Side:真鶴


お頭選儀の評議会があった翌日、お頭候補である刀也と紅月と八雲、そして何故か私までもが岩屋戸に呼び出された……サムライと近衛、そし
てカラクリ部隊の面子が奇しくも揃った訳だが、一体何があると言うのか。



「行き成り岩屋戸に集まれとは、変事でもあったか?」

「私まで呼び出されるとは、一体如何いう訳か……」

「さぁな。」

「お頭選儀の事だとは思うが……」



神垣ノ巫女ですら詳細を知らないとは……本当に一体何だと言うのだ?此の場にシグナムが居ない事も気に掛かる――卿が居てくれれば心強
いのだがな。
紅月も、思い当たる節はないようだし……果てさてだ。



「……集まっている様だな、諸君。」

「お前は……識。」

「此処に何の用だ?軍師・九葉は如何した?」

「……九葉は、死んだ。」

「な、なに!?」



馬鹿な、あの軍師・九葉が死んだだと?到底信じられないが……識が言うには『何者かに銃撃され、崖下に転落。死体は捜索中』との事。だが、
そうだとしたら、一体誰が九葉を?まさかとは思うが、あの時刀也を狙った者か?奴は本当は近衛ではなく……だとしたらマホロバの中にこの里
を混乱させようとする輩が既に入り込んでいたと言う事になる。
早急に何とかしなくてはならないのだが、識が里に戒厳令を発令した上に、私達は『九葉殺害の重要参考人』として身柄を拘束されてしまった。

だが、拘束されて連れて行かれる刹那に見てしまった……識の顔に笑みが浮かんでいるのを――彼奴め、初めから私達を、マホロバの主戦力
であるサムライと近衛の機能を停止させるために私達を此処に集めたのだな……となると、九葉殺害もコイツの自作自演か。

其れでも、一つだけ見落としがあったな……本気でマホロバの戦力を低下させるのならば、紅月だけでなくシグナムも此処に呼んで拘束すべき
だった。彼女こそが現在のマホロバにおける最大戦力なのだから。
直に、里に異変は伝わるだろう……シグナム、また頼ってしまう事になるが、卿ならば必ず何とかしてくれると信じているぞ。












討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務183
急転直下の事態に現れた援軍』










Side:シグナム


今日は、時継とグウェンと共に任務を熟そうと思っていたのだが、何やら里が騒がしいような……受け付けに椿の姿が無かったのも妙だ。何時も
ならば、受け付けで元気な姿を見せていると言うのに。

……!?なんだ、この気配は!!



――轟!!



「……居たな、カラクリ使い。行き成り炎を浴びせて来るとは、文字通り熱烈な挨拶だな?」

「済まんな。如何にも嫌な気配を感じたので、頭で判断するよりも先に身体が先に動いてしまった様だ……『鬼』との戦いの中で身に付いた危機
 回避能力故、目くじらを立てないでくれると助かる。」

「どんな危機回避能力だそりゃ?……にしても……珍しい奴が来たもんだぜ。」

「貴方は……識。……此れは一体?」

「貴様等も私と共に来て貰おう。軍師・九葉暗殺の実行犯として調べ上げる!!」



九葉の暗殺だと?九葉が……死んだと言うのか?……おい、嘘ならばもっとマシな嘘を吐くんだな?あの九葉が死んだ?其れも暗殺だと?バカ
バカしくて笑う気も起きん。
あの殺しても死なないような九葉が暗殺などされるモノか。寧ろアイツは、暗殺者に己の死を誤認させて自らの策の一部に組み込んでしまうだろ
うに。



「信じないのは勝手だが事実だ。
 憐れにも凶弾に倒れた……霊山君が知ればどれ程お嘆きになるか……」

「嘘だ!貴方は嘘を言っている!!」

「嘘ではない。禁軍の者が一部始終を目撃していた。
 ご苦労だったなグウェン。貴様はもう此方に戻って良いぞ。」



ん?此方に戻って良いぞとは、如何言う事だ?……グウェンと識は、何か関係があるのか?



「残念だな貴様等。そやつは、私が使っていた内通者だ。」

「なんだと?」

「グウェン、お前……」

「…………」

「諜報活動は終わりだ。以降は我々と共に行動しろ。」



グウェンがまさかの内通者、だと?
……だが、グウェンは『共に行動しろ』と言った識に対して剣を抜いた――識も『何の真似だ?』と怪訝そうだが……お前、まさかこの場を一人で
抑え込む心算か!!



