Side:シグナム


『策がある』と言って、初穂はアインスと共に何処かに行ったのだが、其れから十数分後に現れたのは、禁軍の装備を纏ったアインスと初穂だっ
た……成程、禁軍の兵に擬態すれば、里に入るのは容易か。
それにしても、禁軍の装備など、一体何処で手に入れたのだ?



「実は、シグナム達と合流する前に禁軍の斥候と鉢合わせたの。捕まえて身包み剝いでおいたわ。」

「過激だな。」

「確かに過激だが、行動限界が近く疲弊していたであろう初穂に捕まって身ぐるみ剥がされるって、その禁軍の斥候は色々問題がある気がする
 のだが……お前は如何思う、将?」

「まぁ、確かに其の通りだな。」

或は完全に不意を突かれたか……だが、そのお陰でこうして禁軍の装備が手に入ったのだから結果良しだ。
初穂の案では、私が考えた通り、禁軍の兵として里に入り、先ずは人質を解放してから『百鬼隊』と共に里に突入する、か。悪くない案だ……否、
現状ではこれ以外の方法はないと言えるだろう。



「で……初穂の方は胸に何詰めてんだ?」

「……確かに、妙にデカいな?」

「ど、何処見てるのよスカタン!ふ、服が合わなかったんだから仕方ないでしょ!私だってその内……」

「……逆に私は少し胸がきついんだが……」



……時継、相馬、其れは言ってはダメだ。そしてトドメを刺すなアインス。
だが、私やアーナスが慰めても効果は薄いだろう……アインスには負けるとは言え、私もアーナスも初穂に比べたら相当だからな。……矢張り、
女性に胸の話題はダメだな。
取り敢えず初穂を何とか宥めつつ、変装するのは初穂と時継以外の者になった――時継が居る以上全員変装は出来ないから、時継と初穂を捕
まえた体で私とアインスが禁軍の格好をして行けばいいと、相馬が決めてな。












討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務185
始動!マホロバ奪還&解放作戦!』










マホロバに向かう為に先ずは準備をしなくてはな。
禁軍の装備には後で着替えるとして、私とアインスは使用武器も特殊なので、武器の外見も偽装しなくてはならない――その結果、十束は太刀
に偽装し、アインスは六本の刀を双刀を三種類装備して居ると言う事にしたらしい……少しばかり強引だが、『鬼』によって使い分けをしていると
言う事にすれば、一応の筋は通るな。



「……変装して里に潜入か。巧く行きゃいいけどな。……万が一捕まったら雷蔵を頼りな。アイツは信用できる。」

「時継……何故雷蔵を?」

「今は識の手下みてぇに見えるが……俺が認める数少ない勇者の一人だ。」

「……知り合いか?」

「……聞いてくれるかシグナム。何だか話してぇ気分なんだ。俺達『三羽烏』の昔話を。」



時継に話し掛けられ、その流れで時継の話を聞く事になったのだが、時継と雷蔵、そしてマホロバの前のお頭である西歌は親友で、霊山のモノ
ノフ訓練生で時継達を知らない者はおらず、『西の三羽烏』と呼ばれ、将来を嘱望されていたらしい……『俺はその中でも飛び切りの勇者だった』
と言うのが何とも時継らしい。
雷蔵が突っ込んで、西歌が援護、そして時継がトドメを刺す……其れが時継達のやり方だった訳か。――だが、時は過ぎ、やがて夫々が夫々の
道を進み、西歌はマホロバのお頭に、雷蔵は禁軍の指揮官におさまったが、時継は何にもならず只のモノノフをやっていたと。



「焦ったぜ。何としても名を上げねぇとって思った……アイツ等にだけは舐められたくねぇ。そう思って色んな前線を渡り歩いて過ごした。
 北から南、西から東へと無茶やったぜ。お陰で少しは名が売れて来た頃だ、西歌が死んだって報せが来たのは……。
 俺は動揺した……そんな筈ねえって思った。俺が勇者になるまで待っててくれる筈だ、訳もなくそんな風に思っていた。
 俺は走った、マホロバまで必死で。身体中傷だらけになるのも構わず……だが、途中であの『鬼』が現れた。さっき戦ったハクメンソウズだ。
 俺は直ぐに瘴気でダメになった……何とかして逃げたが、もうダメだって思った。その時だ、アイツが俺の前に現れたのは。」

