに九葉がしめようとした所でお前は何を言ってるんだアインス?



「多くの犠牲を払って勝利を手にする事が外道ならば、私は何だ?
 此の世界に来る前は数多の世界を滅ぼし、此の世界に来たら来たで不可抗力とは言えウタカタに赴任する筈だったモノノフに成り代わったの
 だぞ?私も充分外道だよ。今更正道など行けん。
 其れに、私は『鬼』を討つモノノフではあるが、何方かと言うとダークヒーロー系なのでね。」

「ダークヒーローかぁ……私も何方かと言えばそっちだよね。」



……お前はお前で色々と事情があるんだなアインスよ。『ウタカタに赴任する筈だったモノノフに成り代わった』と言うのが気になったが、此の世
界にやって来た際に、『鬼』に襲われて瀕死のモノノフの女性と出会い、その場の『鬼』を退治した後に、そのモノノフの頼みを聞く形で代わりに
ウタカタに行ったらしい――そのモノノフの魂と融合したと言うのも不思議な話だがな。



「お前には、何を言っても無駄だなアインス……好きにするが良い。……其れで、識は如何した?」

「あの男なら、先程拘束して……」



――カンカン!カンカン!!



「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」



警鐘だと?……こんな時に……いや、『鬼』に此方の都合など関係ないか。
里の外に出て状況を確認すると、其処には夥しい数の『鬼』が……しかも、小型や中型の『鬼』だけではなく、カゼキリやオヌホウコと言った大型
の『鬼』まで。



「ちょっと、何体居るのよアレ……!」

「冗談ではないぞ!一体何処から湧いて出た……!」

「……オオマガドキ以来だな、アレだけの数を見るのは。」

「如何だ時継、何が見える?」

「…………妙なのが居るな。
 二足、角は四本、異様にデケェ紫の拳。」



……なん、だと?
其の『鬼』の特徴、十年前に横浜で戦ったアイツと全く同じだ……あの時は途中で何処かに消えてしまったが、まさか今また此処で出会う事にな
るとはな……!



「間違いない。其れはシンラゴウだ。
 覚えているかシグナム?横浜防衛戦で取り逃がした『鬼』だ。――私はあの『鬼』を追っていた。よもや此処で遭遇するとはな。」

「矢張りアイツだったか……私も、まさか此処で再び奴と相見えるとは思っていなかったがな――だが、逆に丁度良い。十年前に逃がしてしまっ
 た『鬼』を、今此処で討ち取るのもまた一興だ。」

「好戦的な所は記憶が無くとも変わらんな。
 ……あれは『鬼』の群れを呼び寄せる。何故今襲って来たのかは分からんが……」

「……識が言っていたな、『封印を解いた』と。其れと無関係ではないかも知れん。」

「何れにしても、シンラゴウを討つしかない。
 幸い此処にはモノノフが集っている……近衛、サムライ、禁軍、百鬼隊……全ての隊が糾合すれば、アノ群れにも対抗出来る。
 尤も、其れには連携が不可欠だ……準備が整うまでは籠城するぞ。」

「アーナスが変身してビームを連発して、私がデアボリック・スターライトブレイカーをぶちかませば何とかなると思う件に付いて。」

「……其れは最後の切り札だ。
 かぐや、結界はドレくらい持つ?」

「ま、丸一日くらいなら何とか……」

「ならば、其れまでに迎撃態勢を整える!シグナム、お前が全隊の指揮を執れ。」



私が、指揮を?



