Side:シグナム


博士からの通信を受け里に戻って来たのだが、此れは思った以上に酷いな?
主かぐやの結界が無くなった事で『鬼』が良いように里に入り込んでいる……期せずして近衛とサムライが里を護らんと共闘しているからギリ
ギリの所で耐えているという感じ――



「100倍ビックバンかめはめ波!!!」



かと思っていたらアインスが無双していた。……が、アインスは新たに里に入ってくる『鬼』を撃滅しているモノの、既に里に入り込んでしまっ
た『鬼』までは手が回らないか。
……尤も、あんな凶悪な攻撃を里に入り込んだ『鬼』に放たれたらマホロバそのものが崩壊してしまうのだが。



『ガァァァァァァァァァァァ!!!』



だが、其れよりも今は里の防衛が第一か。
ゴウエンマ……まさかこれ程の『鬼』が現れるとは、『鬼』の方も私達を滅さんと必死らしいな?
既にタマハミ状態か……八雲と刀也が頑張ってタマハミ状態に追い込んだのか、其れとも極稀に現れる最初からタマハミ状態で凶暴化して
いる奴なのかは分からないがタマハミ状態のゴウエンマが相手では分が悪いか。
……吹き飛ばされた八雲と刀也にゴウエンマの火炎砲が迫るよりも早く、主かぐやが割って入り、カラクリ石の結晶で強化された巫女の結界
でゴウエンマの攻撃を完全に防いだがな。



「刀也、私は私の責任を果たさねばならない……だが、其れは一人では出来ない事だ。
 お主と八雲の助けを無くしては出来ない事なのだ――だから、お願いだ。私と一緒に来て欲しいのだ。私と一緒に、戦って欲しいのだ!」



そして主かぐやは己の思いをぶちまけたか……その無垢で純真な思いを聞き、刀也も差し出された手を取ったみたいだな。



「シグナム……後は全てお前に託すのだ。私の英雄よ!」

「御意に……!!」

主かぐやに託された以上、騎士として負ける事は許されん……里に向かってきている軍勢はアインスが、里に入り込んだ連中は桜花と相馬
と初穂に任せておけば良いだろうが、このゴウエンマは私が討ち取る!
その首……は悪趣味なので、その角を主かぐやへの献上品にしてやるぞ――我が十束の錆となるがいい!










討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務173
マホロバ防衛戦、ゴウエンマを倒せ!』










「シグナム、神垣ノ巫女の招請です。全力を持ってその願いに応えます。」

「来ていたのか紅月……言われずともその心算だ!」

「此れより、里の結界を張り直す!其れには『鬼』が邪魔だ、一匹残らず蹴散らすのだ!頼んだぞ、シグナム!」



お任せ下さい主かぐや、このゴウエンマを始め、里の中に居る『鬼』は全て殲滅させましょう……私一人では到底無理ですが、仲間が居れば
無理も無理ではなくなります。
一足先に里に戻った神無も、薬を博士に届け終えれば戦いに参加するでしょう……アイツが『鬼』を前に戦わない等と言うのは有り得ない事
ですので。



『グオォォォォォォォ!!』



とは言え、流石にゴウエンマは難敵だな?
タマハミ状態で四つん這いになってるが故に高い位置への攻撃は殆どないが、逆に通常状態よりも機動力が増し、攻撃方法も通常状態より
も増えている……鬼の手を駆使して戦ってはいるが、私と紅月だけでは少しばかりキツイのは否めんか。



「立って下さい八雲、刀也!
 貴方達は里を背負って立つお頭になるのではなかったのですか!」

「お頭などに興味はない……俺はただ守りたかっただけだ。この手から零れ落ちて行く全てを……その為に俺は戦って来た!」

「その程度の覚悟で、お頭になろうなど笑止……!
 私は貴様など認めん……!認めんが、今だけは共に戦ってやる。かぐや様と……マホロバの為に!」

「ふふ……戦力は整いましたね?隊長格四人……盤石の布陣です!」



だが、紅月が八雲と刀也に激を飛ばして立ち上がらせたか……確かに戦力的には問題はないな。八雲と刀也が巧く連携出来るかが若干の
不安要素ではあるが、此の土壇場で反目し合うようなバカが近衛とサムライの頭領を務められる筈もないだろうから、この不安要素は恐らく
杞憂で終わるのだろうな。……にしても、男が素直でないと言うのは何とも気味が悪いモノだな。

