Side:シグナム


ミタマの力で見た『武』の領域の瘴気の穴を塞ぐために出撃したのだが、その最中で大型の『鬼』と遭遇するとはな……しかもコイツは
10年前のオオマガドキには居なかった『鬼』だ。イテナミと言ったか?
女性型の上半身に、蛇の様な下半身を持った異形の『鬼』……ミフチとは比べものにならない強さを秘めているのは間違い無かろう。

まぁ、だからと言って退くと言う選択肢はない――我等モノノフにとって、『鬼』とは最優先で滅すべき存在だからな!!
椿、神無、真鶴……先ずはコイツを片付ける!異論はないな?



「上等!ぶっ倒してやるわよ!!」

「コイツは強い……俺の相手としては申し分ないな。」

「……戦闘狂が居ると苦労する。
 だが、此の戦闘からは逃げる事は出来そうにないから戦うしかないだろう……アインス、卿の働きに期待する。」

「真鶴……ならばその期待には応えねばなるまいな。

イテナミは初めて見る大型の『鬼」だが、その身体の色と、出て来たのが極寒の『武』の領域だったと言う事から、自らの弱点を教えて
いる様なモノだから、案外制圧は簡単であるのかも知れないな。



「其れは、どういう事だ?」

「氷は炎で溶ける……其れが答えだ真鶴。」

「……成程な。」



つまりはそう言う事だ。……我等の邪魔をする者は容赦なく斬り捨てる!死にたくなければ道を開けろ!!









討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務153
『武の領域の瘴気の穴をShutout!』









そうして始まったイテナミとの戦闘なのだが……現状では私と真鶴が無双状態だな――私の十束には火属性を得る機能が備わって
いたが、真鶴は鬼の手で炎属性の地脈を吸収して一時的に火属性を手に入れた様だ。
尤もその効果は抜群で、真鶴の呪矢でイテナミの左腕が吹っ飛んだからな。
まぁ、弱点属性の矢を纏めて10本叩き込まれたら部位破壊が起こって然りだが。
その腕も、私が事前に断祓を使って攻撃しておいたから即浄化されたな。

「残った腕も貰った!!」



――ズバァァァ!!



更に残った右腕も、十束を連結刃にして縛り斬る!……矢張り氷に炎は天敵だったみたいだなイテナミよ?その程度の冷気では、私
の炎を消す事は出来んぞ。
私の炎を消したいのであれば、溶岩ですら凍結すると言われる絶対零度の冷気を用意するんだな。



『キシャァァァァァァァァァァァ!!』



っと、私の言った事に反応したのか、凄まじい冷気を吐き出して攻撃して来たな?――冷気が当たった場所が一瞬で凍り付いたのを
見る限り、可成りの冷気であるようだ。
真面に喰らったら氷像になってしまうかもしれん。



「真面には喰らわなかったんだけど……」

「少し喰らってしまって、俺もコイツも足が地面に氷漬けになってしまった。」

「……大方、攻撃に集中し過ぎて回避が疎かになったと言う所だろう……シグナムの様に攻撃と回避の両方を完璧に熟す事が出来
 なくては真の一流とは言えないな。」

「真鶴、説教は後にして先ずは救出が先だ……この程度の氷、十束で溶かし斬る!」



――ジュゥゥゥ!!



「凄い!凍ってた部分が一瞬で溶けたわ!」

「凄まじいな……お前は炎の剣士と名乗ったら如何だ?」

「安直だぞ神無。
 其れにシグナムは自分で名乗るよりも、周りが異名や二つ名で呼んだ方が合っている……そうだな、烈火の将と言うのは如何だろ
 うか?卿にピッタリだと思うのだが。」

「ふ、悪くない。
 だが先ずは、椿と神無が復活した所でイテナミ討伐再開と行こうじゃないか!」

「だな。今は奴を倒すのが先決だ。」



イテナミを倒さねば先に進めぬからな。
それにしても烈火の将か……何故か懐かしさを覚えてしまう――若しかしたら、記憶を失う前の私……九葉の部下であった頃の私は
誰かにそう呼ばれていたのかも知れないな。



「名誉挽回!」

「汚名返上だ!」



そんな事を考えてる間に、椿と神無は鬼の手でイテナミに掴みかかり、そのまま空中で鬼千切りを発動して翼みたいな部位を破壊し
たみたいだな?
破壊した部位は、神無が祓殿を発動して浄化しているみたいだ。
だが、此れで残る部位は角と尾だけだ……そろそろ追い込まれて来たんじゃないか?



