Side:シグナム


クエヤマを倒し、上杉謙信のミタマから瘴気の穴の場所を教えて貰って、其れを探しているのだが……



「しっかしテメェ良く付いて来たな?馴れ合いはしないとか言ってなかったか?」

「……探している『鬼』が居る。
 サムライも近衛も恐れる強大な『鬼』――センザンオウ。この付近で目撃された事があるらしい。」

「……定期的に現れては討伐隊を襲っている『鬼』ですね。」

「そんなのが今出て来たら、俺はトンズラするぜ。タマフリ使っちまったっての。」

「あぁ、其れならば安心しろ焔……私が賭のタマフリで、全員のタマフリの回数をある程度回復しておいた。『大大吉』の状態で使ったから
 かなり回復してると思うぞ。」

「此れは、確かに回復していますね。」



目的の場所は中々見つからないな……まぁ、道中での会話には突っ込みたい所もあるがな。……と言うか、何時の間に私達のタマフリを
回復していたのだろうかアインスは?
まぁ良い。時にそのセンザンオウとやらが現れる可能性はないのか?



「異界の深部にしか出ない筈です。この周辺なら安全でしょう。」

「そいつを聞いて安心したぜ……んで、何だってその『鬼』を探してんだ?」

「そいつを倒せば最強に近づける。」

「……馬鹿を通り越して変態だな。」



……其れは言ってやるな焔。
神無にとって、最強になると言うのは絶対に譲れない目標なのだろうさ……其れにだ、恐らくはセンザンオウとやらを倒した所で神無はき
っと満足はしないだろう。
センザンオウと言う『鬼』がどれ程強いかは知らないが、其れをも上回るであろうアインスと言う規格外のモノノフが存在しているからな。










討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務167
戦の領域浄化完了と軍師の思惑』









上杉謙信のミタマが見せてくれた光景を頼りに『戦』の領域を探索を続けているんだが、中々あの場所が見つからないな?
――この辺の景色はあの時に見た場所に似ているから、そろそろだと思うんだが……



「瘴気が濃くなって来た……近いぞ、気を引き締めろ。」



……神無の言うように、確かに瘴気が濃くなって来たな――我々モノノフであっても、この瘴気を一度に大量に吸い込んだら致命傷にな
りかねないだろう。
だが、此れだけの瘴気があると言う事は……



「あったな。コイツで間違いねぇ……」

「此れが瘴気の穴……何と言う禍々しさだ――まるで、闇其の物だな此れは。」



闇其の物か……言い得て妙だな桜花。
だが、だからこそ最優先で封じねばならないんだ――この穴がある限り、瘴気の流出は止まらず、異界はドンドンと広がって行ってしまう
からな。
……って、お前は何をしてるんだアインス?



「いや、私の力をもってすれば瘴気の穴を斬って破壊する事が出来るじゃないかと思って六爪流で斬り付けてるんだが、マッタク持ってな
 んの反応もないんだ。
 私に斬れないモノがあるとは驚きだが、同時にムカつくから、瘴気の穴に入って中に居る『鬼』を皆殺しにしてくるとしよう。」

「待て、早まるなアインス!」

お前がいかに強くとも、瘴気の穴に飛び込むと言うのは自殺行為以外の何者でもない――お前だったら中に居る『鬼』を全滅させてしまう
かも知れないが、瘴気の穴に入ったらどうなるのか分からないのだから止めておいた方が良い。
戻って来れたなら未だしも、お前が飛び込んだ瞬間に穴が閉じてしまったら、お前は永久に異空間を彷徨う事になるかも知れないのだか
らな。



「何故だろう、アインスならば例え異空間に閉じ込められても自力で元の世界への扉をこじ開けてしまう様な気がする。」

「その可能性は否定出来ませんね桜花……ですが、其れは其れとして急ぎましょう。
 アインスに浄化して貰ったとは言え、この瘴気を長い時間吸い込むのは危険ですから。」

「あぁ、そうしよう……準備は良いか皆?桜花も、私達と同じようにやってくれ。」

「了解した。」

「将、鬼の手を持たない私に出来る事はあるか?」

「……邪魔しに来た『鬼』を片っ端から葬ってくれると助かる。」

「そう言う事ならば任せておけ……私は『鬼』を討つ『鬼』すら超越した存在だからな。」



其れは何だ?と聞きたいが、並のモノノフとは比べ物にならない存在だと言う事なのだろうな……確かに、一撃で複数の部位を同時に破
壊する鬼千切りなど初めて見たからね。

さてと……鬼の手よ、瘴気の穴を塞げ!!



