Side:シグナム


サキモリの砦で遭遇した狼の如き『鬼』……俊敏な動きと、風を巻き起こす力を自在に操る所を見ると、其れなりに強い『鬼』なのかも
知れないが、私に言わせれば、『少し強い雑魚』でしかない!

「覇ぁぁぁぁぁぁ……紫電一閃!!」



――ズバァァァァァァ!!!



十束の一振りで部位を破壊し、更に周囲に現れたガキなどの小型『鬼』を連結刃の『神風』で細切れにしてやる……如何に『鬼』と言
えども、身体を細切れにされてしまっては堪ったモノではないだろうからね。
さて、私以外の面子は如何だ?



「その首、貰い受ける!」

「俺は最強だ……其れを証明してやる。」

「やらせるもんですか!おぉぉりゃぁぁぁ!!」



……如何やら心配無さそうだな。
グウェンも椿と思しき近衛もサムライも見事な働きを見せてくれているからな……悪いが速攻で終わりにさせて貰うぞ?
貴様程度の『鬼』と悠長に遊んで居る事は出来ないからな。
我が十束の錆にしてくれる!!









討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務147
『砦での攻防。そして新たな異界へ』










切り刻め……火竜一閃!!


――ズバァァァァァン!!



『ぐ……グガ……』


「火竜一閃を喰らってもまだ動くか……呆れた生命力だが、流石は『鬼』と言うべきなのだろうか……何方にしても、其のしぶとさは大
 したものだとしか言いようがない。」

「強い……何なの、此の3人……!」

「流石だシグナム。一気に畳み掛ける!」

「……刀也から聞いていたが、お前がカラクリ使いか?……良い腕だ、今度手合わせしろ。」



ふ、気が合うなサムライ?私も同じ事を思っていた……その太刀捌き、可成りの手練れと見受けた。
如何やら、私は強者と見ると血が沸く性格のようなのでな?手合わせを望まれたのならば、其れを断ると言う事はせん――特にお前
の様な奴からの誘いはな。


『ギャオォォォォォォ!!』

「そのような突進は喰らわん……喰らえ、鬼返し!!」

鬼の手を使って、『鬼』の行動を強制的に中断させる鬼返し……生命力を削る事は出来ないが、一時的に転倒状態にする事が可能
なので、その間は攻撃し放題と言う訳だな。



「ちょっと!何なの今の!?
 ……やるじゃない!集中攻撃行くわよ!!」

「博士が開発した鬼の手と言う武器だ。
 少々異様な攻撃だったかもしれないが、大丈夫だ、危険な物ではない……多分。きっと。恐らく……」

「なんでそんな自信なさげなのよ!そんなの危険に決まってるでしょ常識的に!」



いや、普通に使う分には危険な代物ではないんだ……ただ、無理矢理外そうとすると爆発するだけであって、ちゃんと正規の手順を
踏んで外せば大丈夫らしいからな。
そして、更に鬼の手はこんな使い方も出来る。



――ヴン……



「何だこれは?巨大な……剣、か?」

「鬼の手は想像を具現化する物だ……今私が具現化したのは私の想像した『一撃で『鬼』を両断する刀』と言った所か?
 尤も、大きな力程具現化するには集中力と精神力が必要になるから、大技を乱発する事は出来ないが、『鬼』との戦いでは有効過
 ぎる攻撃手段だからな。
 喰らえ、鬼の手を使った鬼千切り……鬼葬り!!」



――ズバァァァァァァァァァン!!



大型の『鬼』の部位を一撃で斬り飛ばし、二度と再生出来なくする完全破壊の一撃を喰らったら、中型程度は一溜りもあるまい?
一撃で死ぬ事が無くとも、最早瀕死に近い筈だ……となれば当然……!!


――ギュイィィィィン……!!


