Side:シグナム
厳島神社に到着し、そして現れた里を襲った『鬼』……名はアマツミツツカと言うそうだな?――マホロバの里……外様の居住区に壊滅
的な被害を齎しただけでなく、同種の『鬼』に襲われて壊滅した里もあるとか。
恐らくは空からの一方的な攻撃が可能だから、そんな事が出来たのだろうが……
――ギュルン!!
『ア?』
「鬼の手を持つ我等に限っては、貴様の絶対有利領域は存在しないと思え!」
鬼の手を使えば、例え相手が空に居ようとも、其れを掴んで自分が舞い上がる事が出来るし、其れを連続で使う事で断続的に空中に留
まる事が事が可能になるのでな?
此れまで貴様等が無慈悲に殺して来た相手と同じとは思わぬ事だ!!!
――ズバァァァァァァァァ!!!
――ザクゥゥゥゥゥゥ!
「ふ、良い連携だな椿?」
「此れ位はお安い御用よ……其れに、まだまだこんなもんじゃないんだから!!」
私の十束が胸を切り裂き、椿の槍が腹を貫いたが、此れもまた表層生命力を削ったに過ぎないから、大したダメージは受けてない筈だ。
……が、こんな物は所詮試合開始のゴングに過ぎん――本番はこれから……貴様の事は、亡骸も残らぬほどに塵殺してくれる!!
討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務160
『命の灯火~厳島神社での戦い~』
アマツミツツカとの戦いが始まった訳だが、矢張りと言うか何と言うか今の状況に相手は戸惑っているようだな?――まぁ、無理もないだ
ろう……此れまで一方的に空中から塵殺するだけだった相手が、今はこうして自分と同じ空中に居るのだから。
しかも、腕を伸ばして己を掴んで近寄ると言う未知の方法での攻撃までしているのだ、大型の『鬼』と言えども戸惑うと言うモノだ!!
そして私には鬼の手の外にも……
「捕らえた!!」
――ギュルリ!!
十束を連結刃状態にして相手を絡め取り、自分の方に引き寄せると言う事が出来る――もはや空は貴様だけの領域とは思わぬ事だ!
矢継ぎ早に繰り出される波状攻撃の前には、外様の居住区を壊滅状態にした攻撃を放つ暇すらあるまい!!
『うぅぅぅ……ハァァァァァァァァァァァ!!』
――バチィ!!
「「「「!!?」」」」
なんだ、今のは?
自分の周囲に稲妻を発生させた、のか?――私は咄嗟に空蝉を使った事で難を逃れたが、大丈夫か椿、神無、グウェン?
「俺も咄嗟に縮地を使って奴から離れたから大丈夫だが……椿とグウェンは……」
「くっそ~~……やってくれるじゃない!!」
「く……身体が痺れて……!!」
「椿とグウェンは真面に喰らってしまったのか……取り敢えず身体の痺れは変若水で治しておこう――奴め、高威力の攻撃だけではなく
あのような自身の周囲を攻撃する範囲攻撃も持っていると言う訳か。」
「そうみたいだが、状況は良くないぞシグナム。
奴は中々に頭がキレると見た……先刻の波状攻撃を受けた事で、俺達を二度と空中に上げさせないようにするに違いないぞ?
っと、言ってる傍から来たぞ!!」
――ドォォン!ドォォォォン!!ドォォォォォォォォォォン!!!
く……落雷攻撃と雷球弾による波状攻撃と来たか!!それも上空からの!!
天岩戸を使って強引に攻め込む事も出来るが、其れは私一人が攻撃しているに過ぎん――否、椿達ならば私との攻防で生じた『鬼』の
隙を突いて攻勢に出るだろうが、そうして攻勢に出た所に後の先の一撃を放たれたら最悪の場合は総崩れになりかねん。
……この面子で来たのは少し拙かったな?――離れた間合いから攻撃出来る時継か真鶴に一緒に来て貰うべきだった……博士も銃
使いだが、彼女は基本矢面に立たないからな。
と言うか博士がモノノフとして戦ったのを見たのはマホロバに来た日のあの一度だけだからね。
さてと一転劣勢に立たされた訳だが如何したモノだろうな椿?
「如何するって……如何にかするしかないじゃない!空を飛べるから有利だって言うのなら、いっそのこと翼を捥ぎ取ってみるとか!?」
「翼を捥ぎ取る?……其れだ!」
「へ?」
そうだ、空を飛べるから有利だと言うのならば翼を捥いでやればいい……鬼千切りで破壊するのではなく、内部生命力ごと纏めて消し飛
ばす鬼の手の鬼千切、鬼葬でな。
通常の部位破壊では内部生命力は残ったままだから翼を破壊しても飛行能力を奪う事は出来ないが、内部生命力諸共消滅してしまえ
ば、流石に飛ぶ事は出来ないだろうからな。
「其れは分かったが、どうやる心算なんだシグナム?この猛攻の中でアイツの翼を掴むのは至難の業だ……せめて一瞬でも動きを止め
ないと。」
「ならば、その役目は俺に任せておけ。
縮地で奴に近付き、虚空ノ顎を発動すれば、奴の虚を突く事が出来る――如何に『鬼』と言えども、行き成り目の前に敵が現れれば驚
くだろうし、更に其処から己を引き寄せる空間攻撃を放たれたら攻撃の手を止めざるを得ないだろうしな。」
「神無……確かにそうだな。」
空のタマフリだからこそ可能な奇襲攻撃か……ならば頼む神無。椿も異論はないな?
