Side:シグナム


椿と共に、主かぐやに里を案内する事になったのだが、最初の行先が久遠の小料理屋だとは……腹が減っては戦は出来ぬと言います
が……いや、其れは言うだけ無駄か。
何よりも、アレだけ煌いている瞳を持った少女に無粋な事を言う事は出来ないからな。

そんな訳で久遠の店に到着だ。



「いらっしゃいませ。おや……此れは、かぐや様。……また『視察』でございますか?」

「そうだ。
 今日は近衛も帯同しているから安全だぞ。」

「そうですか。」

「…………」



椿は無言だが、まぁ思う所があるのだろうな……当然の事だが。



「……では、ごゆっくり。」

「なんだ、久遠まで元気がないではないか?珍しき事があったモノだ……何かあったのか?」

「いえ……先程まで、死者の弔いをしていたモノですから。」



オイ久遠、其れを此処で言うのか!?
いや、里の者が亡くなったと言う事は先程伝えてはあるが、其れは完全な真実を伝えた訳では無いからな……出来れば先程の一件
を知ってほしくはないのだが……此れは、少し難しいかも知れないな。











討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務158
Not shallow scars~傷痕~









「……その話はシグナムから聞いた。墓は何処にあるのだ?仏に線香をあげる位は出来るやもしれん。」

「其れは良いでしょう、巫女たる貴女様に線香をあげて頂けたのならば、彼等も少しは浮かばれるやもしれません。
 先立っての攻撃で大勢が亡くなったので。」

「こ、攻撃だと!?な、何を言っているのだ?そんな話は聞いておらぬぞ?」



……この反応、矢張り主かぐやには先刻の攻撃の事は伝わっていなかったか。
――巫女に余計な心配をさせないようにとの配慮なのだろうが、其れが今回は仇になったな……いや、其れに関しては私も同罪か。
私とて、主かぐやに真実を伝えてはいなかったのだからな。



「シグナム、本当か?久遠の言っている事は本当なのか!!」

「……申し訳ありません主かぐや、全て事実です。
 貴女に要らぬ心配をさせぬようにと真実を伏せていました……騎士としてあるまじき行為、如何なる処罰をも甘んじて受けましょう。」

「ちょっと待ってシグナム!それならかぐや様に伝えなかった八雲だって同罪よ!!」

「……シグナム様も八雲様もお優しい方故に隠したのでしょう。
 ですが、貴女は知らねばなりません――この地で何が起きているのかを……それが、神垣ノ巫女の責任でございます。」

「う、嘘だ……確かめて来るのだ!」

「ちょ、ちょっとかぐや様……!!」

「主かぐや!!」

椿、主かぐやを追うぞ!
神垣ノ巫女が里を普通に出歩いてる所を八雲が見つけたら何を言うか、何をしでかすか分からん――最悪の場合、こんな事が二度と
起きないように完全に主かぐやの事を岩戸の中に閉じ込めかねんからな。



「いや、其れ今もだから!って言うかかぐや様は如何やって岩戸から出て来たのよ!!……久遠、貴女何か知ってるわよね?」

「其れについては、黙秘権を行使させていただきます椿様。
 まぁ、当店のちゃれんじめにゅーである『マムシの活け造り』を完食なされたらお教えしない事も有りませんが……」

「良い、止めとく。命が惜しいし。」

「生のマムシは流石に無理だろう久遠……生のマムシは臭いがキツイし、焼いて脂を落とさねば脂っこくて食べられたモノではない。」

「いや、そう言う問題じゃないからシグナム!兎に角、かぐや様を追うんでしょ?行くわよ。」



そうだな。
主かぐやは本部の裏手の方に走って行ったようだったが……行き先は、犠牲者を弔う石碑か?――あの石碑は、里の死者を弔う為に
建てられたモノであり、新たな死者はその都度碑に名前が刻まれている様だからな。
其れを確認しに行ったのかも知れん。



そして、其の予想は正解だったようだ。



「……た、確かに碑銘が増えている――『鬼』の攻撃で、死者が出たというのか?
 そんな筈はない!私が結界で守っているではないか!!」

「主かぐや。」

「かぐや様……」

「シグナム、椿……何故『鬼』の攻撃で里の者が犠牲になるのだ!?マホロバの里は、私が結界で守っているから安全な筈だ!!」



……主かぐや、先刻の攻撃の犠牲になった者達は外様の居住区の者達です――外様の居住区だけは、貴女の結界で守られていな
い場所故に、『鬼』の攻撃を真面に受けてしまったのです。



