Side:シグナム


アインスと時継、博士と共に相馬達の所にやって来た訳だが……私は兎も角、時継の存在には流石の英雄・相馬も驚くか。――世界広し
と言えども、カラクリ人形が自我を持って動いていると言うのは時継以外にはないだろうからね。
ま、時継への反応は当然の事だとして、博士への反応は矢張り違うか……



「お前は……」

「異界の浄化方法を見つけた人?」

「如何にも。私が天才たる博士だ。
 ちょっとばかり人手が足りなくてな。お前達に協力を求めにやって来た。――勿論タダでとは言わない。この『鬼の手』をやろう。」

「『鬼の手』……?」

「異界を浄化できると言う奴か?」



だが博士も見事なモノで、鬼の手をダシに相馬と初穂の協力を取り付けたか……私と時継、そしてアインスが居れば万全だと思っていた
が、この二人も協力してくれるとなればより盤石だろうな。
相馬に、『鬼の手は信じられるか?』と聞かれるので、其処は『信じろ』と伝えておいた……無理やり外そうとすると爆発すると言う少々厄
介な点を除けば、現状『鬼』との戦いにはとても有効なモノだしな。



「そうか……横浜でお前が戦ったから、俺達は此処で生きて居られる。
 そのお前が使っているんだ、俺も信じて託してみよう。一つ貰おうか、博士。」

「そう言われると、少しばかりこそばゆい感じがするな。」

相馬はアッサリと鬼の手を博士から受け取った……初穂は少し尻込みしていたが、相馬に『お子様だな』と言われると、反発するように鬼
の手を博士から貰ったか。
ともあれ此れで準備は出来たから、出撃するとするか。









討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務170
戦の領域で遺跡調査しましょう』









流石に暇だとは言え、九葉付きの武官なのだから九葉に許可が必要だと思ったのだが、相馬が言うには『何時もの事後報告』をするとの
事だが其れで良いのだろうか?



「『鬼』との戦いならば問題ないさ。
 それにしても事後報告とは、ウタカタの防衛戦の時を思い出すな?今にして思えば、随分と無茶をしたモノだ。」

「無茶だと?ハハハ、馬鹿を言うなアインス。俺とお前と桜花が組んでいたんだ、どんな『鬼』が相手であっても負ける筈がないだろう?」

「……確かにそうかも知れないな。
 まぁ、事後報告になっても致し方ないんじゃないか?九葉は今、あの中――神垣ノ巫女が居る、岩戸の中でお頭選儀の説明をしている
 だろうからね。」

「お頭選儀の説明か、確かに其れはまだ当分出ては来ないだろう。」

主かぐやもその場には同席しているのだろうが、鬼内と外様、近衛とサムライの頭領が揃っている場で、里内での結界の不平等にも触れ
る事だろう……そうなれば、お頭選儀の説明だけでは終わらないだろうからな。
まだ幼いにもかかわらず、否、幼いからこそ誰よりも純粋に里の事を考えておられるのだろう……主かぐやが安心して暮らせるよう、私も
騎士の務めを果たさねばな。
其れでだ博士、遺跡にはどうやって行けばいい?



「遺跡は戦の領域の南東にある筈だ。戦闘はお前達に任せるからしっかりな。」

「任せておけ。『百鬼隊』参番隊隊長の力を見せてやろう。」

「出させて欲しいモノだな、私に本気を。」



博士、貴女もまたモノノフであるのに遺跡調査の時は絶対に自分では戦わないのだな――其れは其れとして頼もしいな相馬、アインス。
先ずは戦の領域にか……跳界石を使うのが無難だな。不要な戦闘を避ける事も出来るし、異界での行動限界時間も長くなるからな。



「おや?アインスにシグナム、其れに時継と相馬と初穂じゃないか?何をしているんだ?」



其れでだ、跳界石で戦の領域の雨降屋敷まで飛ぼうとした所で桜花に会った……何をしていると聞かれれば、博士の仕事の手伝いだと
答える事になるな。
此れから戦の領域にある遺跡に行く所だ。



