Side:シグナム


紅月を餌にしようとして現れたナマズの様な『鬼』……焔から聞いた話を考えると、コイツが霊山で起きた連続失踪事件、そしてマホロバで起きた
禁軍の兵士の死亡事件の真犯人であるのは間違いない。
焔の無実を証明する為に、狩らせて貰うぞ。



『焔……懐かしいな、此処は居心地がいいぞ……一緒に行こう。』

「何だ、この声は?」

「少年の……声?」

「惑わされんなよ、『鬼』が出してるニセモンの声だ。
 コイツが本人なんて事はねぇ……あのお人好しが人間食ったりするかよ。」



偽物の声、か……確かに今のは偽物だろうが、昨晩私に『焔と共に逃げろ』と言ってきた声は偽物ではない――そして、死に掛けたお前を水場
まで運んで襲わなかった事から考えても、奴の中に葵は居る。
『此れ以上は抑えれない』と言うのは、此れまでは何とか『鬼』の意思を抑え付けていたが、其れももう限界と言う事なのだろうからね……ならば
私達は、モノノフとしてこの『鬼』を討ち、喰われた魂を解放してやらねばなるまい。



「魚の捌き方其の壱!鱗は包丁の刃を立て、尾から頭に向かって一気に削げ取る!!」

『ガァァァァァァァァァァァ!!』



……アインスが『鬼』の背中を刀でなぞっているが、余程苦痛なのか『鬼』も悲鳴染みた声を上げているな?……なぞる度に『鬼』の背から何やら
剥がれ落ちているが、此れは鱗か?
『鱗を落とす』とは言っていたが、本当に鱗があったのか……だが、此れは若しかして私達にとっては有利に事が運ぶかもしれんな?
この鱗は触ってみると鉄のように硬い……此れが『鬼』の身体を防御するのに一役買っているのであれば、其れが剥がれた所は著しく耐久力が
低下している筈だから、其処を集中攻撃すれば一気に追い込めるかもしれん。











討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務177
真犯人の『鬼』を問答無用で滅殺!』










私の予想は当たり、アインスが鱗を剥がした場所を攻撃してみたらアッサリと十束の刃が刺さったな?流石に大型の『鬼』故に、此の一撃だけで
は致命傷には至らないが、其れでもコイツの生命力を大幅に削る事は出来た筈だ。
だが、私の一撃は此れだけではないぞ?

「傷口を焼かれる苦しみを味わえ!」

『鬼』に刺した十束の刀身に炎を宿し、傷口を焼いてやる……焼いてやった所から、少々食欲をそそる匂いがしたのは気のせいではないだろう。
……姿が魚に似ているだけでなく、肉質も魚に似ているとは驚きだな。



「何だ将、此の場で焼いて食べるのか?ならば醤油を持ってきた方がよかったな?焼き魚には醤油だろう?」

「何を言う、焼き魚ならば塩焼きが一番だろう?」

「サンマやイワシならばそうなのだが、ナマズは見た目に反して身は白身で殆ど脂のない淡白なモノだから塩だと少し物足りないんだ……少しゴ
 マ油を混ぜた醤油なんかが合うと思うんだ。」

「戦闘中に焼き魚談義ですか二人とも……」

「呆れる所だが、そんな事を話しながら戦っているのだから凄いとしか言えん。」

「シグナムは其れでも『何とか話してる』って感じだが、アインスの方は余裕綽々じゃねぇか……如何なってやがんだコイツは?」



焔の言う事は確かにな。
雑談をする程度は出来るとは言え、私は余裕がある訳ではないが、アインスは余裕其の物だからな……前に博士に『趣味で大型の『鬼』を退治
している』と言うのはあながち間違ってはいないのではないかと思ってしまうな。
だが、其れよりも不思議な感覚だ……十束に炎を宿すと、此れまでとは比べ物にならない力が湧いて来るとは。其れに、この炎を見ていると、気
分は高揚しながらも逆に思考は冷静になる……アインスはこの炎は私の本来の力だと言っていたが、だとするのならば、記憶を失う前の私は炎
を自在に操る事が出来る異能の持ち主だったと言う事か。
何とも不思議な力だが、其れが今は頼もしい!

