Side:シグナム


空から現れた『鬼』の攻撃を受けた外様の居住区に来たのだが……此れは、思った以上に悲惨な状態になってしまっている様だな?
居住区全体が火に包まれ、これはまるで地獄だ。



「怪我人は助けろ!誰でも良い、動ける者は手を貸せ!」

「……ダメだ、もう死んでいる。」

「クッ……」



既に多数の使者が出ているようだな……神無、刀也被害はどうなっている?



「……可成りやられた。まだ大勢瓦礫に埋まっている。」

「手を貸してくれ博士……お前の医術が必要だ。」

「……任せておけ、一人でも多く救おう。」



被害は私が思っている以上に甚大なようだな?……まだ多くが瓦礫に埋まっているとは、相当な被害であるのは間違い無いが、今は
生き残った者達の手当てと、未だ瓦礫に埋まっている者達の救出が最優先か。
助かる命が未だあるのならば、其れは必ず救わねばならないからな。










討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務156
Tragodie der Ungleichheitsgesellschaft









怪我人の治療は博士に任せて、私と椿、焔とグウェン、其れに刀也と神無は瓦礫に埋まっている者達の救出だ……未だ息のある者は
博士の所に連れて行ったが、既に事切れていた者も決して少なくない――主かぐやの結界が及んでいない事で、最悪の事態が発生
してしまったという事か……クソッ!
だが、既に起きてしまった事は後悔しても仕方ないが、この状況に於いても近衛の人間が誰一人として救援に来ないとは、如何言う心
算なんだ?
自分達は巫女の結界に守られいて安全だから結界の無い外様の事など知らんと言うのか……其れが、オオマガドキ以前から歴史の
裏で人々を『鬼』の脅威から守って来た鬼内のすべき事なのか!!



「……シグナムと言ったな?お前は何をそんなに憤っている?」

「此の惨劇を起こした『鬼』と、この状況にあっても外様の居住区に救援に来る気配のない鬼内に対して憤っている……其処まで外様
 が憎いのか鬼内は!!」

「……そんな事は今更だ――奴等はオオマガドキ以降に表の世界からモノノフの世界に入って来た俺達外様を疎ましく思っているらし
 いし、俺達としてもオオマガドキ以前から『鬼』の脅威から人を護って来た事を鼻にかけるアイツ等の事が気に入らん、其れだけだ。」

「だからと言って、この緊急事態に何もしないのは人としてどうなんだ?」

「さてな……霊山の遥か東にあるウタカタと言う里では、鬼内だの外様だの関係なく過ごしているらしいが――少なくとも今のマホロバ
 に、其れを求めるのは無理だろう。」



そんな下らない事で争っているのか……其れは未だしも、其れが原因で緊急事態に手を貸さないとか、喧嘩中の子供かマッタク。
近衛の救援があれば、救える命も増えると言うのに……クソ、無い物ねだりをしても仕方ない、今は此処にある戦力で何とかするしか
ないか!!



「生存者三名確保……おぉ、助太刀に来てくれたのかシグナム殿!」

「翡翠……無事だったんだな。」

「私は無事だったが……被害が大きい――私が居た場所の瓦礫は略引っくり返したけれど、生存者はこの三名だけだった。」

「そうか……」

モノノフであれば生き残った者は多いだろうが、モノノフでない者達は……あの『鬼』絶対に許さんぞ!!――って、また向こうから誰
かやって来たみたいだな?
アレは……真鶴!無事だったんだな?



「…………」

「……如何かしたか真鶴?何処か怪我でもしたのか?」

「そうではない……椿、落ち着いて聞いてくれ。――主計殿が……」

「え?お父さんが如何したの!?」



主計に何かあったのか真鶴?……考えたくないが、最悪の事態を想像しない事が出来ない――まさか主計は、さっきの攻撃で!!



