Side:梓


という訳でやって来た武の領域……此処にキツネ草があるんだな那木?



「はい……残って居ればですが。
 ですが、キツネ草は異界の瘴気に強い植物ですので、残ってる可能性は高いと思われます――ですので急ぎましょう、橘花様の為に。」

「そうだな。」

そう言う訳だから、道を開けろ雑魚共!!お前達に構ってる暇などない……深き闇に沈め!!


――ズバァア!!!


「い、一撃で10体以上の鬼を葬るとは……驚天動地にございます。
 梓様は、真に強きモノノフなのですね――私も見習わなくてはなりません。」

「私は戦う事しか出来なかった……其れを磨いただけに過ぎんさ。
 其れに、幾ら私が強くとも、その強さは絶対ではないから、共に戦う仲間の存在と言うのは、とても有難い物なんだ……現に、お前が一緒
 に居てくれると言うのが、心強いからな那木。」

「ならば、その期待に応えて見せましょう。」



ふふ、期待しているぞ那木?
まぁ、私とお前のコンビに負けは無いだろう?近接型の私と、支援型の那木の組み合わせは、オーソドックスだが最強のチームだからな。
さっさとキツネ草を採取して戻るとしようか。














討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務17
『巫女の結界のない戦い』











で、武の領域を攻略していく中で、クエヤマが現れてくれたんだが……ハッキリ言わせて貰うのならば、魔法が解禁された私にとって、この
程度の鬼ならばマッタク持って脅威足り得ないというのが本音だな。

と言うかだな、お前のような木偶の棒に暴れまわられてキツネ草を踏みつぶされたら大事なのでな……大人しく、其処で死んでいろ!!!
喰らえ、鬼千切り!!


――ズバァァァァァァァァァァ!!!



『アンギャァァァァァ!!!』



精々閻魔の裁きを地獄で受けるが良い。



「クエヤマを一撃で……見事でございます梓様。」

「其れは良いが、肝心のキツネ草は何処だ?」

「え~と……確かこの辺りに……あった、ありました!!
 此れで橘花様は助かります……よく、枯れずにいてくれました。」



如何やら、キツネ草は無事だった様だな?
ならば、速攻で里に戻って、此れを橘花に飲ませてやろう。心臓の発作に効果があると言うのならば、此れを飲ませてやれば橘花の発作
は収まるだろうからな!



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・・・



そんなこんなで里に戻って来たんだが……


「任務、ご苦労だった。」

「大和様!」


大和……霊山から戻って来てのか。


「ついさっき戻った所だ。留守の間、難儀をかけた。――話は桜花から聞いている、首尾は如何だ?」

「問題ない。持ち帰ったよ、キツネ草をな。」

「よくやった、急ぎ薬を作れ。」

「……はい!」



薬の生成となれば、私の出番はないが……まぁ、那木ならば薬の生成を誤る事はないだろう。故に、薬が出来るのを待つだけだな。
尤も、キツネ草が無かったら薬の生成すら出来なかったのだけれどね。



「梓……世話をかけたな。」

「此れ位は、如何という事はないさ。」

後は、那木の薬が、ドレだけ効くかだが――其れについては、何も心配する事はないだろうね。那木の薬は効く。私はそう信じてるからね。



――で、結果から言うなら、薬は効果覿面で、橘花も落ち着きを取り戻したらしい。
尤も、目が覚めるにはもう少し時間がかかるようだけれどな――兎に角、やったな那木?……お前は、里にとって大事な神垣の巫女を救っ
たんだ。



「感謝申し上げます――貴女がいなければ、私はまた友人を見殺しにしてしまう所でした。
 私にも、まだ出来る事がある。そう信じさせてくださいました――だから、貴女に感謝を……そして、友には詫びねばなりません。私自身
 の愚かさと臆病さを。
 私も、少しは変わる事が出来たのでしょうか?」


其れは何とも言えないが、お前が変わる事が出来たと感じることが出来たのなら、変われたんじゃないかな?私はそう思うよ那木。


「精進あるのみでございますね。」


――カンカン!カンカン!!