「その腕貰った!!」

「生意気にヒゲなんぞ生やしてんじゃねぇぞ、このクソ『鬼』野郎!」



私が炎を宿した十束で『鬼』の腕を切り飛ばすのと同時に、焔も鬼千切りでヒゲを切り落とす……ナマズのヒゲが獲物を探す探知機であるのと同
様に、この『鬼』のヒゲも同じ役割があるのだろう。
其れを斬り落としてしまえば、例え此処で討ち損じても二度と人を喰う事は出来まい……獲物を探す事が出来ないのだからな。



『此処は良い所だ……此処で、平穏に暮らそう……』



又あの声か……漸く分かった、此の不気味な感じの声は『鬼』が模倣して居るモノだ。私が家で聞いた声は、こんな不気味な感じはしなかったか
らな――



――バクン!



って、アインスが喰われた!?
まさか、アイツほどのモノノフが……



「平穏な暮らしだと?悪いが、興味ないな。」



やられる筈がないと思ったら、強引に『鬼』の口を開いて中から出て来た……だけでなく、其のまま放り投げた!?……あの巨体を放り投げると
は、相変わらず驚かせてくれる――もしや今のは態と喰われたな?



「平穏な暮らしって言うのは確かに良いモノだが、其れが続くと退屈する。人生ってのは、刺激があるから楽しいんだ、そうだろ?」

「お?テメェ分ってるじゃねぇか。退屈な人生なんぞ面白くもねぇ。どうせ一度きりの人生なんだから、退屈せずに楽しんだ者勝ちだってなぁ!」

「適度な刺激は有った方が良い、其方の方が気が引き締まるからな。」

「人の世に平穏を齎す為に戦っているモノノフが何を言っているのですか……」



ふふ、言ってやるな紅月。
確かに我等モノノフは、『鬼』を討って人の世に平穏を齎す為に存在しているが、平穏な日々の中にも何らかの刺激が無ければ人は鈍ってしまう
から、其れを防ぐ意味の刺激は必要だろう?
……まぁ、だからと言ってアインスの様に態と『鬼』に喰われるのは如何かと思うが。



「私はこの身に三百体を越えるミタマを宿しているから、貴様からしたら上等の餌に見えたのだろうが……貴様如きが私を喰らう等、七十二億六
 千三百五十四万九千二百五十一年早いわ!」



そのアインスは、『鬼』の尾を掴むと、その巨体をぶん回してから岩に叩きつけて見せた……コイツ、本当に人間か?それと、その数字はどこから
出て来たのか……まぁ、多分大きな意味はないと思うが。

アインスの豪快な一撃を喰らった『鬼』は此処でマガツヒ状態となって襲い掛かって来たのだが、其処に後の先の鬼千切りを叩き込んで、今度は
後ろ足を切り飛ばす――丸裸にしてやるから、覚悟するがいい。



『焔……逃げろ……来るな……』

「テメェ、何言ってやがる。」

『アハハハハハハ!来いよ、焔!!』

「……あぁ、そうかい。何となく分かって来たぜ。オイ、クソチビ!そいつん中に居んのかよ!居んなら返事しやがれ!
 …………無視かよ!何か言えよタコ!ったく……おいシグナム、この『鬼』とっちめて吐かせるぞ!」

「ふ、今さら何を言っているんだ焔?クソ『鬼』野郎はぶち殺す、そうだろう?」

「……違いねぇ。」



焔も、奴の中に葵の魂がある事に気付いたようだ……表には出さないが、今の焔は相当にあの『鬼』に対して怒りを燃やして居るのが分かる。
昨日の話を聞く限り、葵は焔にとって捨ておけない相手……いわば弟分の様な存在だったのだろう。そんな存在だった者の魂が『鬼』に喰われ、
あまつさえその存在を騙って己を誘き出そうと言うのは業腹モノだろうからね。



「二つの声……本当に同一人物か?」

「一体、何が起こっているのですか焔……!」

「んな事知るかよ!でもよ、あの『鬼』ん中にはダチの魂がある!」

「友の魂が?」

「ニセモンの声だけじゃねぇ、本物の声も混じってやがる。だったらやる事は一つだ!」



そうだな焔……このクソ『鬼』野郎を倒して、葵を始めとした喰われた魂を開放する、其れだけだ!!
火竜一閃を叩き込んで、先刻斬り飛ばしたのとは逆の腕を斬り飛ばし、更に陣風で生命力を削り取る……マガツヒ状態の今ならば、深層生命力
を削る事が出来るので、今の攻撃は可成り効いたはずだ。



「そろそろ終わりにしようか?」



――轟!!



