Side:シグナム


さてと、ダイバタチを討伐し、無事にマホロバの里に戻って来たのだが……



「……無事だったか、椿。」



まさか、八雲が出迎えてくれるとは……だが、此処に居ると言う事は、其方の方は、問題なく片付いたと言う事なのだろうな……紅月
も無事みたいだからね。



「八雲、戻ってたのね……其れに、紅月!」

「久しぶりですね、椿。」

「貴女が居て良かったわ……其れじゃあ北側の『鬼』は……」

「殲滅した、我等サムライがな。」



と、此処でサムライの頭領である刀也が出て来たか……八雲の話では、サムライは出払っていると言う事だったが、如何やらそう言
う事でもなかったみたいだな?
だが、この場に近衛とサムライが集ったと言う事は、如何考えても一悶着あるだろうな……はぁ、マッタク持ってヤレヤレだ。









討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務150
『任務完了!マホロバへの帰還』










「殲滅したとはよく言う……途中から来て、美味しい所を掻っ攫っただけではないか。」

「来ないよりは、幾分マシだっただろう?」

「……来ないよりはな。」



そして予想通りに始まってしまった八雲と刀也の舌戦……二人とも表情は変わってないが、バチバチと視線が火花を散らしているの
は間違いない。
其れこそ、この火花で物理的発火が起きるんじゃないかと言う位にな。



「途中でサムライ部隊が合流してくれたのです。
 お陰で『鬼』を撃退できました。皆も無事でよかった。」



紅月、よく言ってくれた!!険悪雰囲気になってしまったが、サムライの部隊が合流してくれたおかげで『鬼』を撃退出来たとなれば、
サムライの印象は悪くはならないからな。
だが、刀也が助太刀に来てくれたのか……奇遇だが、私達もサムライの神無が助けてくれたのだ。――お陰で、ダイバタチを討つ事
が出来たよ。



「神無が……そうか。
 其れで、首尾は如何だ?」

「シグナムも言っていただろう、倒したさ。」

「そうか、よくやった。仕事は終わりだ、戻るぞ。」

「……あぁ。
 …………じゃあな、変人共。」

「誰が変人か!」



私達……なのだろうな間違いなく。
しかし変人、変人と来たか……其れを言うのならば『俺は最強だ。』などと言いながら、単身『鬼』を追おうとした神無は変人を通り越し
て居るのではないかと思うのだが、まぁ、其れは言わぬほうが良いだろう。



「…………」

「ん?」

「如何かしたか、シグナム。」

「いや、サムライ部隊の眼鏡の女性が此方を見ていたような気がしただけだグウェン……何か言って来る訳でもなかったし、私とお前
 は、最近マホロバに来たばかりだから、見慣れない顔に疑問を持っただけかもしれん。」

もっとも其れならば其れで、部隊の人間に新たに里の一員となったモノノフの事をちゃんと伝えて置けと思わなくもないのだがな。
思えば椿も私とグウェンの事は知らなかったしな……近衛とサムライの報連相は一体どうなっているのやらだ。

ともあれ、今回の一件はサムライ達の協力が有ったからこそ何とか出来た部分も多い。後で、手土産でも持って礼の一つでもしにい
った方が良いかも知れんな。



「……奇妙ね。サムライ達が此処まで協力的なんて。」

「オイ、近衛とサムライはそんなに協力をしないモノなのか?」

「普段は先ず無いわね……どっちかと言うと、手柄の取り合い、どっちがより多くの『鬼』を討伐したかの競い合いって感じで、余程ヤ
 バイ『鬼』が相手でもない限りは協力する事なんて皆無よ。」

「余計な事を言うな椿。
 我等近衛と、奴等サムライは鬼内と外様と言う違いがある……元より異なる存在なのだ、協力など無理と言うモノだろう。」



……多分、そう思っているのはお前をはじめとしたごく一部だと思うぞ八雲。実際に今回は、サムライが協力してくれたのだから。
だが、普段の事を考えればサムライが協力したのは何故なのかと思わなくもないが……



「……副長の真鶴が進言してくれたようです。彼女は絶大な信望を集めている様ですから。」

「真鶴?」

「先程貴女とグウェンの事を見ていた、眼鏡の女性です。」

「彼女が真鶴……サムライのナンバー2と言う事か。……サムライのナンバー2が進言したと言うのも不思議な話だな。」

「鬼の副長がね……
 ……其れで隊長、この先どうするの?」

「暫くは警戒態勢を維持する。
 椿、お前は暫く里に留まれ。北にも南にも出撃できるようにな。」

「……分かったわ、任せて。」



サムライの副長が進言してくれたのか……ふむ、真鶴と言う女性は、あまりサムライだ近衛だと拘る人物ではなく、マホロバの平和を
第一に考えているのかも知れん。
ふ……その考え方には好感が持てる。モノノフたる者、常に人々の平和を第一に考えなばだからな。

