Side:アインス


ウタカタを出発してから数日、漸くマホロバに到着だ……今更だが、私の瞬間移動を使った方が楽だったんじゃないだろうか?……マホ
ロバには時継と紅月が居る訳だから、何方かの気配を察知すれば良い訳だからな。



「其れはそうかも知れないが、行き成り私達が現れたらマホロバの人達が驚いてしまうぞアインス――其れに、突然やって来たら出迎え
 の準備だって出来なかったろうに。」

「……突然現れた方がインパクトが強いと思う件について。」

「……其れに関しては、私は口をつぐませて貰おう。」



つまりはお前もちょっぴりインパクトがあった方が良いと思わない事も無かった訳だな桜花……生真面目なのに、実は冗談が通じる所が
あるのはとても好感が持てるようん。

さて、マホロバに到着した私達を待っていたのは、白を基調とした装束を纏った一団と、青を基調とした装束を纏った一団と、夫々を纏め
ていると思われるモノノフ達。
青の装束のリーダーは武人然としているのに対し、白の装束リーダーは武人と言うよりも神官のような雰囲気を受けるな……主に服装
的な感じでだが。……後、髪型が重力に逆らっているとは、ヘアージェルもないこの時代に一体何で固めているのやらだ。
そして、その二つの部隊の中央に居るのは未だ年端も行かぬ少女……白い髪と赤い目は橘花と同じ特徴だな?――桜花、あの子はも
しかして……



「マホロバの神垣ノ巫女だろう――あの髪と目の色は、神垣ノ巫女の特徴でもあるからね……橘花よりも幼い子供が巫女を務めている
 とはな……」

「お前の気持ち、分かる気がするよ桜花。」

神垣ノ巫女にかかる負担は決して小さくない……橘花ですら相当な負担が掛かっていたと言うのに、橘花よりも更に幼いあの子に掛か
る負担は如何程なのか――場合によっては、この里も私の結界で覆ってやった方が良いかも知れないな。










討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務162
お頭選儀のはじまりはじま~り!









「……出迎えご苦労。私は霊山軍師・九葉。此度の『お頭選儀』の見届人だ。」

「遠路大義であった、九葉殿。神垣ノ巫女・かぐやである。我が名において歓迎しよう。」

「ほう、巫女殿自らの出迎えか。
 此れは気付かず失礼した。神垣ノ巫女の御健在を寿ぎ申し上げる。軍師付き武官として二名のモノノフと、ウタカタの里から二名のモノ
 ノフと一名の鍛冶屋見習いを帯同している。」



矢張りあの子は神垣ノ巫女だったか……其れも名前はかぐやと来たか――相馬、参番隊に同じ名前の奴がいなかったっけか?



「あぁ、居たな……だが、恐らくは偶然だろう。同じ名前の人間など、探せば幾らでも出てくるだろうからな。」

「……私の名前もか?」

「お前の場合は特別だアインス。」



だろうね。『アインス』と言う名前がそこら中に有ったらある意味でゾッとする事この上ないからな……何れ生まれる後継機と区別する為
にアインスと名乗ったが、『一番目』が沢山いたらドレが本当の一番目か分からなくなってしまうしね。



「此の者達にも挨拶させよう……相馬。」

「『百鬼隊』参番隊隊長の相馬だ。宜しく頼もう、マホロバのモノノフ達よ。」

「百鬼隊の相馬だと……!?」

「紅月様と同じ、あのイツクサの英雄が……まさか、この目で拝めるとは……!」



でだ、相馬が自己紹介した途端にマホロバのモノノフ達が騒がしくなったな?……何時も自分で『俺は英雄だ』とか言っていたが、本当
英雄だったんだな相馬は。
……だとしたら、なんで環に呼ばれなかったのか非常に謎なのだがね。



「フ……俺の勇名は国中に轟いているらしい。
 だが、こっちのチンチクリンの鎖鎌使いは兎も角として、太刀使いは俺と同等、そして六本の刀を腰に下げてる奴は俺以上だ。」

