Side:梓


さてと、桜花に大見えを切った手前、那木の事を何とかしなければならないんだが……居た。――オイ、那木。そんな所で何をしているんだ?



「梓様……先だっては、お見苦しい所をお見せしてしまいました。
 いけませんね、手当一つできないようでは。昔は、医師だったというのに……
 自分の傷は大丈夫なのですが、、他人の傷を見ると、手が震えてしまうのです……如何しても。」

「其れは、少しばかり面妖な物だな?――理由を聞かせて貰えないか?」

「理由……でございますか………」



いや、話したくないのならば無理にとは言わないが……理由が分かれば、其れを如何にかする策が思い浮かぶかもしれないと思ったんだ。
先程のお前の様子は、ただ事ではなかったと思うからね。



「……いえ、そう言う事ならば聞いてください。――寧ろ、聞いていただいた方が、早い気がいたしますので。」



そうなのか?……なら聞かせてくれ那木。お前の過去に、いったい何があったのかを。














討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務16
『襲来、ヒノマガトリ!!』











「昔、仲の良い友人がいたのですが……私は彼女を死なせてしまいました。手術に失敗して……
 それ以来、治療をしようとすると、手が震えるようになりました――もし、治療に失敗してしまったら……そう思うと、身がすくむのです。」

「其れは……」

確かに、誰かを治療するという事に恐怖を覚えても仕方ないな。
言い方は悪いが、顔も知らない真っ赤な他人が相手だったのならば、ダメージは最低限で済んだのかも知れないが、仲のいい友人だったと
言うのは、幾ら何でもダメージが大きすぎる。

私だってその思いは分からないでもない――私は、此れまで何度も、友である守護騎士達をこの手で葬って来たのだからね。
だが那木、其れがお前が医師を辞めた理由なんだな?



「はい……すみません、つまらない話を聞かせてしまいました。」

「いや、そんな事はないさ。――時に、その友人とはどんな人だったんだ?」

「私と同じ、学問の徒にございます。彼女とはよく語り合ったものです……天文学や、医術の事を。
 『アタシは当代一の天文学者になる!だからアンタは、当代一の医者になりなさい!』……彼女の口癖です。
 其の誓いも、もう果たせなくなってしまいましたが……さぁ、もうお行き下さい。一寸の光陰、軽んずべからずでございますよ。」



……そうだな、そう言う事にしておこう。――これ以上、詮索するのは悪趣味だからね……那木の心にある闇の片鱗を見る事が出来たと言う
事で手打ちにしておくべきだろうな。
とりあえず総合本部に戻って――って、橘花?もう大丈夫なのか?



「こんにちは、梓さん。少しいいですか?お話ししたい事が……」

「あぁ、別に構わないが?」

「……!!梓さん、気を付けて!!……来ます!!」



来るって何が?……などとは、聞くだけ野暮だな!!――何が来たかは分からないが、大型の鬼が現れた、そうなんだろう橘花よ!!



「く……!!」

「橘花、無事か!」

「私なら……大丈夫です……」


と、里のモノノフが一気に集まって来たね?……皆も大型鬼の襲撃を感じ取ったという事か。だがしかし……マッタク何の予兆も無しとは、物
見の連中は何をしていたんだ?



「敵は……空から来ました。――里の直上……完全に死角です。」

「真上からの奇襲……其れでは、物見も発見できないか……死角から攻めて来るとは……やってくれるじゃないか!!」

「それよりも、空からだと……?おい嬢ちゃん、そりゃ羽付きって事か?」

「恐らく……」



富嶽?……そう言えば、お前は『羽付きの鬼』を追っているんだったな。
そんな中で、空から奇襲をかけて来た鬼が現れたとなっては、己の追う存在である可能性が高いと思うのは道理だろう……橘花も否定はし
ていなかったからね。



「く……何て言う力……梓さんが結界を上掛けしてくれたのに……それでも――」

「結界を重ね掛けしても橘花に負担がかかっているだと?……如何やら相手は、此れまでとは一線を画す鬼らしい!如何する、桜花?」

「知れた事……富嶽、速鳥、梓、一緒に来てくれ――『鬼』を討つ!!」



あぁ、言われるまでもない!
強化した結界を用いて尚、橘花に負担を与える鬼の存在を、見過ごす事は出来ないからな……精々、我が刃の糧となって貰うさ。或は、新し
い武器の素材にしてやろう。



「承知。」

「羽付きは俺の獲物だ……打っ潰す!!」



現れたのは『安の領域』だったな?――空を飛ぶ相手と言うのは少々厄介だが、其処は私も飛ぶ事が出来るから何とかなるだろうね。
行くぞ!!



