Side:シグナム


主かぐやの誘拐を装ってマホロバを脱出し、戦の領域までやって来た……追われる身なので、跳界石を使ってる暇がなかったので、徒歩で
戦の領域までやってくる羽目になったがな。
だが、ひとまずは脱出成功か……主かぐやも目を覚ましたみたいだな。



「……皆、済まぬ。私の力が足らぬばかりに……」

「足らないなんて事はない。貴女は、やるべき事をやっただけだ。」

「…………私は浅はかだったのかも知れぬ。外様と鬼内の和解など……」



主かぐやは、己のした事を悔いて居る様だが……貴女の考えが浅はかだったなどと言う事は断じてありません。
里を護る神垣ノ巫女たる貴女が、里の恒久平和の為に外様と鬼内の和解を考えた事を一体誰が責められましょう?……少なくとも、私は決
して貴女を責めません。正しい事をした主を責める騎士など存在しません。
其れに、貴女を連れ出した事で、一時的とは言え近衛とサムライの争いも止まった筈……諦める手はありません。



「シグナム……そうだな、簡単に諦めてはならぬ。……お主は強いな、シグナム。まるで物語に登場する英雄の様に。」

「物語に登場する英雄ですか……有難きお言葉。そのお言葉に恥じぬように、此れからも務めを果たしましょう。」

「頼もしいな。
 ……まだ道はある筈だ。皆、私に力を貸してくれぬか。」

「……お前が諦めないならな。」

「……約束しよう。私は必ず私の責任を果たす。」



ふ、相変わらずの不愛想だが、神無は主かぐやの願いを聞いてくれるようだ……いや、神無だけではなく此の場に集まった全員が同じ気持
ちだろう。
まだ幼い主かぐやが己の責任を果たそうとしているのだ、大人である私達が其の手助けをせずに何とするだ……カラクリ部隊は博士の私設
モノノフ部隊であると同時に、主かぐやをお守りする為の騎士団とも言えるからな。










討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務172
凶悪なる『鬼』~センザンオウ~』










主かぐやの決意を聞いた後で、椿が神無に『真鶴が近衛に撃たれたって……』と聞いていたが、真鶴は刀也を庇って被弾したらしい……其
の事実に、椿も『どうして……其処までするなんて』とショックだった様だな。
だが、椿の言う通りだ……如何に反目し合ってるとは言え、近衛とサムライ――引いては鬼内と外様の和解を目指す会談の場で、サムライ
の頭領を暗殺しようなどと言うのは正気の沙汰とは思えん。最早対立の根が深いどころの話ではないだろう。



『あ~~、此方博士、聞こえるか?シグナム、其方の状況を知らせろ。』



と、考えて居た所で博士からの通信が入ったか。
此方の状況を知らせろとの事だったが、其れよりも先に神無が真鶴の容体について聞いた、当然だな。……取り敢えず、一命は取り留めた
が状況は芳しくなく、敗血症を起こし掛けているとの事で、此のままでは死に至るか。



「オイオイ、冗談きついぞ?」

『安心しろ、まだ対処方法はある。その『戦』の領域には、時忘草と言う薬草が生えている。
 此れは敗血症に効く。急いで手に入れて戻れ。』




だが、此処には敗血症に効く薬草があるとの事……時忘草と遺跡のカラクリ石の結晶、此れを持ち帰る事が今回の目標だな。
博士が言うには、見た目は百合の様な白い花で、三の丸付近にあった筈との事だ……此れは、薬草調達班とカラクリ石入手班に分かれた
方が良いな。

「神無、お前は薬草を取って直ぐに戻れ。」

「……ああ。」



遺跡まではどの道三の丸を通らねばならないのだが、神無には薬草を手に入れ次第里に戻って貰う事にした……単身で異界を移動するの
は危険だが、神無の実力ならば相当危険な大型の『鬼』と遭遇しない限りは大丈夫だろうし、雨降屋敷に辿り着けば、其処から跳界石で里
に戻れるからな。

さて、目的地までの道中には当然『鬼』も出現するのだが、主かぐやには指一本触れさせんぞ?