「外様の居住区?……私の結界が届かない場所がやられた、のか?
 そもそも、そんな場所があると言う事は今知ったぞ?……八雲、私に黙っていたのか……!……刻まれている名は外様ばかりか。
 私は、この名すら知らなかった……」



里の一部に巫女の結界に守られていない場所がある……そんな事は言えないだろうな流石に――言ったら言ったで、主かぐやはそこ
も結界で守ろうとするだろう。
だが、其れには大きな力を使う必要があるが故に、まだ10歳の主かぐやに大きな負担を掛ける事になる……其れをさせたくなかった
のだろうな八雲は。
……だからと言って外様を斬り捨てて良いという話ではないがな。



「いや……これは……」

「如何なされました、主かぐや?」

「……主計……?」

「……!」

「……あの者が死んだというのか……?」

「……子供を庇って、瓦礫の下敷きになったそうです。」

「…………あぁ……私は何と言う愚か者だ……!
 見知ったものの死さえ知らずに、安穏と過ごしていたというのか……!私の力が至らぬばかりに、すまぬ事をした……!
 すまぬ事をしたな……主計……!うあぁぁぁぁぁぁ……!」

「……かぐや様……父の為に泣いて下さるのですか……ありがとう……でも、貴女が悪いわけでないのです。
 だから、もう泣かないで……泣かないで。」

「あぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ……!」



そう言うお前も、泣いているぞ椿……だが、誰も其れを責めはしない――泣きたければ泣けばいい。泣きたいときに泣くのを我慢してし
まったら、何時の日か本当に涙を失ってしまうからな。
主かぐやはまだ10歳。椿、お前も未だ十と八……父親の死を割り切れる歳ではないからね。
私で良ければ、二人の涙は幾らでも受け止めよう。



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其れから、一通り泣き明かした後に、主かぐやは岩戸に……連れて行ったのは椿だったがな。――椿、主かぐやは?



「シグナム……かぐや様は岩戸に送り届けたわ。八雲の慌て顔が見れなかったのが残念だわ。」

「そんな物は見なくて良い。
 主かぐやが里を出歩いていた事を八雲に知られる方が大問題だからな……そんな事になったその時は、主かぐやの為に、私は八雲
 を抹殺しかねん。」

「ま、抹殺って、何をする心算!?」

「何って……」

ん?此処でまた脳裏に何かの映像が……失われた記憶の片鱗か?
青き眼の白き龍の吐息、紅き眼の黒竜の火炎弾、大凡人間では物理的に不可能な背骨折り技に48の殺人技にキン肉星三大奥義、
そして極めつけの超高速斬撃による九所同時攻撃。

「……取り敢えず、九頭龍閃かな?」

「何それ?」

「斬撃に使われる九カ所に、神速をもってして同時に斬撃を叩き込む防御も回避も不可能な攻撃だったかな?……記憶が曖昧ゆえに
 正確ではないかも知れんが。」

「何その攻撃、スッゴク怖いんだけど……って言うか出来るのシグナム?」



やろうと思えばできるのではないかと思う。
十束の連結刃状態を利用すれば、九カ所同時攻撃も難しい事ではないからね――そんな事よりも椿、お前何かを決意したんじゃない
のか?



「……気付かれちゃったか――シグナム、私行くわ。あの『鬼』を倒さなくちゃ。私はモノノフだから。
 それに……かぐや様に重荷を背負わせたままじゃ、父さんに顔向けできないわ――何時までもクヨクヨしていられない。
 お願い、一緒に戦って!」

