Side:シグナム


件の『鬼』の痕跡を追うには神垣ノ巫女の力が必要だとの事なので、椿に頼んで主かぐやを本部まで連れてきてもらった……八雲も一緒
について来たけどな。あと、こっちは神無が呼んだのだろうな、刀也の姿もある。
――其れで早速なのですが、カクカクシカジカ鹿肉は高タンパクで低カロリーと言う訳で貴女の力が必要なのです主かぐや。
この里を襲った忌むべき『鬼』を討つ為に、力を貸していただけないでしょうか?



「ふむ……マルマルウシウシ牛は馴れるから可愛いと言う訳か――そう言う事であるのならば、私の力を貸そうではないか。
 決して大きな力ではないが、私の千里眼がお主達の役に立つと言うのであれば是非もないからな……件の『鬼』を、必ず見つけ出して
 やろうではないか!!」

「かぐや様、そんな簡単に……」

「何の問題があるのだ八雲?
 此れも全ては里を護るため――そして、里を護るのは神垣ノ巫女の使命であろう?……なれば、私のした事に何か問題があったか?
 あったと言うのであれば申してみよ。」

「いえ、ありません。」



主かぐやは快諾してくださったが、八雲はその次第ではなかったか――まぁ、主かぐやに論破されて、少しばかり奥に引っ込んでしまった
ので威厳など皆無だがな。
だが、今は其れよりも奴の居場所を割り出すのが先決だ――外様を無慈悲に殺した貴様には、最大級の断罪をしてやらねば、貴様に殺
された者達も浮かばれないだろうからな。
貴様は必ず滅する……何があっても絶対にな――精々首を洗って待っているが良い!!



「其れは良いがシグナム、お前と巫女さん、なんでさっきので意思の疎通が出来てんだ?カクカクシカジカだのなんだの……」

「時継、お前は何を言ってるんだ?私も主かぐやも普通に話をしていたぞ?」

「んな訳あるか!?」



そう言われても、事実だからなぁ?一体時継には私達の会話が如何聞こえていたのやら……カラクリ人形の身体だから、私達とは音の
聞こえ方が違ったりするのか?……まさか、な。










討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務159
いざ、弔い合戦の始まりだ!









早速ですが主かぐや此れを。あの『鬼』が落として行った羽根です。此れを頼りに、『鬼』の居場所を探る事は可能でしょうか?
拙い、朧げな記憶ではありますが、『鬼』の遺留物から思念を辿るのが、神垣ノ巫女の能力――千里眼であったと思うのですが…………



「…………うむ、私に任せよ!
 ……椿、神垣ノ巫女の名において約束しよう。必ずあの『鬼』の居場所を手繰ってみせる!
 科戸の風の 天の八重雲を吹き放つ事の如く 朝の御霧 夕の御霧を 朝風 夕風の吹き払ふ事の如く 払い給へ 清め給へ!」



――キィィィィン……!



主かぐやの身体が、僅かに発光している?……此れは、今まさに千里眼を使っていると言う事の証なのか?……身体が発光、黄色い電
気ネズミ……また変な記憶を思い出したな。

「主かぐや……」

「かぐや様……」

「……見えたぞ、椿。敵は『武』の領域、厳島神社に居る!」



『武』の領域の厳島神社……其処が奴の居場所か!!――ありがとうございます主かぐや……此れで、此方から攻め込む事が可能にな
りました。



「なに、私に出来る事など結界を張る事以外には此れ位しかない……『鬼』の居場所は分かっても、其れを倒すのはお主等に任せるしか
 ないのだからな。
 だが、必ず生きて戻って来ると約束するのだ!私は、まだまだお主から聞きたい事が沢山あるのだからな!」

「無論です……モノノフとして、貴女に仕える騎士として約束しましょう。」

行くぞ、椿、神無、グウェン!厳島神社に行って、あの『鬼』を討つ!!
犠牲者達に、せめてもの供養として、奴の素材で作った武具を墓前に備えてやるとしようじゃないか!『武』の拠点から突入するぞ!!