「えぇ、頼んだわよ神無?」
「気を付けて行ってくれ!」
「任せろ……行くぞ。」
――シュン!!
「喰らえ……!!」
――キュゴォォォォォォォォォ!!!
『アァァァァァァァァ!?』
良いぞ、完全に奇襲攻撃成功だ。――だが、何か嫌な予感が……確かに今は私達が劣勢に立たされていたが、その前は私達が猛攻
を続けていた、つまりアマツミツツカには可成りの手傷を負わせていた筈。
そんな所に此の奇襲攻撃で奴が許容できるダメージの範囲を超えてしまったとしたら……
――ギュィィィィィィィン……
「此れは……気を付けろ。来るぞ、タマハミ!」
「このタイミングでタマハミが来るのか……運が良いのか悪いのか分からないぞ?」
「如何でも良いわ……来い、お前は私達が倒す!!
こんな所で負けてたら父さんに顔向けできない――一番のモノノフになるって、そう約束した!
邪魔する『鬼』は一匹残らずぶっ飛ばす!!」
その意気だ椿。
タマハミとは言うなれば『攻撃力は極限まで上がったが、防御力は充分下がった状態』だからな……だからこそ、鬼葬で与える一撃もよ
リ効果が大きくなる。
グウェン、奴の翼を掴め!!
「了解だシグナム!!」
「二度と貴様を空には逃がさん!!」
――ガシィィィ!!
グウェンは右の、私は左の翼を鬼の手で掴み、そしてそのまま強引に引き千切る!!……翼だけでなく、一緒に腕も捥ぎ取ってしまった
が、其れは其れで問題あるまい。
翼が無くなれば空を飛ぶ事は出来ないし、腕がないのではあの落雷攻撃と雷球弾攻撃も使えないだろう――いや、腕と翼で雷を発生さ
せていたのだとすれば、あの雷の範囲攻撃すら不可能か。
つまり今のお前は牙を抜かれた獅子か、爪を失った虎――否、爪牙を失った竜かな?何れにしても、飛べなくなった貴様は恐れる相手
ではない!!
此のまま一気に畳み掛ける!!
「母さんがいなくなった時、誓ったはずだったのに……!
一番のモノノフになって、皆を守るって……!ゴメン、母さん、父さん、約束守れなかった――其れでも目指して良いかな、一番のモノノ
フを!」
「……死ななくていい奴等が死んだ。
もうどこにもいない。してやれることは何一つない……ただ、お前は死ね!!」
椿、誰も其れを咎めはしない、寧ろお前は両親の為にも一番のモノノフを目指せ。
神無、お前の考えには、今は全面的に賛成だ……此のまま地獄に強制送還してやる!!今だ、椿、神無、グウェン!!
「此れでも喰らえ!!」
「此処で散れ!!!」
「此れで決める!!」
――バガァァァァァァァン!!
三人の鬼千切りが炸裂し、残った両足と角も破壊し、正に丸裸だがまだ生きているか……だが、今ので死んでなくて良かったよ――其
のおかげで、この一撃を叩き込んでやる事が出来るからな!
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
「んな!?な、何よアレ!!」
「シグナムの剣が、巨大化しているのか?」
「此れは一体……?」
「鬼の手の応用編と言ったところかな?
私が宿しているミタマの力を、鬼の手を介して十束に伝えてみたらどうなるのかと思って、やってみた結果が此れだ……まだ名前も無
い技だが、この一撃で逝け!!
悪鬼退散!!!」
――バガァァァァァァァァァァァァァン!!!
――シュゥゥゥゥン……
『求めあれば、立たねばなるまい。』
――ミタマ『足利尊氏』を獲得。
討伐成功。新たなミタマも手に入れたか。
「な、何なのよ今のは……『鬼』の亡骸すら残さない一撃って……そんなの、もう最強じゃないのシグナム!!」
「と思うだろうが、中々そんな便利なモノでもなくてね……此れを使ったら、以降暫く全てのタマフリが使えなくなる上に、鬼の手の性能も
一時的に低下してしてしまうようだから、確実に倒せる状況以外で使うのは逆に危険だ。諸刃の剣だよ。」
「正に最後の切り札って事ね。
でも此れで一区切りがついたわ……やったよ父さん。もう里は大丈夫。誰も死んだりしない、私が死なせない!
だから安心して眠って……あとは私がやるわ。父さんが出来なかったこと全部。
そして必ず、一番のモノノフになってみせる!
