Side:シグナム
椿と神無と真鶴を連れて『武』の領域を訪れ、そして瘴気の穴を塞ぐ事が出来た訳だが……その直後に真鶴から言われた『マホロバ
の里の不平等』と言うのは聞き捨てならんな?
人は生まれや育ちに関係なく平等であるべきだろう?……にも拘らず、マホロバには鬼内と外様で不平等が生じていると言うのか?
「卿の言う通りだ……其れも致命的な不平等でな。
我等サムライの居住区には神垣ノ巫女の結界が届かない。」
「なん、だと?」
「「……」」
「巫女の能力の限界だ。
鬼内の居住区が結界で護られているにも関わらず、外様の居住区は『鬼』の攻撃に対して完全に無防備だ――異界と境界を接する
マホロバに於いて、此れは死活問題となる。」
「確かに其れは、捨て置ける問題では無いな?
鬼内と外様の対立がどれ程かは知らんが、だからと言って外様が危険に晒されて良いと言う理屈はまかり通らん……否、同じ人間
である以上は外様にも安全が確保されて然りだ。」
「卿もそう思ってくれるか……だが、卿の様な考えを持つ人間は多くは無い。
だからと言って手がない訳では無い――近く、お頭選儀が有るのは知っているか?マホロバの新しいお頭を選ぶ儀式だ。」
否、知らん。何分里に来たばかりなのでな。
「此処で隊長をお頭にし、結界を手に入れるのが我等サムライの目標だ。」
「となると、此れから対立はより激しくなる可能性があると言う事だな?」
「そうだ……だが、知っておいて欲しい――争いを望まぬ者達もいると言う事を。……今日はこの辺りで失礼する。行くぞ神無。」
「……あぁ。」
争いを望まぬ者達もいるか……真鶴、其れはお前の事ではないのか?
お前はサムライの副長だが、だからと言って近衛と争う事を良しとしている訳では無さそうだ――そうでなかったら此度の任務を果た
す事は出来なかっただろうからね。
取り敢えず、私達も里に戻るとしようか。
討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務154
『天狐を探しに行こう、そうしよう』
さてと、無事に任務を終えてマホロバに帰還だ……便利だな跳界石は。アレを使えば一瞬で里に戻って来る事が出来るのだからな。
「じゃ、私は帰るわ。
今日は不思議な体験をありがと。また、何かあったら呼んでよね。」
「あぁ、そうさせて貰う。
お前ほどのモノノフであれば背中を任せるに足りるからな……だが今度は直ぐに見つかる場所に居てくれると助かる――毎度毎度
あの方法で呼び出す訳にも行かないからな。」
「そうね……まぁ、私が見つからない時は近衛のモノノフに言ってみれば良いんじゃない?
貴女の事は皆に伝えておくから、私に用が有るって言えば話は通ると思うし……あ、でも八雲だけは止めといた方が良いかもね。」
「あぁ、そうだな。」
八雲だけは止めておいた方が良いだろう。
私はサムライではないが、だからと言って近衛でもない……八雲からしたら正体不明の謎のモノノフだから、正直な所快く思っていな
い部分があるだろうしな。
と言うか、博士は鬼の手を通じて私達と通信出来るのだから、鬼の手を持つ者同士での通信も可能なのではなかろうか?……椿、今
度からは鬼の手を介してお前に連絡するかもしれん。
「え、何それ怖い。」
「如何やら鬼の手には離れた相手と通信する機能もあるみたいなのでな……其れを使えば態々近衛の居住区に行かずとも、お前を
呼ぶ事も出来るだろう。」
「左手からいきなりシグナムの声が聞こえて来たらビックリしそうだわ。」
「其処は……まぁ、慣れだな。」
「慣れ、ね。取り敢えず了解したわ。それじゃあね!」
あぁ、またな。
「……シグナム。」
「!?」
か、神無か……真鶴と先に帰ったんだったなお前は。だが、いきなり後ろから話しかけてくるな、驚くだろう?