だが、如何やら、其れを確かめている暇はなさそうだ……この半鐘――新たな鬼が現れたか!
マッタク持って、空気を読まない連中だと言いたいが――鬼にそんな物は関係ないのだろうな……行こう那木!我等に仇なす鬼を討つ!


「了解でございます!!」


鬼の襲撃……大和!



「全員集まったな。」

「お頭……!?」

「戻ってたの大和!」

「……留守の間、難儀をかけたな。だが、再会を喜んでいる暇はない。
 物見から報告があった。大型の『鬼』が、雑魚を次々に呼び寄せている。」

「チッ、しつけぇ野郎だ。」



マッタク持ってその通りだな富嶽。
だが、里に到達されてはたまらないからな……出撃して、里を守れと言うのだろう、大和?



「ふ、その通りだ。一匹たりとも、里に近づけるな!!」

「了解した。――で、何か気になる事でもあるのか那木?
 気になる事があるのならば無理に出撃しなくても大丈夫だぞ?……他に気を取られて、怪我でもしてしまったら、そちらの方が大変だ。」

「いえ……あの、橘花様は……」

「……まだ目覚めていないが、梓の結界があるからまだ大丈夫だ。兎に角、今は私達だけで何とかするしかないだろう?」



橘花が全快して目覚めるまではな。
まぁ、私の結界も天属性以外には可成り強い耐性を持っているから大丈夫だろう。
……だが、若し一匹でも突破を許せば、里は異界に飲まれてしまうからな――何としても侵入を防がないとだ。危ない場合には、広域魔法
で纏めて吹き飛ばす事も考えておかないとな。



「殲滅戦ってな。望むところだ!」



息吹、初穂、速鳥は別部隊。
私は桜花、富嶽、那木と共にだな。向かう場所は『安』の領域か――行くぞ!!






という訳で、『安』の領域なんだが……ガキとオンモラキの不浄個体に、ヌエと居る事居る事。その辺に居る鬼が纏めてやって来たと言う感
じだな。
まぁ良い、殲滅するだけだ。
とりあえず景気付けと、戦闘開始の合図だ……遠き地にて深き闇に沈め、デアボリックエミッション!!


――ドガァァァァァァァァァァァン!!!


「戦闘開始の合図って……今ので一網打尽にしちまったんじゃねぇかオイ!?」

「いや……新たな雑魚が現れた。如何やら、相手は手当たり次第に雑魚を呼び寄せているらしい!」

「上等だ、殲滅してやらぁ!!」



新たに現れたのはざっと100体……1人頭25匹か、行けない数じゃないな。――良い機会だ、何方が多く倒したか勝負してみるか富嶽?
流石に、魔法は禁じ手にしてやるけれどね。



「上等だ!吠え面かくなよ!!」

「おい、今はそんな場合じゃないだろう!」



いや、此れでいいんだよ桜花。
富嶽は勝負事が大好きな上に負けず嫌いだから、勝負にかこつけて煽ってやった方が、本来の実力以上の力を出して鬼を撃破してくれる
物なんだ。何回か、一緒に任務を熟してそれを知ってね。
だから此れで良いのさ。



「成程な……だが梓、二刀流と言うのは聞いた事があるが、指の間で刀を挟んでの五刀流と言うのは聞いた事がないのだが……」

「此れは『五爪流』だ。
 此処にもう1本、天属性の刀が加われば、戦国時代の英雄、伊達政宗が使ったとされる伝説の剣術『六爪流』が完成するんだ。」

「何と、其れは正宗公の剣術だったのか!」



創作の世界のだけれどね。
……と言うか、態々指で挟まなくても、魔力で刀を操ればそっちの方が自由度が高いか――良し、無属性の闇払以外は、魔力で自立ユニ
ットとして使うとしよう。


――ズバズバズバァ!!


うん、良い感じだな。
富嶽、私はもう20体倒したぞ?そっちは如何だ?



