Side:シグナム


さてと、サキモリ砦での一戦は終えたが、其れで終わりと言う訳ではない――此処から異界へと逃げた『鬼』を追って討たねばならな
い訳だからな。
聞くまでも無いと思うが準備は良いか?



「俺は最強だ……誰が相手であっても倒すだけだ。」

「やってやるわよ!おんどりゃぁぁぁぁぁぁ!!」

「行こうシグナム、『武』の領域に突入して『鬼』を追う!!
 今なら鬼の目で痕跡が見える筈だ――外に出て調べるぞ!!」

「ふ、言われるまでもない。」

『武』の領域に逃げ込んだ『鬼』が何者かは知らないが、人の世に仇なす存在であるのは間違い無いから探し出して討伐する、只そ
れだけの事に過ぎん。

何が理由で異界に逃げ帰ったかは知らんが、私達から逃げられると思ったら大間違いだ――モノノフは、討伐対象に指定した『鬼』を
決して逃がしはせん。
そう言う意味では、『武』の領域に逃げ込んだ『鬼』にも逃げ場など存在しないと言う事だ……私とグウェン、そして近衛の筆頭である
椿とサムライ最強と言われている神無が一緒だからな。
如何足掻いても負ける気がせん……だから全力で行くぞ!!



「勿論よ!……でも、本当に痕跡なんて見えるのかしら?」



それは、見てのお楽しみだ椿。









討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務148
『武の領域で待ち構える者』










鬼の目を起動して見てみたが……此れはまたハッキリと残っているモノなんだな――此れが、『鬼』の残した痕跡だ。だから、此れを
辿って行けば目的の相手に大当たりだ。
マッタク持って、博士は素晴らしい機能を搭載してくれたモノだと思うよ。



「信じられない……『鬼』の足跡みたいのが見えるわ。」

「……南に続いているな――追うぞ。」



そして痕跡が分かれば追うのは容易だからな。
行く手には小型の『鬼』が跋扈しているが……邪魔をするな!道を開けろ雑魚共!消え去れ、火竜一閃!!――『鬼』は『鬼』らしく
地獄の業火で苦しむが良い!!



「小型とは言え、一撃で50体は葬ったわよね今!!」

「成程、最強とはお前だったか……今度、手合わせを願おう。」

「討伐対象を滅して、無事に里に戻る事が出来たら考えておこう……だが、お前との手合わせは心躍るモノになるのではないかと期
 待しているがな。」

「其れは俺とて同じ事だ。」

「……なんか、会話だけを聞いてると凄くヤバ気なんですけど。」

「2人ともバトルマニアなのか?」

「ばとる……まにあ?何それ?」

「日本語で言うと、戦闘狂……だったかな?」

「うわ、其れマジでヤバい奴だ。」



戦闘狂とは失礼な……私も神無も戦闘狂などではない。只単純に強者との手合わせを楽しもうとしているだけの事――他の誰かに
迷惑をかける訳では無いのだから……


――『全力全壊!!』

――『飛竜一閃!!』

――『アンタ等少しは手加減して模擬戦やらんかい!給料減らすでホンマに!!』



……否、記憶を失う前は上役に非常に迷惑をかけていたような気がして来た。特定の相手と模擬戦を行うたびに、その施設を完全
破壊していたような……神無との手合わせは少し加減をした方が良さそうだな。



「……ねぇ、シグナム。この鬼の手って博士が作ったのよね?
 カラクリ人形なんて連れてるから普通じゃないと思ってたけど…………一体何者なの?」

「其れは私に聞かれても良く分からん。
 記憶を失っている私を助手として傍に置いたり、異界にある瘴気の穴を塞いだり、異界の遺跡に入り込んだり……共にいる私でも
 よく分からんのだから、里の人達からしたらさぞ奇人変人に映る事だろう。
 其れだけを考えれば、彼女が『魔女』と呼ばれるのも分かる……真正面からそう呼ぶ八雲の神経を少し疑うが。」

「あ~~……うん、其れは分かるわ。
 ま、まぁ、八雲にも悪気がある訳じゃないのよ……ただ、何て言うかちょっと偉そうなだけなのよ!」

「……部下にそう言われるとは、隊長として如何なんだ?……奴のあの態度が無ければ、刀也ももう少し態度が違うと思うが……」

「其れはお互い様じゃない?」

「かもな。」



ヤレヤレ、八雲も刀也も互いの事が気に入らない訳か……此れは、近衛とサムライと言う事以上に、八雲と刀也と言う人間同士の相
性の悪さがあるのかも知れんな。
かと思えば、椿と神無のように近衛とサムライであってもいがみ合わずに戦う事が出来る者も居るのだから分からんモノだ。