「来るわよ、タマハミ!!」

「漸くか……待ちわびたぞ!!」



来たかタマハミ……だが、時は既に遅い!
私達4人は、既に貴様を葬る為の一撃を放つ為の闘気は充分に溜まっている……此れで決めるぞ、グウェン、近衛、サムライ!!
モノノフの奥義……


「「「「鬼千切り!!」」」」


私の十束が、グウェンの剣が、椿の槍が、サムライの太刀が『鬼』に炸裂し、内部生命力を完全に枯渇させる……討ち取ったぞ!!


――キィィン……バシュン!


『小さくたって、役に立てる!』


――ミタマ『一寸法師』を手に入れた。



と、此処で新たなミタマを手に入れたが、一寸法師だと?アレは、御伽話の存在ではなかったのか?
まぁ、彼も確かに物語の中で『鬼』を倒した英雄ではあるが……ふむ、『鬼』は私達が物語として知っている世界にも干渉する事が出
来るのかもしれないな。



「地獄に落ちなさい。
 人の命を奪って来た報いよ。」

「この程度じゃ、償うには遠いな。」



マッタクだな。
しかし、近衛の伝令が言うには大型の『鬼』が3体との事だったが、追撃が来ないとは……私達の戦い、と言うか鬼の手と言う未知の
力を見て、恐れをなしたか、其れとも此れもまた作戦の内か……何れにしても、『鬼』の強襲を止める事が出来たのは大きいな。



「……三人ともありがとう。お陰で命拾いしたわ。」

「間に合って良かった。皆無事か?」

「多少の怪我は有れど、全員無事、死者はゼロだな。……ふぅ、良かったな。」

「そう言えば、北側の状況はどうなってるの?」



そっちは近衛が抑えている筈だ。
紅月や時継が一緒だから大丈夫だろう。彼女達が一緒ならば、早々やられる事も有るまい。



「紅月が?……なら、安心ね。
 私は椿、近衛の一人よ。彼方達は?」

「私はグウェンドリン。グウェンと呼んでくれ。」

「不思議な名前ね……異国の人かしら?」

「英国から来た。事情があって、博士の世話になっている。こっちが……」

「シグナムだ。矢張りお前が八雲の言っていた椿だったのか。」

「シグナム……貴女が?」



そうだが、其れが如何かしたか?
あぁ、八雲から最近マホロバに来た怪しげなモノノフの事でも聞いていたのか?……まぁ、博士の所に厄介になっている流浪のモノ
ノフ等、怪しい以外の何物でもないのは認めるがな。



「違うわよ!
 貴女、この前近衛の部隊を助けたでしょ?皆が噂してたわ……フーン、貴女がね。
 …………成程ね。でも強いのは貴女だけじゃないわ。
 私は霊山訓練生の首席よ。英語で言えばエリートね、エリート。」

「そうか。ではドイツ語で言ってみてくれ。」

「それ以前にエリートはフランス語だぞ?」

「…………」



さて、自分が凄いと言う事を言いたかったのだろうが、見事に自爆したな?……こう言うのを『顔から火が出るほど恥ずかしい』と言う
のだろうね……自賛は程々にだ。
今後の為に覚えておくと良い。



「と、兎に角!私の事は覚えておいて、カラクリ使いさん!」

「覚えておこう……お前ともまた、心躍る戦いが出来そうだからな――ふふ、期待しているぞ?」

「自分の方が強いって言うの?ふふん、言うじゃない。」

「生憎と、自分でも思ってる以上に口が達者なようでな。」

して、何処に行く心算だサムライよ?



「残党狩りだ……来る途中、岸壁の上から逃げてく奴を見た。
 動きからして斥候だな……また『鬼』を呼び寄せる前に倒す。」

「異界に一人で入ろうって言うの?止めなさい、死ぬわよ!」

「死なないさ、俺が最強ならな。」



……何を言ってるんだお前は?
お前が最強かどうかは別として、最強なだけでは異界では生き残れん――異界で生き残るには最強であるよりも、無敵である事の
方が重要だ。
無敵であれば『鬼』も異界の瘴気も何のそのだが、最強なだけでは『鬼』には勝てても異界の瘴気には蝕まれてしまうからね。

時にお前の名は何と言うのだ、最強である事を望む誇り高きサムライよ?



