Side:シグナム
『武』の領域で捕捉した大型の『鬼』ダイバタチ……屈強な体躯の世つ足の『鬼』で、その巨躯に似合わない俊敏な動きが脅威だった
のだけど、私達の前では其処まで恐れる相手ではないだろう。油断は禁物だがな。
「く……凶暴化とか反則でしょ!!」
「そう来なくては面白くない……もっと俺を楽しませろ!!」
「神無、貴方は矢張り……」
「それ以上言うな、言ったら斬る。」
「其れは嫌だな……斬られたら相当に痛いだろうからな。」
「いや、反応すべきところがおかしいぞグウェン。」
グウェンは少しずれている所があると言えば良いのか、要するに天然な所があるから、真面に対応していると少々苦労する事がある
かもな。
が、其れは其れとしてタマハミ状態になったと言う事は『鬼』の方にも余裕がなくなった事を意味している……ならば此れは逆に好機
だ――多少の被弾は覚悟でダイバタチを攻め立てる!!
此のまま攻め続ければ、私達の勝ちは絶対だ……貴様には、ここで果てて貰う――まぁ、精々祈るが良い。『鬼』に祈るべき神が居
るかは知らんがな。
討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務149
『雪原の激闘~ダイバタチ~』
でだ、タマハミ状態になったダイバタチは動きが更に素早くなって、更には空中に停滞できるようになったと言うのは厄介なモノだ。
如何にモノノフであっても、空中の相手に接近する術は、鎖鎌でも使わない限りは無理だったから、空を飛ぶ相手と言うのには如何
しても苦戦を余儀なくされて来たからな……此れまでは。
「逃がさん。」
『!?』
だが、其れは此れまでの話。
今は、私達だけとは言え鬼の手と言う切り札がある!この力を使えば、空中の相手を掴んで近寄るなど造作もない事だ!更に私の
十束は、連結刃としても機能するのでな……一度近付いてしまえば逃がさんぞ!!
「成程、こう言う使い方も出来るのか……便利だな。」
「此れまでは、空に逃げられると弓や銃が無いとどうしようもなかったけど、此れなら槍や太刀でも空中の相手を攻撃出来るわね!」
「本当に凄いな、鬼の手は。」
そして、私に続くようにグウェン達が鬼の手で空中のダイバタチに飛びかかり、次々と攻撃して行く……ふふ、椿と神無とは今日初め
て会ったと言うのに、此処まで良い連携が出来るとはな。
近衛とサムライと言う己の所属に固執していない二人だからこそ、マホロバでは異端扱いされているカラクリ部隊とも連携を取る事が
出来ると言う事なのだろうな……少しは見習ってくれ、両部隊の隊長よ。
「時に神無、お前が使うタマフリは空のモノだったな?
ならば、この鬼の手移動と縮地を併用したら、可成り自由度が高い多角的な攻撃が可能になるのではないか?――例えば、鬼の
手で『鬼』の真正面から飛びかかっておいて、縮地で背後に移動して攻撃の様な。」
「成程、面白そうだ。」
取り敢えず、空のタマフリの縮地と鬼の手移動を組み合わせたら攻撃の幅が広がるのではないかと神無に提案してみたんだが、どう
やら当たりだったようだな?
私が提案したのとは逆に、背後から鬼の手で近寄って、縮地で目の前に移動して不意打ちの一発を決めたからな……部位破壊こそ
出来なかったものの、片方の目を潰したと言うのは大きな成果だ。
『ガァァァァァァァァァ!!!』
が、片目を潰された事で更に逆上し、今まで以上に暴れ始めたか!!――グウェン、危ない!!
――ズバァァァァァ!!
「シグナム!!」
「ぐ……無事かグウェン?」
「私は大丈夫だ!
だが、私を庇ったせいで貴女が怪我を!!」
グウェンは無事だったが、私はダイバタチの爪で背中を大きく切り裂かれてしまったか……咄嗟に堅甲を使った事で致命傷には至ら
なかったが、深手である事に変わりはないな。
普通なら、ここで終わりなのだろうが、終わらないのがモノノフだ!
何よりも、私は複数のミタマを宿しているが故に、使えるタマフリの数は普通のモノノフとは段違いなんだ……深手を負ったと言うのな
らば、攻のタマフリである吸生を使って、攻撃と同時に回復を行えば良いだけの事だ!!
「ちょっと、その傷で動けるの!?」
「傷の痛みなど、気合で耐えれば良いだけの事だ!!」
「ちょ、マジで!?」
「大マジ、だ!!」
吸生を発動すると同時にダイバタチに飛びかかり、連結刃状態の十束で、斬って斬って斬りまくってやる……そして、其れと同時に背
中の傷が治って行くのを感じる――今更ながらに如何言う原理なのか。
まぁ、傷は塞がったが防具は破損してしまったので里に戻ったら鍛冶屋に直して貰わねばな。
『グガァァァァァァァァァァァァ!!!』
ふ、仕留めたと思った相手が反撃して来て驚いたか?