っと、穢れた結界跳石がある……序だから浄化しておくか。
『安』の領域では『蝕む者』としてヒダルが現れたが、『武』の領域では何が現れるか――



『ガァァァァァァァァァァァァァ!!!』


「此れは、さっきの!!」

「成程、コイツが『武』の領域の蝕む者か。」

狼の様な出で立ちの中型の『鬼』……グヒンと言ったか。
だが、既にお前の手の内は知れているのでな……一撃で終わりにしてやる!!
鬼の手を巨大な手に変形させ、其れでグヒンの頭を掴み……其れを握り潰す姿を具現化させ、粉砕!!――大型の『鬼』には通じな
いだろうが、中型の『鬼』までなら鬼の手で一撃で倒す事が出来ると言う事が、此れで証明されたな。



「……鬼の手の大量生産が可能になって、マホロバ以外の里にも普及したら、絶対に『鬼』との戦いは人の方が優勢になるわね。」

「そうなってくれれば有り難いが、鬼の手を作るのに必要な部材が非常に希少なモノである事を考えると、大量生産と言うのは難しい
 かも知れないな。」

本当に此れがもっと大量に作られれば、『鬼』にとってモノノフはもっと脅威の存在になるのだがな……何処かに、水晶の塊のように
カラクリ石の塊でもあると良いのだがね。

さてと、『鬼』の痕跡を追って進んで来た訳だが、痕跡は此処で途絶えているな?……と言う事は、サキモリ砦に向かっていた『鬼』
はこの近くに居ると言う事になるが姿が見えん。
オヌホウコの時のように姿を隠しているのか、其れとも何らかの方法で痕跡を残さずに立ち去ったのか……



「寒っ!!此れだから異界って嫌なのよ!!」

「……痕跡が途絶えているな?『鬼』は何処に……?」

「もしかして、痕跡が消えるってことあるの?」

「博士は時間が経ちすぎると消えると言っていたが、其処まで時間は経ってはいないだろう?
 道中で『鬼』を倒して来たとは言え、此処に到達するまでに10分と掛かっていない筈だ……痕跡が消えるとは考え辛い。」

「そうよね?……行動限界までまだ余裕があるし……もう少し探してみる?」

「……いや…………来るぞ!」



神無?……否、此れは、この気配は!!



――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


『グオォォォォォォォォォォォォォ!!!!』




大型の『鬼』!!
巨大な角、大きな口には鋭い牙、四肢には鋭い爪を持ち、尾の先が巨大な刃になっている四つ足の獣型の『鬼』……オオマガドキ
の時には見なかった『鬼』だ――新種か!
カゼキリよりも大きく、現れた時の動きを見る限りカゼキリよりも速い……グヒンなど問題ではない程の強さなのは間違いない。



「で、出たぁぁぁぁぁぁぁ!?何なのよ行き成り!!」

「デカイな、其れに速い……!」

「ダイバタチか……上物だな。来い!!」

「仕方ないわね……やるわよシグナム!!」

「言われるまでもない……我が十束の錆となるが良い!!」


『ガァァァァァァァァァァァァァ!!!』


――グワン!!




!!……く、巨体で俊敏なだけでなく、小回りまで利くのか……厄介だな。
この機動力の要となっているのはあの4本の足であるのは間違い無いから、部位破壊する事が出来ればコイツの力を大きく削ぐ事
が出来るのかも知れないが……この俊敏さが相手ではその機会も中々なさそうだ。



「ちょっと、この鬼の手って説明書とか無いの!?」

「想像を具現化する装置だ。大事なのは気合いだと博士が言っていた!」

「何て適当な……良いわよ、当たって砕けてやるわ……!!おんどりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



……だから、その雄叫びは女性として如何かと思うぞ椿よ。
だが、此のままでは埒が明かない上に、決定打を与える事が出来ないのでは此方がジリ貧だ……あの尾の一撃を喰らったら、如何
にモノノフとは言え、身体を両断されてお陀仏は間違い無いからな。

先ずはダイバタチの動きを止めねばなるまい。
『鬼』の動きを確実に止めるには……少し危険だがやるしかないか!ハァ!!



