Side:シグナム


アインスと共に里を見て回り、今は久遠の茶屋で一休み中だ……其処でアインスから私の事について話を聞いたのだが、矢張り記憶が
ないせいか実感がないな?
姉妹同然に過ごしたと言われてもマッタク持ってその記憶が無いからね……済まないなアインス。
時に、姉妹同然に過ごしたとの事だったが、私とお前、何方が姉の立場だったのだろうか?



「其れは難しい質問だな?
 私とお前は其れ程年が離れている訳では無いし、私もお前も互いに敬語で話す事は無かったから、何方が姉の立場だったとは言い辛
 いな。
 まあ、年齢で言うのであれば私の方がお前よりも少しばかり上だがな。」

「年齢が上なのならば、矢張りお前が姉の立場だったのだろう……私は、手の掛かる妹だったか?」

「いや、お前は何方かと言うと出来た妹だったよ……少しばかり、強者との手合わせを望むきらいはあったけれどね。
 寧ろ、一番の問題児はもう一人の妹だ……あの家事、と言うか料理の腕は如何してあぁなってしまったのか私も頭を悩ませたからな?
 洗濯や掃除は普通以上に出来るのに、どうして料理だけは駄目なのか……一体全体どうやったら、マロンケーキが謎のクリーチャーに
 変貌するんだ?
 出来上がったケーキに目があったんだぞ?しかも見てたんだぞこっちを!『ジー』って!!」

「其れは怖いな……結局どうしたんだ其れは?」

「お前が切って燃やして、私が制作者をパロスペシャルと言う、相手の胴を後ろから足でホールドして、両腕をチキンウィングに極める技
 で絞め上げてお仕置きした……矢張り覚えてないのか。」

「あぁ、残念な事にな。」

「忘れてしまった物は仕方ない――ならばお前は、只のシグナムとして新たな記憶と絆を紡いで行けば良いだけの事さ。
 時に将、此の串焼きは中々旨いな?」



あぁ、確かに旨いが此れは一体何だ?ウナギ以上の脂があるみたいだが……



「恐らくだが、此れはマムシだな。」

「は?」

「だからマムシだよ、毒蛇の。
 マムシの肉はウナギとは比べ物にならない程の脂が乗っているとは聞いていたが、まさかこれ程度はな――それだけに余計にコッテリ
 しているが、その脂に含まれる栄養素はウナギの其れとは比べ物にならないとも聞いた事がある。
 ふむ、此れは体力勝負のモノノフにとっては良い食べ物と言えるな?久遠、追加でマムシの干物か燻製があったら十本くれ。携帯食に
 したいから。」

「お買い上げ、ありがとうございます♪」



マムシって食べられたのか?
その事にも衝撃だったが、あの凶悪な見た目からは想像も出来ない美味しさに吃驚だったよ――さて、鬼の手を通じて博士からのお呼
びも掛かってないから、もう少し里をぶらつくか。

……いや、只ぶらつくのも勿体ないから、刀也と八雲、サムライと近衛の頭に、少し話を聞くのも良いかも知れないな。










討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務169
何だか色々とアレみたいな事らしい』









そう言う訳で先ずは外様の居住区だ。
神無や真鶴と知り合いであるからか、外様の居住区に入っても特に何か言われる事はないな?……矢張り、椿と一緒に来た時に、真鶴
がサムライの隊員を抑えたのが大きいのかもしれない。――真鶴には感謝だな。