此処でアインスが手に蒼い炎を宿した……何をする心算だ?



「楽には死ねんぞ!」



そう言って放たれた炎は、『鬼』に当たると同時に火柱を上げ、『鬼』の動きを完全に封じてしまった……穏のタマフリである不動金縛でも、『鬼』を
拘束する事は出来るが、アインスの放った技は其れ以上だ!!



「図体だけの木偶の坊が……お似合いの姿だな。
 大切な人との思い出を汚し、其れを餌にして人を喰らう貴様は『鬼』の中でも外道極まりない……そして、私は貴様の様な外道が一番好かん。
 もう少し楽しめるかと思ったが、所詮は下衆に過ぎんか……ならばもう、遊びは終わりだ!」



更に言うが早いか、アインスは『鬼』に突進し……



「泣け!叫べ!もがけ苦しめ、そして……死ねぇぇぇぇ!!」



六爪流とやらで滅多切りにした後に、鬼の頭を掴み、炎を浴びせて爆発させた!……と同時に、『鬼』はタマハミ状態になった――一体今の技が
ドレだけの威力なのか気になるな。
が、タマハミになった事で『鬼』の支配が弱くなったのか、本物の葵の声が語りかけて来るな……『コイツはもう止められない。』、『人殺しの手伝
いをして生きて来た……オオマガドキでコイツに喰われてからも』、『何処まで行っても殺しの螺旋が続く……そう言う生まれの宿命なんだ!』と、
何とも悲観的な事だ。
だが、其れを聞いて黙っている焔ではない。
『……ナマ言ってんじゃねぇぞ』と言うと『生まれの宿命だ?馬鹿かテメェは!確かにどうにも出来ねぇだろうよ、何処にどんなふうに生まれるかな
んざよ……でも、テメェの魂があんだろ!如何生きてぇとか、そう言うのがあっただろうが!』と言って畳み掛ける。……理屈ではない魂の言葉と
言うのは響く物があるな。



「テメェはあんとき来なかった……でも、本当は如何したかったんだ?
 答えてみろよタコ!未だ魂残ってんだろ!テメェは如何したかったのか言ってみろ!」

『焔……なら、頼む……助けてくれ!!』

「言うのがおせぇんだよタコ……だが上等だ!聞こえただろシグナム!」

「皆迄言うな、分かっている!」

葵の魂を……いや、葵だけでなく貴様に喰われた魂を開放する為に貴様を殺す!!



――グン!!



その思いと共に、鬼の手を発動して『鬼』の尾を掴み、そして其れを力任せに引き千切る!!鬼の手の切り札である『鬼葬』での部位の完全破壊
だ!もう二度と貴様の尾は再生出来ん。
尾を完全に失った『鬼』はその身体をウナギの様に長く変化させたか……完全破壊による形態変化の中でも、中々珍しい変化だな。



「待ってな、今度こそ足抜けさせてやる!」

「……紅月が相手です!」

「全力でやってやるさ!!」

『痛い、痛い、痛い……止めろぉぉぉぉぉぉ!!』

『やれ焔!コイツを倒せ!!』


「わーってるよ、任せな!」

「最早お前の手品のネタは割れた……偽物の声で惑わす事は出来ん。特に、死んだ友の事を死んだ後も心配してやれる大馬鹿者にはな!」



其処からは怒涛の攻撃が炸裂だ。
焔、紅月、神無が次々と鬼の手で腕を、足を完全破壊し、アインスは形態変化で新たに現れたヒレの様な部位を破壊……しただけでなく、『此れ
以上喋るな』と言わんばかりに口を凍り付かせてしまった……アインスが使う六本の刀には夫々『無』、『火』、『水』、『地』、『風』、『天』の属性が
宿っていると聞いたが、今のは水属性の力と言う訳か。



「将!ソフィーからお前に伝えてくれと言われていた事があるのを思い出した!
 ソフィーが調整したお前の武器だがな、疑似カートリッジシステムだけでなく、新たに変形機構も取り付けてあるんだそうだ――剣の柄と鞘を合
 わせてみろ!」

「十束の柄と鞘を?」

其れで一体どうなるのかと思ったが、やってみると此れは……十束が連結刃から弓に変わっただと!?……だが、なんだろうか?私はこの変化
を知っているような気がする。
いや、知っているのではない、身体が此れを覚えている!!
どうやって弓になったのかとか、そんな細かい事は今は如何でも良い……分かるぞ此れは!弓だけで矢はないが、そもそも矢は必要ない!コイ
ツの弦に手を添えれば、矢は自然と現れる!