そう言えば、ソフィーが私の十束に新たな機能を付けたと言っていたな?センザンオウとの戦いでは使わなかったが折角だ、使ってみるか。
ソフィーは『アインスさんが教えてくれたカートリッジシステムを再現してみたんです』と言っていたが……ふむ、十束に新たに設けられたこの
弾丸装填装置の様な所にソフィーから渡された小さな箱を差し込んで使うのか。
果たしてどんな効果があるのか……喰らえ、紫電一閃!!



――バガァァァァァァァァァン!!



「「「「!?」」」」


な、何だ今のは!?
もしや、斬撃を叩きつけた瞬間に装填した小箱が爆ぜて斬撃の威力を倍加させたのか!?……ゴウエンマの腕を一撃で斬り飛ばすとは、な
んとも凄い威力だ。
其れだけの攻撃をしたのに十束は刃毀れ一つ起こしていないのだから、ソフィーの鍛冶屋としての腕前は最高水準と言っても過言ではある
まいな。
だが、此れは有り難い代物だ……鬼の手と此れを合わせて使えば『鬼』との戦いはより有利に進める事が出来るのだから!

「覇ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!砕けちれぇ!!」

もう一発装填し、今度は角を砕いてやった。
全ての『鬼』に共通する弱点である角を砕かれては、いかにゴウエンマと言えども怯んで動きが止まる……そして、この機は逃さん!!『迅』
のアラタマフリで分身を作り出し、一気呵成に攻める!!
見れば紅月も、同様に分身を発生させたみたいだな。



『ウガァァ!!』



だが、其処は流石のゴウエンマ、直ぐに復活し全身を地面に叩きつける大爆発攻撃を仕掛けて来たか!紅月は流転で受け流したが、私は
真面に喰らってしまい、吹き飛ばされて岩に叩きつけられ、更に上から砂利やら何やらが降り注いで埋まってしまったか。
攻と癒のニギタマフリで死ぬ事はなかったがな。



「シグナム!?」

「大丈夫だ。この程度、屁とも感じん!」

軍神招来で闘気を爆発させる事で私を埋めていた砂利なんかを吹き飛ばしてやった……流石に無傷とは行かず、頭から出血した様だが、こ
の程度の傷、モノノフならば日常茶飯事、一々気にしていては戦えん。
寧ろ、主かぐやの命を受けての戦闘で負った傷ならば逆に勲章だ!――其れに如何やら私は、血を流した方が逆に力が湧いて来るモノノフ
だったみたいだからな!



「……カラクリ使い、お前は何故其処までして戦う?外様の為でも、鬼内の為でもなく、ただこの里の為に戦うと言うのか!」

「貴様が来てからと言うモノ、厄介事ばかりだカラクリ使い!
 此の疫病神め……まいた種の始末はやって貰うぞ!何としても、里とかぐや様を守れ!」



刀也は兎も角、八雲には酷い謂れようだ……確かに、私がマホロバに来てから厄介な事が起きてる事は否定出来んが、だからと言って疫
病神呼ばわりは好かんな。
何よりも、私は主かぐやの騎士だ……決して疫病神などではない!



「神垣ノ巫女の騎士か……だが近衛ではない――近衛でもサムライでもなく、己の意思で神垣ノ巫女に仕える、其れがお前の正義か。
 ……近衛の八雲、お前は何故戦う?お前の正義は何処にある?外様の強いられた苦しみは正しいのか……飢えと寒さに震え、結界のな
 い夜に脅える――犠牲の上に成り立つ世界、其れがお前にとっての正義か!」

「そんなモノが正義であって堪るか!
 だが、全てを等しく救えと、誰か一人に犠牲を押し付ける心算はない!
 神垣ノ巫女が短命な理由を知っているか?限界を超え、命を燃やして結界を張るからだ!私はかぐや様にそんな犠牲を望まない。望んで
 なるものか!」