「覇ぁぁぁ……火竜一閃!!」

「おぉ、十体もの『鬼』が一撃で……凄い、凄いぞシグナム!」

「此れ位は造作もありません。
 何よりも、我等は貴女を護る守護騎士……この程度の『鬼』に遅れを取るようでは、貴女を護る事など到底出来はしませんしね。」

「守護騎士ねぇ?ガラじゃねぇな。俺には悪役の方がガラに合ってるぜ。」

「だろうな。」

「そうよねぇ……焔の場合、騎士よりも寧ろ騎士に成敗される方よね。」

「……コイツは間違いなく悪役だ。」

「そうだな、焔は完全なヒールだな。」

「テメェ等、ちっとは否定しろっての……」



否定しろとは言われても、其れは流石に無理があるぞ焔?先程の里での悪役っぷりは、この上ない『極悪人』だったからな……流石は元盗
賊と言う感じだ。
だが安心しろ焔、悪役を演じる事が出来る人間に真の悪人は居ないと言うからな……悪役を演じる事が出来ると言うのは、詰まる所自ら汚
れ役を演じる事が出来ると言う事であり、嫌われる役を進んで演じられる好人物との事だ。
つまりお前は心根は此れ以上ない位の好人物と言う事だな。



「褒めてんのか貶されてんのか分かんねぇな……」

「一応褒めているぞ。」

そんな事を言いつつ、道中の『鬼』を撃滅して目的地を目指す――その最中に、新たなミタマ『蘇我入鹿』を入手出来たのは嬉しい誤算と言
う所だったな。
そして、目的地である『天空安土城・三の丸』にやって来たのだが……



『グガォォォォォォォォォォォォォ!!』



其処には巨大な『鬼』が待ち構えていた。
ゴウエンマに匹敵する巨躯に、逞しい四本の腕、そして巨大な棍棒……他の大型の『鬼』とは一線を画したその威容――記憶が無い私でも
分かる――コイツは、此れまで私が戦って来たどの『鬼』よりも強い事がな。



「コイツは……センザンオウ……!」

「おいおい……この前言ってた野郎かよ!」

「こんな時に……!邪魔だ、お前の相手をしている暇はない!」

「な、何なのだコイツは?」

「コイツがセンザンオウ……主かぐや、下がって下さい――グウェン、主かぐやを頼む!」

「分かった……死ぬなよ、皆!」

「神無!『鬼』は私達が引き付ける!貴方は薬を博士に!」

「やめとけ!
 コイツに背中見せたら殺られんぞ!倒して先に進むしかねぇんだよ!やるぜ、シグナム!」



言われるまでもない!
ゴウエンマに匹敵する『鬼』だが、倒して進むしかないと言うのなら、砕いて進むだけの事……何よりも主かぐやの騎士として、敵に背中を見
せる等と言う無様な事は出来んからな。

そうして始まったセンザンオウとの戦いだが……神無が討伐目標としていただけあって、可なり手強いな?棍棒での一撃は、モノノフでも即
死級な上に、四本の腕から繰り出される拳打も強烈無比だ。
あの拳を喰らったら、モノノフでない人間ならば一撃で木端微塵だろうね。



「何故だ、何故今……!もっと早く倒しておけば、俺は強くなったはずだ。なのに、このザマか!」



其れでも、一気呵成に攻め続けた結果、表層生命力を剥がしてマガツヒ状態にする事が出来た……マガツヒ中に、深層生命力にドレ位ダメ
ージを与えられるかが大型の『鬼』との戦いでは重要になってくるな。焔も、『いっちょぶちかますぜ』とノリノリだしね。
その焔は、神無を煽りながらも焚き付けて、神無の本気を引き出そうとしている……マッタク持って、自ら憎まれ役を買って出るとは、この上
ないお人よしだな焔は。
だが、その甲斐あってか、神無は限界を突破して、鬼千切りでセンザンオウの棍棒を持つ腕を切り落として見せた……だけでなく、『空』のタ
マフリである『祓殿』を使って鬼祓いをして部位を浄化するとは流石だな。
マガツヒ中に鬼千切りを喰らわせた事で深層生命力も大きく削る事が出来たが、此れだけでは終わらん!



「どぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁ!!」

「コイツで死んどけ!」



椿と焔が追撃の鬼千切りで足を破壊し、転倒した所を私が陣風で切り刻む……並の『鬼』ならば此処でほぼ終わりなのだが、神無が倒す事
を目標にしていた『鬼』がこの程度で終わる筈がないだろうな。
起き上がるや否や、深層生命力のみとなった棍棒を持って居る腕で殴りかかって来た……巨体な上に巨大な武器での攻撃だったにも関わ
らず恐ろしい速さだったので回避が間に合わなかった――鬼の手の機能の一つである『ニギタマフリ』が無かったら戦闘不能になっていた
だろう。



「ちょ、大丈夫シグナム!?」

「全然大丈夫だ。」

「おま、傷一つ付いてねぇとかドンだけ頑丈に出来てんだ?」

「いや、鬼の手のニギタマフリが無かったら戦闘不能になっていた……即死級の一撃ですら耐える事が出来るとは、ミタマの底力と言うのは
 凄まじいモノだと、改めて実感したよ。」

とは言え、今の一撃は相当に効いたのは間違いないがな。
なので今度は此方の番だ!!



『ウガァァァァァァ!!』

「っと、少し大人しくしてなデカブツ!」



追撃をしようとしてきたセンザンオウに対し、焔は『不動金縛』を使って自由を奪う……センザンオウの力から考えて、拘束していられる時間
は長くないだろうが、敵の動きがホンの僅かでも確実に止まると言うのはこの上ない好機だ。
鬼の手を使ってセンザンオウの頭まで移動し、鬼千切りで角を破壊して気絶状態にし、『懐』のアラタマフリ『天羽々斬』を使って連続鬼千切
りを繰り出して残る三本の腕も全て斬り飛ばす――此れで丸裸だな。
此れだけやってやれば、そろそろ……



――ギュイィィィィン……


『ガァァァァァァァァァァ!!』


「そうなるしかあるまい!」

「来たなタマハミ!テメェの十八番だぜ、神無!」

「全力で行くわよ、皆!!」

「お前等……強いな、シグナム。
 お前達は俺が出会った中では一番強い……だが、最強には届かない――俺も同じだ。姉一人救えずに最強とは笑わせる。
 俺は弱い……それでも!お前達と一緒なら最強にも届く!
 頼む……シグナム!……椿……焔……!俺に力を貸してくれ……!本当に大事なモノを守る為に!」

「面倒クセェ野郎だな?態々頼む必要なんざねぇんだよ!」

「やってやるわよ!そうよね、シグナム!!」

「無論だ……センザンオウ、貴様は私達が――主かぐやの守護騎士たる『ヴォルケンリッター』が倒す!!」

「シグナム、何それ?」

「そう言えばなんだろうな?」

ごく自然に頭に浮かんできたのだが……此れもまた、私の失われた記憶に関する何かなのかも知れん――だが、何となく格好が良いから
ヴォルケンリッターと言うのも良いかも知れんな。

タマハミ状態になったセンザンオウは、切り落とされた腕が全て棍棒の様になって攻撃力が増大したようだが、棍棒がなくなった分だけ、攻
撃範囲は狭くなったようだな。
更に動きも単調になった様だ……タマハミ状態になる事で多くの『鬼』は凶悪な強さを発揮するようになるが、センザンオウの場合は逆に弱
体化するのか――其れとも、タマハミ状態になること自体が稀なこと故に、凶暴化するだけなくその凄まじい力が暴走して制御不能になって
動きが単調になってるのかも知れん。
だが、此れは逆に好機だな。

「此れで終わりにするぞセンザンオウ!」

鬼の手を使って再びセンザンオウの頭まで移動し、十束を連結刃状態にして滅多切りにしてやる……連結刃は、一振りで複数回の攻撃が
出来るから、滅多切りにした場合、その攻撃回数は計り知れないモノとなる。
実際に、この攻撃でタマハミによって再生した腕は全て斬り飛ばしてしまったからな……



「思い出した……強くなりたいと望んだのは、守りたいモノがあったからだ。
 あの暗闇の部屋から出て、見たい笑顔があったからだ。だから……俺は!!」



そして、神無も己が強くなりたいと望んだ根源を思い出したか……そうだ、守りたいモノがあるからこそ、人は強くなる事が出来る。私とて守
りたいモノがあるからこそ強くなるのだからな。
だから、行くぞ神無!