「卿か……サムライに何か用か?」

「真鶴か……刀也は何処に居る?少し話がしたかったんだが……」

「刀也と話を?……卿もモノ好きだな。
 刀也ならば瓦近くの訓練場に居る。……それで、連れの方は何者だ?只者ではなさそうだが……」

「私はアインス。ウタカタの里のモノノフだ。軍師九葉と共にやって来た。」

「軍師九葉……お頭選儀の見届け人だったか?卿も、その為に?」

「いや、私はそっちには全く持って関係ない。
 マホロバには知り合いが居たので、久方ぶりに会いに来ただけさ……軍師九葉に同行すると言う名目でな。」

「そうか……だが、シグナムと一緒に居ると言う事は、何れ共に任務に出る事もあるかも知れん、その時は頼りにさせて貰おう。」

「あぁ、頼ってくれていいぞ?何と言っても私は、素手で『鬼』の部位を引き千切り、その顎で『鬼』の角を噛み砕くそうだからな。」

「……何を如何やったら、そんな噂が立つのだ?」

「ゴウエンマを素手でブッ飛ばしたりしてるからなぁ私は……そんな私に致命傷を負わせた、あのツチカヅキは最強すぎると思うなうん。」



偶然真鶴と出会って、アインスとの顔合わせになったのだが、お前が致命傷を負うとはホントにどんな『鬼』だそのツチカヅキは?博士が
聞いたら嬉々として研究しそうだな。

取り敢えず真鶴とは軽く言葉を交わして分かれて、そして刀也の所に……此れは、サムライの訓練かな?精が出るな刀也?



「如何したカラクリ使い、俺に何か用か?」

「あぁ、少し聞きたい事があってな。
 詳しい事は個人情報に当たるから言えないんだが、ある筋から外様が鬼内の事を嫌っている理由を聞いた……だが、其れはその筋か
 らの情報だけで、他の外様がどんな目に遭って来たのかは分からない。
 だから、お前の知る限りで良いので外様がどんな苦しみに遭って来たのか教えてくれないか?」

「……外様が負った苦しみを知りたいか。
 だが、鬼内とて同じようなモノだ。外様ばかりが苦しんだとは言えん――オオマガドキ以降、誰もが夫々の傷を抱えている。
 ……俺も娘を喪った。」



何、だと?
アインスも驚いているみたいだな此れは。



「孤児を拾って育てていた……だが、流行病で亡くしてしまった。此処とは別の里に居た頃の話だ。
 ……あの時、鬼内の医者達は治療を拒否した。ただ、外様であると言うだけで。」

「なん、だと?たったそれだけの理由で重病患者の治療を拒否したと言うのか?……ふざ、けるな!人の命を何だと思っているんだ!」



!!怒りのあまり、アインスが銀髪になっている!?
落ち着けアインス、私も同じように憤りを感じたが、その怒りを抑えてくれ……下手したらお前の怒りの力で里が吹き飛びかねんからな。



「す、スマナイ将……余りにもムカついたのでつい。」

「他者の為に怒れるか……九葉と共にやって来たモノノフは珍しい奴だな。
 ……ふぅ、今でも思い出す。雪の降りしきるあの晩……誰にも救って貰えず、娘は一人死んでいった――あそこに見える桜の木は、あ
 の子が大切に育てていた物だ。皆の好意で此処まで運んでもらった。
 シグナム……この世には『悪』がある。其れを斬るまで、立ち止まる心算はない。」



……外様が鬼内を憎む理由は、神無が言った事だけではないみたいだな?……外様だと言うだけで、救える命を見殺しにされたと言う
のは、恐らく刀也だけではないのだろう。
刀也と同じような経験をした奴が他にももっと居るのならば、外様が鬼内を憎むのも致し方ないと言えるが――椿は外様もまた里殺しをし
ていたと言っていた。
こっちは八雲に聞いた方が良いな。

話を聞かせてくれた刀也に礼を言って、今度は鬼内――近衛の本拠地……



『シグナム、準備が出来た。カラクリ研究所に戻って来い。勿論アインスも一緒にな。』



と思っていた所で博士からの通信か――準備が出来たと言うのならば行かねばなるまい……外様側からの意見しか聞く事が出来なか
ったのは残念だが、ある意味では其れで良かったのかもな。
八雲に話を聞きに行ってたら、外様に対する罵詈雑言が此れでもかと言う位にあふれていただろう事は想像に難くないからな。
主かぐやの事を大事にしてるのは良いが、何とかならんのかあの石頭は?一度頭をカチ割ってやろうか?