「は、俺は既に30体倒したぜぇ?この勝負は俺の勝ちか?」

「いや、まだまだ相手は来るみたいだ!!」

「上等だオラァ!!」



雑魚が幾ら群れようとも、私と桜花の剣技と、破壊力抜群の富嶽の拳打、そして正確無比な那木の弓の射撃の前には敵ではないな。
第一陣を、広域魔法で殲滅したのも大きいが、この布陣で負ける事は考えられないよ。



「だが、幾ら何でも数が多過ぎる。
 如何に雑魚ととは言え、次から次へと呼び出されたのではキリがない……頭を討たねばならないのだろうが、此処を離れる訳には……」

「行かないだろうな。」

如何に雑魚とは言え、頭を討つ為に此処を離れたら、一気に数を増して結界を攻撃するだろうからね。
個々の力は小さくとも、数で来られたら私の結界も危ないだろう――塵も積もれば山となると言うからな……シャマルの『旅の鏡』が使えれ
ば、頭を『お取り寄せ』出来るんだが、無い物ねだりをしても仕方ないか。
さて、如何したものだろうな?


私に、お任せください。

「「「「!!!」」」」


この声は……橘花!!!


「「目が覚めたのか!!」」


と、桜花と被ったが、桜花が喜ぶのは当然か……愛する妹が、目を覚ましたのだからね。
だが橘花、目が覚めたとは言え大丈夫なのか?お前は言うならば、病み上がりの状態だ……無理は絶対にダメだぞ?


もう、大丈夫です。此れから里に結界を張り直します。
 私と梓さんの二重の結界ならば、小鬼に破られる事はありません――だから、皆さんは頭を討ってください。

「橘花……聞いたか、行くぞ!!」

「っしゃー!全力全壊ってな!!」

「古結に入らんずば虎児を得ず、参ります!」



頭はこの先だ……道を開けろ雑魚共!!


――ズバァ!!!



「踏み込みからの居合で雑魚を一蹴するとは、本当に君は頼もしいな梓……それでこそ、モノノフだ。」

「纏めて倒すのは得意なのでね……だが、現れたようだぞ?」



『キェェェェェェェェェェェェェェ!!』



何が現れるかと思えば、ヒノマガトリか。
この間の個体よりは少しばかり強いみたいだが、それでも私にとっては、この前の奴に毛が生えた程度でしかないのでな……速攻で叩き
のめさせて貰うぞ!



「会いたかったぜぇ……デカブツ!!」

「貴様を討ち果たして、橘花の元に戻る!!」



コイツは飛んでいるから厄介なのであって、羽根を折ってしまえば如何と言う事はない。
だから那木、私の魔法を追う形で、番え撃ちを放ってくれ――其れで、奴の飛行能力を奪う!!



「了解しました、梓様!」

「刃持って血に染めよ、穿て、ブラッディダガー!!

「狙い撃ちでございます!」


――ドドドドドドドド!!!



流石は那木だな。
私のブラッディダガーの軌道を正確に追って、見事に着弾点に矢を放ってくれた――如何に大型の鬼と言えど、一点集中攻撃を受けたらた
だでは済まない……今の一撃で、お前の羽根はもがせて貰ったぞヒノマガトリ!


『ギガアァァァァァァァァァァァァ!!』


「飛べない鳥など……」

「木に登れなくなった猿みてぇなもんよ!!覚悟しな!!」


桜花の斬撃と、富嶽の拳打を同時に受けては、流石に堪らないだろう?
だが、此れで終わりではない……楽には死ねんぞ!!

「泣け、叫べ!もがけ、苦しめ、そして朽ち果てろ!」

「刀での斬撃を喰らわせた後で、相手を掴んで爆発させる……見事な連携だな梓。」

「だが、奴は未だ死んではいない……トドメは任せたぞ桜花!!」

「あぁ、任された。――魂を込める!花と散れ……橘花桜蘭!!


――ドゴォォォォォォン!!