「行くんだ、二人とも。早く!」

「グウェン……」

「……すまない……」

「チィッ……!……行くぜ、シグナム!!」

「今は、其れしかないか……!!」

一体里で何があったのか、そして九葉の暗殺とは……訳が分からない事だらけだが、グウェンが身を挺して作ってくれた、里から出る機会をミス
ミス無駄にする事は出来ん。
今は里から出て、何が起きてるのかを探らねばだ。



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・・・・・・

・・・



取り敢えず全力疾走で、クロガネ鉱山跡までやって来た……此処は入り組んだ天然の迷路になっている故、土地勘のない者では真面に進む事
も敵わぬ場所だから、追手が居たとしても撒く事は容易だろう。



「クソ……なんだってこんな事に……兎に角、今は逃げるぜシグナム。俺達まで捕まる訳には行かねぇ。……後で何とかして里を……」

「それなんだがな時継、九葉から命令書を預かっているんだ。もしもの時はこの命令書に従えと言っていた。」

「んだって?どれ、見せてみろ。……コイツは地図だな。行き先が描かれてる。此処に行けって事か?」

「恐らく、そうだろうな。」

「……今は賭けてみるしかねぇか。
 九葉を信じて行くぜシグナム。鉱山を抜けて、『乱』の領域に入る!」

「了解だ。」

「……俺たちゃたった二人の相棒だ。何かあったら互いを頼るぜ!」

「ふ、歴戦の勇者が相棒とは、心強い事この上ないな。」

「へ、嬉しい事行ってくれるぜ!」



だが、事実鉱山内に出現する『鬼』は私達の敵ではない。
基本的に出てくるのは小型だし、出て来たとしても中型のダラシだからな……コイツ等程度ならば、マッタクもって問題にすらならん。私が斬り込
んで、時継が射撃で撃ち抜けば其れで事足りるからな。

鉱山を駆け抜け、『乱』の領域に入っても其れは変わらん……里周辺よりも手強い小型の『鬼』は出現するモノの、所詮は小型であり矢張り私達
の敵ではない。
さて、九葉の指令書に記されていたのはこの辺りの筈なんだが……



「来たか……待ちかねたぞ将。そして時継。」

「久しぶりだね、時継さん。」

「コイツは、百鬼隊!其れにアインス……そしてお前、アーナスか!」

「ちょっと、私も居るんだけど!」



其処に居たのはアインスと初穂と百鬼隊と……初めて見る長い髪の女性。時継と知り合いのようだが、誰だ?



「そう言えば、お前さんは初めてだったなシグナム。
 コイツはアーナス。チョイと縁があってな……そういや、ソフィーや元姫と一緒にこっちに来たってアインスが言ってたか。――まぁ、アインスと同
 じ位に頼りになる奴だ。」

「アインスと同じ位とは……其れは凄いな。
 初めましてだな。私は烈火の将・シグナム、宜しく頼む。」

「私はアーナスだ。
 アインスさんから話は聞いてるよシグナムさん。烈火の将って、何だかカッコいいな。私も聖騎士として全力を尽くすから、遠慮しないで頼ってく
 れて構わないよ。」

「ふ、頼もしいな。」

「それにしても、コイツ等は一体。」

「アーナスは私が連れて来た。
 百鬼隊の参番隊は、九葉の指示で相馬が連れて来たんだ……マッタク、アイツは本当に何手も先を読んでいる奴だ。或は、常に最悪を想定し
 ているからこそ、その時の最善となる一手を選択出来るのか。
 何れにせよ、九葉程の軍師は中々居ないだろう。」

「ふ、其の通りだな。」

それにしても此れならば、禁軍を相手にする事も出来るかも知れん……時に初穂、相馬と桜花は如何した?確か相馬は参番隊の隊長で、桜花
もお前達と一緒に行動していたように思うのだが。



「ふむ、確かに将の言う通りだな?あの二人は如何した初穂?私はウタカタに戻っていたので別行動だったのだが……」

「って、そうだった!大変な事になってるのよ!私と一緒に来て!!此のままだと相馬と桜花が!!」



……如何やら何か問題が起きた様だな?
初穂が言うには、『この先の砂漠で『鬼』に襲われ、そしたら行き成り瘴気が濃くなって、行動限界が近いから逃げるしかなかったが、相馬と桜花
は殿で残ってる』との事……行動限界が近い状態で殿を務める等、自殺行為だぞ!!
今すぐ行って二人を助けねば!!