「博士、だな?」

「正解だ……ったく、『宿命に喧嘩を売りに来た研究者だ』とかトンでもねぇ事言ってやがったぜ。そんで、俺はカラクリ人形になった。
 マホロバに着くと、西歌の葬式の最中だった。遠くに見えるアイツの葬列に、俺はその場から逃げ出した。
 どんな顔をして会えばいいか分からなかった……約束も出来ず、勇者にもなれねぇ半端モンだ――アイツの墓碑に続く、あの長くて遠い道を、
 俺は未だに進めずにいる。だが……そろそろ会いに行くころだ。
 必ず里を取り戻そうぜ、シグナム。」

「時継……あぁ、勿論だ。」

時継の話を聞いて、よりマホロバを取り戻さねばならないと決意が強くなったよ……しかし、時継と西歌と雷蔵が親友だったとは驚きだ。時継と雷
蔵の二人を西歌が纏めていたと言った感じだったのだろうなきっと。

さて、武器の偽装も済み、禁軍の装備にも着替えた――元々着ていた装備は、これまた禁軍の斥候が持っていたらしい荷物袋に入れておけば
怪しまれる事ともなく持って行けるだろう。
そう言う訳だから、暫くの間捕まった振りを頼むぞ時継、初穂。



「まっかせなさい!こう見えて演技には自信があるんだから!」

「いや、この場合は俺達は何も言わねぇ方が良いんじゃねぇか?捕まっちまった身なんだからよ。」

「いっその事、初穂には縄噛ませて猿轡をさせるか?」

「ちょっと、何でアタシだけなのよアインス!」

「いや、だって時継口ないし。」

「確かに……って言うか今更だけど、口がないのに貴方どうやって喋ってるのよ時継!」

「俺にだって分かるかよ。
 だが、遺跡で拾った俺と略おんなじ形のカラクリ人形も喋る事が出来るから、口とは異なる音を発する何かが此のカラクリ人形にはあるんだろう
 ぜ――知りたきゃ博士に聞いてくれ。」



だとしても、時継の場合は他のカラクリ人形の様な機械的な音声でないのが謎だな……其れも或は、時継が『人の魂が宿ったカラクリ人形』であ
るからかもな。
そんな話をしている内に、マホロバが見えてきたな?……入り口には禁軍の兵が。此処からが勝負だな。



「うん?貴様等は……!!如何言う事だ、何があった!」

「手配中の連中を捕まえて来た……九葉の部下である初穂と、博士の仲間である時継……間違い無いか?」

「確かに間違いないが、捕まえただと?他にも手配中の奴が居た筈だが……」

「其れが、途中で『鬼』に……」

「そうか、『鬼』に……お前達だけでも良く生き残った。一先ず、よくやったな。雷蔵様に報告してくるがいい。」



よし、第一関門突破だ……よもやこれ程までに簡単に潜入出来るとは、あまりにも簡単すぎて拍子抜けしてしまった気分だ――まぁ、面倒な事も
無かったから良いのだがな。
それにしても、思った以上にバレないモノだな?



「禁軍の装備が顔を隠してる事が影響してるのだろうが、恐らく禁軍の兵は、顔を出してる雷蔵以外の兵の互いに顔を知らないんじゃないか?
 急ごしらえの遠征軍では余計にだろう。
 気配を探ってみたんだが、マホロバのモノノフ達は如何やら岩屋戸に監禁されているみたいだ……私が瞬間移動を使えば簡単なのだが、もし
 も其れを禁軍の誰かに見られると面倒な事になるから、別の方法で助け出さねばだな。
 将、一先ず協力者を探すんだ。里の状況を把握する必要があるからね……私は桜花達と共に少し準備があるから、此処からは別行動だ。」

「何の準備だ?」

「決まってるだろう?突入の準備だ。
 不幸中の幸いと言うか、モノノフでない者は拘束されていないのでな、念話でソフィーにフラムを大量に作ってくれと頼んでおいた……きっと今
 頃大量のフラムが出来ている筈だ。」

「フラムの出来は、錬金術師の調子に左右されると聞いたが……今回のフラムは強力なのか?」

「威力は兎も角、派手なのは間違いない。好きだろ、将?」

「派手、か……そうだな、反撃の一手は派手な方が良いさ。」

此処でアインスと別れ、私は協力者を探す事になったのだが……マホロバのモノノフほぼ全員が囚われている今の状況で協力者を探せって言
うのは可成り難易度が高い気がするな?
萬屋にも、鍛冶屋にも、果ては久遠の料理屋にも人が居ない……拘束されずとも、軟禁状態と言った所か。近衛の居住区にも人の姿は見えず、
此れはサムライの居住区も……と思っていたら、アレはグウェンか!!

