Side:シグナム


椿と神無を仲間に出来れば御の字だと思っていたのだが、期せずしてサムライ部隊の副長を仲間にする事が出来たと言うのは嬉しい
誤算と言う奴だな。
サムライ部隊の副長である真鶴は、如何やら外様や鬼内と言う事に拘っている人物ではないみたいだからね。



「鬼内であろうと外様であろうと、その目的は『鬼』を討つ事だ……共通する目的を持っているのならば、対立する事に一体何の意味
 があると言うのだ?」

「いや、何の意味もないと思うぞ?」

「卿もそう思うか。
 私も外様故にサムライ部隊に所属しているが、鬼内だ外様だと言うのは、実に下らない争いだと思っている……何よりも、『鬼』が跋
 扈するこの世界で、人間同士が争っている暇などないと思うのだがな。」

「そうだな、お前の言う通りだよ真鶴。」

『鬼』によって人は滅びの危機に瀕しているのだから、人同士で争っている場合ではないからな――其れでも、争ってしまうのは、人
の業なのかも知れん。
人は、往々にして自分が上に立ちたいと思うみたいだからな――近衛とサムライの対立も、鬼内や外様の対立以上に派遣争いの面
が強いのかも知れん……主かぐやが知ったらさぞ悲しむだろうに。

だが先ずは、『武』の領域の瘴気の穴を塞ぎに行くか――異界の浄化を進める事が出来れば、主かぐやへの負担を大幅に減らす事
が出来るかも知れないからな。









討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務152
『シグナム×近衛×サムライ=……?』









さてと、先ずはモノノフ本部で任務に出る旨を伝えねばだ。
任務に出る事を本部に伝えた上で、記帳しなくてはならないからな……そう言えば、今まで記帳した記憶が無いが、一体誰がやって
くれていたのだろうな?……紅月あたりだろうな恐らく。

「主計、此れから此の四人で任務に行ってくる。」

「……珍しい組み合わせだな。」

「……無沙汰をしている、主計殿。」

「此方こそ、真鶴君。
 其れにしても、サムライと近衛の討伐隊とは……此れは君の仕業だな、シグナム君。」

「まぁ、否定はしない。」

「話は聞いたよ。先日の戦いでは見事な武勲を立てたそうだね――新参者とは思えない活躍だ。
 流石は『カラクリ使い』かな。」

「この間の戦いの事を、よく知っているようだな?」

「ハハハ、私達はモノノフの集まる本部の職員、自然と噂は耳に入って来る。君の活躍は特に派手だからね。」



……其れ程派手に活躍している訳では無いのだがな?この間のダイバタチとの戦いも、私一人で討伐した訳では無いからね。
まぁ、実力を評価して貰えているのならば嬉しい事だがな。



「其れに、私には娘が居てね。
 最近君の事をよく話してくれる。如何やら気に入られた様だぞ。」

「ドワーワーワー!
 ちょっと、変な事言うの止めてよね父さん!」

「何だ、本当の事だろう。」

「全然違うわよ!好敵手として認めてるだけ!」

「父さんは椿に友達が出来て嬉しい。今まで一人もいな……」

「やめんかぁぁぁぁぁ!!」

「「「…………」」」(汗)


漫才か此れは?そして、『父さん』と言う事は……



「紹介が遅れてすまなかった。娘の椿だ、仲良くしてやってくれ。」

「椿が主計の娘だったとは、少し驚いたな。」

「マッタクだ。」

「私も今知った。」

「オオマガドキで妻を亡くしてね。
 男手一つで育てたモノだから、随分とお転婆になってしまった。」

「そのお転婆が居ないと、真面に生活出来ないのは誰かしら?
 久しぶりに家に帰ってみればゴミの山……信じられないわよマッタク。」

「……其れについてはすまなかった。」

「私達は任務に行くの。父さんも本部の仕事してよね。」

「これ以上は藪蛇だな。助言に従うとしよう。
 ……真鶴君、モノノフ本部からサムライ部隊に連絡だ。以前頼まれていた医療品が手配出来た。」

「……本当か?」

「運の良い事に霊山から補給が来る。後でサムライの陣所に届けておくよ。」

「……ご助力、感謝に堪えない。」

「ふむ、モノノフ本部はモノノフに任務を出すだけでなく、補給なども行っているのか……其れにしても、医療品とは?」

「外様の居住区で不足していてね。真鶴君から支援を頼まれていた。
 初めは鬼内側から融通しようとしたのだが、拒否されてしまった。……対応に苦慮していたが、何とかなってよかった。」



