Side:シグナム


九葉と会う事は出来たが、私の記憶を取り戻す手掛かりは掴めなかったか――まさか、九葉と会ったその時に既に記憶の大部分を無くし
ていたとは思わなかったからね。
しかも九葉が言うには、二重の記憶喪失では済まないかも知れないとの事……もしそうだとしたら、私は一体どれだけの事を忘れてると
言うのだろうか?……其れとも、相当に忘れっぽい頭をしているのか私は?
強い衝撃を頭に与えたら記憶を取り戻すことが出来るのだろうか?……やめておこう、其れで今の記憶すら飛んでしまっては本末転倒だ
からね。

取り敢えず博士の研究所にやって来たのだが……



「す、凄いな?此れが魔法なのか?……爺様の本で読んだ事はあったが、まさか実在しているとは……だがアインス、炎に包まれている
 腕は熱くないのか?」

「愚問だなグウェン、フグや蠍は己の毒では死なないだろう、其れと同じさ。
 魔法で作り出した炎も雷も、放った相手にはダメージを与えるが、使用者は熱くもないし痺れもしない……放った魔法を反射されて喰ら
 った場合はまた別だが。」

「魔法か……カラクリ以上に面白いモノだな?
 何とかして其れを解析したいものだ――鬼の手で魔法を再現する事が出来れば『鬼』との戦いにも有効だろうからな……アインスよ、お
 前の身体を調べさせてくれないか?」

「……調べたところで魔法の事は分からないぞ?
 此れは私だけが使えるスペシャルでグレートでエキサイティングな能力だからな。……其れと、お前に身体を調べさせたら変な装置とか
 付けられそうで怖い。」

「そんなに怖がるな、ちょっと血を採取して調べたりとかその程度だ。」

「……そんな事をしている暇が有ったら、時継の身体をもっとダンディーでカッコいいモノに変えてやれ。此れは此れで悪くないが、この姿
 で勇者とか言われてもネタにしか思えん。」

「おぉ、もっと言ってやれアインス!つーか博士、お前ならこうなる前の俺に限りなく近い身体作る事だって出来ただろ!!」

「あ~~……出来るがそんな面倒なのは御免だ。既存のモノで済むならそっちの方が楽だしな。」

「てめ、言うに事欠いて面倒とはなんだ面倒とは!普段碌に面倒な事してねぇんだから、偶には自分で面倒事を片付けやがれ!!」

「……時継、君の気持ちは分からんでもないよ……」

「時継さん、ファイトです!!」



何やら混沌とした状況になっていた。
アインスと桜花とソフィー、たった三人増えただけなのに、ずいぶんと賑やかになったモノだ――尤も、この賑やかさは好ましいがな。












討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務164
次なる目的地は『戦』の領域だ









あ~~……何やら立て込んでいるようだが、戻ったぞ博士?



「……シグナムか。
 ……如何だった?軍師・九葉と話をしたんだろう?」

「あぁ、話は出来たんだが、残念ながら失われた私の記憶に関しては何の手掛かりも無かった――それどころか、私は九葉と出会った時
 点で名前以外の殆どの記憶を失っていたらしい。
 十年前の記憶と、九葉と出会う以前の記憶を無くしている、二重の記憶喪失だったと言う事が分かっただけだ。」

「二重の記憶喪失だと?……そうか、振出しに戻った訳だな。
 簡単には分からんものだな……人がどんな人生を歩んで来たかなど……だが、過去がどうであれ、お前には此処でやる事がある。
 そうだろ?」



あぁ、記憶がなくとも私はモノノフだ。
ならばモノノフとして『鬼』を討つのが私のやるべき事だ……記憶が有ろうとなかろうと、モノノフであるのならば其れが変わる事はない。



「ふ、其の通りだよ将。
 私達はモノノフだ……人に仇なす『鬼』を討つのが我等の使命だからな――ゴウエンマだろうが、ゴズコンゴウだろうが、トコヨノオオキミ
 だろうが、来るのならば討ち倒すだけさ。
 お頭選儀が終わり、マホロバの新たなお頭が決まるまでは、私と桜花、其れと相馬と初穂はマホロバに居るから、必要な時は呼べ。
 私と桜花は、ウタカタでは最強と言われているモノノフだから、足手まといにはならんさ。」

「任務に行くときは是非とも声を掛けてくれ。
 紅月と時継の強さは知っているが、他のマホロバのモノノフの力をこの目で見ておきたいからね――ウタカタでは見なかった、珍しい武
 器を使うモノノフもいるようだしな。」

「私も鍛冶屋として頑張っちゃいます!一杯勉強して、お爺ちゃんの後を継ぐんだから♪」



アインス、桜花……そうだな、その時は宜しく頼む。
ソフィーも、私の剣の整備を頼む事があるかも知れないから、その時は頼りにさせて貰うよ。――其れで博士、異界の瘴気の穴を二つ塞
いだ訳なんだが、何か分かった事はあるか?