私だから良かったが、此れがもしも気配に敏感で背後に立った者を反射的に攻撃してしまう様な人間だったら、最低でも蹴りを入れら
れていたぞ?
「なんだかよく分からないが次からは気をつけよう。
それよりも、少し時間あるか?お前に頼みたい事がある。川辺の広場で待っている。」
本当にぶっきらぼうな奴だな?
腕は確かで頼りになるのだが、あの性格ではサムライ内でも友と呼べる相手は居ないのではないのか?……尤も、そんな事を気に
気にするタマでもないだろうが。
だが、私に頼みたい事とは一体何だろうか?……態々川辺の広場を指定して来るとは、あまり人に聞かれたくない内容か?……まさ
かとは思うが、一戦終えた直後に『俺と戦え』とか言うんじゃないだろうな?
……一抹の不安はあるが、取り敢えず行ってみるか。
さてと、川辺の広場までやって来たが、改めてこの川は水が澄んでいるな?これ程澄んだ水ならばアユやヤマメと言った川魚が住ん
でいるかも知れん。
アレは塩焼きにすると美味だから、今度釣りにでも来てみるか。
其れで、私に何用だ神無?
「……来たな。
お前……天狐と言う生き物を知ってるか?」
「天狐?いや、聞いた事が無いが……」
「白くてモフモフした猫のような動物だ。昔はこの里にもたくさんいたらしい。
事情があって、そいつを何とか手に入れたい。……お前に協力を頼めないか?天狐を捕まえて欲しい。」
「其れは構わないが、何故私なんだ?お前が自分で捕まえる事は出来ないのか?」
「……誰にでも天敵は居る。天狐が居そうな場所を知らないか?」
……要するに、天狐とやらが苦手なんだなお前は……しかし天狐が居そうな場所と言われても皆目見当がつかん――里には居ない
以上は里周辺の異界ではない場所で探すほかあるまい。
「そうか……なら、その辺に詳しそうな奴を知らないか?
里の古株なら分かるかも知れない。」
「里の古株か……ならば椿は如何だ?
アイツは近衛なのだからこの里で此れまで暮らして来たのだろう?……主計に聞く手もあると思うが、椿の方が里の外に出て探す
のならば適しているだろう。」
「椿……アイツか。正直相手にしたくないが……仕方ない。アイツに会いに行くぞシグナム。」
いや、態々会いに行かなくても鬼の手で……って、行ってしまったか。人の話は最後まで聞いた方が良いと思うぞ……何よりもサムラ
イが近衛の居住区に入ったら大変な事になるだろうに。
……尤も神無の場合、取り押さえようとした近衛のモノノフを蹴散らしてしまいそうではあるがな。
と言う訳で近衛の居住区……幸いにも椿は直ぐに見つかったな。
「……如何したの二人して?」
「天狐と言う生き物を探していてな……何か知らないか?」
「天狐を探してるの?どうしてまた。」
「居場所を教えてくれればそれでいい。」
「……あのね、事情くらい教えなさい。」
「其れは椿の言う通りだな。」
「……真鶴の事だ。」
真鶴が如何かしたのか?
「……何、藪から棒に?」
「お前達も見ただろ?
クスリとも笑わない……もう何年もずっとあの調子だ。――オオマガドキで人里を追われて、放浪をしている内にああなった。
このまま放っておいて大丈夫なのか、正直分からん。何か気の休まるものを見せたい――昔から小動物が好きだったんでな。
其れで或いはと思った。」
「成程、其れで天狐を見つけたいと言う訳か。」
「良いところあるじゃない。
良いわ、此処は一肌脱いであげる!天狐は最近は里では見かけないけど、マホロバ丘陵地に巣があるわ。其処に行って天狐を拉
致してくるわよ!」
真鶴の為にか……その思いが椿のやる気に火を点けたらしいが、拉致は駄目だろ拉致は。せめて捕獲と言え捕獲と。最低でも拉致
と書いて捕獲とフリガナを振れ!
