Side:シグナム


戦の領域の遺跡調査を終えてマホロバに戻って来たのだが、妙に慌ただしい雰囲気だな……私達が居ない間に何か重大な事が起きたの
だろうか?
本部には紅月と刀也、そして真鶴の姿が……オイ、一体何があった?



「シグナム……戻っていましたか。」

「サムライが此処に居るのは珍しいと思うのだが……何かあったのか?」

「其れが……」

「……神垣ノ巫女から勅命が出た――外様と鬼内の居住区を統合せよとな。」

「……結界の中に全員が住めるようにする為の措置との事だ。」

「なんだと?」

此れはまた、随分と思い切った勅命を出したものだな主かぐやは……だが、この勅命そのものは悪くない。神垣ノ巫女の勅命ならば、鬼内
だろうと外様だろうと無碍にする事は出来んからな。
尤も、だからと言って問題が無い訳ではないだろうが。



「だが、早速拒否反応が出ている。既に喧嘩騒動が数件……マダマダ混乱は拡大するだろう。
 我等サムライはまだ良い。結界の中に住めるのは寧ろ吉報だ――だが、近衛が身内の反発を抑えられるか……」

「真鶴……矢張りか。」

今まで反目しあって居た者達がイキナリ同じ場所で暮らすと言うのは容易な事ではないからな……紅月の話では、明日、近衛とサムライの
会談が行われ、その場で主かぐや立ち合いの下、刀也と八雲が握手をして和解を示すとの事だったが、果たして巧くいくかどうか。



「…………悪いが、あの男と握手をするなど反吐が出る。
 お前もそう思うだろうカラクリ使い。」

「……性格に難ありだが、悪い奴ではないと思うが……」

「ふ……お前は物好きだな。」

「寧ろ、頭のアレがパカっと開く可能性がある事を考えると、少し面白い奴かも知れんぞ?」

「「「「「「!!!」」」」」」



……そして、行き成り変なモノをぶち込むなアインス!
油断してた所に思いきり喰らってしまっただろう……初穂なんかは『アレがパカっと……ごめん面白すぎる。』って笑いを堪えられなくなって
居るし、刀也も真鶴も紅月も若干ツボったらしく、笑いを堪えるのに必死になっているからな?
何とか笑いを堪えた紅月が、『それでも貴女は行くべきです』と言っていたが、何とも締まりのない感じになってしまったな……場を和ませよ
うとするのは良いが、シリアスな雰囲気を壊すなよアインス。
まぁ、最終的には刀也の方が説得される形で会談には出る事になったのだが、その会談が穏便に済むとは如何しても思えんな?――これ
が、私の杞憂であれば良いのだがな。










討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務171
マホロバの危機?内乱勃発!!』










刀也と真鶴と別れた後、紅月の頼みで里の見回りをしつつ人々の話を聞いて回る事になったのだが、矢張り鬼内、外様のどちらも同じ場所
で暮らす事には抵抗が有るか……外様はオオマガドキ以降鬼内から受けた仕打ちを忘れてはいないし、鬼内は外様が犯した蛮行が、な。
この対立の根は深い……果たして、如何なるモノやらだ。
九葉も『分かり易い話だが性急すぎる。いい結果を生むとは思えん』と言っていたしな……まぁ、『尤も其れは、何れ必要な生みの苦しみか
も知れん』とも言っていたがな……今回は良い結果が生まれずとも、長い目で見ればいい結果に繋がるとか、そう言う事なのだろう。



「よう、シグナム。何しけた面してんだ?」

「時継か……いや、鬼内と外様の対立は私が思っていた以上に根深いと改めて思ってな。」

「成程な……気持ちは分かるが、少し俺達の手に余る話だぜ。
 外様と鬼内の対立は今に始まった事じゃねぇ……古くは千年前、俺達の御先祖様が、異能の力を人に恐れられたのが始まりだ。
 ……普通じゃねえ力を持った事で、御先祖さん達は人里を追放されたのさ。」

「そして、隠れ里に集まって、密かに『鬼』と戦いながら暮らした……か。」

其れから千年、鬼内が外様を嫌うには充分な時間だったか……だが、其れならばなぜウタカタは鬼内と外様が巧くやれて居るのだ?対立
の根が本当に根深いのならば、何処の里でも対立が起きてもオカシク無い筈だが?
シラヌイの里も巧くやって居る様だし……