「なら、一方的搾取を続けるか!」

「違う!別の道を探るのだ!誰も犠牲にならぬ道、其れを探すのだ!」

「そんな事が可能か!真鶴を撃ったお前達に……!」

「……不明は認めよう――だが、成せば成る!成さねば成らぬ!」



そして、ここぞとばかりに八雲も刀也も偽りのない本心をぶつけ合っているな……その熱が戦闘に反映されているのだからある意味凄いとし
か言えないが。
しかし八雲、其れがお前の選んだ道か……だが、主かぐやもまた自分の道を歩み始めているぞ。



「なに?如何言う事だカラクリ使い……!」

「未だ分からないのか?
 何故主かぐやは近衛とサムライの会談を思い付いたのか、其れを考えれば分かるだろう?……主かぐやは、マホロバの未来を見据えて近
 衛とサムライの、鬼内と外様の融和を目指したんだ。
 何故気付かぬ、お前達の対立が幼くも純真で、真に里を思っている主かぐやの心を傷つけてる事に!!」

鬼内と外様の対立など実に下らん。
人の世が滅びの淵に立たされていると言うのに、過去の因縁に固執して対立するなど愚の骨頂でしかない……アインスと桜花が身を置いて
いるウタカタは鬼内も外様も上手くやっているらしいからな。
真にすべき事は対立ではなく融和……主かぐやは幼いながらも其れを理解していたのだ――にも拘らず、大の大人達が正面切って対立等
と、恥を知れ!



「言いたい事を言ってくれるなカラクリ使い……!」

「カラクリ使い、貴様に何が分かる……!」

「生憎と、記憶が無いので何も分からん……だが、鬼内と外様の対立が何も生み出さない不毛で無意味なモノだと言うのは分かる。同時に
 その対立がマホロバを将来的な滅びに向かわせている事もな。」

此のまま対立を続けて行けば、何れは『鬼』にその隙を突かれてお終いだ……緊急時に一致団結出来ないのでは話にならんからな。
真にマホロバの事を思うのならば、鬼内も外様も過去は水に流して団結すべきだろう!『鬼』に滅ぼされようとしているこの世界で、同じ人間
同士で敵対する事に一体何の意味がある!

「過去はもうない、やり直す事も出来ん、ならば此れからの未来の為に『今』何を成すかだろう?
 刀也、過去に守る事の出来なかった者達の事は無念だろうが、その無念に報いる為にも此れからの未来の世界を生きる者達を守る為に
 戦え!
 八雲、主かぐやを大事に思うのならば、過去の因縁などに囚われず、真に主かぐやが望んでいるモノは何であるのかを理解して戦え!!
 其れが出来ぬのであれば、貴様等にモノノフを名乗る資格はない!!」

「何処までも歯に衣着せぬ物言いをする奴だ……だが、言われっぱなしと言うのは性に合わん!」

「ほう、珍しく気が合うな?私もそう思ったところだ。」

「では、如何しますか八雲、刀也?」

「決まっているだろう紅月……」

「先ずはゴウエンマ(コイツ)を打ち倒して里を護る!」



少しばかり言い過ぎたかと思ったが、如何やらこれで正解だった様だ……紅月からは『巧く焚きつけましたね』と言われてしまったが、此れで
やっと本当の共闘と言ったところだな。
此れまでの攻撃で、可成り生命力は削れた筈だから、もう一押しと言った感じだろうが、相手は指揮官級の『鬼』だから油断は出来ん……此
処らでダメ押しの一撃を入れておくか。

「紅月、やるぞ!」

「了解ですシグナム!」



鬼の手を使い、私はゴウエンマの右足を引き千切り、紅月は鬼の手を巨大な爪に変形させて左足を切り落として完全破壊だ。
完全破壊は深層生命力すら完全に消滅させるため、最早ゴウエンマは腕の力だけで這う事しか出来ん……こうなってはもう、此れまでの様
な攻撃は出来ないだろう。



「此れ以上、貴様に好きにはさせぬ!」

「『鬼』は地獄に帰れ!」



更に、八雲が尾を、刀也が腕を鬼千切りで斬り飛ばしたか。既に首の数珠の様な部位は先程の紅月との連続攻撃で破壊している――此れ
で丸裸だな!