「やってやる。」
「行くわよシグナム!出発進行ーー!!」
……妙なやる気とはこの事なのかも知れん。
だが、近衛とサムライが任務以外でもこうして一緒に行動すると言うのは良い事かもな……出来る事ならば、椿と神無の様に任務以
外でも近衛とサムライが共同活動して欲しいのだが……其れは今は高望みだろうな。
取り敢えず、マホロバ丘陵地に行ってみるか。
「って、ちょっと待って。私ご飯まだなの。久遠の小料理屋に寄って行かない?」
「おい……まぁ良い。確かに俺も腹が減った。」
「腹が減っては戦は出来んと言うからな……先ずは腹ごしらえと行くか。」
「話が分かるじゃない。一息つきましょシグナム。」
と言う訳で出撃前に久遠の小料理屋だ……邪魔するぞ久遠。
「おや、皆様は……珍しい組み合わせですね?ようこそいらっしゃいました。
お食事ですか?早速おもてなしいたしましょう。」
「ありがとう久遠。其れじゃ、腹ごしらえと行きましょ。」
そうだな、そうしよう――久遠の料理は少々個性的らしいが、味は良いらしいから楽しみだ……そう言えば、嘗ての仲間に料理が壊滅
的に下手だった奴が居たような?
まぁ、今は如何でも良いか。
「む、奇遇だなシグナム?」
「博士……其れに紅月に時継、焔にグウェンもか。」
「あなた達は……研究所の……」
「任務の前の腹ごしらえか?仲良くやってるみてぇだな。」
「コイツが噂のサムライ野郎か?」
「………」
「すかした野郎だな?なんか言ったらどうだ、あぁ?」
で、奇遇にも博士達に会った訳だが、焔よなんでお前は行き成りケンカ腰なんだ?そんな態度では、第一印象が最悪過ぎる上に、後
で紅月に〆られても知らんぞ?
「……メシの邪魔をする奴は殺す。」
「おお?っておいなにしやが……イテテテテテ!離せテメェ……!
ヤロ、行き成り何しやがる!」
「……完璧に関節を極めた筈だ……どうやって逃げた?」
「悪いな、肩外せんだよ。」
「……面白い。」
何だか不穏な空気になって来たぞ?焔はあの性格だし、神無も完璧に極めた関節技を外されたとなったら黙ってはいられまい……こ
のまま気のすむまでやれと言っても良いのだが、こっちにはやるべき事があるのでな。
「其処までだ。」
「両者、其処まで。」
私と紅月が割って入って強制終了だ。
「モノノフ同士の喧嘩は御法度です。大人しくしていて下さい焔。」
「紅月の言う通りモノノフ同士の喧嘩は駄目だ……此処は退け神無。」
「コイツから仕掛けて来たんじゃねぇか!」
「こら神無、貴方もそのくらいにしなさい!」
「チッ……クソつまらん。」
「体力が有り余ってるらしいな?気が向いたら研究所に来い、こき使ってやるぞ。じゃあ、確りなシグナム。」
そして、最後の最後で一発言って行くあたり、やはり博士は只者ではないと思う……取り敢えず腹も満たされたから、改めて天狐を捕
まえるためにマホロバ丘陵地に行くとしよう。
……時に、あの塩焼きで出て来たのは一体何だったのだろうか?味はウナギに近かったがウナギよりももっと脂が多かったが……ま
さかアレではないだろうな?……まさか、な。
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そんな訳で道中の『鬼』を倒しながら目的地に到着……途中で、翡翠率いるサムライ部隊と共同戦線を張ったりもしたが、大した問題
もなく目的地に到着だ。
此処に天狐が居るのか椿?
「確かこの辺の筈だけど……」
「本当に居るのか?」
「失礼ね?私が嘘をついているとでも……」
『キュイ~~!』
此れは、此れが天狐なのか椿?