「ふ、言われるまでもない――我等モノノフの使命は『鬼』の討伐だからな。
 あの『鬼』を討ち、死した者達の仇を討つ、其れだけだ。」

「そう言ってくれるって信じてた……目指すはモノノフの天辺、こんな所で躓いてられない――見てて父さん、私があの『鬼』を倒してみ
 せる。」

「私達、だろう?」

「……そうだったわね。」



だが、その為には準備が必要になるからな……取り敢えずカラクリ研究所に行くぞ。
あそこにはカラクリ部隊の仲間が居るし、博士も知恵を貸してくれるかもしれないからね。



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と言う訳でやってきたカラクリ研究所……



「博士!!」

「……騒々しいな、何事だ?」

「私は近衛の椿……貴女達に頼みがあって来た――里を襲った『鬼』を倒すためにも、彼方達の力を私に貸して!」

「……椿。」

「…………面白い奴だ、天才の知恵を貸してやっても良いぞ?私の助手も乗り気のようだしな。」



研究所内は若干混沌としている気がしなくもないが、グウェンをはじめとしたカラクリ部隊の面々は椿に協力する気満々の様だ……特
に紅月と時継は其れが顕著だな。



「……ありがとう、博士!」

「だが、具体的には何をする?」

「そんなの決まってるわ――正面から乗り込んで、あの『鬼』をぶっ飛ばす!!」

「……おいおい、コイツ馬鹿か?」

「テメェが言うな。」

「……つまり、あの『鬼』の居場所が知りたいのですね?」



場が再び混沌と仕掛けたところで、絶妙なタイミングだ紅月。
紅月の言うように、あの『鬼』の場所を知りたい――何か手はないか博士?



「そうだな……鬼の手と鬼の目を駆使して、『鬼』の痕跡を追えば、或いは件の『鬼』に辿り着く事が出来るかも知れん――だが、此れ
 はあくまでも可能性の話だ。
 『鬼』の痕跡をハッキリと追う事が出来るかは、まだ未知数だからな。」

「いや、其れだけ分かれば充分だ博士……『鬼』の痕跡を追うのは此れで3回目だからね――九葉の下で烈火の将と謳われていた私
 には、万が一のしくじりもない。」

「ふ、大した自信だなシグナム?」



記憶の大半は失っているが、其れでもモノノフとして数多の『鬼』と戦って来たという事は、この身体が覚えているからね。
まして、私はゴウエンマですら単独で滅する事の出来るモノノフだ――相手がゴウエンマ以上でない限り、しくじる事など有りはしない。



「……話は聞かせて貰った、俺も連れて行け。」

「貴方は、神無……!」

「あの『鬼』には借りがある……100倍にして返してやる――仇討ちだ。死んだ外様と、お前の父の。」

「神無……!」

「……行くぞシグナム。」



神無……マッタク持って不器用な奴だなお前も――だが、悪くない。里を襲った『鬼』、必ずや撃滅してくれる!!



「……成程な、話は大体分かったが、今回ばかりは私の出番じゃないかも知れん。
 先ほども言ったが鬼の手と鬼の目で『鬼』の痕跡を辿るのは万能ではない……しかも今回は時間が経ってしまっているから、『鬼』の
 痕跡を追うのは略不可能に近いと言えるだろう。
 だが安心しろ、手がない訳では無い。――全てを見通す心眼を借りるとしよう。」

「全てを見通す心眼、だと?」

「なんだ、お前達も良く知っているだろ?
 私は其の力から痕跡を具現化する着想を得たのさ――そう、神垣ノ巫女の千里眼だ。」



神垣ノ巫女の千里眼……その手が有ったか!!
其の力を使えば、確かに件の『鬼』の居場所を知る事が出来るかも知れない……其れだけに少しばかり負担をかける事になってしまい
ますが、今はその力をお貸しください主かぐや。
全ては、あの『鬼』を倒す為に!!








――――――








Side:アインス


拝啓・我が主。
私は今日も今日とて異世界で、人々の為に『鬼』を狩っています……狩るも狩ったり幾星霜、『鬼』は一向に減りませんが、私は遣り甲
斐を感じています。

「ふ!はぁ!……てりゃぁぁぁあ!!!」

「此れで吹き飛べ!!」



今もまた、ダイテンマをスライディングナックルでバランスを崩し、其処をダブル掌底アッパーで突き上げ、更にダンクスマッシュで地面に
叩きつけたところを、相馬が金砕棒のフルスイングでホームラン!!
グッバイダイテンマ、精々夜空の星になると良いさ。

さて、次の相手は誰だ?――私が生きている限りウタカタに手出しはさせん……地獄に送り返されたい奴からかかって来るが良い。
ウタカタの破壊神と言われるこの私が、纏めて滅殺してやる――覚悟するんだな。



其れから数十秒後、『鬼』は物言わぬ亡骸へと変わっていた……こんな事を言ったら不謹慎かもしれないが、襲う里を間違えたな。









 
To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場