Side:梓


あふ……少し寝過ごしてしまったかな?
まぁ、昨日の任務は、負ける事はないとは言え可成りのモノだったからな……自覚せずとも、疲労が溜まっていたのかも知れない――この身
は、生身故に、以前の様な無理が通じる体ではないと、改めて自覚せねばだな。

ともあれ、今日も今日とて鬼を討つ事に変わりはない。
新たな御役目も出ているだろうから、本部で其れを受注して熟すとしよう――って、ん?



「丁度良い所に来たな。
 梓、お前と桜花に後事を託したい。」

「行き成りだな大和?後事とは……?」

「俺は霊山へ行く。」

「「!!!」」


霊山だと?
梓の記憶のおかげで分かるが、霊山と言うのは各地のモノノフに対して強い権限を持つ組織であったはずだ……そんな場所に、大和が一人
で出向くだと?……一体如何言う事なんだ!!



「御所会議と言う物でな、霊山からの招集を無視する事は出来ん――何よりも、此度の招集は、夫々の里での戦況を報告し対応を仰ぐ物だ。
 俺の役目も、対応を仰ぐ事だからな。
 尤も大した策など出んだろうがな」


だが、其れでも里の頭である以上は行かざるを得ないか――分かった里の方は任せておいてくれ大和。……お前の不在時に、ウタカタが落
とされる事が無いように全力で里の防衛に当たる。だからお前は、心配せずに、己の為すべき事を成して来い!













討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務15
『戦禍逆巻き、戦禍舞う鬼との戦い』











「うむ……『鬼』の組織行動の原因――其れを探らねば、必ず後の禍根となる。
 だが安心しろ、俺とて霊山の官僚共に期待しているわけではない――此度の霊山訪問は、古き友人を尋ねるのが主な事だ。
 進んで仲良く出来る奴ではないが、奴ならば、良い助言をくれるだろうからな。」



其れは、所謂『悪友』と言うべき存在だという事か……貴方と其処までやり合えた相手が居るのならば、彼の者からの助言と言うのは確かに
とても頼りになるモノだろうな



「お父さん……」

「……そんな顔をするな木綿――戦場に行くわけではない。
 いや……此れも一つの戦場か――必ず策を持ち帰る、其れまで里を守れ、桜花、梓!!」

「無論です、お頭!!」

「月並みかもしれないが、任せておけ――里には指一本触れさせん!!」

「ふ……頼もしいな。」

「お頭、御武運を……!」

「死ぬなよ、大和。」


「無論だ、行ってくる!――汝らに、英雄の導きがあらん事を。」



あぁ、お前にもな!!――と言うか、絶対に生きて帰って来いよ大和?……お前が死んでしまったら、木綿は天涯孤独の身になってしまうの
だからね。



「しかし、お頭の不在を護れか――重い課題を押し付けられてしまったな。
 里の指揮を執る以上、私は戦場には出られない――故に、実戦の指揮は君に委ねる。何時でも動けるように備えていてくれ。」

「言われるまでもないな桜花。――すでに私は、何時何処から任務が来ても万全の状態で対応することが出来る!故に、負ける気はない。」

「そうか……頼りにしているぞ。
 そう言えば……この前は良く里を守ってくれた。改めて礼を言わせてほしい。それと、橘花の負担を減らしてくれた事も礼を言う。」



気にするな、あの程度は当然の事だ。
其れに、あの一件で、橘花への負担を増やすことなく里の結界を強化することが出来たんだ……結果を見るのならば、間違いなく大勝利って
言う所だろう?
私は私の為すべき事をしただけに過ぎんさ――橘花の事は、その副産物に過ぎんよ。



「そうか……だが君は本当に不思議だな梓。
 正直な事を言うのならば、お頭不在の里を取り仕切る自信が無くてね――だが、君の言葉を聞いたら、悩むのが馬鹿らしく思えて来たよ。
 普段は、こんな思いを人に言う事は無いんだが、君には色々と話せてしまう……人をお喋りにする、魔法の力でも持っているのか?」

「そんな魔法があったら、取り調べとかに使えそうだな?」

「……いや、冗談だ。さぁ、任務に戻ろう。」



そうだな。
『鬼』の動きも気にかかる。あの大襲撃以降、目立った動きはないが……物見を増やして、監視を厳しくした方が良いのかも知れないね?



「あぁ、その方向で行くとしよう。」



留守は確りと守らないとだからな。
とは言え、今は未だ新たな御役目が出ている訳ではないから、本部に新たな御役目が入るまでは、里をぶらつくか……そう言えば、大和が
言っていた御所会議とはなんだろう?
梓の記憶を引っ張り出してみても分からないんだが……と言うか梓よ、お前は戦闘訓練は兎も角、座学は殆ど睡眠学習だったみたいだな。
何と言うか、モノノフとしての最低限の知識しか入ってないじゃないか此れは――仕方ない、知ってる人に聞く事にしよう。