「そいつはウタカタとシラヌイが特殊なんだ。
 大抵の里では、反乱を恐れて外様は武器を持たせて貰えねぇんだ……そう言う意味では、外様のモノノフ部隊であるサムライが存在して
 るマホロバも特殊な里と言えるかもな。
 だが逆に、外様のモノノフが力を持ち過ぎた事で他の里よりも対立が表面化しちまってるんだ……サムライが存在しなかったら、マホロバ
 戦役で里が滅んでたかもしれないってのに、皮肉なもんだよな。」

「マッタクだ……だが、何故マホロバはサムライを受け入れたんだ?」

「前の長、西歌がサムライを受け入れたんだ。正に里を救った英雄だ。
 だがそいつも今は墓の下……アイツを失った今、里の不和は簡単には解消できねぇ。」

「其の、前お頭とは友人だったのか?」

「うえ?ま、まぁそんな所だな。
 気になるようなら、墓に挨拶にでも行ってみたら如何だ?」

「ふむ……では一緒に行かないか?」

「……悪いが俺は行けねぇ。俺には……そいつに会う資格がねぇからだ……無駄話したな。良い子は夜更かしせずに寝ろよ。」



何やら事情あり、か。其れは兎も角子供扱いをするなよ。
まぁ、遺跡の調査で少しばかり疲れたし良い時間なのでそろそろ寝ようとは思って居たがな――だが、その前に前お頭の墓を参って挨拶を
しておくか。

……で、墓標に参ったのだが、何だこの石は?



――ヒィィィン……


!?



『……この石を拾った者に私の記憶を託す。』



今のは、一体?脳裏に映った黒髪の女性……彼女が、マホロバの前お頭の西歌、なのか?
詳しい事は分からないが、この石、博士に見せた方が良いかも知れんな……若しかしたら、トンデモナイ代物かもしれないからな――と言う
訳で博士の研究所だ。



「お帰りシグナム。如何した、神妙な顔をして……何、不思議な石を拾った?
 ドレ、見せてみろ。……ふむ……珍しいモノを見付けたな。此れは記憶の石と呼ばれる鉱石だ。人の記憶の一部を閉じ込めておく事が出
 来ると言われている。
 だが、ところどころ欠けているな……何とか解析を試みてみるか……この石、暫く預かって良いか?内容が解析出来たら、お前の家に手
 紙で送っておこう。
 取り敢えず、今取り出せる記憶はこんなモノだな。……前お頭、西歌の記憶か、大切にな。」



件の石を渡せば早速それが何なのかを見抜き、更に現段階で取り出せる記憶を速攻で取り出してしまうとは、博士は正真正銘の天才だと
言う事を証明してる気がする。
取り敢えず家に戻り、記憶の手紙を読んだのだが……西歌は真にサムライと近衛の融和を望んでいたのだな。彼女が生きていたら其れも
成し得た事だったと思うと、その死が無念で仕方ない。

……今日はもう寝るか。色々な事が有って些か疲れたしな。
明日、里の行く末が決まる……か。



その日は珍しく夢を見た。
眼帯をした褐色肌に金髪の女剣士と死闘を演じる夢だったが、とても現実的な夢だった……まるで自分が体験しているみたいだった。と言
うか、若しかしたら本当に経験した過去なのかも知れん。
九葉と出会ったその時には既に私は名前以外の過去を失っていたから、それを確かめる術はないのだけれどね。
で、目を覚ましたのだが……



「おはよう、将。」

「アインス、何をしている?」

「良い時間なので起こしに来たら、何やらいい顔で眠っていたので、その可愛い寝顔を眺めていた。スマホが有ったら確実にスクショを撮っ
 ていたね。
 と言うのは取り敢えず良いとして、目が覚めたのならば先ずは鍛冶屋に行ってくれ……ソフィーが、お前の武器の強化案を考えたらしいか
 らな。」

「ソフィーが?其れは、是が非でも行かなくては。」

井戸の水で顔を洗って、鍛冶屋に行ってみれば、ソフィーは鍛冶の技術と錬金術を合わせた特殊な強化法を編み出し、その結果として、特
殊極まりない私の武器も強化出来るようになったらしい。
そして、実際に強化して貰ったら明らかに使い勝手が良くなっていた……錬金術、侮れんな。
そんなこんなで武器を強化しつつ博士の研究所で過ごしていたのだが……何やら外が騒がしいな?件の会談で何が問題でも起きたか?


