Side:シグナム


椿と共に禊を終えたのだが……如何かしたか椿?



「む、胸は兎も角として、なんでシグナムの肌はそんなにきれいなの!?女性であっても、モノノフである以上は生傷が絶えない筈なの
 に何でそんなにきれいなのよ!?正直羨ましいわ!」

「此の肌か。」

これはアレだな、私が圧倒的に強かったからだとしか言いようがない。
朧げな記憶でしかないが、私は一人でゴウエンマを倒した事があるからな……其れを考えれば、小型の『鬼』との戦闘で傷を負う事等
あり得ない事なのかも知れんな。



「何それ?
 其れが本当だとしたら、最強は神無じゃなくてシグナムなんじゃないの?」

「……否定はしない。だが神無には言わないでくれ――アイツに此の事が知れたら、私が果てしなく面倒な事になるのは目に見えてい
 るからな。
 下手をしたら四六時中『俺と戦え』と付きまとわれてしまいそうだ。」

「あ~~……うん、其れは確かに。」



分かってくれたか椿。
其れじゃあ行くとしようか、カラクリ研究所にな。








討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務155
『束の間の休息を破壊する者』









そんな訳で椿と共にカラクリ研究所に向かおうとしたのだが……



「おや?君は……
 やあ、二人とも。今日も一緒とは仲が良いな。」

「……父さん?如何したの、こんな所で。」



此処で主計とエンカウントしたか……椿の言う通り、サムライの居住区付近でお前と会うとは思ってなかったが、何だってこんな所に居
るんだ?
サムライの居住区に何か用でもあるのか?



「サムライの陣所に医療品を届けに行くところだ。」

「医療品とは……あぁ、この前言っていたやつか。」

「医者不足は解消できないが、せめて薬位はと思ってね。今から行って来る所だ。」



医者不足か……確かにモノノフは、その仕事内容故に怪我をする事も少なくないし、里の人々だって病気を患ったり怪我をする事があ
るのだから医者の存在は必要不可欠だが、そもそもその医者が足りていないのではな。
そう言う所でも外様が割を食っていると言う事なのだろう……果たして、其処まで外様だ鬼内だと拘る必要があるのか甚だ疑問だぞ?
何方も同じ人間であると言うのに、何故張り合ってばかりなのか……此のままではそう遠くなく里に致命的な亀裂が生じてしまうかもし
れないな。

しかし医者不足か……博士に頼めば薬の一つや二つ作って――いや、ダメだな。博士が作った薬など危険すぎて服用できん。
ピタリと当たれば一発でどんな疾病も治るだろうが、外れだった場合は其のまま一撃でGo to HeavenかGo to Hell……博士の薬は正
にDead or Aliveだな。



「シグナム、其れってどういう意味?」

「天国行きか地獄行き、生きるか死ぬかだな。」

「え……其れ普通に怖いんだけど。」

「博士が作る薬だからな……特効薬か劇薬かの二者択一だろうに。」

「博士か……確かに彼女の作るモノは、大当たりか外れかの何方かだからね?だがまぁ、ある意味で分かり易いとも言える。」

「……主計殿、急ぎましょう。あまり長居しては噂が立ちます。本部が外様に過度な肩入れをしていると……」

「……おや、肩入れしては悪いのかな?」

「そ、そう言う訳ではありませんが……」

「ハハハ!大丈夫、そう言うのは言わせておけばいい。人助けをするのに誰を憚る事がある。」

「……はい。」

「……相変わらずクソ真面目なんだから。」



そうかも知れないが、私は主計のその姿勢は評価し、そして見習うべき事だと思うぞ?
『人助けをするのに誰を憚る事がある』……正にその通りだ。――つい先程、天狐を探す為にお前が神無に力を貸したのも此れに当て
嵌る事だな。



「おや、そんな事があったのかい?」

「ちょっとシグナム!」

「何だ、言ったら拙かったか?」

「……ううん、何でもないわ。そろそろ研究所に行きましょシグナム。
 じゃ、仕事頑張ってね父さん。」

「あぁ、椿も気をつけて。」



おい椿!私を置いて行く心算かアイツは?……そもそもアイツは研究所が何処にあるのか知っているのか?
……マッタク、やる気があるのは良いのだが、少しばかり張り切り過ぎな所があるなアイツは。――追うか。



「……あぁ、そうだシグナム君。」

「主計、私に何か?」

「君にこんな事を言うのも何だが…………あの子の事を頼む。
 妻を早くに亡くして、少なからず無理をさせて来てしまった――真っすぐで真面目、其れに努力家だ。……だが、それ故に他人にも同
 じ厳しさを求めてしまう。
 其れで頼れる友人も少ないようだ……本人は隠したがっているがな。――君が、その友人になってくれると嬉しい。
 尤も、私が言うまでもないかも知れんが……では、また本部で会おうシグナム君。」



椿を頼む。か……私が女だからあれだが、もしも私が男だったら言われた方は盛大に勘違いしそうな物言いだな?……だが、言われ
るまでもなく、私は椿の事を友だと思っているさ。
共に死線を潜り抜けたら、其れはもう充分に友と言える存在だからな。……主計は言うだけ言って行ってしまったから、私の思っている
事は伝えられなかったがな。
尤も、主計は何処となく察しているのだろうけれどな。



「ちょっとシグナム、何してるのよ!!」

「……スマン、直ぐに行く。」

先に行ってしまったと思ったら、私が直ぐに来ない事に気付いて戻って来たのか……突っ走るようで、意外と周りが見えている様だな。








と言う訳で、ただいま博士。



「……何だ、お前か。後に居るのは……近衛の椿だな。」

「何だとはご挨拶だな博士……」

「……こ、こんにちわ。」

「……椿、気持ちは分からなくもないが緊張し過ぎじゃないのか?硬いぞ。」

「え?若しかして変な顔になってる!?」

「いや、顔では無くて。緊張し過ぎて身体がカチコチだ。落ち着いて、深呼吸して……そうそう、そんな感じだ。」

「……何をやってるんだか。
 そう警戒せんでも取って食いはしないさ。それで、一体何の……」



まぁ、色々と報告もあってな。
『武』の領域の瘴気の穴の事、其れから椿が鬼の手の事で博士に礼を――



――カンカン!カンカン!!