「……父さん?」

「……子供を庇って瓦礫の下敷きに……すまない……」



最悪の事態は当たってしまったか……まさか、主計が命を落とす事になるとは予想もしていなかった事だが、子供を庇って瓦礫の下敷
きになったとは、実に彼らしい最後だと言えるだろう。
主計は、常に里の融和を願っていたから、次代を担うであろう子供を見殺しには出来なかった、そう言う事なのだろうな。

尤も、其れを椿に言った所で、理解は出来ても納得は出来ないだろうがな……



「……嘘よ……父さんが死ぬなんて……そんなの嘘……!
 父さん……父さーーーーーーーん!!!父さーーーーーーーーーーーーん!!!!」



椿……先ずは主計の亡骸を、弔ってやろう……子供を庇って犠牲になった英雄を、こんな殺伐とした場所に置いておく事は出来ない
からな。



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そうこうしている内に、里を襲った『鬼』は去り、一応ではあるが今回の事態は収束に向かったと言えるだろう――あの『鬼』も、怒りに
燃える紅月と時継の気迫の前には逃亡するより無かったという事か。
……とは言え、何れまた見える事もあるだろうから、その時はキッチリとその首貰い受けるがな。
そして今は――



「掛けまくも畏き 伊邪那岐大神 筑紫の日向の橘の 小戸の阿波岐原に 御禊祓へ給ひし時に生り坐せる祓戸の大神達。
 諸々の禍事 罪 穢有らむをば 祓へ給ひ清め給へと白す事を 聞こし食せと恐み恐み白す……その魂は、永遠に私達と共に。
 どうか、安らかにお眠りください。」



犠牲者達を追悼する為に急遽作られた石碑の前で、久遠が祝詞を上げて死者の魂を弔った所だ……過ぎてしまった事は仕方がない
とは言え、矢張りやり切れんなこう言う事は。



「……忘れるなシグナム。此れが、結界のない外様の現実だ。」

「…………私達は、最も友好的な鬼内の友を失ってしまった……」



刀也、真鶴……お前達の胸の内は、私には分からないが……だが、お前達が置かれている状況と、掛け替えのない友を失った思い
だけは良く分かった。
こんな理不尽な事があって良い筈がないからな。



「……主計……シグナム……あの『鬼』を逃してしまいました――消えた方角は南、何としても討たねばなりません。」

「紅月……そうだな、必ず討たねばなるまい。」

あの『鬼』は、少なくとも私達カラクリ部隊と外様の全てを敵に回した訳だからな……必ず見つけ出して、八つ裂きにしてやらねば死ん
だ者達に申し訳が立たん。
奴の首を、必ずや皆の墓前に供えてやらねばな。

「久遠もお疲れ様だ。」

「……里で死者が出る度に、私が祈りを捧げる事になっております
 ――こうした事は、何度やっても慣れないものです。何度やっても。」



其れはきっと、慣れない方が良いのではないかな?……こんな事に慣れてしまったその時は、人としての大事なモノが壊れてしまった
事に相違ないのだから。
慣れない方が良いんだ、こんな事は絶対に。

それで……何をしにこの場に現れた八雲!!!



「主計は、外様に薬を届けに行ったそうだな?
 ……結界のある鬼内に居ればこんな事にはならなかっただろう――マッタク大馬鹿者め……だが、信念を貫いた生き様だった。」

「八雲……言いたい事は其れだけか?」

「……何が言いたい、カラクリ使い?」

「何が言いたい……だと?」



――グッ!!



「な、何をする!?」



行き成り胸倉を掴まれて驚いているようだが……私が何を言いたいのか分からないのであれば教えてやる!!
サムライの陣所が、外様の居住区が『鬼』の攻撃を受けたその時、貴様等鬼内の連中は何をしていた!!私達カラクリ部隊とサムライ
は、一人でも多くの命を助けようと、火に包まれた居住区の中で必死に救助活動を続け、紅月と時継は件の『鬼』と戦っていた!!
そんな中で貴様等は一体何をした!外様の居住区に救援に来るでもなく、かと言って『鬼』との戦いに参加する訳でもない……其れが
オオマガドキ以前から人々を『鬼』の脅威から守って来た鬼内のする事か!答えろ八雲!答えてみろぉぉぉぉぉぉ!!!



「いけませんシグナム!!」

「卿の気持ちは分かるが、落ち着けシグナム……それ以上は――」

「自分以外の誰かの為に怒る事が出来るとは……貴様も主計に負けず劣らずのお人好しだなシグナム。……尤も、其れは好感が持
 てる事だが。」



……スマナイ、少しばかり熱くなってしまったようだ。
だがな八雲、今回の件での鬼内の対応は絶対に間違っているぞ八雲――例え普段は争っていても、人命が掛かった事態であるのな
らば、そんな事は一時休戦にして助けるべきだろう!!
其れに、鬼内の助けがあれば、或いは主計は死なずに済んだかもしれないのだからな!!