――ギュオォォォォォォォン……



『ギョアァァァァァァァァァァ!!!』


「来たかタマハミ!」

追い込まれていると思ったら如何やら事実だったようだな……タマハミは『鬼』が超凶暴化すると同時に、追い詰められた証でもある
からな。
しかし、此れはタマハミになって本来の姿を現したと言う所だろうか?
女性の様な上半身は折れ曲がって、女性の顔ではない新たな顔が……二本の角が牙のように見える蛇――女性型の上半身は敵
を欺くための擬態だったと言う訳か。



「追い詰められて現した正体は、見るに堪えない醜悪な姿だったか……蛇は好かない、今すぐ撃滅しよう。」

「真鶴は蛇が嫌いなのか?」

「子供の頃、飼っていた文鳥が蛇に食い殺されてな……それ以来、蛇を見ると殺意が沸々とな……ちーちゃんの仇は何度討っても討
 ち足りない。」

「いや、其れってドレだけ恨み深いのよ!?」

「言うな。あの時の真鶴の怒りは、家を破壊しかねない位だったんだ。」



それ程か……其れだけ、その文鳥を愛していたと言う事なのだろうな――愛する者を奪われた者の悲しみが怒りへと転じた時の人の
力は計り知れないからな。
だが、そう言う事ならば遠慮はいらん。お前のその怒りを余すことなくイテナミにぶつけてやればいい。



「無論そうさせて貰う……蛇はこの世から消えて無くなれ。」



――バババババババババババババババババババババババババ!!



目にも留まらぬ番え射ちの連射で、イテナミの上から文字通りの矢の雨を降らせたか……本日の『武』の領域の天気は、雪時々矢の
雨と言う所だったみたいだ。
だが、炎属性を付加した矢の雨はイテナミには効果抜群だ……残った部位である角……いや、今は牙か。其れと尾も吹き飛ばしたの
だからな。
そして、此れで終わりだ!!



――グイン!!



鬼の手でイテナミを掴んでから、イテナミに己を引き寄せさせる形で飛翔し、そしてまた鬼の手でイテナミを掴んで、今度はイテナミを
持ち上げ……そしてそのまま落下してイテナミの顔面を地面に叩き付ける!
如何に大型の『鬼』と言えども、5m以上の高さから、其れも力任せに叩きつけられては一溜りもあるまい……大人しく黄泉へ行け。



『ギヤァァァァァァァァァァ!!!』

「如何やらお前では私の敵ではなかったらしい。」

「見事だ……卿の様なモノノフが居てくれるのならば、マホロバは安泰かもしれないな。」

「流石は私のライバルね!そう来なくっちゃ!」

「矢張りお前は強いな……今度俺とも戦え。」

「止めておけ、お前達とシグナムでは勝負にすらならん。特に神無、今のお前では戦った所で瞬殺されるのがオチだ。
 私の見立てでは、シグナムは刀也の倍は強い。」

「刀也の倍だと?……益々戦いたくなってきたぞ。」

「サムライの隊長の倍の強さって聞いて俄然やる気が出るって、どういう神経してんのコイツ?」

「はぁ……生来の戦闘狂には言うだけ無駄だったか……スマナイなシグナム、不肖の弟が此れからも迷惑をかけるかも知れん。
 この馬鹿が勝負を挑んで来たその時は、死なない程度に叩きのめしてやってくれ。」

「ちょ、実の弟に対して容赦なくない!?」

「実の弟だからこそ、容赦は必要ないからな。」

「あ、納得。」

「納得するな。」



……まぁ、神無の気持ちも分からなくはないので、勝負を挑んで来たその時は相手をさせて貰うさ――神無の様な強者が相手ならば
私にとっても励みになるからな。
何よりも愚直に強さを求めるその姿には好感が持てる。



「卿も物好きだな。
 神無、シグナムの優しさに感謝しろ。」

「その感謝は俺がお前に勝つ事で示させて貰う。」

「……とことん脳筋ねコイツ。」



だな。
取り敢えず行く手を遮っていたイテナミは倒した……先に進むとしよう。



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で、『武』の領域を探索しまくって、やっとたどり着いたぞ目的地に。
……此処に辿り着くまで、ダイバタチと戦ったり、マフチと戦ったり、太古の遺跡の一部と思われる場所に行ったりと、本当に色々有っ
たな。
だが、ミタマの力で見た瘴気の穴に来る事が出来たな。