――ガシ!!ギュン!!!



「シグナム?『鬼』に乗って如何するつもりなんだ?」

「単純な事だグウェン……此れからコイツの角を叩き折る!
 角を折れば『鬼』は一時的に気絶状態になるから、その隙に鬼の手でコイツの足を破壊するんだ!」

「成程……良い手だ。」

「かも知れないけど、だからって普通『鬼』に乗っかる!?」



相手が乗れるほど大きいなら、乗っかった上で攻撃するのもまたありだろうと思うがな――勿論、乗った私を振り落とそうと、ダイバタ
チは暴れるが、この程度の揺れで落とされるような柔な鍛え方はしていない!
振り落とされるどころか、お前の身体に刃を突き立てて、其れを杖にして進むだけの事だ。

そして漸く頭に到着……頭を激しく振っているが、頭に刺した十束を離さない限り、私が落とされる事は無い――そして、鬼の手を巨
大な槌に変え、其れを思い切りダイバタチの角に叩き付ける!!
『鬼』の角を一撃で粉砕する槌を想像して叩き付ける!!一切の手加減なく全力で!!



――バキィィィィン!!!



その結果角は折れ、ダイバタチが一時的な気絶状態に陥ったな……今だ、グウェン!椿!神無!!鬼千切りでコイツの四肢を破壊
しろ!!



「分かった!」

「任せなさい!!」

「良いだろう。」



此の隙を逃さずに、グウェン達が鬼千切りで4本の足の内3本を部位破壊し、私も壊のタマフリ『断祓』を発動した上で、足1本と尾を
斬り飛ばしたやった。……断祓を発動して居たおかげで、破壊した部位を即時浄化できてよかったよ。
ふ、これでもう丸裸だな。
もう壊す所もない……本体を叩くぞ!!!



「そうね……だけど、来るわよシグナム!!」

「……だろうな。」



――ギュオォォォォォォォォン……


『グワァァァァァァァァァァァァ!!!』




全ての部位を破壊されてタマハミ状態になったか……否、其れだけならば未だしも、角以外の全ての部位が再生するとは思わなか
ったぞ?しかも、只再生されるだけでなく、尾に至っては強化されているからね。
如何やらコイツの部位は完全破壊しなくてはならないらしいな。



「……良いぞ、限界まで強くなって見せろ。」

「神無……貴方は……追い込まれるのが好きなのか?」

「何それ、気持ち悪。」

「……黙ってろ!」



強さを求める者は、常人には理解されない……悲しいな神無。その気持ち、私にもよく分かるぞ。
ともあれ、タマハミ状態になったと言う事は、凶暴化したのは勿論だが、ダイバタチも凶暴化せざるを得ない程に追い込まれたと言う
事に他ならない。
此のまま一気に押し切るぞ!!



「勿論よ!やってやるわ!!」

「本番は此処からだ……俺を楽しませろ!!!」

「シグナム、全力で行こう!!」



ふ、言われるまでもない。
雪深い『武』の領域だが、烈火の将がその雪をも溶かす攻撃で貴様を討つ……十束の錆となるか、其れとも『武』の領域で消し炭に
なるか、そのどちらかを選ぶが良い!!








――――――








Side:アインス



――カポーン



いやぁ、ゴミを廃棄する為の穴を掘って居たらまさか温泉を掘り当ててしまうとは思わなかったよ……折角なので、石で湯舟を作って
露天温泉を作ってしまった。
だが、此れを作ったのは間違いではなかった様だ……この温泉は禊場の水と同じ効力があるらしく、異界の穢れを浄化する作用が
あるからね。
最近は禊場よりも此方の方が人気がある位だ。



「冷水の禊場と温かい温泉で、何方も同様の効果を得られるとなったら温泉を選ぶのは道理だろうアインス?……其れよりも、一杯
 どうだ?」

「ふふ、ありがとう桜花。温泉に浸かりながら飲む酒は、また格別だな。」

で、私は現在桜花と一緒に温泉を満喫中……『鬼』との戦いは続いているが、ウタカタは今日も平和だな。



平和ではあるが、取り敢えず温泉を覗いていた息吹には一発かましておいた……禊場とは違って、温泉は薄布すら纏ってないのだ
からな……女性の裸体を見るなど言語道断だ馬鹿者が!!
同じ槍使いでも、趙雲や幸村と比べると雲泥の差だなマッタク……










 
To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場