Side:シグナム
『戦の領域』で、目的の大型『鬼』のクエヤマを見つけ、そしてアインスが銀髪赤目に変わった……姿が変わったアインスからは途轍もな
い力を感じる……此れだけの力を持ったモノノフが味方だと言うのは心強い事この上ないな。
「君もそう思うかシグナム――だが、此れでも未だアインスは全力の全てを出している訳では無い。
アインスが本気の本気になった時には、顔には赤い紋様が現れ、腕と足には其の強大な力を制御するかの如く、革製の帯が巻きつけ
られるからな。
紅月は知っているだろう?」
「勿論知っていますよ桜花――そして更なる全力を出したアインスは銀髪銀眼になる事も。」
「身勝手の境地だな……マッタク、アインスの実力は底が知れない。」
馬鹿な、アレでもまだ全力を出しては居ないと言うのか?……だとしたら、アインスはいったいどれほどの力をその身に秘めているんだ?
「将、其れはその目で確かめろ。百聞は一見に如かずと言うだろう?」
「アインス……そうだな、確かに其の通りだ。」
ならばまずはお手並み拝見と行こうかアインス――ウタカタの里では最強と称されていたと言うお前の実力、見せて貰うぞ!
討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務166
『鬼はぶっ殺せ!寧ろ滅殺しろ!!』
と言った感じでクエヤマとの戦いが始まった訳だが……よもやアインスの力が此れまでとは、予想を超えた強さと言うのは此の事か?
クエヤマは、その巨躯と怪力が持ち味の大型の『鬼』で、その一撃を喰らったら例えモノノフでも命に係わるのだが――
「如何したウスノロ?自慢の怪力も、当たらなければクソの役にも立たんな?
ふむ、存外人間を刺す蚊も同じような気持ちなのかもしれないな?当たれば略確実に死に至る攻撃も、当たらなければ怖くないか。」
『ゴガァァァァァァァァァ!!』
「ふん……図星を刺されて怒ったか?悔しければ当ててみろ。」
その攻撃は一切アインスには当たらず、全て華麗に回避されてしまっている。
其れも、全て直撃ギリギリまで引き付けてからの回避だ……当たると思ったその瞬間に避けられると言うのを続けられているクエヤマは
さぞかしイライラが募っている事だろう――『鬼』にそう言った感情があるかは知らないが。
更にアインスは防のタマフリである『挑発』を使ってクエヤマの注意を自分に引き付けた上で其れを行っているからな……其れだけ見れ
ば誰でも出来るように思えるだろうが、直撃寸前で回避する等、余程の動体視力と瞬発力が無ければ不可能だ――銃弾が発射された
のを見てから回避する位の事が出来なければな。
この回避能力だけでも、彼女の凄さが分かると言うモノだが……其れは其れとして、クエヤマの注意がアインスに向いているおかげで、
私達も至極攻撃がしやすい!!
「真下がガラ空きだ……紫電一閃!!」
「何処を見ているのです?相手はアインスだけではありませんよ!」
「アインス……後で勝負して貰おう。」
「テメ、そんな事言ってる場合か?アイツと戦う前に、先ずはこのデカブツをぶっ倒すのが先だろうが!」
「アインス、矢張り君は頼もしい――此れは、君の相棒として私も負けられないな。」
アインスを狙った攻撃の隙に、全員で波状攻撃を仕掛けていく――が、流石は大型の『鬼』……耐久力が小型や中型とは段違いに高い
な?
ミフチやオヌホウコならば、関節を狙って簡単に部位破壊できるのだが、全身を分厚い死亡と筋肉に覆われたクエヤマが相手だと其れも
難しいか。
『ウガァァァァァァァァァ!!!』
!!
此処でクエヤマが大きく飛翔した!?……拳が当たらない事に業を煮やして、その巨体で踏み潰そうと言うのか!!
クエヤマの落下地点にはアインスが……まさか、此れもギリギリで回避する心算なのか!?幾ら何でも危険すぎる!逃げろアインス!
――ガシィィィィ!!