渾身の力を込めた鬼千切り……決まったな。
精々地獄で、焼き鳥にされて閻魔に喰われてしまうがいいさ……お前には其れがお似合いだよ。夜天の空を見るたび、思い出すが良い。
そして知るが良い、我等モノノフが居る限り、貴様等鬼がのさばる世界が訪れる事は無いとな。



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・・・



「皆さん……おかえりなさい!」



無事に里に戻って来た訳なんだが……まさか橘花が出迎えてくれるとはね?この様子を見ると、もうすっかり大丈夫みたいだな?



「橘花……!」

「橘花様……よかった……!」

「ごめんなさい……私が弱いばかりに……皆さんを……窮地に立たせてしまって……」



別にそんな事は気にしていないんだが……此処は桜花に任せるか。
親しくとも他人である私が何か言うよりも、姉である桜花の言葉の方が、橘花の心にも響くだろうからね。



「橘花、今日の勝利はお前のおかげだ……お前がいてくれたからこそ、私達は相手の頭を討つ事が出来た――本当に、ありがとう。」

「姉さま……」

「……嬢ちゃんがいなきゃ、今頃全滅だ。
 梓の奴が幾ら規格外って言っても、限界がない訳じゃないからな――よく目を覚ました。」

「今回は、橘花ちゃんが英雄だな。」

「私が……英雄……?」

「そうよ、皆を守ったんだもの!」

「……私なんかが英雄で……良いんでしょうか?」



今更、何を言ってるんだ橘花?
お前は元々英雄だよ――己への負担を顧みずに、この里を守るために結界を張り続けていたんだ。その巫女を英雄と言わずに何と言う?
お前は、紛れもなく英雄だよ橘花。



「皆さん……ありがとう……」

「橘花……そろそろ休め。体に障る。」

「……はい。」

「皆も今日は良くやった。
 積もる話もあるが、其れは明日だ。今日は休め。」



そうさせて貰うよ大和。
流石に、大型鬼との3連戦と言うのは些か堪えた……これが、生身の人間の限界なのだろうな――家でゆっくりと休むとするよ。



「梓さん。」

「ん?なんだ橘花?」

「すみません、今宜しいですか?」



大丈夫だが……如何した?



「那木さんに、お話しを伺いました。貴女に、命を救って頂いたと。ありがとうございました。」

「そんな事か……別に私は何もしていない。
 薬草を見つけたのは那木だし、それから薬を作ったのも那木だ――私は、只暴れまわる鬼を始末しただけに過ぎないよ。」

「ふふ……貴女ならそう仰るだろうと、那木さんも言っていました。
 ですが、おかげで里を守る事が出来ました――人に感謝されるのは、少しくすぐったい物ですね………矢張り、死ぬのは怖い物です。
 神垣の巫女が、代々短命である事はご存知ですか?
 私は、本当はずっと怖かったんです。死んでしまう事が……
 覚悟は出来ていた心算でしたが、心のどこかで呪っていました、この力を持って生まれた事を。だから、モノノフの様に、運命を自分の力
 で切り開けたらと……そう憧れていたんです。」



成程な……だが、モノノフもそう変わらないさ。
全戦に出るか否かの違いはあれど、私もお前も己の命を賭して戦っているんだ――ならば、モノノフと巫女、その境界線は何処にある?



「………!貴女の、仰る通りですね。
 誰もが、自分の宿命を抱えて、其れに立ち向かっている。だから私にも、きっと出来る筈……そう信じます。
 死ぬ覚悟など、本当は要らなかったのかも知れません。私の命を……心を……救っていただいて、ありがとうございます。」

「それが私の任務でもあるからね。」

橘花はもう大丈夫だな。
大型鬼との連続戦闘は流石に疲れた……禊をしてから、ゆっくり休む事にしよう。








――――――








Side:秋水


………中々思惑通りには進まないものです――とは言え、僕も宮仕えの身……何か、対策を考えなければなりませんね……
リインフォース梓さん――貴女は果たして僕の、引いては世界の希望なのか、それとも破滅の使者なのか…其れを見極めるとしましょう。










 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場