「シンラゴウとの戦いを経験しているのはお前だけだ。――其れに、お前が最もしがらみなく部隊を束ねられる。お頭候補でもなければ、新参者
 の英雄でもないからな。」

「そこまで言われては断る事など出来んな……分かった、やろう。」

「……良い目だ。
 此処で横浜防衛線を終わらせる。全員、異論はないな!」

「ふ、異論などある筈がないだろう九葉……過去の柵を断つとは、此れもまた運命と言う奴なのかも知れないな将よ?――お前は覚えていない
 だろうが、嘗ての私達は過去の柵を断とうと躍起になっていた事があったんだ。
 其れは最後の主と出会うまで成功しなかったが……だからこそ、此の世界では最初から成功させようじゃないか。」

「遠慮は要らん、俺達を思い切り使え。」

「では、総員迎撃準備に掛かれ!生きるか死ぬかの戦いになるぞ!」



生きるか死ぬかの戦いか……確かに其の通りだな。
だが、最悪の状態になったとしても負ける気がしないのは、間違いなくアインスとアーナスが居るからだろう……こう言っては何だが、あの二人
が無事ならな、最終的には何とかなってしまうだろうからな。



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取り敢えず、行き成り混成部隊を作っても拙い連携になってしまうのは目に見えているので、近衛、サムライ、禁軍、百鬼隊は其のまま運用する
事にして、夫々の隊長である八雲、刀也、雷蔵、相馬には鬼の手の通信手段を使ってお互いの状況を確認しながら、必要があれば戦力を融通
しあうと言う形を取る事にして、カラクリ部隊は自由に動ける遊撃隊と言う形だな……遊撃隊にアインスとアーナスと桜花が居る時点で、遊撃隊
の戦力がハンパない気がするがな。
此れで迎撃の準備が出来た訳だが、九葉にもそれを知らせておくか。

「九葉。」

「……お前か。迎撃の準備は如何だ?」

「ふ、抜かりはない。」

「そうか、其れならば良いが……丁度良い、お前も一緒に来い。
 私は此れから識と話をして来る。近衛の陣所に拘束しているらしいのでな――奴が何を企み、実行しようとしていたか、其れを知りに行く。」



識との話、か……奴が言った事が本当であるのならば、私は奴に作られた存在と言う事になる――確かに私も一緒に行った方が良いかも知れ
んな。
奴が一体何を企み、何を実行しようとして、そして何の為に私を生み出したのか……其れを聞きたいからな。



「……私も一緒に行かせて貰おうか?」

「……良いだろう、付いてこい。」



そして、此処で博士が参戦か。
まぁ、博士としても識が何をしようとしていたのかと言うのは、研究者の立場から興味があるのかもしれん――尤も、博士ならば其れを聞いても、
其れを人の世の為に活かすのだろうけれどな。


さて、識は一体何を語るのか……『鬼』が出るか『蛇』が出るかとはよく言ったモノだと思うな……奴が一体何を語るのか、一切合切予測出来な
いからな。
だが、貴様の口から語られた事が、人の世に仇なすモノだった場合、私は戸惑わずに貴様の首を刎ねる……人の世に仇なす存在は、人であっ
ても『鬼』と変わらんからな。








――――――








Side:アインス


しかしまぁ、改めて見るとある意味で壮観だな此れは……ウタカタな危機に陥った時の事を思い出してしまうよ――あの時は可成りヤバかったな
ぁ……あの時は身勝手にも覚醒していなかったからね。



「だが、今の君ならば其の気なれば即滅殺出来るだろう?」

「当然だろう桜花?その気になれば、あの程度の群れは一撃で地獄に還せるさ……だが、九葉が其れを選ばなかったのは、安易に私とアーナ
 スが出張って『鬼』を撃滅しては、モノノフが私とアーナスにおんぶに抱っこになる事を恐れてだろうな。」

「私とアインスさん頼みになって、モノノフの質が低下するって言う事かな?」



正解だアーナス。
人と言うモノは、一度楽な手段を知ってしまうと其れに頼ってしまう部分がある――其れは、『鬼』との戦いでも同じだ。より効率よく、そして己の
労力を割かずに『鬼』を討つ手段があるのならば、其れを選択してしまうからな。
まぁ、本当にヤバくなったその時は、私もアーナスも力を揮うけれどな……さて、褌を締め直せよ?この戦い、ウタカタ防衛戦以上の戦となるだろ
うからな。

来るなら来るが良い……私の六爪流の錆になりたいのならば、な!!













 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場