――キィィィィン……


『正しきが勝つ!』


――バリィィィン!!




「浄化、完了だな。」

「フゥ……身体に清浄な空気が満ちて行きますね。」

「良い感じじゃねぇか?この調子なら全部の領域やんのも簡単だな。」

「あまり調子に乗るのは良くないと思うぞ焔?
 今回は巧く行ったが、何時も巧く行くとは限らないからね……勝って兜の緒を締めよ、勝利や成功の後こそ油断は禁物だ。」

「桜花の言う通りだな……そんなだから、紅月に少し馬鹿と言われるんだ。」

「此れまでは少し馬鹿なのかと思っていましたが、此処まで来ると少しではなくて大幅に馬鹿なのかもしれませんね……」

「ならばいっその事アルティメット進化させてキング・オブ・馬鹿で良いんじゃないか?頭文字をとってKOB……頭文字表記だとちょっとカッ
 コ良いしね。」

「人の事、バカバカ言うんじゃねぇ!それとアインス、微塵もカッコ良くねぇよ!」



……取り敢えず瘴気の穴は塞ぐ事が出来たか――此れからは此処が戦の領域におけるカラクリ部隊の拠点になる訳だ。
瘴気の穴を塞いだ周囲は清浄な空気に満ちている上に、何かしらの結界的なモノがあるらしく、『鬼』が一切寄り付かないからね。



「……ほう、面白い事をしているなお前達?」



この声は……九葉か。其れに、相馬と初穂も一緒とは……私達の後を付けていたのか?



「悪く思うなシグナム。此れも職務なのでな……尤も、お前は気付いていたのだろうアインス?」

「あぁ、気付いていたよ九葉……尤も、お前の事だから何か目的があっての事だろうと思って放置していたんだがな……で、何をしていた
 んだお前達は?」

「其れはだな……」

「此れは……信じられん。異界の瘴気が消えている……お前達がやったのか?」



……相馬、人のセリフに被らせるのは如何かと思うぞ?
だがまぁ、異界の瘴気が消えていれば驚くのも無理はないだろう……例えそれが異界の一部だけであったとしてもな――だが、それをや
ったのが私達だったとしたらどうだと言うんだ?



「す……凄いじゃない君達!」

「「「「え?」」」」

「初穂、君と言う奴は……少しは空気を読んでくれ。」

「言ってやるな桜花……実年齢は五十七歳でも、身体と精神は十七歳だから色々と仕方ないんだ。」



……アインスが何か気になる事を言っていたが、凄いと言われるのは悪い気分ではないな。



「異界を浄化出来るだなんて、こんなの一度だって見た事ないわ!ねぇ、相馬!」

「……あぁ、コイツは夢を見ているようだ。
 どうやったかは知らんが、此れなら異界を人の手に取り戻せる。」

「……相馬。」

「……無沙汰をしているな紅月。十年振りか……お前も自分の戦いを続けているようだな?」

「……元気そうで何よりです相馬。
 ですが人をつけるのは感心しません。用があるのならば正面から正々堂々と来る事です。」

「ハハハ!相変わらず手厳しいな――その点については、九葉殿に釈明して貰おう。」



ふむ、紅月と相馬は知り合いだったのか……そう言えば、九葉達がマホロバに来た時、相馬の事を『イツクサの英雄』と言っていた人が
居たな。
紅月もまたイツクサの英雄と呼ばれているから、共にオオマガドキを戦った仲間なのかもしれないね。

「では、相馬がお前に丸投げしたから聞かせて貰おうか九葉?」

「釈明など必要ない。
 今はお頭選儀の最中……全てのモノノフの素行を調べるのは当然だ――その全員が、新たなお頭の候補なのだからな。」



全員がお頭候補、だと?
既に新たなお頭には八雲と刀也が名乗りを上げていた筈だろう?……其れなのに、マホロバのモノノフ全員が新たなお頭の候補になる
と言うのか?