――ヴォン!



「武器が変形とか有りかオイ!」

「錬金術と言う秘術を使えば、非常識な事も可能なのだろうさ……此の一撃で確実に決める!頼めるか焔!」

「動きを止めるんなら任せな!クソ『鬼』野郎、此れで往生しやがれ!」



――バチィィィ!!



『ギヤァァァアァァァァァァァァァァァ!!』




穏の最強タマフリの『不動金縛り』で『鬼』の動きが止まった……そして、動きが止まった『鬼』は、例え大型と言えども只の的でしかない!!
此れで決める!!

「翔けよ、隼!!」

「穿ち貫け、ナイトメアハウル!」



私が矢を放つと同時に、アインスが魔法とやらの直射砲撃を発動。
アインスの直射砲撃はそのまま『鬼』を貫いたが、私が放った矢は、放った直後に炎の隼となって『鬼』に突進し、そしてその身を焼き貫いた……
そして、其れがトドメとなり『鬼』は遂に崩れ落ちたか。



『あぁ、良かった……もう殺さなくて良い……良かったあ……』



葵……解放されたみたいだな。
そして解放されたのは、葵の魂だけでなく……



――シュン!


『面白いモノ、沢山見よう!』


――ミタマ『清少納言』を入手




英霊のミタマもな。新たなミタマを手に入れる事が出来たか。――兎に角、此れで件の『鬼』は倒した訳だ。



「……声しなくなっちまったな。結局アイツを助けられたのかどうか。」

「最後の言葉……お前にも聞こえた筈だ。」

「如何だかな、忘れちまったぜ。」



……絶対に聞こえていただろうに、完全にしらばっくれているな此れは?まぁ、そんな素直じゃないのも焔が焔である所なのだがな……時に焔、
お前の足元で光ってる其れは何だ?



「あん?何だこりゃ?」

「……此れは、カラクリ石ではないか?遺跡でしか見つからないと言う。」

「何でそんなもんが此処に?……まぁ、何でも良いか。お宝みーっけ!」



お前と言う奴は……まぁ、確かにカラクリ石はお宝には間違いないから、見つけたのならば入手しておくべきだがな?――が、焔がカラクリ石を手
にした瞬間、不思議な事が起きた。
一瞬カラクリ石から光が溢れたかと思ったら……



『ありがとう、焔。』



光が弾けるその瞬間に、葵の声が聞こえた。……石の中に、彼の魂が有ったと言う事なのだろうな。



「良く分かんねぇが、声は聞こえたぜ。……じゃあな、ダチ公。」

「……其れは違うぞ焔。」

「あん?如何言う事だシグナム?」

「じゃあなではない。お前が葵の事を忘れない限り、葵はお前の胸の中にいる……お前が忘れない限り、葵はお前とずっと一緒だ、そうだろ?」

「何だ、励ましか?大丈夫だよ、一々へこんでられるかよ。」

「……マホロバに戻りましょう、焔。」

「オイオイ、其れじゃまた捕まっちまうだろうが。」



……強いな焔は。
でだ、マホロバに戻ったら焔はまた捕まるのではないかと思ったのだが、其処は博士が『手を回しておこう』と言ってくれた……鬼の手の機能だと
分かってはいるものの、イキナリ話し掛けられるのは矢張り慣れんな。



「ったく……ま、やる事はやった。帰ろうぜシグナム。」

「あぁ、帰るとしよう。其れと焔、今夜は一杯付き合え。」

「良いぜ、お前となら美味い酒が飲めそうだ。」



ふ、言ってくれる。今宵は月も輝く故、月を肴に呑むとするか。








――――――








そしてマホロバに戻って来た私達を待っていたのは、雷蔵率いる禁軍……再び焔を拘束せんとしてきたが、其処に割って入って来たのは九葉だ
った。
雷蔵は『邪魔はしない約束だ』と言ったが、九葉は『その男の嫌疑は晴れた、拘束は不要だ。全ては『鬼』の仕業。一部始終を私の部下が見てい
た。』と言って雷蔵を黙らせた。
九葉の部下と言えば、百鬼隊の相馬とウタカタの初穂だが、直属の部下で無いとは言え桜花もそうなるか……と言うかその理屈で言うのであれ
ばアインスもだからな。アイツは見ていたどころか当事者だ。
あの場に相馬達が居たとは思わんが、此れが博士の手回しと言う奴なのだろうな……禁軍ではなく、九葉を味方に付けてと言う事だろう。
相馬が事の詳細を話し、『兎にも角にも、其処に居るモノノフ達は貴方の部下の仇を討った。感謝されこそすれ、拘束される謂れはない筈だ。』と
言うと、雷蔵も『分かった、まずは話を聞こう』と一先ず矛を収めたか。