と、そう思ったのだが……



「テメ、一体!」

「何があった神無?」



其処に真鶴を抱えた神無がやって来た……のだが、真鶴は瀕死じゃないか!一体何が……



「頼む博士……コイツはたった一人の姉だ、助けてやってくれ!」

「銃創……撃たれたのか?……奥に運べ、一刻を争うぞ!時継、輸血の準備だ!」

「りょ、了解!」



何故真鶴がこんな事に……!!一体何があったんだ神無!!



「……近衛に撃たれた、外じゃ殺し合いが始まってる。」

「嘘でしょ……!?」

「……何をしているのですか、八雲!」

「待て、紅月!」

「オイオイどうすんだよ、一人で行っちまったぞ?」



此処は行くしかあるまい……私達で争いを喰い止めねばな。



「落ち着きなヒヨッコども。
 近衛もサムライも何人居ると思ってんだ。俺達だけで止めるなんざ不可能だ――博士からの伝言だ、争いの元凶を取り除く。神垣ノ巫女を
 誘拐して逃げろとよ。」

「如何言う事だ?」

「サムライの狙いは神垣ノ巫女だ。
 かぐやさえ居なくなれば目標を失う。戦う大義が無くなるんだ、奴等は必ず退く。」



成程な。
だが良いのか?そんな事をしたら里の結界もなくなってしまうのだが、近衛が皆殺しになるよりはマシか……そして私がすべき事は、主かぐ
やの力で遺跡のカラクリ石の結晶に有る結界を解かせて其れを手に入れる事と言う訳か。
アレが有れば、里全体を覆う結界を作る事が出来るし、其れが出来ればサムライと近衛の対立理由の一つが消える……やらない理由は何
処にもないな。



「よく言ったぜシグナム。お前以外にゃ出来ねぇ……かぐやを頼んだぜ。
 ……良いか、お前等は悪役だ。大立ち回りを演じてかぐやを連れ去りな!」

「悪役ねぇ……そいつは得意分野だ。」

「待って、どうやって岩屋戸に乗り込む心算?あそこは近衛の城なのよ!?」

「其れについては問題ない。岩屋戸へは秘密通路がある。
 本当は、主かぐやとの秘密なのだが、今は事態が事態だ、主かぐやとの約束を破ってしまうのは心苦しいが、致し方あるまい。」

「そんなモノがあるのか……よし、なら急ごう!」

「ちょ、ちょっと!
 あぁ、もう……行けばいいんでしょ、行けば!!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



秘密通路を抜けて岩屋戸に到着したら、丁度八雲が出て言った所だったが……矢張り主かぐやは悲しまれておられるか。
……無理もない。里の融和を目指して行った筈の近衛とサムライの会談が、里を完全に分断――最悪の場合は共倒れになってマホロバそ
のモノが崩壊しかねない事態に発展してしまったのだからな。

「主かぐや。」

「う、うわぁ!
 な、何だシグナムか……ば、馬鹿者!こんな時に驚かすな!!と言うか何故此処に居る?其れもこんなに大勢で?」

「件の秘密通路を使って……私と貴女だけの秘密を破ってしまい、申し訳ありません。」

「いや、其れは良い。だが、一体何用か?」

「かぐや様、お迎えに上がりました。」

「む、迎えだと?どういう事だ?」

「実は……」

事情を説明すると、主かぐやは矢張り驚かれたが、『私が居なくなる事で争いが止まるのなら』と納得して頂けた……『私は私の責任を果た
さねばならぬのだ』とは、幼いながらも己のすべき事を理解して、そして覚悟を持っていらっしゃると改めて感じさせられました。
ならば私も私の責任を、貴女の騎士としての責務を果たしましょう……暫しの間、手荒く扱う事を、どうかご容赦下さい。

「だが焔、主かぐやは私がお連れするからお前は触れるな。」

「あぁ、何でだよ?俺が連れ去った方が悪役っぽいじゃねぇか。」

「確かにそうかも知れないが、主かぐやにお前の『少し馬鹿』が伝染(うつ)ると困るのでな。」

「テメ、誰が馬鹿だ誰が。」



お前だが何か?
さてと……主かぐやには申し訳ないが、寝たふりをして貰うよりも本当に気絶していた方が『らしく見える』だろうから、首筋に軽く手刀を入れ
て意識を刈り取った。……必要な時には主に手を上げる事が出来るのもまた、騎士に必要な事なのかも知れんな。