「…………」

「お前達鬼内にどんな思惑があったかは知らんが、此度の事に関しては私は全面的に外様の味方をさせて貰う……同じマホロバの住
 人の危機を見て見ぬふりをする輩に力を貸そうとは思わんからね。
 正直言って、椿以外の近衛部隊の人間はマッタク持って信用できなくなってしまったよ。
 本音を言うのならば、貴様の事を一発ぶっ飛ばしてやりたい所だが、其れをやった所で死んだ者達が戻って来る訳でもないし、何よ
 りも主計も其れは望んでいないだろうから止めておく。
 だが八雲……私は貴様のような奴がモノノフであることを認めんぞ――緊急事態に、同じ里の住民を見殺しにするような輩はな!」

「ぐ……カラクリ使い……!!」



まぁ、貴様には貴様の事情があったのだろうから今回はこの位にしておいてやるが、だが貴様に対する私の評価は最低になったのも
また事実だからね。
お前が務めて信用回復に務めない限り、私の評価が上がる事は無いと思うがいい。



「……何処に行くのだシグナム?」

「椿の所だ。」

目の前で父親を失った椿の心は、私達には分からない程の傷を受けた筈だから、せめて友としてその傷を軽くしてやらねばなるまい。
椿は生真面目で一本気故に、こう言ったショックを受けた場合、立ち直るのに時間がかかる――よしんばすぐに立ち直ったとしても、そ
れは表面上の空元気である事が多いから、胸の内に秘めたモノを全部晒し出してやらねばならんだろうからね。



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で、里を探して約五分……こんな所にいたのか椿。



「…………放っておいて、私は自分が頑張れるのを知ってる。
 でも、今は如何してもダメ……!ダメなのよ……父さん……!!」

「椿……強がるな。」

「え?」



強がらなくて良いんだ。
泣きたいのならば泣けばいい……如何にモノノフと言えどお前はまだ十と八――人の死を理性で割り切れる程に強くはないんだ。
否、それ以前に人の死を理性で割り切れるようになってしまっては駄目だ……其れが出来るようになってしまったその先に待っている
のは、人を数で数えるようになる外道の道だからね。
だから、我慢しなくて良い。幸い、此処には私しかいないんだ……泣きたいのならば思い切り泣いても誰も何も言わん。



「シグナム……う……ひっく……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!
 なんで……如何して父さんが死ななきゃならなかったの!?……父さんは薬を届けに行っただけだったのに……なんで、外様の人
 達を助けようとした父さんが死ななきゃならなかったのよ!!
 母さんが死んで、今度は父さんまで……此れじゃ、私は本当に独りぼっちになっちゃったじゃない……父さん……なんで……!」

「椿……」

お前の悲しみは私には分からないし、今も泣きじゃくるお前の事を抱きしめてやる事しか出来ん……だが、私が一緒にいてやるから胸
の内の悲しみを全て曝け出してしまえ。
その全てを、私が全て受け止めてやるから。――だから、今だけは強がるな椿……







――――――








Side:アインス


……何となく将がイケメンっぷりを発揮した気がする。



「アインス、君は何を言っているんだ?――と言うか、此度の『鬼』は中々に手強いから、あまり余裕はないのだが……」

「スマン桜花、少し電波を受信したようだ。」

そして此度の『鬼』は初めて見るタイプだな?――大きさはマフウ程度だが、其の力は並の大型『鬼』を遥かに凌駕している……だが、
だからと言って私に勝てると思ったら大間違いだ。
行くぞアーナス!!



「了解だアインスさん!」

「ユニゾンイン!!」

ナイトメアフォームのアーナスに私がユニゾンして、其処から先は阿鼻叫喚の地獄絵図だ……『鬼』の側からしたらの話だな。
取り敢えず此れでトドメだ……100倍ビックバンかめはめ波ーーーー!!!



――バガァァァァァァァァン!!!!



「……君とアーナスが居れば、ウタカタの里は安泰だと改めて確信したよ。」

「だろうな。私もアーナスも『鬼』を凌駕する存在だしね。」

「全ての『鬼』は私が討つ!」



ふ、頼もしいなアーナス?
そうだ、人の世を守るためにも全ての『鬼』は討たねばならないからね……いつ終わるとも分からない戦いではあるが、現れた端から
倒して行けば何時かは大本に大当たりだから、来る『鬼』は全て狩るだけだ。
其れが、我等モノノフの使命だからね。











 
To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場