「何かお困りですか、梓様?」

「あぁ、那木か……丁度良い所に来た、大和が御所会議とかで霊山に行ったんだが、御所会議とはなんだ?」

「まぁ、御存じないと?では、説明いたしましょう♪」



あ、拙い。地雷踏んだパターンだ此れ。



「霊山では、定期的に、全ての里のお頭が参集する『御所会議』が開かれるのです。
 霊山を統べる霊山君と、各里のお頭の合議によって方針が決定されます――大和様は、ウタカタの代表としてこの会議に赴かれました。
 そう言えば、橘花様も、桜花様も、霊山で育ったと聞いています――誰にでも過去があるモノですね。
 私も元は医師でした。
 もう随分前に辞めてしまいましたが……無駄話をしてしまいましたね。それでは、説明の続きを……」



何故那木に聞いた私よ……こうなる事は予想出来ていた筈なのに。
いや、那木以上に説明できる人も居ないからか……富嶽に聞いても『あぁ、俺だって知らねぇ』って言われそうだし、息吹と初穂も説明とかは
あまり得意ではなさそうだからな……まぁ仕方ないか。


で、延々と説明を聞いた後で本部に戻って来た訳なんだが……うん、良いタイミングで御役目が上がっていたようだね?
新たな領域での任務もあるみたいだな。



「お疲れ様です梓さん。新たに『安』の領域での任務が追加されています。
 徳川家康公が築いた太平の世を再現したかのような静かな場所で、其れと桜が綺麗みたいです。見とれないように注意して下さいね?」

「あぁ、分かった。では、その『安の領域』での任務を受けようかな?と言うよりも、此れしか残っていないみたいだしね。」

「あはは……武の領域の任務は速鳥さんが、雅の領域での任務は富嶽さんと那木さんが受けて行きましたので。」



となると、残っているのは息吹と初穂か。
そう言う訳だから、付き合ってくれ2人とも――楽しい楽しい、鬼退治に行こうじゃないか?



「私達必要?」

「アンタの実力なら、1人でも大丈夫じゃないのか?」

「かも知れないが、安の領域は初めて行くからどんな場所なのかサッパリ分からないんだよ私には。
 だが、お前達ならばどんな場所か知ってるだろう?……こう言っては何だが、道案内をお願いしたいんだ――ダメかな、『初穂お姉さん』。」

「し、仕方ないわね!私はお姉さんだから、頼みを聞いてあげるのは当然よ!!任せておきなさい、バッチリ案内してあげるから!!!」



うん、では頼むな♪



「アンタ、意外と人を乗せるのが巧いな?」

「初穂が扱い易いだけだ……それで、お前も私の誘いを断りはしないだろう息吹?と言うか、ウタカタ一の伊達男を自称するお前が、女性か
 らの誘いを断る筈がないよな?」

「……ったく、そう来られたら降参だね。
 まぁ、確かにアンタみたいな美人さんの御誘いを断るってのは俺の流儀に反するんでね……鬼退治付きの夜桜鑑賞と洒落込みますか。」



そうしようじゃないか。
さて、鬼退治開始だ!!



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という訳でやって来ました『安』の領域。……ふむ、確かに木綿の言っていたように桜がとても綺麗だね?
領域内が夜である事もあって、夜の闇に桜の花が映える……此処が異界でなかったのならば、絶好の夜桜鑑賞ポイントだったのは確実だ。

だが此処は異界、其処を跋扈する鬼に、桜を愛でるという感覚などないだろうがな。



「まぁないだろうとは思うが……アンタ本当に強いな梓?俺と初穂の出番が殆どないじゃないか?」



まぁ、そう言うな息吹。元々私は纏めて倒すのが得意な上に、魔法が解禁されたのだから、此の程度の軍勢など数の内に入らないさ。
特に、雑魚中の雑魚であるガキなどは、不浄個体が混ざっていても相手にならないし、オンモラキに関しても同様だ――この領域には、多少
手強いヌエが、黄泉個体も混ざって現れるようだが……

「おぉぉぉぉぉぉぉぉ……死ね!!」


――ガ!ドガァ!!バガァァァァァァァァァァン!!


ハッキリ言って敵じゃないな?見様見真似の『琴月 陰』で一撃必殺だからな。
さて、他に私に殺されたい鬼は誰かな?……遠慮しないで名乗り出ると良い、お望み通りに地獄に送り返してやるからね……かかって来い。



「初穂、アンタが鬼だったら梓に戦い挑むかい?」

「挑まない。本能が危険を察知して逃げると思うわ。」

「だよなぁ、ヤッパリ。」



鬼も逃げ出すと、そう言いたいのか息吹も初穂も?……だが、鬼が逃げ出すのならば悪い事ではないだろう。
逆に言うのならば、私が出張れば鬼が逃げ出して、里の近くから遠ざけることが出来るという事なのだからね……だからと言って、赴いた戦
場で遭遇した鬼を見逃す気は毛頭ないけれどな。



『『『ガァァァァァァァァァァ!!!』』』



ヌエの黄泉個体が3体か……なら、夫々1体ずつと行こうか!!