「ふん……その巨体で押し潰そうと言うのは悪くない手だが、其れは相手が私でなければの話だ。
私が相手の場合に限って言えば、そんな攻撃は蚊に刺されたほどにも感じない……寧ろ、お前の方が滅びろ、この木偶の坊が!!」
って、片手でクエヤマの巨体を受け止めて、更にはその足を掴んで投げ飛ばしただとぉ!?
「オイオイオイ、何だこりゃ?俺は夢でも見てんのかサムライ野郎?」
「俺に聞くな。俺だって少し自分の目を疑ってるんだ。お前は如何だ、シグナム。」
「私だって大凡信じる事が出来ない光景だが、しかしこうして目の前で起きてしまった以上は現実であると認めるしかないだろう……クエ
ヤマの巨体を投げ飛ばすとは、アインスは本当に人間なのか?」
「……アインス曰く、『人間の姿をした人間に限りなく近い人間ではない何か』らしいぞ?何時だったかそんな事を言っていた。
だが、此の程度で驚いている事は出来ないぞ?アインスの攻撃は此処からだからな。」
「桜花、其れはどういう事だ?」
「見ていれば分かりますよシグナム。」
紅月まで……此処から一体何が始まると言うんだ?
「さて、お前のターンは此れで終わり――此処からはずっと私のターンだから覚悟しろ……もう、遊びは終わりだ!!」
アインスがそう言った瞬間、クエヤマの腕が吹き飛んだ。
アインスの両手には六本の刀が展開されていたのを見る限り、アレで斬り落としたのだろうが、剣閃が全く見えなかった……いや、彼女
が抜刀したのすら分からなかったとは、先程までの回避も、全力の速度では無かったと言うのか――恐ろしいな。
更に其処から猛攻は続き、部位破壊をされた事でマガツヒ状態になったクエヤマの生命力をガンガンと削っていく……一騎当千と言うの
はこの事を言うのだろうな。
とは言え、彼女だけに任せるのも如何かと思うのでな……私も鬼の手で一手加えさせて貰う!!
「そうですね……行きましょうアインス!」
「お前と同じ意見とは、実に気分が良いな紅月!」
紅月と共に鬼の手を起動して私は右足を、紅月は左足を鬼の手で掴んで引き倒し、其のまま鬼の手を巨大な剣に変形させて両足を完全
破壊だ。
内部生命力すら消し飛ばされた事でクエヤマは真に両足を失った……もう立つ事も出来ないだろうな。
「内部生命力すら消し飛ばすほどの部位破壊、其れが鬼の手の力か……此れは是非とも量産して各地の里に配りたい代物だな?増産
の予定はないのか将?」
「材料であるカラクリ石が貴重なモノだから現状では量産は難しいらしい。」
「カラクリ石……里に戻ったらソフィーに錬金術で作る事が出来ないか聞いてみよう。錬金術で錬成できれば、その素晴らしい装備を『鬼
』と戦っている皆に配る事が出来るからね。」
「錬金術とは、そんな事も出来るのか?」
「出来るんじゃないか?
錬金術はやろうと思えば食べ物だって作れるからなぁ……アーナスに頼まれてチョコレートを錬成してた事もあったし――っと、其れは
其れとして、まだ終わってはいないみたいだぞ将?」
「……如何やら、その様だな。」
私と紅月によって両足を完全破壊されたクエヤマだが、其れでもまだ生命力は削り切れていなかったようだな?
両足を失いながらも、腹部の口を開いたタマハミの様な姿になったか……非常に有り難くない事だが、クエヤマのタマハミの気持ち悪さ
は確りと覚えてる――まぁ、此れは確かに強烈だからな。
「タマハミよりも気持ち悪いな……正直触りたくない。
なので、此れでも喰らえ。そして其れを喰らってそのまま死ね。」
と思ったらアインスがクエヤマの腹の口に何かを放り込んで――
――Bom!!!
『ミギャァァァァァァァァァ!!!』
そして爆発した。……アインス、今放り込んだのは何だ?
「フラムと言う、ソフィーが錬金術で作り出した爆弾だ。
『今回は特別上手に出来た』と言っていたが、まさかこれ程の破壊力があるとはね……うん、流石のクエヤマも内部からの大ダメージを
喰らったら完全に天に召されたようだな。」
「うっし、トドメは貰ったぜ!」
「ふざけるな、やったのは俺だ。」
「喧嘩は禁止ですよ焔、神無――そしてやったのはアインスです。」
「紅月、君のその冷静さは私も学ぶ所が多いな。」
……取り敢えずクエヤマは此れで討伐だが、ミタマは――
――シュン!