「うむ、安の領域と武の領域、二つの瘴気の穴を塞いで分かった事なんだが、『鬼』は瘴気の薄い所を嫌うらしい。
 『鬼』の活動は確実に鈍ってきている――此のまま行けば、遠からず里の安全を確保できるだろう。」

「瘴気の薄い場所を嫌う……だが待ってくれ、その理屈で行くと異界ではない里の周辺に『鬼』が出るのはおかしくないか?里の周辺は
 瘴気が薄い所かそもそも瘴気が存在してない場所だろう?
 瘴気が薄い場所を嫌うと言うのならば、里の周辺に『鬼』が出てくる事は無い筈だが……」

「あぁ、言葉が足りなかった。
 瘴気の薄い場所を嫌うのは強い力を持った大型の『鬼』だ――小型や中型の鬼は、瘴気の薄い場所でも普通に活動しているだけの事
 だ。」

「……時々ミフチが出るんだが?」

「アレは大型の『鬼』の中でも最弱の存在だろう?……大型でも最弱ならば中型扱いなんだろうさきっと。」



そんな適当な……まぁ、確かにミフチは一人前のモノノフと認められるための試験として使われる大型の『鬼』であって、新人には驚異の
存在だが、手練れのモノノフには試し切りの相手でしかないからなぁ。



「ミフチ?雑魚だな。私と桜花ならば、最短十六秒で滅殺出来る。」

「蜘蛛じゃない……アレは『鬼』だ、『鬼』なんだ!!」

「十六秒って、其れ本気で!?」

「オイオイ、流石にそりゃふかしすぎだろ?たった二人でミフチを十六秒で倒せるかよ?」

「倒せるぞ?
 桜花が斬心開放でミフチを怯ませまくって、私が六爪流で滅多切りにすればあっと言う間に任務達成さ――此の六爪流に切れぬモノは
 ないからな。」



……二人がかりでミフチを十六秒とは、ウタカタのモノノフには恐れ入る。イツクサの英雄と言われた相馬が自分と同等か、其れ以上と評
したのは、決して誇大表現では無かったと言う事か。

其れで博士、此れから私達は何をすればいい?



「安の領域と、武の領域の瘴気の穴は塞いだ……次は『戦』の領域の浄化を目指すぞ。
 先ずはミタマを手に入れる事からだ――節分の休暇は終わりだ、またキリキリ働いて貰うぞ……紅月と焔、神無を連れて『戦』の領域に
 向かえ。」

「…………」

「オイオイ、何だってこのサムライ野郎がいんだ?」

「……お前達といれば、強い敵と戦えそうなんでな。宜しく頼むシグナム。」

「ふ、お前ならば歓迎だ神無。此方こそ宜しくな。」

「ケッ……自殺願望でもあんのか?」

「心強いですね、歓迎します神無。」

「オイコラ、普通に流すんじゃねぇ紅月!」

「はいはい、少し黙ってような少し馬鹿な焔。……三十年越しの活躍に作者が感激した幻の超必殺技、メイプルリーフクラッチ!!」



――メキャァァァァ!!!



……アインスが焔に何やらヤバそうな技を掛けたが、大丈夫なのか焔は?



「手加減はしたから大丈夫だろう?……其れに、焔ならばギャグ補正が入って一秒あれば無傷で復活……「テメ、殺す気か!」したな。」

「焔の頑丈さに驚きだよ私は。」

「ま、仲良くな。」

「此のヤロ、普通に流すんじゃねぇ!!」

「あ~~、少し馬鹿なのは黙ってろ。
 丁度いい事に、『戦』の領域でクエヤマと言う『鬼』の目撃情報があった。コイツを倒してミタマを手に入れるんだ。」



……焔よ、頑張ってくれ。
其れは兎も角、『戦』の領域で大型の『鬼』が目撃されたか――僅かに残る記憶では、クエヤマはタマハミ後の姿が嫌悪感以外のモノを
感じなかった筈だ。
そんな醜悪な『鬼』が目撃されたとはね。……だが、其れが『ミタマ』を秘めた『鬼』であると言うのならば是が非でも打ち倒さねばだ。
『鬼』に喰われた英雄の魂を解放するのも、我等モノノフの使命だからね。



「チッ、またドサ回りかよ。」

「文句は仕事を終えてからです焔。」

「じゃ、確りなシグナム。」



了解した。先ずはクエヤマを打ち倒してミタマを手に入れ、その上で『戦』の領域の瘴気の穴も塞いでやるさ。



「『戦』の領域での任務か……将、私と桜花も同行してかまわないだろうか?」

「私とアインスは、これまでに何度もクエヤマとは戦っているから、奴の攻撃方法や弱点などは熟知しているから連れて行って損はないと
 思うぞ?」



アインスと桜花……同行すると言うのならば私は何も言わないぞ?手練れのモノノフが共に戦ってくれると言うのは、其れだけで士気が
上がるモノだからな。
アインス、桜花……お前達の力、見せて貰うぞ。



「アインスと桜花が参加してくれるのならば心強いですね。
 『戦』の領域は、サキモリ砦の南東にあります――先ずは砦に向かいましょう。そこから『戦』の領域に抜けます。」

「了解だ紅月。」

先ずはサキモリ砦にだな。

で、里を出発したのだが……



「図に乗るなよガキが……道を開けろザコ共!!貴様等程度の弩底辺の『鬼』が、私達の道を阻もうなど、烏滸がましいにも程がある!」

「散る覚悟があるからこそ花は美しい……が、其れがない貴様等には散り際の美は理解出来まい――精々、地獄で花を咲かせろ。」



アインスと桜花のコンビが、『鬼』に同情するレベルで強かった。
身の丈以上の太刀を自在に操る桜花に、六本の刀を同時に使うアインスの六爪流……この二人の前では、小型の『鬼』は準備運動にも
ならないと言った所か。



「相変わらず良い動きですね……いえ、二年前よりも更に強くなったようですね。」

「紅月……」

紅月がそう言うのならば、アインスと桜花の実力は間違い無かろうな。


なんにしても次の目標は『戦』の領域に現れた『クエヤマ』だ――コイツを打ち倒してミタマを手に入れる事が私の使命だからな。……じゃ
あ行くとするか、『戦』の領域にね!!!

クエヤマ……必ず貴様を打ち倒して、貴様が喰らった英雄の魂を取り戻してやる――だから、今からでも遺言を書いておいた方が良い。
貴様は必ず地獄に叩き落してやるからな。











 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場