Side:シグナム


『安』の領域の瘴気の穴を塞いで、マホロバの里に戻って来た訳なのだが……何やら物々しい雰囲気に包まれているようだな?明
らかに只事ではないだろうが、一体何が?



「近衛が、集結してんのか?」

「如何やらその様だ。」

近衛が集結していると言うのは只事ではないな?
集結せざるを得ないような、厄介な事態が起きたと見て間違い無かろう……よくよく見れば、八雲も本部に出張っている様だし、益々
何が起きたのやらだ。
先ずは事情を聴かねばだろうな……何が起きたのかも分からないのでは、何かしようにも動きようがないのだから――正直な事を
言うのならば面倒事はゴメン被るが、見て見ぬふりと言うのも気分が悪い。



「だな。一仕事終えた後だが、ちと節介焼いてやるとするか。」

「よく言った時継。流石は勇者だな。……生憎とそうは見えない容姿なのが残念だが。」

「るせい、ほっとけシグナム!俺様が人間だったらなぁ、お前さん位の若い娘でもコロッと行っちまうような良い男だったんだぜ?」

「自分で言うなよ、オッサン……」



そこは突っ込んでやるな焔……自画自賛は、突っ込まずに同意したふりして流してやるのが優しさと言うモノだ。違うかもしれんが。
そんな事よりも、この状況だ……八雲よ、一体何があったんだ?









討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務146
『一仕事終えた後に厄介事発生』










「貴様は……カラクリ使い共か。」

「八雲、これは一体何事です?」



相変わらずの八雲だが、心なしか態度に何時もの余裕が感じられないような……其れでも、上からの物言いが健在なのは、流石と
言うか何と言うかだが。
何やら主計と話をしていたようだが、何か問題事か?



「……緊急事態だ、シグナム君。
 無数の『鬼』が北側から南下している……大型が10体は下らない。」

「「「「「「!!」」」」」」


無数の『鬼』が……それも大型が最低でも10体だと?
ミフチやカゼキリの様な奴等だけならば、近衛の全戦力を投入すれば何とかなるかも知れないが、ゴウエンマ級の『鬼』も居るのであ
れば、その限りではない。
私達カラクリ部隊が出るにしても、全然戦力不足だ……サムライの力も借りねばならんだろう、その場合には。

「それで、如何する心算だ?」

「坑道を抜けた先に防衛線を敷く。一匹たりとも通しはせん。
 ……紅月、最強と言われる貴様の力を借りたい――サムライ達は任務で不在だ。我等だけでやらねばならぬ!」

「……分かりました、行きましょう八雲。」



防衛線を敷くのは良いが、運悪くサムライは不在か……となれば、私達だけでやらねばならないと言う訳か――私達が異界で瘴気
の穴を塞いでる間に、こんな事が起きていたとはな。



「伝令!伝令!
 大変です、南の砦が『鬼』に襲撃を……!」

「何だと!?敵の規模は!」

「大型が3体、雑魚は数えきれません!」

「馬鹿な……挟撃だと……?」



そして、まさかの挟撃と来たか……が、此れは可成り厄介だな?
ミフチやカゼキリ級の大型は、力は強くとも其処まで知能は高くない故、見つけた獲物を只狩るだけなのだが、挟撃の様な戦術を使
って来たのを考えると、知能も高めの『鬼』である可能性が高い。
最低でもミズチメ級、最悪の場合はゴウエンマかそれ以上の『鬼』が居ると見るのが妥当か。
さて、如何した物か?