「そうよ。ほら、居たじゃない。」
「此れが天狐……」
『ギュ!!』
如何した?何か怒っているようだが……
――ゴゴゴゴゴゴゴ……
『ガァァァァァッァァァァァ!!!』
「その原因は『鬼』か!!」
ヌエの大群か……小型の『鬼』としては手強い部類に入る相手だが、我等の敵ではない……故に一瞬で散れ!切り刻め、神風!!
「この程度では満足できん……貴様如きは俺の相手ではない。」
「舐めんじゃないわよ、おんどりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
と言う訳で、あっという間に殲滅完了だ。
だが、こんな所にもヌエが出るとは、『鬼』の行動が活発化しているのかも知れんな――時に天狐は?
『キュイー!』
「無事だったか。」
『キュイー!キュ、キュ♪』
「ちょっと、気に入られたんじゃないのシグナム?」
如何やらその様だが、ならば都合がいい……真鶴の所に連れて行きやすくなったからな。さて、里に戻るか。
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里に戻り、神無が真鶴を連れて来たか。
「……私に用とは、なんだ?」
「お前に見せたい物が有る。」
「神無に聞いたわ。貴女が小動物が好きだって。そこで、貴女の為に連れて来たわ!」
「……私の為に?」
「そう、お前の為にだ。来い。」
『キュイー♪』
「此れは……天狐?もう、里には居なくなったものかと……さ、触っても良いのか?」
ふ、お前の好きにすれば良いさ真鶴。
「な、なら遠慮なく…………モ、モフモフしているな。……可愛いな。」
「「!!!」」
わ、笑った。今少しだが笑ったぞ神無。
「…………」
「ん?如何した神無?」
「…………」
「……ちょっと、気絶してるわよ?」
立ったまま気絶するとは器用な奴だな……真鶴、如何しようか此れ?
「ヤレヤレ、相変わらず動物が苦手なのか。
スマナイな卿ら。昔から弟は小動物がダメなんだ――猫が原因で蕁麻疹が出た事があった……其れが心の傷になってるらしい。」
「猫アレルギーと言う奴か……大変だな。」
「シグナム、天狐は卿に懐いているようだ……傍においてやっては如何だ?天狐も喜ぶ。」
『キュイー♪』
そうなのか?……ならばそうしよう。
だが真鶴、この天狐はお前の為に連れて来たモノだから、お前が名を付けてやってくれ……天狐では味気ないからな。
「名前か……ならばその真っ白な毛色から、ユキちゃんと言うのは如何だろうか?」
「ユキか……良い名だな。」
「其れは良いけど、如何するのよ神無は?」
「面倒だから引き摺って行くか。」
「……そ、其れは流石にちょっと。」
……まぁ、取り敢えず小動物嫌いは克服した方が良いぞ神無?苦手を苦手なままにしておいたら、最強には程遠いからな。
To Be Continued… 
おまけ:本日の禊場
取り敢えず天狐の件が片付いたから禊に来たのだが……お前もか椿。
「あら、さっきぶりねシグナム。
あのさ……良かったらこの後カラクリ研究所に寄っても良いかしら?ベ、別に貴方達の仲間になろうって訳じゃないのよ。
只、博士にこの鬼の手のお礼を言いたいって言うか……正しい使い方?って言うのも聞きたいし、貰いっぱなしって言うのも悪いじゃ
ない?」
「そんな事か……気軽に来ればいい。博士ならば拒みはしまい。」
「ありがとう、シグナム。」
では、禊が終わったら博士の所に行くとしよう。――で、何を見ている椿?
「シグナム、何を食べたらそんなに大きくなるの?」
「其れについては黙秘権を行使させて貰う。」
私だってなんでこんなに育ったのか分からないのだからな……正直時々邪魔な事があると言ったら、殺されそうだから絶対に言わな
いがな。
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