「意外と容赦ねぇなお前……だが、此れでらしくなったってか?いっちょ派手にかますぜ!」

「だな……行くか。」

外に出てみれば、サムライと近衛が派手にやりあって居た……今のところ死者は出ていないようだが其れも時間の問題――と言う所で紅
月が割って入り、更に自身に向かって放たれた銃弾を切り落として見せた。
刀也が『貴様本当に人間か?』と驚いていたが……流石は紅月、薙刀の扱いにかけては右に出る者はいないな。
まぁ、其れは今は如何でも良い。頼んだぞ焔。



「ようテメェ等、随分楽しそうじゃねぇか。」



焔がそう言って此方に注意を向けさせると同時に、抱きかかえた主かぐやをこれ見よがしにしてやれば、一時的に争いが止まる程度には衝
撃を与える事が出来たみたいだ……八雲の動揺の仕方がハンパなかったがな。



「悠長にしてると、巫女さん攫っちまうぜ。
 マッタク良い眺めじゃねぇか。ボンクラ共が雁首並べてご苦労さん。」

「何の心算だ?カラクリ使い、お前の差し金か?今すぐ巫女を渡せ。さもなくば生かして帰さん。」

「やなこった。誰がお宝手放すかよ。
 神垣ノ巫女……コイツは高く売れそうだ。涎が出てくるぜ。」

「貴様……正気か!?」

「テメェ等には勿体ねぇ。俺が貰って行くぜ!」



そして焔よ、本当に悪役は嵌り役だな?今のお前は何処からどう見ても『神垣ノ巫女を誘拐しようとしてる極悪人』にしか見えん……私も努
めて偽悪的な顔をしてる心算だが、果たして巧く出来ているだろうか……?

そんな私達を見て紅月は困惑していたが、何かを察したらしく……



「あぁ、何と言う事でしょう!私達が争っている間にかぐや様が!」



一芝居打ってくれたが、言っては悪いが三文芝居だな……嘘が苦手な人間は、こう言う時にはこの上なく頼りにならないと言う事を知りたく
ない時に知ってしまったな。
まぁ、其れは兎も角、最後は焔がサムライと近衛を煽りに煽りまくっておサラバだ。

さて、里での立ち回りは此れ位で充分だろう……目指すは、戦の領域の遺跡だな。








――――――








Side:桜花


まさか、こんな事になるとは思っても居なかったが、神垣ノ巫女を誘拐するとは随分と思い切った事をしたモノだなシグナム達は……時継か
ら連絡を受けていなかったら私も動揺していた事だろう。
だが、あの誘拐がマホロバの為になると言うのならば、私も其れに協力しよう。
去ったシグナム達を、サムライと近衛が追おうとするが……



「……動くな!動いた奴から俺の金砕棒をお見舞いする。」

「私の鎖鎌もあるわよ。」

「私の太刀の錆になりたいのならば動くと良い。」

「指揮官級の『鬼』ですら屠る、此の六爪流をその身で味わいたいというのならば好きにしろ……深き闇に誘ってやる。」



私とアインス、相馬と初穂、そして九葉が立ちはだかって其れを阻止する……数の上ではサムライと近衛の方が圧倒的に上だが、質ならば
私達の方が上だろう。
二度目のオオマガドキを防ぎ、イズチカナタをも退けたのだからね……実際に、私達に阻まれたサムライと近衛は尻込みしているしな。
……尤も其れは、八割方アインスのせいだろう。
六本の刀を抜いたアインスの威圧感はハンパなモノではないからな……一歩間違えれば、アインスの方が『鬼』なのではないかと錯覚して
しまう位だからね。



「停戦しろ。今なら未だ穏便に済ませてやる。
 だが、これ以上やるなら、霊山から鎮圧部隊を呼び寄せるがよいか!
 選べ!内乱の罪で全員仲良く処罰されるか、此処で踏みとどまって生を得るか!」



そして、ダメ押しとも言える九葉の一喝で押し黙ったか。――とは言え、此れは一時的な事に過ぎん、何か切っ掛けが有れば又すぐ火種は
燃え上がるだろう。
そうならない様に私達で何とか抑えるから、目的を果たして出来るだけ早く帰還してくれシグナム……アインスの、妹よ。











 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場