鬼内側からの融通を拒否……真鶴が拒否したのではなく、サムライが拒否したとそう考えるべきか……?大凡『鬼内からの施しなど
受けて堪るか』とか、そんな感じだろうな。



「さて、長々とすまなかった。
 任務の方頑張ってくれ。汝に、英雄の導きがあらん事を。」



あぁ、頑張って来るよ主計。……さてと、記帳を済ませて、行くとしようか。



「……其れで、此れから行くのって具体的にどういう任務なの?」

「其れは、行ってからのお楽しみと言う事にしておこう。」

「行ってからのお楽しみ……?卿も酔狂だな。」

「ふ、偶にはそんな任務も良いだろう?」

「何でも良い、強い奴と戦えるのならばな。」



そんな訳で『武』の領域にやって来た訳だが……相変わらず見渡す限りの銀世界!――ダイバタチとの戦闘で、誰一人として寒さに
やられなかったのは奇跡としか言いようがない。
極寒の地では、ちょっとした傷ですら致命傷になりかねないからな。
取り敢えずは、あの時に見た瘴気の穴を目指す訳だが……



『『『『『『『『『『ぎゃ~~!!』』』』』』』』』』



正直、鬱陶しい事この得ない……負ける事は無いとは言え、数が多いと言うのは面倒極まりない。個々の能力の低さを数で補う人海
戦術で来るとは、ガキやオニビの分際でやってくれる。



「人海戦術、なのだろうか此れは?」

「人海ではないか……何だろう?鬼海戦術?」

「おい、そこの二人、下らない事を言ってる暇があるのなら鬼と戦え。」

「言われずとも、分かっている。」



――ビュン!!



……見事な射だな真鶴?だが今のは微妙に神無にも当たりそうだった気がするんだが。



「スマンな、手が滑った。」

「殺す気か!」

「手が滑ったにもかかわらず見事にガキの頭を貫いているのだから大したモノだ……此れだけの腕を持った後衛が居てくれるのであ
 れば、前衛は安心して戦えると言うモノだ。
 なぁ、椿?」

「そうね……鬼の副長って言う事だったからもっと怖い人なのかと思ってたけど、如何やらそうでもないみたいだし。」

「……サムライの身内には厳しく接する事も有るが、卿達はサムライではない……同じモノノフではあるが厳しく接する事も無い。
 特にシグナム、卿とは友人として付き合いたいモノだ。」



――ババババババババ!

――ドスドスドスドスドスドスドスドスドス!!




「おい、絶対態とやってるだろう?」

「濡れ衣だ神無、本当に少しだけ手が滑っただけだ。ほんの少しだけな。」

「手が滑って、その結果全部俺の方に飛んでくる偶然が有るか。」

「天文学的な確率とは思うが、ゼロではないだろうな。」

「後で覚えてろ。」

「私に怒っている暇があるのならば、その怒りを『鬼』にぶつけて発散させたら如何だ?最強なのだろう、お前は。」

「……言われずともそうする心算だ。」



矢継ぎ早に八本の矢を放って、それら全てが神無に向かいつつも神無に直撃する事無く『鬼』を射抜いたと言うのだから、弓の扱いに
関してはマホロバで真鶴の右に出る者は居ないだろうな。
そして、弟は姉には絶対に勝てないのだと確信したよ。
其れは其れとして、この程度の雑魚共をチマチマ倒して行くのも面倒だ……一気に畳み掛ける!
複数のミタマを宿している私だからこそ出来る、異なる力のタマフリの同時発動……『渾身』、『軍神招来』、『鎧割』!



「的確な支援だな、効果覿面だ。」

「流石、やるぅ!!」

「良い働きだ。」



数を相手にするならば、此方の力を強化してやれば良いだけだからな。
渾身と軍神招来で攻撃力を底上げし、鎧割で『鬼』の表層生命力に与える傷を深くしてやれば、小型の『鬼』ならば、小型最強のマフ
ウですら一撃で葬れるからね。



『グガァァァァァァァァァァァァア!!』



と、此処で中型が現れたか……ヒダル、のようだが色が少し異なるか?



「此れはダラシだな。
 只のガキではなく、ガキの黄泉個体が年月を経たモノだと聞いている……呼び寄せるのも只のガキではなく、ガキの不浄個体だっ
 た筈だ。
 そして、コイツの登場で瘴気の濃度が上がった、気をつけろ。」

「ヒダルよりは強いと言う事か。」

「ふん、上等だ。」

「やってやるわ!おんどりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」



……どんな時でも元気だな椿は。
主計はお転婆に育ってしまったと言っていたが、モノノフに、其れも槍の様な前衛型のモノノフになるのであれば多少お転婆な位が丁
度いいのかも知れない。

だがまぁ、ダラシか……ヒダルよりは強いのだろうが、ハッキリ言ってタマフリで強化状態にある私達の敵ではなかったな?戦闘開始
から1分しないで全部位破壊完了するとは思わなかったからな。
なので此れで終わりだ……乱舞!



――バババババババババ!!