それにしても警戒態勢は維持か……まぁ、仕方あるまい。
何時また『鬼』の襲撃が有るとも分からないのであれば、何時でも出撃できるようにしておかねばならないからな……10年前の横浜
で、『鬼』を全滅させ、『鬼』の侵攻を食い止める事が出来て居たらこんな世界にはならなかったのだろうと思うと、後悔してもし切れん
モノだ。
せめてもの罪滅ぼしに、今のこの世界は絶対に守らなくてはな。



「……シグナム、グウェン、二人にはお世話になった。
 この鬼の手、貰ってもいいのかしら?」

「構わん。
 博士は信頼できる人物に渡せと言っていたからな……記憶はなくとも、人を見る目は有る心算だ。――お前は、其れを渡すに相応
 しいモノノフだ。……そして、神無もな。」

「……ありがとう。
 私はモノノフの天辺を目指しているの。貴女達は、その好敵手になりそうだわ。――一緒に切磋琢磨しながら頑張りましょ。」



互いに高みを目指して切磋琢磨する好敵手か……悪くない。
競い合う相手がいればこそ、己を磨く事にも力が入ると言うモノだからな――互いに頑張ろうじゃないか椿。



「負けないわよ、シグナム!グウェン!」

「また会おう、椿。」

「えぇ、約束よ。」



ふ、期せずして新たな絆を紡ぐ事が出来たか。
椿は勿論だが、態度は不愛想とは言え神無もまた私達の事は『共に戦った仲間』位には思っていてくれるだろう……言葉にしなくとも
通じるモノと言うのは有るからな。
それにしても好敵手か……どうにも引っ掛かる言葉だが、失われた記憶と何か関係があるのか?



――疾風迅雷!!

――全力全壊!!

――ドレ、少し遊ぶか公僕




……金髪の大剣使いの女性、白い服の槍みたいな武器を使う女性、金髪褐色肌眼帯で見るからに危険度最大級の武器を両手に持
った女性を思い出した。……序に言うと、眼帯女には殺されかけた事が有った事も思い出した。
自分で言うのも何だが、どてっぱらに派手に風穴開けられてよく生きてたな私……と言うか、記憶を失う前の私は、本当に普通のモ
ノノフだったのか疑いたくなって来たぞ?
もしも九葉に会う機会が有ったら、其処ら辺を聞いてみたいものだ。



「ありがとう、里を護ってくれて。」

「主計……なに、モノノフとして当然のことをしたまでの事だ。
 此処は良い場所だ……近衛とサムライが対立をしているとは言え、里の雰囲気は穏やかで平和だからな……此処を『鬼』に壊させ
 る訳にはいかんさ。」

「そう言って貰えると嬉しいよ。
 私は、戦場に向かう君達の無事を祈る事しか出来ないが、これからも頑張ってくれ。……汝に、英雄の導きが有らん事を。」



言われずともその心算だ。
さて、『鬼』は退けたが此れから如何するか……取り敢えず、今回の事を博士に報告しておくか。椿と神無に鬼の手を渡した事も言っ
ておかねばならないだろうしな。



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そんな訳で博士の研究所が有る高台までやって来た……その道中で、鍛冶屋で防具を直して貰い、久遠から新しい料理を考えたと
か、更に料理を開発したいので新たな『鬼』の素材を持ってきてほしいとか言われてしまったがな。
と言うか、そもそもにして『鬼』の素材で料理を作ると言うのが間違っていると思うのだが……マムシの串焼きならば兎も角、『鬼』の
素材で作った料理など、ゲテモノを通り越した何かだと思うのは私だけなのだろうか?
……まぁ、『鬼』の素材で作った料理は、一般人には劇薬だが、モノノフにとっては一時的に凄い力を得る事が出来る強壮剤らしいの
だが……少し怖いが、機会が有れば食べてみるか。

っと、アレは……かぐやか?神垣ノ巫女がこんな所で何をしているのか……



「……良い風だ。」

「かぐや、こんな所で何をしているのです?」

「だ、誰だ?」

「失礼、驚かせてしまいましたか?」

「お主は……シグナム。
 なんだ、ビックリさせるな……見つかったかと思ったぞ。――元気そうだな、里には馴染めたか?」



えぇ、博士は良くしてくださいますし、紅月達とも良好な関係を築いているのではないかと思っていますよ……何処の誰とも知れない
私の事を受け入れてくれたマホロバには、感謝しかありません。



「そうか……だが、お主前とは言葉遣いが違くないか?前はもっとこう、ざっくばらんな物言いだった記憶があるのだが……」

「前にも言いましたが、私は記憶の大部分を失っています。
 ですが、時折蘇る記憶の断片の中に、貴女ほどの少女を『主』としていた立場だったと言ったでしょう?……そのせいか、貴女に対
 しては、普段の態度は如何かと思っただけの事です。」

「私としては、前のままで構わぬのだがな……お主が、そうしたいと言うのであれば私がとやかく言う事でもないか……」



そう仰って頂けると助かります。
して、かぐやは此処で一体何をなさっていたのです?