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・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



と言う訳で、安の領域までやって来た訳だが……早速おいでなすったみたいだな?



『キェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!』



空を飛ぶ、4枚の翼を持った鳥の様な『鬼』――ヒノマガトリが。……確かに、ミフチやクエヤマと比べると可成り格上の鬼の様だな?
空を自在に舞う上に、雑鬼まで使役できるようだからね……彼方此方から、ガキがうようよと現れてくれたモノだ。……まぁ、全て叩けば問題
無いけれどな。



「く……橘花の結界が大分弱くなっている……!
 事実上は梓の張ってくれたモノしか機能していないのと同じか……一匹たりとも進行させるな!殲滅するんだ!!」

「承知、迅速に討ち掃うべし。」

「速攻でな!……と、如何した富嶽?浮かない顔をしているが……」

「コイツは……違ぇ、コイツじゃねぇ――ッタク、期待させといてこれかよ!テメェになんざ、用はねぇんだよ!!スッコンでろ!!」



あぁ、探していた仇ではなかったという事か……だが、そうであっても此の鬼は討たねばだろう?
其れに、探していた相手ではなかったとは言え、コイツも羽根を持った空を飛ぶ鬼だから、敵討ちの本番前の予行練習にはなると思うがな?



「そう考える事も出来る……か?
 まぁ、何にしても仇じゃなかったとは言え、鬼は打っ潰すだけだ!覚悟しな!!っとぉ、あぶねぇ!!!」


――ゴォォォォォォォォォ!!


おっと……危なかったな今のは。
空を飛ぶだけでなく、炎まで吐いて攻撃してくるか……空を飛ぶ事の出来ないモノノフにとっては、厄介な相手になるだろうね?銃や弓の様
な武器でなければ、攻撃を届かせる事が出来ないのだから……薙刀や双刀のように空中攻撃が出来る武器は別だが。

だが、生憎と私はその範囲には居ないんだよ。



「梓!!」

「なんと、漆黒の翼で空を舞うとは!」

「何でもありだな、テメェは……今更だがよ。」



私もお前と同様に空を飛ぶ事が出来る。
そして、炎を吐いていたのを見る限り、お前は火属性の『鬼』だろう?ならば、高確率で水属性に対しての耐性が低い筈だ……故に、オヤッさ
んが作ってくれた『霞斬り』が最大の力を発揮してくれる。

先ずはその翼、落とさせて貰うぞ!!


――ズバズバズバズバァ!!!


『ギシャァァァァァァァ!?』



一瞬四斬の部位破壊……更に、攻撃前に懐のミタマの『断祓』を発動していたから、部位破壊と同時に浄化もしているから再生も出来ない。
此れで貴様の飛行能力は封じた。更にだ――

封縛!!


――ガキィィィン!!


バインドで、その身の自由も奪わせて貰う。――今だ!!



「フッ!ハァ!!魂を込める……橘花桜蘭!!」

「鬼は葬るのみ……ハァ!!」

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
 オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
 オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
 オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!」




良い攻撃だな。
桜花が斬心からの連撃から斬心開放でダメージを与え、速鳥が回天で高速攻撃を行い……更には富嶽の百裂拳の猛ラッシュだからな?



『キェェェェェェ!!!』



と、此処でタマハミ状態になってバインドを引き千切ったか?……だが、もう遅い!!



――ズバァ!!!

――ズズ……ズゥゥン




兜割りで、頭から一刀両断だ。如何に大型の鬼と言えども、頭から真っ二つに身体を割られてしまっては、黄泉に渡る以外に残された道はな
いのだからね……闇に消えるが良い。

「任務、完了だな。――里に戻ろう、橘花の事が気掛かりだ。」

私の結界が有っても、負担がかかったという事は、彼女の身体には相当に堪えただろうからね……今し方橘花の結界が消えた事を考えて
も、其れは間違いじゃないだろうからな。



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さてと、里に戻ってきたら、桜花は一番で橘花の下に行ったか……まぁ、姉として妹の事が心配なのは当たり前の事だからな。無論、私も心
配しているが、余り大勢で押し掛けるのも却って橘花に悪いから、此処は桜花に任せるさ。