「了解!……そう言えば、ダイバタチと戦った時もこの面子だったわね……最高だわ!!」

「行こう、椿。貴女について行く!」

「誰が相手だろうとぶった切る、其れだけだ。」



……神無が若干物騒な気がしなくもないが、今は其れで良い。寧ろ『鬼』が相手である事限定で、誰彼構わず斬り捨ててもマッタク問題
はないからな。
紅月、時継、焔、お前達は万が一に備えて里の方を頼む。あの『鬼』が、私達と入れ替わりに再び里を攻めに来ないとも限らないからな。



「了解しましたシグナム。里の方は私達に任せて下さい。」

「また来たら、そんときゃ今度こそ返り討ちにしてやろうじゃねぇか……そんときゃ足引っ張んなよヒヨッコ。」

「ヤロ、誰がヒヨッコだ。
 ま、こっちは俺等に任せてお前等はさっさとアイツをぶっ倒して来いよ……ってか、俺達の出番なんぞ無いようにしろっての。」

「無論、その心算だがな。……行って来る!」

里を襲った『鬼』よ、貴様が奪った命の代償を、其の身で払って貰うぞ。



「カラクリ使い、『武』の領域には我等サムライ部隊の翡翠と琥珀も別の任務で赴いている――もしも出会ったら、好きなように使え。」

「刀也……良いのか?」

「構わん……その代わり、必ずあの『鬼』を討て――奴を討たねば、死んだ者達も浮かばれんからな。」

「了解した。」

「……カラクリ使い。」

「今度はお前か……何用だ八雲?」

「死ぬな。かぐや様の為にも、必ず生きて戻れ。」

「お前に言われずともその心算だ。」

何にしても、先ずは『武』の領域の拠点にだな……本部裏手の跳界結石を使って、『武』の拠点に一気に移動だ――今更ながらに、如何
やって移動してるのか凄く気になるな。
……まぁ、博士でも解析する事は出来ないだろうから、深く考えるのは止めておこう。

さて、厳島神社を目指す訳だが、出来れば刀也が言っていた翡翠と琥珀とも合流したい所だし、領域の各地にある跳界結石も浄化して
おきたい所だからな……取り敢えず、領域内を探索するぞ。



「そうね……厳島神社までの道中で、出来る事はやっておきましょう。」

「と言ってる傍から、来たみたいだ。」



『グガァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!』



探索を始めようと思った矢先に現れたダイバタチ……嫌がらせか此れは?
相手をしても良いが、生憎とお前の相手をしている暇はないので……今は全力で逃げる。敵前逃亡は、騎士としてあるまじき行為ではあ
るが、此れは戦略的撤退だから問題はない。



「そうは言ってもシグナム、逃げ切る事は不可能じゃない!?」

「だろうな。
 だが、私とて只逃げている訳では無い……跳界結石は――あった!!」

私の目的は穢れた跳界結石を見つける事だ――此れに近付けは当然……



『ワヲォォォォォォォォォォォォォン!!!』



中型の『鬼』が現れるからな。
『武』の領域で現れるのは、犬狼を思わせるグヒンだが、現れたところ申し訳ないがお前は速攻で退場だ……私達を追って来たダイバタ
チの突進によってな。



――バガァァァァァァァァァァァン!!



『ヲア……!?』




哀れ野良犬の如き中型の『鬼』はダイバタチの突撃を真面に喰らって、何も出来ずに地獄へ送り返されてしまったか……南無阿弥陀仏と
言う所だな。
『鬼』に唱えて効果があるかは知らんが。
で、そのダイバタチも……



『?』



――ひゅ~~~~……




突進の勢い余って、崖を突破してそのまま谷底に紐なしバンジージャンプを敢行してしまったか……素早さと力は大したモノだが、知能の
方は残念なみたいだね。
取り敢えず、先に進むか。



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・・・



その後は順調に『武』の領域を進み、その途中で翡翠と琥珀と出会う事が出来たが、まさか琥珀が翡翠の双子の妹だったとは思わなか
ったよ。
姉の翡翠は迅の薙刀で、妹の琥珀は攻の鎖鎌……技の姉に、力の妹と言った感じだな。
刀也が好きに使えと言ってくれたので、彼女達には『武』の領域に点在する跳界結石の浄化を頼んだ……彼女達の実力ならば、中型の
『鬼』など恐れる相手はないだろうしね。
何よりも、跳界結石の浄化を彼女達に任せる事で、私達は件の『鬼』の討伐に集中する事が出来るからな。