「少し散歩をな。
 ……岩屋戸の中は息苦しくてな。風に当たりたくて出て来たのだ。
 此処は絶好の隠れ場所だ。見晴らしも良いし、最高だな。――其れに、良い風も吹く。自由とは良いモノだ。」

「確かに、あの中で一日中過ごすと言うのは、軟禁生活と大差ないでしょう……風に当たりたくなると言うのも頷けます。」

「大事にされているのは分かってるのだが、どうしてもな。
 この風のように、気ままに世界を旅してみたい――其処には見た事のない景色や、会った事のない人々が居るだろう。
 神垣ノ巫女としては、望むべくもないが……」



神垣ノ巫女……『鬼』の脅威から里を護るために結界を張り続ける事を義務付けられた存在……彼女達もまた、10年前に『鬼』の侵
攻を食い止める事が出来なかった事で生まれてしまった被害者か。
かぐやの様な幼い少女にまで負担を強いる事になってしまった世界……あぁ、本当に10年前の私達は罪深い存在だな。
出来る事ならば、鬼の手を持った状態で10年前に戻り、歴史をやり直したい位だ。



「如何したシグナム、険しい顔をして?」

「いえ、なんでもありません……少しばかり、過去の己の不甲斐なさを悔いただけの事ですので、お気になさらずに。」

「そうなのか?お主の過去に何が有ったかは知らぬが、あまり自分を責めるな……取り戻せない過去を過去を後悔した所で、何も良
 い事はないのだから。」

「……肝に銘じておきます。」

齢10程度の少女から諭されてしまうとは、私もまだまだだな。



「そうだシグナム、お主の事を教えてくれないか?」

「私の事を、ですか?」

「そうだ。
 この前は時間が無くて聞けなかった。私に外の世界の事を教えてくれ。」



外の世界の事をね……分かりました、其れが貴女の望みだと言うのならば、私は其れに応えましょう、主かぐや。



「あ、主とな?」

「私はモノノフで、貴女は神垣ノ巫女でしょう?……主従関係にあるのは明らかです。
 今この時より、私は貴女の騎士となり、忠誠を誓いましょう……御手を拝借しても?」

「う、うむ。構わぬが、如何する心算だ?」

「貴女に、絶対の忠誠の証を。」

そう言ってかぐやの手の甲に唇を落としてやる……朧げな記憶だが、かつて『主』と呼んだ相手にも、何時だったか同じ事をした記憶
が有るから、此れが騎士の誓いで間違ってはいない筈だ。



「ふわぁぁ!?さ、流石に驚くぞ!!」

「其れは失礼しました……ですが、此れで私は真に貴女の騎士となりました……何が有っても、貴女の事をお守りします。――そして
 何かあったら、遠慮せずに仰ってください、出来る範囲で何とかしますので。
 主に八雲が鬱陶しいとか八雲が鬱陶しいとか八雲が鬱陶しいとか、色々有ると思いますので。」

「何故八雲ばかり……否、気持ちは分かるぞシグナム。
 だがまぁ、今は其れは良い……其れよりも、私にお前が知っている事を、外の世界とお前の事を教えてくれまいか?」

「其れが望みであるのならば、仰せのままに。」

とは言っても、私は記憶の大部分を失っているから、大した事を話す事は出来ないのだがな――だが、そんなモノでも主かぐやの気
晴らしになると言うのならば、話させて貰うとしよう。
10年前のあの日に起こった、壮絶な戦いの事を、な。













 
To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場



Side:紅月


ふぅ……一仕事終えた後の禊は、心身ともに癒される感じがします……そうは思いませんか真鶴?



「そうだな、卿の言う通りだ。
 其れよりも、先程本部で見かけた桜色の髪の女性と、金髪の女性は卿が預かっている新たなモモノフか?」

「その通りです。桜色の髪がシグナム、金髪がグウェンです。」

「グウェンとシグナムか……覚えておこう。
 此度は、愚弟が世話になった様だからな……機会を見て礼に行かねばな。」



……矢張り真鶴は、サムライ部隊の副長と言う役職に居ながらも、サムライと近衛と言う立場の拘りは無いようですね……彼女の様
な人物がサムライと近衛の隊長であったのならば、この対立は無かったかもしれませんね。

そのまま真鶴と禊を続けていたのですが、終わりにしようと思った瞬間に、少し馬鹿な焔が入って来たので、真鶴と一緒に撃滅してお
きました……学ばない馬鹿と言うのは存在するのだと痛感しました。