「応!」



鬼の手で、私がセンザンオウの右足を、神無が左足を掴んで完全破壊だ。
足を完全破壊してしまえば立つ事も出来ないだろうと思ったのだが……なんと逆立ち状態になって、深層生命力だけになった腕を足として
使い始めた――タケイクサもそうだったが、何でこう珍妙な奴が居るのだろうな『鬼』と言うのは。
だが、此れまで強烈な攻撃に使われていた四本の腕が足になった事で、センザンオウの力は更に弱まり、攻撃も回転体当たりや四本足で
の踏み付けと、更に単調になったから、こうなればもう私達の敵ではない。

「此れで、終いだ……紫電一閃!!」

紫電一閃を叩き込むと同時に、センザンオウの深層生命力が尽き、その巨体が崩れ落ちる……アインスならば、もっと楽に倒せたかも知れ
ん――私ももっと強くならねばな。



「ウッシ!やりゃあ出来るじゃねぇか!」

「急いで神無、薬を……!」

「分かってる。」



薬草の入手は絶対条件だからね。
其れとは別に、倒したセンザンオウからは新たなミタマが……



『勧進興行へ参りましょう。』

――ミタマ『出雲阿国』を入手した。



また一つ、『鬼』に囚われていたミタマを開放する事が出来たか……果たして『鬼』がドレだけの英雄の魂を喰らって来たのか知らんが、『鬼
』に喰われた全てのミタマを開放するのも私の役目だと思うから、其れも成し遂げねばな。

そして、センザンオウを倒した後は、三の丸で『時忘草』を手に入れ、神無には其れを持って先に里に戻って貰った。



「間に合うかしら?」

「大丈夫だろ。あの女も簡単に死ぬタマじゃねぇ。
 んじゃ、俺達はお宝さがしと行こうぜ。なぁ、シグナム?」

「あぁ、そうだな。」



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さて、そんな訳でやって来た遺跡――カラクリ石の結晶の周囲には相変わらず不可視の壁が存在しているな?――主かぐや、此れを解く事
は可能でしょうか?



「分からぬ……だが、やってみよう!
 ……岐の神よ、如何か我が願いを聞き入れてくれ。我が前の穢れを祓い給え!」



――キィィィン……パリィィィィン!!



此れは……結界が消えた!此れならば、この結晶を里に持ち帰る事が出来る――そうすれば、主かぐやの結界の範囲を広げる事も出来る
ようになる。
ならば一刻も早く、此れを博士に――



『お前達、聞こえるか?』



と思って居た所で博士からの通信が入った……如何した博士?此方はたった今、カラクリ石の結晶を手に入れた所だが……



『よし、では今すぐ里に戻れ。
 里が『鬼』に攻められた。最早内乱どころではない。』

「な、なんだと!?」

『混乱の間隙を突かれました……複数の『鬼』が里に迫っています。
 今、里には結界がありません……簡単に侵入されるのは時間の問題です。
 貴女達の力が必要です……今すぐ里に戻ってくださいシグナム!』




!!よもやそんな事になっていたとは……主かぐやを里から連れ出した事によって生じる悪影響が、こうも早く出るとは思わなかったな?
だが、『鬼』が進行してきている以上、悠長に構えている事は出来ん。一刻も早くマホロバに戻らねばだ――如何にアインスが強いとは言っ
ても、大群が一気に押し寄せて来たら対処するのは困難だろうからな。
私達が戻るまで、如何か持ちこたえてくれ、マホロバのモノノフ達よ!!








――――――








Side:アインス


咎人達に滅びの光を。星よ集え、全てを貫く光となれ。貫け極光……スターライトブレイカー!!


――ドッガァァァァァァァァン!!


マホロバに多数の『鬼』が押し寄せて来たので、スターライトブレイカーをぶちかましてみたのだが……一撃で百の『鬼』を葬るとは、彼女が
生み出した切り札は、不敗の奥義と言っても過言ではあるまい。
神垣ノ巫女が連れ出され、結界がなくなったマホロバを集団で襲うと言うのは、ある意味でセオリーかもしれんが、今回ばかりはそのセオリ
ーは当てはまらん……何故ならば、私がマホロバに居るからだ。
私が、私達が居る以上、マホロバは崩壊させん……逆に貴様等を来た先から塵殺してやるさ――覚悟は良いな?私は出来ている!
さぁ、始めるとしようか……盛大な『鬼狩り』祭りをな!!













 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場