……皆にはお世話になっちゃったわね。」
「如何って事ないさ、椿。」
「『鬼』が居たから倒した。それ以上でもそれ以下でもない。」
「神無、貴方ってホントに可愛くないわね……でもありがと。
……シグナム、貴女が居なかったらずっとクヨクヨしているだけだったわ……巧く言えないけど、その……感謝するわ。」
ふ、礼など要らん。
其れに、私が何をしたかは兎も角、最終的に立ち上がったのはお前の意思だからな……私が何かしたとしても、其れは只の切っ掛けに
過ぎんさ。
立ち上がり、主計の仇を討つ事が出来たのは、お前の心が真に強かったからだ椿。
さて、目的は果たしたから戻るとしよう。――目的を果たしたのに行動限界で死んでしまったのでは話にならないからね。
近くの跳界結石を使って『武』の拠点に戻り、其処から里に飛ぶとしよう。
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そして、里に戻った後は、先の襲撃で犠牲になった者達の魂を鎮める為に、灯篭流しだ。――盆の頃に行うモノだと思ったが、今の世で
はそうでもないのかもしれない。
外様の居住区のすぐそばの河原から流された灯篭の数が、犠牲者の数を物語っている、か。
「シグナム、今日は付き合ってくれてありがとう。
八雲も、死者を送る機会を作ってくれて感謝してる。」
「ふん……大勢が死んだのだ、里を挙げて送り出すのは当然だ――其れで、貴様はもう大丈夫なのか?」
「そうね……八雲、私今日限りで近衛を辞めるわ。」
で、灯篭流しが終わった後で椿が何やら盛大に爆弾を投下してくれたな?
里を上げて、其れこそ近衛だサムライだ、鬼内だ外様だと関係なく死者を送る機会を作った八雲の事を少しだけ見直したと思った矢先に
何を言ってるんだお前は?
「な、何だと!?」
「八雲、その気持ちは少しわかる……何故だ椿?」
「やりたい事があるの。父さんの仕事を引き継ぐ。
本部の受付を手伝うわ。困っている人を助けてあげたいの――でも、自分の夢も諦めない。一番のモノノフになってみせる。
そうやって自分の道を行きたい……許可して貰えるかしら、隊長?」
「…………ふぅ……好きにしろ。どうせ言っても聞かぬのだろう?貴様は頑固者だからな。」
「お前が言うか八雲?私に言わせればお前も相当に頑固者――否、お前の場合は頑固者の前に『偏屈な』と言うのが付くか。」
「カラクリ使い……誰が偏屈な頑固者だ?」
「さて、誰だろうな?」
「貴様……ふん、まぁ良い。……己の道を行け、椿。」
「ありがとう八雲!」
「力の限り励めよ……椿を頼むぞ、カラクリ使い。」
……お前からそんな事を言われるとは思わなかったよ八雲――だが、言われるまでもない。椿は既に私の友だからな。
それにしても、思い切った事をしたモノだな椿?
「此れで後戻りは出来ないわ。
自分を信じて頑張らなきゃ……一番を取るのってちょっと難しいのよね……一緒に来てくれるかしらシグナム?」
「当然だ……だが一番は譲らんぞ?」
「言ったわね、負けないんだから!……シグナム、ありがとう。」
――カッ!!
「「!!」」
椿の身体から光が……此れは一体?
――バシュン!!
『ワシの槍、お主に預けるぞ!』
――ミタマ『後藤又兵衛』を獲得
椿のミタマが、私に宿った……のか?
「なにこれ!?……此れって、分霊?
噂で聞いた事があるわ、心が通じた人とはミタマを分かち合えるって……な、なんか激しく照れくさいんだけど……ま、まぁ、貴女ならい
っか――これからも、宜しくね。」
「あぁ、此方こそな。」
分霊……椿の魂の一部を私が貰ったに等しい事か……ふふ、何だか心が温かくなってしまうな――しかし分霊とは良い事を聞いた。
複数のミタマを宿す事の出来る私ならば、分霊で更なる力を得る事も可能な訳だからね……ならば、私と言う存在をこの世界に固定す
る意味でも、より人との絆を深めねばだな。
――――――
Side:???
今こそ宿願を果たす時……待っていろ、トキワノオロチよ――永き呪縛から、私が解放してやろう!!
To Be Continued… 
おまけ:本日の禊場
Side:シグナム
ふぅ……異界から戻った後の禊は、穢れを受けた身体には染み渡るな?
この水の冷たさも、かえって心地いい位だ……グウェンと椿もそう思うだろう?
「そうね、異界から戻ったら禊をやらないと、何だか気分が良くないし。」
「確かにスッキリはするんだが、まだこの水の冷たさには慣れないな……夏場は兎も角、冬場だと風邪を引いてしまうんじゃないか?」
「其処は気合いよグウェン!冷たさは気合で耐えるのよ!!」
「そんな無茶な!?」
「無茶を通して、道理を蹴っ飛ばすのよ!!」
「言ってる事が滅茶苦茶な上に若干意味が分からない!!」
諦めろグウェン、脳筋には何を言っても無駄だ……アホの子は未だ話が通じるが、脳筋100%にはそもそもに話が通じない事の方が多
い上に、精神論に走った場合は最悪に尽きるからね。
時にアホの子とは一体?……また、何かを思い出したみたいだな。
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