「グウェン!」

「……私に何か用か?」

「……此の格好では分からないか。私だ。」

禁軍の仮面をずらして顔を見せると、グウェンは私だと分かったらしく、無事である事を喜んでくれた――だからと言って抱き付かれるとは思って
なかったけどな。



「す、すまない。もう会えないかと思って。でも、どうして里に?」

「知れた事、里を奪還する為だ。」

「……奪還……出来るだろうか?
 …………………スマナイ。私は貴女に嘘を吐いていた。私は、軍師・九葉の密偵の一人なんだ。」

「そうだったのか?」

此れは驚きだ……何でも、横浜でオオマガドキに遭遇した時に命を救われて配下に加わったとか――奇しくも、私が九葉の元から居なくなった
時に九葉の配下になった訳か。
だが、識にビャクエンの事を知られて内通者になる様に脅されたか……識は不思議な赤い石を持っていて、其れを使うとビャクエンを自由に呼び
出す事が出来る――ビャクエンの存在を盾に脅すとは、トンデモない外道だなアノ白髪単眼鏡は。
グウェンは当然九葉に相談したが、九葉は笑って『識に従う振りをして、情報を流せ』と言ったか……つまり、お前は二重の間者をしていたと言う
訳か。



「そうだ……だが九葉は死んでしまった。もう私には、識に従う以外に道はない。」

「其れ以外の道があると言ったら、お前は如何する?」

「……私に出来る事が、まだあるのか?」

「ある。と言うか、マホロバのモノノフが略拘束されてしまった今、此れが出来るのはお前しかいない。」

「……分かった。出来る限りの事はさせてくれ。
 でも、ビャクエンを呼ばれる訳には行かない……その時は識に従う。如何か許して欲しい。」

「……もういっその事呼び出させて、アインスに倒して貰うか?
 多分と言うか、ほぼ確実にアインスならばビャクエンが去る前に倒し切る事が出来ると思うぞ?今は新たに、アインスに匹敵するアーナスと言う
 モノノフも援軍として来ているからな。」

「其れは……いや、多分無理だ。
 アレは私の剣と対になった呪いの存在……私と竜剣ネイリングが存在する限り、ビャクエンが消える事は無いと思う。――其れより、今やるべ
 きことをしなくては……先ずは皆の武器を手に入れよう。」



ビャクエン、矢張り普通の『鬼』ではないか……だが、必ず倒す方法はあると思うのだがな。
だが、今はビャクエンよりも皆の武器を取り戻す事が先決だな……拘束され、岩屋戸に閉じ込められているのならば、武器も没収されていると考
えるべきだ――鬼の手だけは、博士が『無理に外すと爆発してお前も只では済まんぞ』と言って没収を免れているかも知れないが。
グウェンが言うには近衛の陣所に保管してあるとの事。『識の命令だと言って運び出そう』とは、此れもグウェンが九葉と識の二重間者をしている
からこそだな。

そのまま近衛の陣所に行き、門番の兵に『識に使えないように処分しろと言われた』と言って、武器のある所まで案内させる所まで来たのだが、
あともう少しと言う所で雷蔵に見つかってしまったか……!



「……見ねぇ顔だな。うちにオメェみたいのがいたか?…………!此処で何してんだ?」

「!!」

此れは、まさか気付かれた!?馬鹿な、顔は隠れているのに……いや、其れとも雰囲気で察したとでも言うのか?



「し、識の命令で囚人の武器を搬送してるんだ。」

「……そうかい。ソイツは邪魔したな。」



え?……私に気付いたようなのに、何も言わないだと?……若しかして、見逃してくれたのか?……成程、禁軍の指揮官・雷蔵は、識の手下で
はないと言う事か。
時継が頼れと言うのも分かるな。



「……行くなら裏口を使いな。正面から乗り込んでも良い事はねぇ。」

「……感謝する。」

去り際には、私にだけ聞こえるようにそう言って来た……どうやら雷蔵は雷蔵で、今回の一件に思う所があるようだ――そうでなければ、私達を
見逃し、そして『裏口を使え』と言う助言はしてこないだろうからな。
取り敢えず、禁軍の兵から武器の在り処を聞いて、皆の武器を持ち出し、主かぐやが使っていた秘密の通路を使って岩屋戸にだ。――『私も一
緒だと識に怪しまれる』と言ってグウェンとは此処でお別れだったがな。



「よう、遅かったな?」

「貴女は……シグナム!」

「良かった、無事だったのね!」

「貴様、一体どうやって此処に……!」

「お前の知らない道があるのさ。なぁ、シグナム。」

「そう言う事になるな。」

岩屋戸には仲間達の姿が。……拷問でもされてないかと危惧していたのだが、如何やら全員無事なようで安心した。――そして、予想通り鬼の
手は没収されていなかったか。まぁ、爆発するかもしれない代物を無理やり没収しようとはしないか。
下手すれば外そうとした側にも洒落にならない怪我をする恐れがあるモノな。