飛び上がり、身体を回転させて無数の鎌鼬を放って来る……鎌鼬が見えると言うのも凄まじい話だが、見えているのならば迎撃する
のは雑作もない!!
舞い散れ、神風!!
――ババババババババ!!
「鎌鼬を全て叩き落すとは……矢張りお前は最強のようだ。」
「いや、其れだけじゃない。
鎌鼬を迎撃しながらも、ダイバタチにも攻撃している……前にも見た事は有るけれど、この技は攻防一体となった隙の無い技なんだ
な……凄いぞ!!」
「やるじゃないシグナム!
アイツも大分弱って来たみたいだし、そろそろ決めちゃいましょう!!」
「その意見には大賛成だ!!……鬼の手で、再生した部位を完全破壊する!!」
神風を受けて地面に叩き落されたダイバタチに向かって、全員で鬼の手を発動!
私は右前足を引き千切り、グウェンは右後ろ脚を斬り飛ばし、神無は左後ろ足を叩き潰し、椿は左前脚を殴り飛ばす……同じ鬼葬り
でも使用者によって随分と差があるようだな。
ともあれ、四肢を完全破壊されたダイバタチは、何とか苦し紛れに這って私達に襲い掛かろうとするが、そんな鈍い動きでは私達を捉
える事は出来ん!!
「往生際の悪い奴だ……いい加減クタバレ。」
「此れで終わりだ!!」
「これで終わりよぉぉぉぉぉ!!」
「これで散れ……極意・鬼千切り!!」
ダイバタチの最後の特攻に対し、私達は鬼千切りを発動してダイバタチを打ち据える!!……タマハミ状態になり、四肢を完全破壊
されたダイバタチに成す術はなく、私達の渾身の攻撃を受け、遂にその巨体が沈んだか。
「どんなもんじゃい!」
「……灰は灰に。
生まれた場所に帰れ、冥界の者よ。」
――キィィィン……バシュン
『愛しき御方を求めて……』
――ミタマ『静御前』を獲得。
そして新たなミタマを手に入れる事が出来たか……静御前は確か、源義経と恋仲だった筈――私の中で想い人との再会を果たすと
良いさ。
さてと、少々危ない場面もあったが『鬼』を討つ事が出来たな?
「いよし!此れで一先ず砦は安全ね!
それに……結構使えるわね、この鬼の手。」
「そうか、なら良かった。」
「……行動限界が近い。引き返すぞ。」
「ふ、『鬼』を討った以上、異界に長居は禁物か……北側の『鬼』がどうなったかも気になるからな。マホロバの里に戻るとしよう。
先ずは状況確認をせねばな。」
其れが済んだら、破損した防具も直さねばだ……治癒や吸生で破損した防具も直ればいいのだが、そう言う訳にも行かないらしい。
其れは其れとして、私達は結構良い組み合わせかも知れん。
――ヒィィィン……
「!!此れは!!」
「ちょ、ちょっと!何よ此れ……!!」
「お、おい……」
「シグナム……!」
空間転移の!!――うわぁぁぁぁぁ!!
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……此処は?
『……吉野山 峰の白雪 踏み分けて 入りにし人の 跡も恋しき……あぁ、よもや此処でお会いできようとは……。
九郎様……私は貴方を待っていました。』
お前は、静御前か?……此処は、ミタマと語れる場所なのか?
『……ミタマの主。
貴女のおかげで、私は九郎様にお会いする事が出来ました。貴女の中にある源義経様のミタマに……
その御恩に報いねばなりません。
お見せしましょう、この地に開かれた時の扉を……意に反し開かれた遠き記憶の扉を――さぁ、参りましょう。』
何処に?
いや、聞くまでもないか……目の前にはその光景が現れたからな――此れは、瘴気の穴だな?『安』の領域と同様に、『武』の領域
にも同じ瘴気の穴がると言う事か。
何処にあるのかは分からないが、この穴も塞がねばなるまいな。
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――バシュン!!
「うわっ!吃驚した!!」
「い、一体何が?」
「……此れも、モノノフの力か何かか?」
「そんな訳ないでしょ!!」
……如何やら、戻って来れたみたいだな?
「ねぇ、一体何が起こったの?」
「ミタマの影響じゃないか?……静御前のミタマがこの領域の風景を見せてくれた。」
「ミタマが風景を見せる?……一体何の話なの?――取り敢えず、人が消えてまた現れるって言う、世にも不思議な物を見ちゃった
わね。」
「ミタマや『鬼』が居る世界で不思議もヘチマもあるのか?」
「あのね、彼方達とは常識が違うの!!」
「……あの時と同じだな。
貴女は突然やって来る……まるで鬼門から現れる『鬼』のように……」
「グウェン?」
「……何でもない、忘れてくれ。」
……お前がそう言うのならばそうしよう。誰しも深く突っ込まれたくない事と言うのはあるモノだからな。――砦を強襲した『鬼』は討っ
たんだ、一度里に戻って状況確認をしておこう。
もしも北の方が苦戦しているのならば、其方の援軍に向かわねばならないかも知れないからね。
To Be Continued… 
おまけ:本日の禊場
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