だが、ただ待つのもアレだから、オヤッさんにヒノマガトリの素材で新たな刀を作って貰っているけれどね。
此れまでの刀が、何れも見事な業物だったから、此の刀にも期待してしまうな?一体どんな火属性の刀を作ってくれるのか、とても楽しみだ。



「おし、出来たぞ!火属性の打ち刀『焔重ね』だ!!」

「おぉ!此れは凄いな!」

まるでルビーの様な透き通った真紅の刀身からは、凄まじいまでの火の力を感じる事が出来るし、刃の鋭さも見事な物だ。
其れだけでも凄いのに、此の刀には芸術品としての美しさまで備わっているからね?……流石はオヤッさん、見事な腕前だ!此れで残す属
性は天属性のみだな!!――ん?


――ヒィィィン……



「如何したい梓?」

「いや……如何やら、此の刀を手に入れた事で、私の張った結界の火属性への耐性が上がったらしい。と言うか、水、地、風と同じ耐性力を
 得たと言うべきか?
 ……若しかして、私が持っている属性武器の属性が強化されるのか?……だとしたら、出来るだけ早く天属性を手に入れねばな。」

「なんだそりゃ?まぁ、天属性の素材が集まったら何時でも来な。ワシの腕によりをかけてお前さんの刀をしあげてやるからよ。」



あぁ、その時はお願いするよオヤッさん。
さてと……一度本部に――って、桜花、橘花の容体は如何だった?



「梓か……あまり芳しくはないな。
 如何やら、私達が出撃した直後に倒れたらしくてな……今は眠っているが、如何やら心の臓の発作らしい……今の所、容体は安定している
 が、楽観できる物ではないとの事だ……クソ!!」

「桜花……」

気持ちは分かるが、自分を責めるなよ?
今回の事は誰に責任がある訳でもない……言うならば、行き成り襲って来た鬼が全部悪いんだ――桜花には何の責任もない。だから、今は
橘花が無事に回復する事を信じて待とう。



「あ、あぁ、そうだな……取り乱してスマナイ。」



其れは仕方ないさ……大事な妹が、倒れたのだからね。
しかし、心臓の発作と言うのは、良くないな?……其れを抑える薬でもあると良いのだが……さて如何したものか?……専門家に聞くのが一
番だな此れは。

那木は何処だ……と、居た。那木!



「梓様?……何か御用でしょうか?」

「橘花の心臓の発作を抑える方法はないか?今は落ち着いているようだが、このままの状態では橘花は……彼女を助けたいんだ。」

「……もしかすると、橘花様を助ける事が出来るかも知れません。心の臓の発作には、キツネ草という特効薬がございます。
 其れを使えば、あるいは……ですが、自信が無いのです。果たして、この方法で良いのか……もし、また失敗してしまったら……!!」

「那木……」

お前の気持ちは、分からなくはないが、今は失敗した事を考えるよりも、やるべき事をすべきだろう?
キツネ草と言う特効薬があるのならば、何が何でも其れを手に入れて橘花に与えてやるべきなんじゃないのか?――駄目だった時の事は、
駄目だった時に考えれば良い!



「梓様……私は、大馬鹿者です。答えは、とうに決まっていた筈なのに……震えて、立ち竦んでいただけでした。
 ……行きましょう、橘花様のところへ。まだ、きっと間に合う筈です。」



あぁ、行くとしよう!



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で、橘花を診察した訳なんだが……如何やら那木の読み通りだったみたいだな。



「症状を確認しましたが、矢張り、キツネ草が効くと思います。」

「キツネ草?」

「西国渡来の薬草です。
 里には有りませんが、自生していた場所を知っています――『鬼』に穢されてしまった土地ですが、まだ残っているかもしれません。」



其れなら、賭けてみる価値はあるかも知れないな?――其れで、橘花を助ける事が出来るのかも知れないのだからね……キツネ草、なんと
しても手に入れなくてはな!



「行ってくれるか、那木、梓!!」

「お任せ下さい。」

「待って居ろ桜花。橘花の為に、必ずやキツネ草を持ち帰って来るからな。」

「あぁ、頼む!!」



頼まれた!!
行こう那木!橘花を助けるためにも、キツネ草の入手は、絶対の事だからね……必ず持ち帰って見せるさ!祝福の風の名に懸けてな!!











 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場