そして遂に辿り着いたぞ目的の場所……厳島神社に。――朽ちてしまってはいるが、其れでも嘗ての荘厳な佇まいは未だに残っている
な……其れだけに、領域に取り込まれた後は、『鬼』の格好の住処になってしまった訳か。
歴史の遺物は、『鬼』が己の力を高める事の出来るものらしいからな……九葉が、『鬼』との戦いになった場合、歴史の遺物を真っ先に破
壊するように言っていたのも、其れが理由だったのかもしれん――今の私には、良く分からないけれどな。



「此処に……此処にアイツが……!!!」

「気持ちは分かるが落ち着け椿……怒りの感情は、一時的に強大な力を与えてくれるが、その代償に冷静な判断力を奪う――真に怒り
 を力とするのであれば、冷静な判断力を残して怒れ。
 燃え盛る炎よりも、氷よりも冷たい炎の方が力になるからな。」

「氷よりも冷たい炎……其れオカシクナイ?」



其れはそう思うが、烈火の怒りをもってしても、冷静な思考は失うなと言っているんだ……考えるんじゃない、感じるんだ。
こう言っては何だが、お前はあれこれ考えるのはあまり得意ではないだろう椿?



「考える暇があったら、突撃上等よ!!」

「……馬鹿か?」

「神無、戦闘狂の貴方が言うのか?」



……その意気だよ椿。其れで良い。
今のお前は、怒りに燃えながらも、冷静な思考を失くしてはいないから、理想的な形で身に秘めた怒りを力にしていると言っても過言では
あるまい。

だから、殺すぞコイツを!!



『フフフフフ……』



私達が神社の中庭に入った次の瞬間、里を襲った『鬼』が現れたか……主かぐやの千里眼は、大当たりだったと言う事か。
身体に稲妻を纏ってとは、随分と派手な登場だったが、其れは貴様の死が近付いた証だ……貴様が私達の前に現れた以上、貴様の死
は絶対だからな?



「コイツが父さんを……許さない……絶対に許さない!!」

「頭を冷やせ、死ぬぞ。」

「大丈夫だ、私達が死なせない――行け椿!背中は私達が守る!!」

「グウェン……神無……シグナム……お願い、私に力を貸して。
 もう誰も死なせないだけの力を!!」

「今この時だけは、お前の為に戦おう椿……主計の仇を、今此処で討つ!!」

烈火の将・シグナム……押して参る!!――貴様は必ずや、我が十束の錆にしてくれる!!!――主計の、多くの外様の命を奪ったそ
の代償、貴様の身で払って貰うから覚悟しておけ。
私の怒りは、既に限界を突破しているのだからな!!



――轟!!



だから貴様を殺す。滅する。滅殺する!
今の私は、貴様等『鬼』を滅する為ならば悪魔に魂を売り払っても構わんと思っている位だからな……まぁ、其処まで私を怒らせた事に関
しては褒めてやろう。
その褒美として、地獄への片道切符をくれてやる!!地獄の最下層の更に奥の煉獄への片道切符をな!!








――――――








Side:アインス


今日の相手はツチカヅキ……嘗て私に瀕死の重傷を負わせた『鬼』だが、其れはもはや過去の事に過ぎん――だから、此れで……

「お別れです!ハハハハハハハハ!!!!」

「『鬼』の頭を掴んで持ち上げ、其処に竜巻で攻撃を加えて滅したのは、君が初めてだろうなアインス。」



『やみどうこく』は、最強クラスの必殺技だからね。
嘗ては不覚を取ったが、今更ツチカヅキ程度では相手にならないのだが……気のせいか、最近『鬼』の活動が活発になって来ている気
がするな?

私の思い過ごしであれは良いのだが、もしも其れが思い過ごしでなかった場合には良くない事だ……此れは、もう暫く様子を見た方が良
いかも知れないな。

そして……お前もこの世界に来ているのだろう将?……果たして会えるのは何時になるのだろうな……










 
To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場