『ギャ~~~~!!』


「私ももっと、強くならねばな。」

「見事だ。里に来たばかりとは思えんな。
 卿は、マホロバに来る前には、どこか別の里でモノノフをしていたのか?」

「さてな、其れは私が知りたい位だ……生憎と、マホロバに来る以前の記憶がないのでな――覚えているのは、軍師九葉の部下だっ
 たと言う事位だよ。」

「軍師九葉……血塗られた『鬼』と言われる霊山の軍師か。
 記憶が無いと言うのには驚いたが、かの軍師九葉の部下であったと言うのならば、その腕前も頷ける――軍師九葉が指揮する部
 隊は、霊山の精鋭で構成されているらしいからな。」



まぁ、実際に精鋭部隊だった気がするよ。
それにしても血塗られた『鬼』とは、何とも似合わない二つ名を付けられたものだな九葉よ?……10年前のあの時『必ず生きて帰れ』
と言ったお前がこんな名で呼ばれていると言うのは、少し悲しい気分だ。



「そう言えば、風の噂で聞いたんだけど、その九葉って軍師、二年前にウタカタって言う里に行ってたみたいなのよ。
 で、其処で規格外の力を持つモノノフに会ったんですって!」

「規格外のモノノフだと?何だそいつは?分かってる範囲で良いから教えろ。」



九葉がウタカタと言う里に?……その里で何かあったのだろうか?そして規格外のモノノフとは一体――と言うか、幾ら何でも喰いつ
きが良すぎるぞ神無。



「えっと、又聞きの話だから本当かどうか知らないんだけど、何でも素手で鬼の部位を引き千切り、その顎で角を噛み砕いたとか。」

「……其れは、本当に人間のモノノフか?と言うか、幾ら何でも其れは有り得ないだろう?」

「いや、実際にやったらしいわ。名前は確か、アインスって言ったかしら?」

「アインス?」

何とも凄まじそうなモノノフだが、アインスだと?……何だ?初めて聞く筈の名前なのに、その響きに懐かしさを覚えるとは、私の記憶
に関わっている名前なのか?



――将



「!!!!」

「シグナム、如何した?」

「……いや、何でもない。」

一瞬脳裏に浮かんだ、銀髪赤目の女性は一体誰だ?……彼女は、私の失われた記憶に関係しているのだろうか?……もしも機会
があるのではあれば、会ってみたいな……ウタカタのモノノフ、アインス。

だが、今は目的を果たすのが最優先だ。
進んだ先では、氷の壁が行く手を遮っているのだが……此れ位の氷壁ならば、鬼の手で破壊する事は雑作もないないだろうな。
私がこの氷壁を壊せると思えば、鬼の手で破壊する事が出来るのだからね。



――バリィィィン!!



「破壊完了だ。」

「道が開けたな……だが、嬉しくない客が待っていたようだ。」


『オォォォォォォォォォォォォ!!』


氷壁を壊した先には大型の『鬼』が居ましたって……一体どんなドッキリだ此れは?――10年前の横浜では見なかった『鬼』だが、容
姿から判断するには、この『武』の領域の様な寒冷地に住まう『鬼』なのだろうな。
女性体の上半身に、蛇の下半身を持つ大型の『鬼』よ……貴様を斬り捨てて先に進ませて貰うぞ。








――――――








Side:アインス


ハッ!将が今まさに戦っているような気がする!!



「アインス……君は何を言ってるんだ?」

「日本語、と言う答えは駄目か桜花?」

「いや、日本語である事に間違いはないんだが……」



なら問題ないだろう?
少しばかり、将の闘気を感じただけだしね……其れよりも、今はこの大型『鬼』の集団をぶっ殺すのが先決だ!里周辺にゴウエンマが
10体出現って嫌がらせか!!
アーナス!!



「了解だアインスさん……ヨルドの力、格の違いを思い知るが良い。」

「この姿になった以上は手加減は出来ん……私を起こした自分を恨むんだな。」

なので、私とアーナスが持てる力を全開して、粉砕!玉砕!!大喝采!!正に、滅びの爆裂疾風弾だったね。――だが其れは其れ
として、将もこの世界で戦ってるのだな。
何処にいるのかは分からないが、もしもこの世界に来ているのだと言うのならば、何時の日か会いたいモノだね。












 
To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場



Side:焔


任務を終えて禊に来たんだが……最悪な時に来ちまったみたいだなこりゃ?



「…………」

「……ふん。」



はい、ただいま絶賛サムライの隊長と近衛の隊長が禊場で出くわして火花散らしてるってマジかオイ!!……こりゃ、何処からどう見
ても禊をするって空気じゃねぇよな?
面倒事に巻き込まれんのは勘弁願いたいから退散すっか。



「おい、なぜ逃げるカラクリ使い。」

「貴様も禊に来たのだろう?遠慮せずにして行くと良い。」



と思ったら見つかっちまったぜコンチクショウ!!
お前等が一緒に居る場所で禊なんざ出来る訳ねぇだろうが!……チクショウ、紅月にシバかれんのはアレだから、ちゃんと野郎の時
間に来たってのにメンドクセー事に巻き込まれっとはな。
こりゃ、禊の時間を守る意味はあんまりなさそうだ……紅月が聞いたら速攻でブッ飛ばされるかもだけどな。