「分かった。
 参番隊と初穂は此処で待て。行動限界が近い今、動き回るのは危険だからな――桜花と相馬は、私とアーナス、将と時継で救出に向かう!」

「アインス!でも……」

「責任を感じるのは分かるが、だからと言って無理をして倒れてしまったら元も子も無いだろう……今は瘴気の薄いこの場所で身体を休めておく
 んだ。大事な時に動く為にな。」

「……分かったわよ。」



救出班は私と時継、アインスとアーナスでか。
『一気に移動するから掴まれ』と言ったアインスの手を握った瞬間……



――バシュン!!



一瞬で景色が変わっただと!?……空間転移に似ているが、此れが瞬間移動と言うモノか?――自分で意識して使えるとなると便利な事この
上ないな。
そしてその場には桜花と相馬、そして……



『ビャァァァァァアァァ……ク……ヒア……』



白い身体に赤い体毛を生やした、猿の様な『鬼』が……コイツも、オオマガドキの時には居なかった『鬼』だな。一体十年の間に、『鬼』はドレだけ
の進化をしたのだろうな。
まぁ、其れは如何でも良いか……人に仇なす『鬼』ならば、相手が誰でも斬るだけだ。



「おサルさん……じゃないよね?」

「コイツはハクメンソウズだったか?
 だがまぁ、取り敢えずは間に合った様だな桜花、相馬?」

「お前達は……!」

「アインスにアーナス、時継に……そしてシグナム?」

「初穂から話を聞いてな、アインスの瞬間移動で助太刀に来た……コイツを先ずは叩きのめす!我が共に手を出した報いを受けて貰おうか!」

「初穂め、いい仕事をしてくれる。此れ以上の援軍はない。
 だが気を付けろ。瘴気の濃さが尋常じゃない……俺と桜花は何時まで持つか分からん。一気に勝負を決めるぞ!」



そうだな。一気に……



「一気に決めるのならば任せておけ……そう言う訳だからアーナス、やるぞ!覇ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「了解だアインスさん!ヨルドの力……格の違いを見せてやろう!!」



と思っていたらアインスとアーナスの姿が変わっただと!?
アインスは髪が銀髪になって目も銀色になり、顔や腕に赤い紋様が浮かび上がって、足と腕にはまるで拘束しているかのような革製のベルトが
現れ、アーナスは白髪になり、肌も白くなって、目の色が反転して赤と青のオッドアイになり、両手には鋭い爪、背には大きな翼が!
……此れは一体?



「オイオイオイ、行き成り全開か?……アインスの身勝手の極意に、アーナスのナイトメア、こりゃハクメンソウズに同情するぜ。」



時継がそう呟いた次の瞬間に始まったのは、戦いとは到底言えない一方的な蹂躙だった……アインスはハクメンソウズの攻撃を全て的確に回
避すると同時に効果抜群の反撃を行い、アーナスは鋭い爪で攻撃しながら、魂のタマフリに似た強烈な波動での攻撃を行って相手を追い詰めて
行く――此れが、アインスとアインスに匹敵するモノの本気か!



「貴様はもうお終いだ!」

「死の覚悟は出来たか?」



圧倒的な攻撃に、ハクメンソウズもタマハミ状態になったが、其れでもアインスとアーナスは何のそのと言った感じで猛攻を続け、最後はアインス
が六爪流とやらで斬り付けた所に、アーナスが鋭い爪を突き立ててハクメンソウズの胸部を突き抜いて……そしてハクメンソウズは倒れた。
大型の『鬼』をも一方的に蹂躙するとは、恐ろしい力だな其れは。



「まぁ、今回の様な緊急時以外には使わないけれどな。」

「夜の王の力は絶大だからね……制御して使わないと、私も妖魔になってしまうから要注意だよ。」



強い力だけに、使いどころは分かって居るか……ならば安心だな。
取り敢えず、相手が悪かったな……大人しく地獄に帰るがいい。貴様等『鬼』が生きる場所は地獄であって、人が暮らす此の現世ではないのだ
からな。



「桜花、相馬、大丈夫だったか?」

「無茶し過ぎだよ二人とも。特に桜花さん。貴女に何かあったら橘花が悲しむよ?」

「耳が痛いな……」

「だからこそ、そう簡単には死なんさ。」



とは言え、お前達はもう限界だろう?ならば直ぐに退くべきだ――



――ヒィィィィン……



「「「「「!!!」」」」」

「!?」

こ、此れは空間転移!?
どうして今この時に……?……クソ、アインスの瞬間移動と違い、自分で制御出来ないのが厄介極まりない……今度は一体何処に飛ぶと言うの
か――此れまでの経験則で言うのならば、新たな領域で空間転移が起きたその時は、瘴気の穴がある場所に飛ばされるのだが、果たして今回
は如何なる事やらだ。












 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場