「……神無だ。」

「神無……聞いた事があるわね?――確か、サムライ一の使い手だとか。」

「二人も初対面なのか?」

「見かけた事は有るけどね……近衛とサムライなんて、そんな物よ。
 兎に角、一人は危険よ。其れに、どうやって後を追う心算?」

「……適当に探すさ。」

「そんなアホな。腕は立つけど馬鹿なの?」

「煩い奴だ。放置すれば新手を連れてくるぞ。」



サムライの名は神無、サムライ一の使い手か。
ならば、あの強さも納得だが、異界に行く行かないで椿と揉め始めてしまったな……神無の残党狩りと言う考えも、新手が里に攻め
て来る可能性を考えれば間違いではないが、椿の異界に一人で向かうのは無謀との意見もまた然りだ。
それ故に、仲裁しようにも落としどころが見つからん!!……さて、如何した物か?



「『鬼』の後を追う手段がない訳じゃない……シグナム、鬼の手を使おう。」

「グウェン?」

「博士から、『鬼』の痕跡を具現化できると聞いた。今なら、まだ間に合うんじゃないか?
 其れに、博士から預かった鬼の手がある。椿と神無に使って貰おう……其れなら連戦でも勝ち目がある。」



鬼の手を二人にか……そうだな、その手もアリだ。
博士は『使えそうな奴に渡せ』と言って、私に鬼の手を託してくれた上に、誰に渡すかは私に一存してくれたからな……椿と神無にな
らば渡してもよさそうだ。
偶然にも近衛とサムライに一つずつだから公平でもあるしな。



「ちょっと、一体何の話?」

「私とグウェンが使っている鬼の手で『鬼』の痕跡を追うんだ。」

「は?言ってる意味が分からないんだけど……」



其処は論より証拠、百聞は一見に如かずだ……先ずは使ってみてくれ。



「……面白そうだな。」

「なっ!ちょっとは悩みなさいよ!!あぁ、もう!分かったわ、私にも使わせて!」

「よかった。じゃあ手を出してくれ。」



グウェンが椿に、私が神無に鬼の手を装着してやる……よし、これで大丈夫なはずだ、多分な。



「す、凄く不安になるんだけど其れ……」

「鬼の手……見た目は普通だな?」



其れは、普通の籠手と言う事で良いのか神無?
だが、その見た目とは裏腹に、秘められた力には無限の可能性がある――その可能性を引き出す事が出来るか如何かは、使用者
の能力にかかっているがな。



「まぁ、良いわ。早く倒して里に戻りましょ。
 あの孔雀頭に戦果を見せつけてやるわ!」

「孔雀頭……八雲の事か?あの髪は左右に広がるのか?」

「広がるか!変な想像させないでよね、気持ち悪い。」



……広がらないのか、残念だな。広がったらさぞかし面白い事になったと思うんだが、人生とはなかなか自分の思った通りにならな
いモノなのだな。



「何だ、だったらカッコイイのに。」

「如何言う感性してるの……」



さてな。グウェンの感性は、少々人とずれているらしい……いや、少しではなく大幅にずれているよな?『ピコ』を素敵な名前だと言っ
てしまう位だからね。
まぁ、其れは其れとして……鬼の手の使用者が4人居れば、『鬼』の痕跡を追うのも難しくはないし、4人ならば異界で纏めてくたばる
事も有るまい。
なれば行くとするか……『武』の領域に!!








――――――








Side:紅月


――ズゥゥゥゥゥン……



これで漸く半分ですが、此処まで戦えたのは鬼の手があればこそ……もしも、鬼の手が無かったら私達は3体目の大型の『鬼』と戦
った時点で全滅していたかもしれません。



「ハッハッハ!私の開発した鬼の手があれば、大型の『鬼』とて恐れる相手ではないと言うのが良く分かっただろう?
 残りの半分も、一匹残らず磨り潰してやれ!!」

「無論です博士。」

人の世に仇なす『鬼』を生かしておく事は出来ませんから――此方は私達で何とかしますから、南側は任せましたよシグナム!!











 
To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場