『義を持って戦わん!!』
――ミタマ『上杉謙信』を入手
無事に手に入ったようだな。
しかも今回手に入れたのは、軍神と名高い戦国最強とも言われた武将『上杉謙信』か――此れは、至高のミタマを手に入れたと言える。
「さてと、『鬼』はぶっ倒したけど、新しいミタマは宿せたのかよ?」
「将、何か感じるか?」
「何かと言われても特別な事は感じないが……な、何だ此れは!?」
行き成り私の身体が光に包まれて……此れは、空間転移か!?
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『光……此れは光か?……そうか、卿が私を解放してくれたのか。
我は上杉謙信――毘沙門天の申し子……騒々しい甲斐の虎と戦っていた筈だが……気付けばこんな所に来てしまっていたか。
静けさとは寂しいモノだな……信玄が居た頃は感じなかったが……だが、また賑やかになりそうだ。
宝は心にあり。ミタマとなっても我は何も変わらぬ――義をもって恩に報いる。
卿に見せよう、我を拘束している時の扉を……』
此れは……此処が『戦』の領域の瘴気の穴――雨降屋敷か。
成程、新たな領域で大型の『鬼』からミタマを手に入れれば、その領域の瘴気の穴を知る事が出来ると言う事か――その影響で空間転
移すると言うのは、まぁ仕方ない事と思っておくか。
瘴気の穴の場所が分かるのならば、私が空間転移する事など、必要経費と思えるからね。
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と、言う訳でただいま。
「うお、ビックリした!……おい、大丈夫かテメェ?」
「は、話には聞いていましたが、改めて目にすると凄いモノですね……」
「……普通は驚くべき事なのだろうが、君が凄すぎて私は大概の事では驚かなくなってしまったようだよアインス。」
「桜花……ならば、その勢いで蜘蛛嫌い克服してみようか?」
「いや、其れは無理だ。」
「流石にトラウマ級の苦手を克服するのは簡単ではないのか……まぁ、其れは仕方ないのかも知れないな――何よりも、一つくらい苦手
なモノがあった方が人間らしいからね。
其れで、転移した先で何を見つけたんだ将?」
……とても大きな収穫だったよアインス。
私は転移した先には瘴気の穴があった――雨降屋敷と言う場所だ。
「瘴気の穴がある雨降屋敷か……紅月、場所は分かるか?」
「雨降屋敷……聞いた事のある場所ですね?確か領域の北側だったと思いますが……」
「なら探し出して浄化するぞ。」
「オイオイ、行動限界が有んだろ。一度戻った方が良いんじゃねぇの?」
「……いえ、いつまた『鬼』が出るとも限りません。此処は一気に行きましょうシグナム。」
そうだな、行動限界はあるが、未だ猶予があるからギリギリまで行くべきだろう、今はな――其れに、一度戻って浄化した所で目的場所
に行くまでに行動限界に来たのでは意味が無いからね。
此処は多少無理をしててでも進むべきだろう。
「行動限界とは、異界の瘴気の蓄積具合の事か?――ならば心配するな、私達に溜まった瘴気の毒は、今し方私が癒のタマフリを応用
して全て浄化した。
此れで、私達は全員が瘴気を浄化されたから、行動限界までのタイムリミットが伸びた――だから、確りと瘴気の穴を探しに行こうじゃ
ないか将?」
「そんな事まで出来るとは……お前が味方である事を頼もしく思うよアインス――其の力、此れからも頼りにさせて貰うが構わないな?」
「水臭い事を言うな将。
お前は私にとっては妹の様な存在だ、お前は覚えてないだろうがな――だが、妹の頼みを断る姉は居まい?お前が望むのならば、此
の力は幾らでも貸してやるさ。」
記憶を無くし、お前の事すら忘れていると言うのに、そう言ってくれるとはな……その心意気に、全力で感謝するよアインス。
其れでは行くとするか――軍神・上杉謙信が教えてくれた瘴気の穴の場所にな。
To Be Continued… 
おまけ:本日の禊場
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