「八雲の頭をカチ割ったら、頭は割れないが、あの珍妙な後ろ髪は間違い無くパカッと開くだろうな。うん、絶対にそうなる。断言する。」

「ぶほぉぉぉぉ!?」

な、何だその想像はアインス?思わず吹き出してしまっただろう!……クールな見た目乍ら、トンデモないボケを飛ばしてくるとは、モノノ
フとしての実力だけでなく、アインスは凄い奴なのだろうな。



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と言う訳で、戻って来たぞカラクリ研究所。博士、準備が出来たんだな?



「戻ったか……支度は済んだ。そろそろ遺跡に向かうぞ。
 だが、アインスが居るとは言え、追加の戦力が欲しいのも確かだからな……暇そうにしてる連中を連れて行くぞ。」

「暇そうにって、そんな奴が居たか?」

「一番暇なのはお前じゃないか博士。」

「アインス、其れは言っちゃいけねぇ……コイツは暇に見えて結構色んな研究してるからな――まぁ、その大半はあんまり役に立たねぇっ
 て代物なんだけどよ。」



時継、其れはマッタク全然フォローしてない。寧ろ死体蹴りに等しい追撃になってるから。博士じゃなかったらメンタルダメージがトンデモ
ない事になってるからな?
そして、実際に言われた博士が何処吹く風なのが若干怖い……ではなくて、暇そうにしてる奴など居たか博士?



「何だ、いるじゃないか……暇そうにしてる軍師付きの武官が二人も。」

「軍師付きの武官……九葉の部下――若しかして相馬と初穂の事か?」

「あぁ、其れは確かに暇を持て余してるだろうな。
 ウタカタを出発する前にも、相馬は『今回の任務は暇すぎて死んでしまうかも知れん』と言っていたからな……加えて初穂は、あの性格
 だから、暇に耐えられる筈もない。
 其れを考えれば、相馬と初穂を戦力として引き入れるのは悪い案ではないと思うよ――あの二人の実力は、私が保証しよう。」



そう来たかアインス……だが、暇を持て余していると言うのならば、その暇を解消してやらねばなるまい――暇の蓄積は、やがて怠惰を
呼び覚ましてしまうからね。
イツクサの英雄の一人である相馬、アインスと同じ里のモノノフである初穂……お前達の力、見せて貰うぞ!








――――――








Side:相馬


九葉殿の護衛も兼ねてマホロバに来たんだが、如何せん暇すぎる――俺達に付いて来ただけのアインスと桜花は九葉殿の傘下ではな
いので自由に動く事が出来るが、軍師付きの武官である俺達はそうも行くまい。
退屈ではあるが、お頭選儀が終わるまでは耐えるしかあるまいな。――だが、俺達が来る必要はホントにあったのか?



「其れを言っちゃう?」

「此れだけの事に、俺程の力は必要あるまい?」

「アインスが居るんだけど?」

「……スマン、言い過ぎた。」

俺は英雄だが、アインスは俺を遥かに超えて強いからな……だがアインスが居るのならば、俺達は必要なかったんじゃないか?



「アインスと桜花を誘ったのは君でしょ相馬?」

「そう言えばそうだったな。」

無意識のうちに、俺はアインスを頼っていた訳か……情けない、英雄が聞いて呆れるな?――ならば、俺はマホロバで心を鍛えねばな
るまい。
この先に何が起きても、決して動揺する事のない、しかし人の死を嘆く事の出来る心を会得せねばだな。


とは言え、此の暇感は如何ともし辛い――如何にか解消する術はないモノか?



「ったく、何時まで漫才やってんだ?」

「暇だと言うのならば、私達に力を貸さないか相馬?そして初穂。」

「君は……」

「お前は……」

シグナムか!……其れだけではなくアインスと、謎のカラクリ人形と胡散臭い女も一緒か……何ともとんでもない事が起こりそうな気配が
ビンビンするが、其れ以上に俺の血が昂ってるな?
ふ、如何やら面白い事が待っているみたいだな?……ならば、俺が黙っている理由はない――コイツ等の言う事の内容次第だが、場合
によっては共闘できるようにしておいた方が良いだろう。
シグナムとアインスの戦闘力は英雄級のモノノフを遥かに超えているから、この二人が協力すれば、どんな『鬼』だって葬る事が出来ると
思うしな。









 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場