「ちょ、ちょっと!なんなの此れ!」

「此れは瘴気の穴だ――博士が言うには、この穴が異界の瘴気の原因であるらしい。」

「瘴気の穴……?そんな物が……」

「……如何する心算だ?ただ見せに来た訳じゃないんだろう?」



無論だ。
此度の任務の真の目的は、この瘴気の穴を塞ぐ事だったんだ――だから、椿と神無を誘ったんだよ……真鶴が参加してくれたと言う
のは嬉しい誤算だったけれどね。



「瘴気の穴を塞ぐって、そんな事本当に出来るの?」

「あぁ、可能だ。
 私達が装備している鬼の手を使えばな。」

「……取り敢えず、卿の言う事に従ってみよう。やるぞ、神無。」

「……あぁ。」



従ってくれるか……ありがとう真鶴。
では、鬼の手を瘴気の穴に向かって伸ばすんだ。そして思い描け、瘴気に犯されていないこの地の姿を!!



――バシュン!!



そして応えてくれ、私に此の光景を見せたミタマ、『静御前』よ!!



『鎮魂の舞を捧げましょう。』



――バシュゥゥゥゥゥゥン!!



「こ、これは……!」

「信じられない……瘴気が……!」

「……驚いた……此れが鬼の手の力か。
 ミタマもそうだったが、まるで御伽噺の世界に迷い込んだようだ。」

「『鬼』が居る時点で、もう真面じゃない。何が起きても不思議はないさ。」

「それもそうか……スマナイな、どうも超常現象には慣れない――私達は表の歴史、明治の世で普通に生きていた身だ。
 裏の歴史の存在たる卿らが操る技には、時折頭が追い付かない。」



だろうな、私もそう思う事がある。
特に攻のタマフリの吸生は、なんで『鬼』を攻撃して体力が回復するのかその絡繰が分からん。其れから、空の縮地の瞬間移動の原
理とかな。



「卿程の使い手でも、そう感じるモノなのか?」

「あぁ、如何しても感じてしまうからな。記憶の大部分を失っているからかもしれないがな。」

「そう言えばそんな事を言っていたな……スマナイ事を聞いた。
 だが、今の卿が卿である事に変わりはない。――今日は一日世話になった、ありがとう。
 任務に行く時はまた呼んでくれ、遠慮はいらない。卿の任務に協力するのが約定だ。」

「やるじゃないシグナム!鬼の副長を配下にするなんて!」

「いや、真鶴は私の配下になった訳では無いだろう?」

「語弊があるような気がするが……まぁ良い。」

「良いのか!?」

「卿等は自分の出自に拘る鬼内や外様とは違うらしい。
 外様だからと他者を侮蔑する事は無く、だからと言って鬼内である事を鼻にかけて横柄に振る舞う事も無い……故に、信頼に足る
 相手と見た。
 出来れば誼を通じておきたい。構わないか?」



構わない所か、歓迎するよ真鶴。
お前ほどの弓の使い手ならば、背中を任せるに値するからな。



「……感謝する。
 そう言えば、卿は最近マホロバに来たと言っていたな?」

「あぁ、その通りだが其れが何か?」

「ならば一つ知っておいて欲しい事がある……この里における不平等についてだ。」

「マホロバの里の、不平等だと?」

里の不平等と聞いては黙って居られないが、其れは一体何なのだろうか?……まさかとは思うが、その不平等とやらがサムライと近
衛の不仲の原因だったりは……しないだろうな?
詳しい話を聞かせて貰おうか、真鶴。












 
To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場



Side:博士


なんだ、気晴らしに禊に来てみれば……男の時間だったか。



「魔女か……時間を間違えているぞ、出直して来い。」

「だが断る。
 寧ろお前の方が譲れ。女性に譲るのは当たり前の事だぞ?……其れとも何か?私と一緒に禊以上の事をしたいのか八雲?」

「誰が!!……貴様の様なモノと一緒に禊をしたら、禊の意味がないわ!!」



だろ?だからさっさとこの場からいなくなれ。私は広い禊場を独り占めさせて貰うからな。



「魔女め……覚えて居ろ。」

「無理だな、お前が居なくなった瞬間に忘れるわ。」

何よりも人同士の下らない争いを行っているお前になんぞ興味は無いからな――今の私の興味は、時代を超えて現れたモノノフであ
るシグナムだけだからね。