『ガァァァァァァァァァァ!!』



逆転を狙った火炎放射も、天ノ岩戸で完全に防いで無効化だ。……此れで終わりにするぞゴウエンマ!
三度小箱を装填し、そして居合で十束を抜くと同時に連結刃状態にしての鬼千切り――あの小箱の破壊力も加わった鬼千切りならば、大型
の『鬼』を両断する程の威力となろう。

「月華の下に散るがいい。」

十束を通常状態に戻し、鞘に戻した所でゴウエンマが崩れ去ったか……私達の勝利だな。



「シグナム……其方も片付いたようだな?
 君達が倒したゴウエンマが、里に入り込んだ最後の『鬼』だ。他の『鬼』は全て倒したぞ!」

「桜花、了解した。
 今です主かぐや、結界を!!」




「科戸の風の 天の八重雲を吹き放つ事の如く 朝の御霧を 朝風 夕風の吹き払ふ事の如く 祓い給へ 清め給へ!」



――ギュオォォォォォォォォォン!!!



此れは……新たな結界が里全体を、外様の居住区までをも覆い尽くしたか――此れがカラクリ石の結晶の力……博士の言った通りの結果
になったと言う訳か。



「かぐや様、この結界は一体……?」

「外様の居住区にも……結界が……?」

「巫女の力を増幅する、カラクリ結界子の力だ。」



博士?其れに神無に時継、そして真鶴も!!良かった、助かったんだな!



「真鶴……!」

「隊長……お元気そうで何よりです。」

「……博士……お前が?」

「患者を治すのが、医者の仕事だ。」

「…………感謝する。心の底から。」

「この程度は朝飯前さ。」



……私達が薬草を手に入れる事が出来なかったらお手上げだったと言う事は言わない方が良いんだろうな――何にせよ、真鶴が助かって
良かったな神無。



「あぁ、お前達のおかげだ。」



神無に礼を言われたが、それに対して焔が『随分素直じゃねぇか』と言ったのは如何にも『らしい』と言った感じだな。
その後で、時継が『結界は里全体に張られた。もう巫女を奪い合う必要はねぇ』と言い、博士が『巫女に負担を掛けずに、能力を限界まで引
き出す』とカラクリ結界子の力を説明してくれた……其れを聞いた桜花が『是非とももう一つ作ってはくれないか?』と頼み込んだのは、彼女
の妹君が神垣ノ巫女だと言うのが大きい気がするがな。



「八雲、刀也……私の力が至らぬばかりに苦労を掛けた。すまなかった。」

「かぐや様……?」

「もう一度だけで良い。もう一度だけ……私に力を貸してくれぬか?此処を本当のマホロバの地にする為に。二人手を取り合って……」

「…………」

「…………」

「……お前と手を取り合うなど反吐が出る。」

「なっ!?そ、其れは此方も同じだ!」

「だが……真鶴、お前の考えは?」

「……今こそ、融和の道を探る時です、隊長。
 現に私と神無はシグナムと、そして近衛の椿と良き関係を築く事が出来ているのですから。」

「そうだな……ならばやろう。この里生きる全ての者達の為に。」

「この里に生きる全ての者達の為、か……ならば、私もやろう。」

「八雲!刀也!」



マッタク持って素直ではないが、刀也も八雲もこの里の為に団結する事を漸く決意してくれたか……此れでマホロバの内乱も終幕と言ったと
ころだろう。
ふふ、今宵は月を肴に美味い酒が飲めそうだ。



「……茶番は其処までだ。」



と思っていたのだが、其処に聞いた事のない声が。
現れたのは単眼鏡が特徴的な白髪の男と、屈強な体躯の大男、そして特徴的な防具を纏った一団……何者かは分からないが、コイツ等が
只者でない事だけは分かる――如何やらマホロバの動乱は、未だ終わりではないようだな。












 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場