「ちょっと相馬!誰がチンチクリンですってぇ!?」

「おや?誰もお前だとは言ってないが……何だ、自覚があったのか?」

「ムキー!!」



こらこら、初穂をからかうなよ相馬。からかいたくなる気持ちが分からないでもないが、普通に生きてたならコイツはお前よりもずっと年上
だったんだからな。

其れは其れとして、相馬が桜花の事を自分と同等、私の事を自分以上と言った事で、更に周囲が騒がしくなったか……まぁ、イツクサの
英雄と同等並びに其れ以上と来れば仕方ないか。



「マッタク、あまり持ち上げてくれるなよ相馬?
 ふぅ……ウタカタのモノノフ、桜花だ。短い間だが、宜しく頼むマホロバのモノノフ諸君。」

「同じくウタカタのアインスだ。」

「この桜花とアインスは、ウタカタの付近で起きた二つの大事件を解決に導いた中心人物だ――ついでにコイツは初穂……コイツもまた
 ウタカタのモノノフだが、今は俺と共に軍師付きの武官となっている。」

「ちょっと、アタシの紹介適当すぎ!!」

「はーい!アタシはソフィーって言います!鍛冶屋の見習いとして、修業のためにウタカタからやって来ました!」

「ソフィー!アンタも空気読みなさいよ!!」



あはは……マッタク到着早々、賑やかなモノだ。
――だが、此のマホロバの里からは何やら殺伐とした気配を感じるね?……主に青装束の一団と、白装束の一団からだが、この二つの
集団はあまり仲が良くない、と言うか対立しているのか?
同じ里の中で二つの部隊が対立する等、ウタカタでは考えられなかった事だが、マホロバではそんな事が起きていると言う訳か……此
れは、お頭選儀で一悶着あるかも知れないね。








――――――








Side:シグナム


半鐘の音を聞いて本部から飛び出したのだが、如何やらあれは『鬼』の襲来を告げる物ではなく、マホロバの里に外部からの客が来た
事を知らせるためのモノだったらしい……ならば、『鬼』の襲撃時とそうでない場合の半鐘の鳴らし方を変えて欲しいモノだ。



「そうね、考えておくわ。」

「頼むよ椿。」

そんな訳で、里の中心部に出来た人だかりまで来た訳なのだが……あれがマホロバにやって来た来客――お頭選儀の見届人か。
そして見間違える筈もない、あの特徴的な長い白髪は……九葉。



「早速だが本題に入ろう。
 お頭に名乗りを上げたのは二名と聞いた。其れは誰か。」

「……両名、前へ。
 一人は八雲。我が腹心にして近衛部隊の隊長だ。」

「お見知りおき願おう、九葉殿。」

「今一人は刀也。
 サムライ部隊の隊長を務めている。」

「……邪魔はするな。望むのは其れだけだ。」

「……邪魔だと?
 私が鬼内を憚って外様を軽んじると思うか?鬼内も外様も、近衛もサムライも、何方も知った事ではない――誰が最もお頭に相応しい
 か、この目で見極める。
 ……さて、私は疲れている。そろそろ宿舎に案内して貰おうか?」

「……此れは失礼した。八雲、九葉殿と武官の方々を案内するのだ。」

「はっ、かぐや様。……九葉殿、此方に。」



だが、九葉の纏う雰囲気が私の記憶の片鱗にあるのとはまるで違う……話し方などはそれほど変わっていないが、言葉の彼方此方に
冷酷さと言うか、トゲの様な物を感じてしまう。
……この十年の間に、一体何があったのか……椿の言っていた『北の地を見捨てた』と言うのは本当なのか……ともあれ、後で会わね
ばならないな。

で、九葉と武官二人は八雲に着いて行ったが、ウタカタのモノノフと言う二名と、鍛冶屋見習いと言う一名はその場に残ったようだが……



「アインスに桜花、其れにソフィーじゃねぇか!って、アインスと桜花は兎も角、何だってお前まで居やがるんだソフィー!!」

「うわぁ、久しぶりですね時継さん!!
 なんだか、存在が分裂しちゃったみたいで、元の世界に戻った私と、この世界に来た私がいるみたいです。因みに元姫さんとアーナス
 さんも居ますよ♪」

「マジかオイ!?」

「ふふふ……久しぶりですねアインス、桜花、其れにソフィー。」

「本当に久しぶりだな紅月、時継……大体二年ぶりくらいか?」

「二人とも息災なようで安心したよ……あの世界から無事に戻る事が出来ていたのか、少し心配していたんだ。」



その三人に時継と紅月が話しかけたか……二人とも、彼女達は知り合いなのか?