「遺跡?……ふむ、其れは少々興味があるな。私も同行させて貰おうか?」

「勿論構わないぜ?ちと人数が多いかも知れないが、お前とアインスの強さは折り紙付きだからな。アインスだけじゃなく、お前まで同行し
 てくれるんなら頼もしいぜ。」

「ハハハ、此れでウタカタ防衛戦の時の三人が揃った訳だ。どんな鬼が来ようとも敵じゃないな。」



出撃直前で桜花も加わる事になったが、此れで余程の事が無い限りは負ける事はない戦力が集まったな……思った以上に遺跡の探索
は楽に終わるかも知れん。

改めて、跳界石を使って雨降屋敷に移動し、其処から遺跡を目指すのだが、道中には大型では無いとは言え当然『鬼』は出没するのだけ
れど私達の、と言うよりはアインスの敵ではないな。



「貴様等程度の雑魚共は、私一人で充分だ……消え失せろ、狂獣裂破!!!」



六本の刀を抜いたと思った次の瞬間には、小型の『鬼』が纏めて躯と化していたのだからな……一騎当千とは、正しくアインスの為に在る
言葉と言っても過言ではあるまいな。
更に道中では中型の『鬼』であるマカミにも遭遇したのだが、矢張り敵ではなかった……私と時継と初穂も攻撃していたのだが、それ以上
にアインスと桜花と相馬の攻撃が苛烈で、タコ殴りにされるマカミに若干同情してしまった位だ。――倒すべき『鬼』に同情するとは、モノノ
フとしてあるまじき行為かもしれんがな。
更に更に、翡翠との共同戦線も発生したので、合計二十体のモノイワを撃滅した……割と頻繁に会う気がするんだが、翡翠は一つの任務
が終わったら又すぐ新たな任務を受けているのだろうか?……真面目なのは良いが、適度な休息を入れてくれよ。

激強なアインスのおかげで楽に目的地に到着出来たのだがな……カラクリ回廊――成程、確かに目の前には遺跡と思しき巨大な建造物
が存在している。
此れの中に入って調査をすればそれで終いなのだが、如何やらそう簡単には行かないらしい。



『キョエェェェェェェェェェェ!!!』

「ふ、のこのこと狩られに来たか!」

「ヒノマガトリか……今夜の晩酌は焼き鳥を肴にしようと思っていたから丁度いい。今夜の私のアテになれ。」

「君は『鬼』を……喰っていたんだったなそう言えば。」

「いくら遭難したからって、『鬼』を食べようとは普通思わないわよね……」



……矢張り『鬼』を食すと言うのは普通ではないのだな。――さてと、現れたのはヒノマガトリ……空を飛び、火を吐く中々の難敵だ。
と言うのもモノノフは空を飛ぶ相手に対しては弓矢か銃、あるいは魂のタマフリでしか攻撃できないからだ……が、其れは最早過去の事。
博士が発明した鬼の手を使えば、飛んでいる『鬼』が相手でも近接攻撃を行う事が可能だからな。



「ハァ!!」



……尤も、鬼の手を使わずとも同じ事が出来るアインスは、矢張りとんでもないとしか言い様がないのだけれどね。アインスは『魔力で作っ
た』と言っていたが、同じ事が出来るモノノフは存在しないだろうな。
だが、此れまで飛行中に近距離攻撃を受けた事はないだろうヒノマガトリに対しての空中攻撃は効果抜群で、相馬が懐のタマフリで表層
生命力を低下させれば、すかさず桜花とアインスと初穂が鬼千切りで翼を破壊して飛行手段を奪い、地面に伏した所に時継の連昇と、私
の神風、初穂の鎌鼬が炸裂して足と尻尾も切り落とす。



――ギュオォォォォォン……バキィィィン!!