「首尾は如何だ?」

「武器を取り戻して来た。アインス達の方も準備が進んでいる筈だ。」

「そうか……それにしても良く取り返せたな。」

「グウェンが協力してくれたんだ。」

「グウェンが?そうか、アイツが助けてくれたのか。」

「気が利くじゃねぇか。なら、さっさとおサラバしようぜ。」






「……その前に、一つ聞かせて貰おうか?」






っと、この声は雷蔵か……先程の一件のせいか、警戒する事は無さそうだと思ってしまうな?……私以外は警戒しているようだが。



「そう構えるな、取って食いやしねぇよ。
 この中に、軍師・九葉が撃たれたとこを見た奴は居るか?」



そうして雷蔵が聞いて来たのは、『九葉が撃たれたのを見た奴は居るか』と言う事で、初穂が『見たけど』と答えると、続けて『その近くに、禁軍の
兵は居たか?』と聞いて来た。
それに対する初穂の答えは『居なかった』だ。



「そうかい……食い違う二つの証言……嘘を吐いてるのはどっちか……さて、どうするか。」

「間の悪い男だな……尤も、一人なら好都合だ。」

「コイツを倒して此処を出るぞ。」



って、ちょっと待て、如何してそうなる?と言うか、真鶴がそんな事を言うとは思わなかったぞ――弟の神無が其れに同調したのは当然と思って
しまうのが何ともアレだが。
だがしかし、其れは時継が止め、『俺に話しをさせろ』と言って来た。
分かった、此処はお前に任せるよ。



「……雷蔵。黙って俺達を行かせてくれ。
 お前は融通の利かない堅物だが、俺が知る限り最高の勇者だ。識の企みに、此れ以上手を貸すな。」

「……何を言ってやがる?カラクリ人形に、知り合いは居ねぇ筈だぜ。」

「…………俺は、時継だ。」

「なに?」

「二年前、この里の近くで死んだ間抜け……魂だけを博士に救われてカラクリ人形になった――以来、陰から守って来たんだ。
 此のマホロバを……」

「……与太話も程々にしな。アイツは死んだ!俺が死体をマホロバまで運んだ!
 里に迫ってた『鬼』の群れを一人で倒して、死骸の山の中で死んでやがった!如何しようもねぇ間抜けだが、立派な勇者だ!その名を汚す奴
 は、誰だろうが容赦しねぇ!」

「雷蔵……覚えてるか、俺達の約束を。またいつか三人で、マホロバで酒を飲もうって……」

「!……何処でそれを…………本当に、オメェだってんのか?」

「…………」

「……俺は何も聞かなかった。
 何も見なかったし、此処で起きた事は知りもしねぇ……後は、オメェらで好きにやりな。」



如何やら、巧く行ったようだな……時継と雷蔵、立場は変わってしまい、時継に至っては容姿も変わってしまったが、嘗ての親友同士、言葉以上
に通じるモノがあったのだろう。
だが、雷蔵が見逃してくれたのならば好機だ!急ぎ此処を出るぞ!!


そうして、岩屋戸から出たのだが……



「何処へ行く心算だ?」

「識……」

識に先回りされ、禁軍の兵に囲まれてしまったか……ビャクエンを盾に、グウェンから情報を引き出したのだろうな。



「……矢張り貴様か、カラクリ使い。
 岩屋戸から出て良いと言った覚えはない。今すぐ引き返すんだ。――其れとも此処で、禁軍と遣り合うかね?」

「……お主に従うつもりはない。何を企んで居るかは知らぬが、此れ以上里を好きにはさせん。
 そこをどけ禁軍兵士達!オカシイとは思わぬのか!この男は何の証拠もなく里を乗っ取った!立派な越権行為ではないのか!」

「……無駄だ。此処に居る者達は、全員私の手の者だ。」



矢張りそうか……主かぐやが『なぜこのような事をする』と問うたが、識は『この世の悪を正しに行く。この里での用は済んだ』と答え、其処から何
とも壮大な事を語ってくれた。
この世の最大の悪は歴史であり、マホロバが内乱状態になったのも争えと歴史が命じていたからだとまで言ってくれた……外様と鬼内と言う歴
史があるから争うと言うのは少し納得だが――最大の過ちは、『人がこの世に『鬼』を呼び出した事』だと?オオマガドキは、人の手で起こされた
モノだと言うのか!!

いや、オオマガドキ以前にも『鬼』は存在していた……だが、『鬼』が何処からやって来たのかは分かって居ない――まさか、本当に『鬼』は人が
この世に呼び出したと言うのか?
識……コイツは一体何を知っていると言うのか……













 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場