「言っただろう?近衛もサムライも知った事ではない――誰がお頭に最も相応しいか、この目で見極める。
 ……イツクサの英雄の一人・紅月、閑職に甘んじて何をしているのかと思えば…………成程、面白い事をしている。……其れに、私の
 腹心の部下がその一員とは、世の中、何が有るか分からんものだ。なぁ、シグナム?」

「お前、此処で私に振るのか?」

「腹心の部下だぁ?」

「……このオッサンと知り合いか?」



少し馬鹿なのと脳筋が喰いついて来たなマッタク……昔の事だよ。九葉の部下だった時期があった、其れだけだ。



「そう、もう随分と昔のな……」

「彼は軍師・九葉。十年前、横浜防衛戦を指揮した司令官です。」

「……嘗ての上役と言う事か。」

「そう言う事だ。
 ……しかし……異界の浄化など、常人の考え付く事ではない――お前達の背後には誰が居る?」



誰と問われればそれは博士だと答える事になるな。
マホロバの小高い丘にあるカラクリ研究所の主だ――彼女が異界を浄化する方法を見つけたんだ。



「ほう……魔女と呼ばれているあの女か……何れ挨拶に行かねばならんな。」

「挨拶に行くのならば手土産位は用意しろよ九葉?
 羊羹はありきたりだから、そうだなカステラが良いと思う。甘いものが嫌いな女性はそうそう居ないだろうが、博士ならば羊羹よりもカス
 テラの方が好みだと思うからな。」

「アインス、其れは君の好みだろう?」

「一児の父、二児の母、三時のおやつは文明堂。」

「……意味が分からん。」

「……紅月、お前には期待している。英雄の力、目にするのが楽しみだ。」



……アインスと桜花の遣り取りを完全に無視して話を進める九葉は流石と言うか何と言うか……だが、紅月に期待しているとは――九葉
が期待すると言う事は、矢張り紅月は最強クラスのモノノフと言う事か。



「英雄など過去の事……今は一介のモノノフに過ぎません。」

「如何かな?人は自分で思う程己を知らぬものだ。――まぁ良い。行くぞ相馬、初穂。お頭選儀の『視察』を続ける。」

「了解した。今度詳しく話を聞かせてくれシグナム。」

「きっとよ、約束だからね!」

「あぁ、分かった。約束だ。」

「其れからアインスと桜花、お前達は百鬼隊でも軍師付きの武官でもないから何をしようと自由だが、あまり面倒事だけは起こしてくれる
 なよ?
 面倒事の後始末は、何かと面倒なのでな。」

「分かった。精々、マホロバにダイレクトアタックして来た『鬼』をスターライト・ブレイカーで抹殺する程度に留めておくよ。」

「分かった、面倒事を起こす気しかないのだな?」

「……冗談だ。」

「信じて良いのか?」

「冗談と言うの嘘で、嘘だと言うのが妄言で、妄言だと言うのかフェイクだな。」

「うむ、意味が分からんな。」



マッタクだな。
だが、何にしても此れで目的は果たしたから里に帰るとするか――こんな時、跳界石の瞬間移動能力は有り難い。また、異界を通って戻
る手間を省くことが出来るのだからね。
取り敢えず帰ったら禊だな……アインスが浄化してくれたとは言え、其れでも瘴気を吸い過ぎたから、穢れを落とさねばだからな。











 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場



なので、マホロバの里に戻ってきて禊場に来たのだが――考える事は同じだったみたいだな紅月、アインス、桜花?



「貴女も来たのですねシグナム……ならば、共に穢れを祓いましょう。」

「其れと良い機会だから、少し話さないか?任務とかじゃない、普通の話を……」

「任務で火照った身体には、禊場の冷たい水が気持ちいい……突っ立ってないでお前もこっちに来い将。禊で身を清めようじゃないか。」



考える事は同じ、そうだな。
ならば、お前達との禊の時間を楽しませて貰うとするよ。


……時に何で桜花は私とアインスの胸を凝視していたのかが分からないな?……『羨ましい』と呟いていたみたいだが、一体何が羨まし
かったのか謎だな。



「其れは、胸部装甲の装甲厚だな。
 桜花も其れなりなんだが、私や将と比べたら……ね。」

「?」

「分からないのならば分からないで良い……将、お前は変なモノに毒されないくれよ。」

「あ、あぁ、分かった。」

とは言っても、その変なモノが分からないのだけどね――取り敢えず、有意義な禊の時間だった事だけは間違いないな。