その猛攻に、ヒノマガトリはタマハミ状態になったが、今更それで怯む私達ではない……此れで決める!!喰らえ、鬼千切り……



「遊びは終わりだ……泣け!叫べ!!そして、死ね!楽には死ねんぞ……ごぉぉぉぉ、朽ち果てろぉぉぉ!!」



と思ったら、アインスが突撃して、六爪流とやらでヒノマガトリに八連撃を叩き込んで後に、首を掴んで爆発させ、更に追い打ちの炎の連撃
を叩き込んだか……この連続攻撃で、ヒノマガトリは見事に焼き鳥になってしまったか。
大型の『鬼』をこうも簡単に屠るとは、お前は本当に恐ろしいモノノフだなアインスよ。



「褒め言葉と受け取っておくよ将。私はモノノフの中でも少々非常識な存在だと言うのは自覚しているからね。」

「尤も、其の非常識さは、『鬼』との戦いでは頼もしい事この上ないがな。
 ……それにしても、流石はマホロバのモノノフだな?時継と言ったか……ナリは小さいが見事は戦ぶりだ。」

「うるせぇよ。言っただろ、俺は勇者だってな。」

「それに……シグナム――やるな、アインスには劣るかも知れんが、お前も相当に強者だと実感したぞ。」

「将は間違いなく強者だ相馬、守護騎士のリーダーとして常に最前線で戦っていたからね。
 そして、将が記憶を完全に取り戻して守護騎士としての力も取り戻したら私よりも強くなる。
 夜天の守護騎士の将にして、管制人格たる私が何らかの理由で暴走したその時は、その抑止力として機能する調停者だったのだから
 ね……ナハトヴァールが無理矢理搭載された事で、お前はその力を失ってしまったがな。」



……アインスの言う事は良く分からないが、私は中々に強いみたいだな。
と言うか、記憶を取り戻したらアインスよりも強いのか私は。
取り敢えずヒノマガトリは倒したから遺跡に入るとするか……初めて遺跡を見た九葉組は博士に此れが何なのかを聞いていたが……



「数万年前の時代の遺物だ。この地域には多くてな。
 オオマガドキ以前は結界に隠されて誰も存在すら知らなかった……さて、早速中に入るぞ。」



何一つ説明になっていないな……まぁ、専門家が素人に説明する時など大抵はこんな感じか。
中に入って見ると安の領域の遺跡とは中央に大きな柱がある事以外は大差ない感じか……いや、カラクリ人形が居ないか。或は、数万年
前から動き続けて居たあのカラクリ人形が特殊であり、他の個体は既に役目を終えたのかだな。



「……信じられない、こんな場所があったなんて。」

「……確かに此れは、俺達の常識の外にある代物だな……」

「古代ベルカの遺跡に似てるか?……古代ベルカの遺跡の多くは、過去に私が『遺跡』にしてしまった物だったりするのだけれどね。」



……さらりとトンデモナイ事を聞いた気がするが、聞かなかった事にしよう。
時に博士、遺跡の中央にあるあの柱は何だろうか?中央部分が光ってる様に見えるが、前に訪れた安の領域の遺跡にはなかったと思う
のだが。



「此れは……カラクリ石の純結晶か?
 ふふふ、喜べお前達、久しぶりの発見だ。極めて純度の高いカラクリ石の結晶だ。時継の身体の中に入っているモノと略同等のな。」



純度の高いカラクリ石の結晶か。
博士が言うには、結晶の純度が高いほど具現化の力が増すとの事で、それこそ時継の様に、死人の魂を定着させる事が出来る程に。…
…使い方次第では、かなり危険な代物だな。
だが、今は結界が張られていて取り出す事が出来ないらしい……主かぐやの力なら或はと言っていたが、神垣ノ巫女たる彼女を里から連
れ出すのは不可能に近いだろう。
無論、直接頼まれれば全力をとしてその頼みを遂行するだけだが。