「「「「「「「!!」」」」」」」


って、この鐘の音は『鬼』が里に近付いていると言う緊急警報!――一体何処から来る?そして、どんな『鬼』だ!?
ミフチか、カゼキリか、其れともゴウエンマか?……ミフチやカゼキリなら兎も角、ゴウエンマが里を襲って来たとなれば大問題でしかな
いが……『鬼』は何処に?



――バシュィィィィ!!

――ビシュゥゥゥ……




今のは、空からの攻撃だと?……となると、私が知っている『鬼』の範囲ではヒノマガトリとその変異種、ダイマエンとその変異種位なの
だが、今の攻撃はその何れの『鬼』の攻撃とも違う。
と言う事は、オヌホウコやダイバタチのように、此の10年の間に現れた私の知らない『鬼』と言う事になるな。



「な、なに?」

「『鬼』か……一体どっから?」



攻撃は結界に阻まれて里にまでは届いていないが、其れでも攻撃は続いている……と言う事はその攻撃の元を辿って行けば『鬼』の
正体に大当たりと言う訳か。
では拝ませて貰おうか、里を襲った下手人の姿を。



『フフフフフフ……』



攻撃の元を辿って行ったら……見つけた。アイツがマホロバに襲撃をかけた『鬼』か!
女性体の『鬼』はミズチメと先刻戦ったイテナミ位しか居ないと思っていたのだが、此度の『鬼』もまた女性体か……鋭い爪を持った手足
に蝙蝠の様な羽……成程、これならば空から攻撃出来る訳だ。
しかも、他の『鬼』とは違って、吼えるのでは無く笑い声を発していたのを見ると、知性も高そうだ……若しかしたら人語を操るかもだ。



――バガァァァァァァン!!



く……また攻撃か!!



「大丈夫です。此処には結界が……」

「いや、そうとも限らねぇぞ?」



焔、其れは如何言う……いや、そう言う事か!!
確かにマホロバの里は主かぐやが作った結界で覆われているが、其れはあくまでも里の中心部と鬼内の居住区に限っての話――真
鶴の話では、外様の居住区には主かぐやの結界は及んでいない!!



『チッ……フゥン?』



……拙い、あの『鬼』も其れに気付いたか!!



――ギュイィィィィィィン……



止めろ!止めるんだ!!止めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!



――バガァァァァァァァァン!!!



クソ……!!
結界がない以上、『鬼』の攻撃を阻む事は出来ん……逃げろ、真鶴、神無――そして、医療品を届けに行った主計ぇぇぇぇぇぇ!!!!



「サムライの陣所が!!」

「いけない……続いて来ます!!」



――ドガァァァァァァァン!!



く……奴め、攻撃が阻まれない場所があると知って、其処を重点的に狙って来たな?……弱点を狙うと言うのは戦いの上で当然では
あるが、敢えて言わせて貰うぞ、この腐れ外道が!!



「お前達、付いて来い!住民を助ける!」

「勿論だ、是非もない!!」

「紅月、お前は『鬼』を討て!」

「……生きては帰しません!」

「クソッタレが!!」



紅月、時継……私も同じ気持ちだ。――いや、私だけでなくこの場にいる全員が同じ気持ちだろう。
住民を助けたら、私達も奴を討つ為に戦闘に参加させて貰うとする……新手の『鬼』……貴様は絶対に許さんぞ!!我が十束の錆に
するだけでは足りん!
其の身を細切れにして異界にばら撒いてくれる!!







――――――








Side:真鶴


遂に恐れていた事が起きてしまったか……巫女の結界がない以上、何時かはこうなる事があるのではないかと思っていたが、其れが
今日と言う日に起こるとはな。
シグナムと出会い、天狐に触れることが出来た良き日に、こんな事が起きるとは……最悪極まりない上に、被害は甚大だな。
変若水で回復と蘇生が出来た者が居るとは言え、多くの犠牲者が居るのも事実だ……せめて、生存者は全て助けなければ――!!



「ぐ……うぅ……」

「!!」

貴方は……主計殿!しっかりしてくれ!!



「ま、真鶴君か……こ、子供は無事かな?」

「子供?……あぁ、無事だ。転んで膝を擦りむいたようだが、それ以外に怪我はない。」

「そうか……良かった。」



まさか、貴方は子供を庇って瓦礫の下敷きになったのか?……馬鹿だ。貴方は大馬鹿者だ主計殿……自分の命よりも、子供の命を優
先した優しい大馬鹿者だ!!
貴方のおかげで、此の子は助かったが……其れで致命傷を負ったら本末転倒ではないか。



「はは……返す言葉もない……だが、本当に大馬鹿者だな私は――此れで、椿を本当に一人にしてしまう訳か……ハハ、私は父親失
 格だな。
 ……椿に伝えてくれないか真鶴君……色々と苦労をかけてすまなかったと。」

「断る……其れは主計殿が自ら伝えるべき事だろう?」

「そうしたいのは山々なんだが……其れも無理みたいだからね……椿……如何か幸せに――」



主計殿?主計殿……嘘だろう、返事をしてくれ……!!主計殿……主計殿ーーーーーーーーー!!!











 
To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場