「おうよ、ちょっとした縁でな……ま、戦友ってやつだ。また会えるとは思わなかったけどな。」

「彼女達の強さは私と時継が保証します……特にアインスの強さは正に一騎当千ですから――彼女に掛かれば、大型の『鬼』であって
 も瞬殺されるでしょう。」

「はぁ!?なんだそりゃ。あり得ねぇだろ普通に。」

「本気で人間なのアインスって人は……ってか、其れが神無の耳に入ったらかなり不味くない?あいつ、絶対に喧嘩売って来るわよ?」

「椿……その可能性を否定できないのが悲しいな。」

だが、ウタカタのモノノフである二人からは強者の気配をひしひしと感じる……太刀使いの桜花に、六本の刀を装備したアインス、何方も
並のモノノフとは一線を画す存在である事は間違いなさそうだ。
……其れで、アインスと言ったか?私の顔に何かついているか?



「将……矢張りお前もこの世界に来ていたのだな?……ずっと会いたいと思っていたが、やっと会えたね。」

「え?」

『将』とは、私の事か?貴女は私の事を知っているのか?



「え?……そんな、私の事が分からないのか将?」

「スマナイ、今の私は記憶の大部分を失っていてね、貴女が誰なのか全く分からないんだ……だが、私を知っていると言う事は、貴女は
 私の関係者だったのだな?」

「記憶を?……どうしてそんな事に……此れもまた、この世界に来た事による弊害なのか?
 ……私はお前の関係者どころではないよ将……私とお前は姉妹同然に過ごしていたんだ……私達の外に三人の仲間と、一人の主と
 共にな。覚えていないか?」



彼女と私以外に三人?そして一人の主?……分からないが何か引っかかる……一人の主……其れが、私が彼女を『主かぐや』と呼ぶ
理由なのだろう事は想像がつくが、三人の仲間とは一体何なのだ?

……九葉に会って話を聞けば何か思い出す事があるかも知れないと思ったが、如何やら中々簡単にそうはいかないらしいな――まさか
私と姉妹同然に育ったと言う者が現れるとは露ほども思っていなかったからね。








――――――








Side:九葉


お頭選儀の見届人としてマホロバにやって来た訳だが……成程、此れで全ての欠片がぴったりと合わさった――十年前のあの時に私
の前に現れたモノノフ達は、ウタカタでは揃わなかったが、マホロバに来た事で全てが揃った。
となれば、何れの時にかのモノ達は時を超えて十年前に行く事になるのだろう……それが何時になるかは分からないが、その時が来る
前にお頭選儀を終わらせてしまいたいと思う気持ちがない訳では無いがな。

……しかし、此度のお頭選儀、立候補したのが対立している二つの部隊の隊長だとは、何とも厄介な事になるかも知れん――紅月辺り
が三人目として立ってくれればいいのだが、オオマガドキの時のあの件を考えると、其れは期待できそうにもない――どのみち、八雲と
刀也の何方かに決めるしかないと言う訳か。

ヤレヤレ、マッタク面倒な事になったモノだが、どんな結果が待っていようとも、私は私が成すべき事をするだけだ……時にアインスと桜
花、其れからソフィーは如何した?



「アイツ等ならば、自分達は軍師付きの武官ではないから、適当に過ごさせて貰うと言っていたぞ?……主にアインスが。」

「軍師付きの武官ではないとは言え、見知らぬ地で共に行動しないのは如何かと思うが、アインスが一緒ならば早々問題は起きまい。」

もしもアイツでも何も出来ない事態が起きたらその時は、その時こそが世界が真の終焉を迎える時なのかも知れないがね。――只一つ
気になるのは、十年前に私の前から消え、オオマガドキの際に現れた竜の様な『鬼』との戦いで再び現れ、そしてまた空へ帰って行った
嘗ての部下の事だ。
あのあと、一体どうなってしまったのか……あの時の面子を考えれば、お前は此処にいるのだろう――シグナムよ。










 
To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場