「……それで、何をしようとしているアインス?」

「零距離で直射砲をぶちかましたら結界が吹き飛ぶんじゃないかと思ってな。」

「……結界だけでなくカラクリ石も吹き飛んでしまうだろうから止めた方が良いのではないか?」

「ハハハ、馬鹿を言うな将。……カラクリ石どころか、遺跡そのものが吹き飛ぶぞ。」

「ウム、絶対に止めてくれ。」

「冗談だ。
 そもそもこの結界は、力技では壊せんだろう……壊すのではなく、中和するのが吉だろうね。――そして其れが出来るのは、モノノフじゃ
 なく、モノノフとは異なる異能の力を持った神垣ノ巫女、か。」

「橘花よりもずっと年下の彼女が神垣ノ巫女……仕方が無いとは言え、少しばかり遣る瀬無いな。」



神垣ノ巫女に掛かる負担は決して小さくないからな。
その負担を少しでも少なくする為にも、我等モノノフは『鬼』の討伐に精を出さねばだろう。『鬼』を倒す事が出来るのは、私達だけなのだか
らな。

さて博士、此れから如何する?



「今は手出し出来ないが、コイツの存在を確認出来ただけで御の字だ。
 此れさえあれば、カラクリ結界子が作れる。」

「カラクリ結界子とは?」

「神垣ノ巫女の力を増幅する祭具だ。
 結界を展開すると、神垣ノ巫女には凄まじい身体的負荷がかかる――命を削る程のな。結界子は、其れを軽減する為に使われる。
 もし、此のカラクリ石を転用出来れば……」

「主かぐやに掛かる負担を軽減するだけでなく、神垣ノ巫女の結界をサムライの居住区に拡大する事も出来る?」

「そう言う事だ。鬼内と外様の対立、その一因を除去できるかも知れんぞ。」

「もしもそれが完成したら私にも一つ分けて貰いたいモノだな。橘花の負担をもっと軽減させてやりたいからね。
 それにしても、鬼内と外様の対立か……ウタカタや他の里では考えられない事だな。」

「む……そうなのか桜花?」

「あぁ、ウタカタは鬼内だろうと外様だろうと分け隔てなく受け入れるし、シラヌイの里もお頭は鬼内だが、暦と言うモノノフは外様だ……にも
 係わらず、歴はシラヌイのお頭を信頼しているし、お頭も暦を頼りにしているからな。」

「まぁ、ウタカタには私みたいな鬼内なのか外様なのか良く分からない奴だけでなく、時を超えまくった腹ペコ銃使いとか、千年以上生きて
 る、元半人半鬼とか、天狐大好きな忍者とか、訳の分からん奴が多いんだがな。
 だが、そんな奴等が集まって巧くやってる事で、何やら化学反応が起きてウタカタは小さい里ながら二度目のオオマガドキを阻止し、イズ
 チカナタの事を止める事が出来たのだがな。」



鬼内と外様の対立と言うのは、如何やらマホロバだけの特殊なモノみたいだな?――いや、普通は鬼内だ外様だで争う方がオカシイのだ
ろう。『鬼』と言う人に対する脅威がある以上、人同士で争ってる場合ではないのだからね。



「さて、そろそろ戻るか。私と桜花は兎も角、初穂と相馬に関しては流石の九葉も怒りそうだ。」

「そうだな……シグナム、今後も何かあったら俺達を頼れ。
 俺は好きなのさ。お前達の様な跳ねっかえりがな。」

「その言葉、褒め言葉と受け取っておくぞ相馬。」

取り敢えず、遺跡に来た収穫はあったな。
今は手出しが出来ずとも、此のカラクリ石は必ず手に入れねばだ……此れを手にれる事が出来れば、主かぐやの負担を軽減出来るだけじ
ゃなく、マホロバの最大の問題である鬼内と外様の対立をも解消できるかもしれないからな。










 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場