「オイオイ、如何なってんだ?巧い事行きすぎだろ?」

「何、軍師九葉に助力を求めたのさ。」



カラクリ研究所に戻って博士に話を聞いた所、矢張り九葉を味方にしたか。
時継が『テメェが市中引き回しになるのを楽しみにしてたのによ』と言えば、焔は『ヤロ、張っ倒すぞ!』返す……相変わらずの遣り取りに安心して
しまうな。
感謝するぞ九葉。敢えて聞くが、何処から監視していた?



「お前ならば分かっているだろうシグナム……そう都合よく監視などしている訳が無かろう。――尤も、アインスがお前達に同行していた事を考え
 れば、全くの嘘と言う事でもないがな。」

「モノは言い様だな九葉よ……だが、お前のそう言う所は嫌いではない。」

「綺麗事だけでは生きていけぬのでな……兎に角これで貸し一つ。約束は果たして貰うぞ。」



約束か……博士が言うには『助ける代わりに、協力を求められた』との事で、詳しい事は後で話すか……其れを聞いた焔は一人何処かに行こう
としたのだが、其れを問うと『この石を墓に埋めてやるんだよ』と返って来た……そう言う事か。
友の魂の宿った石、丁寧に埋葬してやらねばな。

その焔を追って行くと、外様の居住区にある石碑の前に居た……石は、埋められたか?



「……テメェか、シグナム。
 さっきは助かったぜ。お蔭でダチを助けてやれた。ずっと気にはなってたんだよ、あの馬鹿が如何してるか……ったく、『鬼』なんかに喰われて
 たら世話ねぇぜ。
 俺はテメェ等と違って、元々モノノフじゃねぇ。死んだモノノフの武器を拾って適当に戦って来ただけだ。
 この里に居たのは、取り敢えず飯が食えるからだ。そろそろお暇させて貰うぜ。」

「焔、お前……」

「と、言いてぇところだが……テメェには借り作っちまったからな。唯一のダチ公助けられたんだ、恩返しくらいしとかねぇとな。」

「唯一のとは悲しいな……私ではお前の共にはなれないか?」

「恥ずかしい事言ってんじゃねぇよ。ま、一応感謝しとくぜ……ありがとよ、シグナム。」



――カッ!……シュン!


『我は影、光に添う者なり。』


――ミタマ『服部半蔵』を獲得




そして次の瞬間、焔の身体から光の玉が現れ、そして私にその光が宿った……分霊か。



「何だこりゃ?……ま、何でも良いか。んな事よりさっさと行こうぜ。俺は盗賊だぜ?まだまだお宝探さねぇとな!」

「ならばその宝探し、もう暫し私も付き合うとしよう。」

「神垣ノ巫女の騎士が、盗賊に付き合うってか?」

「私の友は私の意思で選ぶ。其れとも、私がお前の友では不満か?」

「冗談、テメェがダチなら最高だぜ。」



ならば何の問題も無かろう……これからも宜しくな焔。
こうして、焔に嫌疑が向けられた一件は幕を閉じたが、如何にも此れで終わるとは思えん――禁軍……否、識が此れで黙っている等と言う事は
有り得んだろう。
あの濁った眼の奥で、何を考えているか分からんからな、奴は。











 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場


取り敢えず、大型の『鬼』を倒したので、穢れを浄化する為に禊に来たのだが……



「卿か。『鬼』の討伐、お疲れ様だった。」



真鶴が居たとさ。
まぁ、それ程疲れても居ないさ……アインスも一緒だったからね。



「軍師九葉と共に来た彼女か……只者ではないと思うが、彼女の強さは如何程なのだシグナム?」

「……アイツ一人で大体何とかなるのではないかと思ってる。」

「それ程か。」



それ程だ。
アインスの強さは、冗談抜きで並のモノノフ十万人分でも足りないのではないかと思う位だからな……アイツが居る限り、ウタカタの里が陥落する
と言う事だけは絶対に無いだろうな。