「良いねぇ、敵さんも中々に空気が読めるらしい。サクッと行きますか!」

「覚悟しなさい!!」



という訳で、各個撃破させて貰う。
ヌエの黄泉個体は、小型の鬼では最強クラスなのだろうが、私には――引いては息吹や初穂の相手ではない。通常個体よりも頑丈で、雷を
操る力は脅威かも知れないが、その程度で私達を止める事は出来ないさ。



「逝っちまいな!!」

「覚悟なさい!」



息吹も初穂も、全く持って相手にしていないからね。
だから残されたお前も、大人しくやられておくのが身のためだ……尤も、お前は既に死んでいるがな。



『が?……グガァァァァァァァァァァァァ!!!!』


――シュウン!!



斬られた事にすら気付かなかっただろう……お前が現れたその時に、すでに私は居合でお前の事を切り裂いていたんだ――寧ろ、今までよ
く崩れなかったと称賛に値する。
精々、深き闇に沈むが良いさ。


さて、此れにて任務完了――ウタカタに戻るとするか。



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という訳で里に戻って来たのだが、何やら物々しいな?何かあったのか桜花?其れに那木も。



「梓様……よいところへ!」

「梓、緊急事態だ……物見の一隊が、偵察中に襲撃を受けた。」

「!!」

何だと?其れは本当か桜花!!



「あぁ、本当だ。偵察の強化が裏目に出た――撤退させているが、追撃を受けている。至急出撃し、迫っている『鬼』を討ってほしい。
 任務を終えたばかりで過酷かも知れないが、やってくれるか梓、那木。」

「無論でございます。急がねばなりませんね。」

「是非もない……そう言う事ならば撃って出て、物見を襲撃した鬼を討つだけの事――我が刀の錆にしてやるだけだ。」

「すまないな……お頭が居ない以上、私は此処を動けない――物見の撤退が終わるまででいい、頼んだぞ。」


頼まれた。
だが桜花、物見の撤退が終わるまででいいとは言っていたが、現れた鬼を全滅させてしまっても、別に構わないのだろう?と言うかOKだろ?



「あぁ、全滅させてくれて構わない。寧ろしてくれ。
 物見が安全に撤退出来れば其れで良いが、それを円滑に行う為ならば、鬼を全滅させるのも良い手だからな…現場での指揮は任せる。」

「任せておけ。行くぞ那木!!」

「了解でございます!!」



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で、那木と共に出撃したのだが、此れは何とも余裕だったな?
ワイラの黄泉個体と、ヌエの黄泉個体が居たとは言え、ハッキリ言って極めて楽勝以外の何物でもなかったからな……少々喰い足りないが
物見が安全に撤退出来たという事で良しとしておこう。



「2人とも助かった。おかげで物見隊を撤退させることが出来た――だが、負傷者が多い。
 那木、手を貸してくれ。負傷者の救護を手伝ってほしい。」

「わ、私でございますか?」


だが負傷者を出さないという事は出来なかったな……死者が居ないというだけマシだがね。
で、負傷者の救護の応援に那木を選んだ桜花は流石だ。那木は以前は医者だったらしいから、負傷者の手当てなどはお手の物だろう。
なのに、何を迷っているんだ?



「い、いえ………………」

「那木……?如何した?」

「那木……大丈夫?手が震えてるわ。」



初穂の言うように手が震えているな?……一体如何したというんだ那木?



「も、申し訳ありません……昔の光景が……頭をよぎって…………私には……私には……出来ない様です……申し訳ありません、桜花様。」

「那木……」



那木……如何やら、何か重いものを抱えているようだなお前も。
なら無理にやる事はない、負傷者の手当ては私と初穂でやる事にするさ……お前は少し休んでいると良い――そんな状態では、任務に差し
支えるかも知れないからね。



「はい……」



とは言え、此のまま見過ごす事も出来ないからな……那木から、話を聞く必要があるかも知れないね――構わないか桜花?



「あぁ、那木の為にもやってやってくれ――君ならば、或は那木を私達の知り得ない闇から救う事が出来るのかも知れないからね。」

「大分買われている様だが、ならばその期待には応えるさ。」

恐らくは大分踏み入った話になるのだろうが、さっきの那木の態度から、彼女が心に闇を抱えているのは確実だ――ならば、その闇を取り除
き、心の雲を取り除かねばだね。

那木……お前は一体、何を心の中にしまっているんだ?……先ずは其れを聞かせて貰おうじゃないか?全ては、其処からはじまるのだろう
からね。












 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場



――時は少し遡って、任務終了直後



禊に来たら富嶽が居た。
前々から思っていたが、見事な身体だな?腹筋も割れてるし、肩の筋肉も発達している……上腕の太さなんて、私のウェストと同じかそれ以
上だともうよ?



「そいつは褒め言葉としとくが……ったく、何考えてんだか分からねぇぜてめぇはよ!!」

「禊は、誰かと一緒になるスリルがあるね……だがしかし、敢えて私は此処で言わせて貰おう……禊上等であると!!」

「適当過ぎんぞオラ!!」

「だが、言い得て妙だろう?」

「否定出来ねェのが辛いなオイ!!」



そんな訳で富嶽と禊をした――攻撃力が大幅にアップしたみたいだな。