「……砦を頼めますか、シグナム?
 北は私達が、南は貴女に託します。貴女ならやれる筈です。」

「紅月……了解した。」

「……今は、其れしかないか。」

「私もシグナムと行こう。一人は危険だ。」

「グウェン……助かる。」

「……ありがとう。二人を信じて託します。
 博士、時継、焔、彼方達は私と共に。如何か力を貸してください。」

「……良いだろう。行くぞ時継、其れと馬鹿。」

「……勇者に任せな!」

「やろ、誰が馬鹿だ誰が。」



北は八雲と紅月、博士と時継と焔が、南の砦には私とグウェンが向かう事に……北の方に大型が10体も居るのだから、戦力配分は
此の編成が最善と言った所だな。
ガラではないが、気合を入れて行くとしよう。



「シグナム、念のため此れを渡しておく。」

「博士?此れは、鬼の手か?」

「使えそうな奴に渡せ。
 今は出し惜しみをしている場合じゃ無さそうだ……誰に使わせるか、お前が決めるんだ。」

「ヤレヤレ、責任重大だな。」

「フン……ぬかるなよ、カラクリ使い!
 砦を突破されれば、里は目と鼻の先だ!何があっても守り通せ!」

「言われずともその心算だ八雲……意気揚々と攻めて来た所に冷や水を浴びせてしまって悪いとは思うが、『鬼』の御一行には地獄
 へ帰って頂くとしよう。
 人の世に、『鬼』は不用品でしかないからな。」

「口の減らぬ奴だが、まぁ良い。
 砦には椿が居る。簡単にはやられんはずだ!行くぞモノノフ達よ!総員、出撃準備にかかれ!モノノフの務めを果たす!!」

「「「「「「「「「「ハッ!」」」」」」」」」」



八雲の号令に合わせて、その場にいた近衛の部隊はモノノフの敬礼か……私達はしなかったがな。近衛ではないからする必要もな
かったしな。
しかし、改めて見ると面白い髪型だな八雲は。



「……何を見ているカラクリ使い?」

「いや、何時の日かお前の逆立った髷が、パカッと開いたりするのかなと。」

「するか馬鹿者!さっさと持ち場に向かえ!!」



そんなに怒る事でもないだろうに……短気か?小魚を食べた方が良いと思うぞ。








さて、準備を整えて、改めて里の外に出た訳だが……先ずは南の『サキモリ砦』に向かうぞグウェン。



「あぁ、了解だ。私は貴女に付いて行く、シグナム!」

「良い返事だ、遅れるなよグウェン!」








――そう言う訳で移動中だ。道中の小型『鬼』を滅殺しながら砦に向かっているので、少し待っていてくれ。








道中のガキやらオニビやらを撃滅しながら、目的地であるサキモリ砦に到着したのだが……



『ガウゥゥゥ……ゴルルルゥゥゥゥ……!!』



そこに居たのは、犬狼を思わせる姿をした『鬼』……大型と言うほどの大きさではないな?言うなれば中型、ヒダルと同程度の『鬼』と
言った所だが、恐らくコイツはヒダルよりも俊敏だろうから、その分だけ手強いと見た方が良いか。
そして、その『鬼』と対峙しているのは、赤い服を着て槍を背負ったモノノフ……アレが八雲の言っていた椿だろうか?



「……良かった、まだ無事か!」

「遅い!!其れでも隊長!?八雲!!って、あれ?……誰、貴女達?」

「……八雲じゃないぞ?」

「見れば分かるわよ!……誰でも良いわ、力を貸して!」



無論だ……私達はその為に来たのだからな!



――ザッザッザ……



っと、誰か来たようだな?
髪を一本に纏め、青い服を纏って、腰に太刀を携えた男……何者だ?



「貴方は……サムライ……!?」

「来るぞ……前を見ろ!」



サムライの者だったのか……まぁ良い、今は戦力は少しでも多い方が良いからな……先ずは目の前のコイツを叩きのめす!!マホ
ロバの里を、『鬼』に攻めさせてなるものか。
行くぞ!!



「了解だシグナム!!」

「……行くぞ。」

「行くわよぉ!おんどりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



……『おんどりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』と言うのは、女性として果たしてどうなのだろうか?と思わないでもないが、其れだけ気合が入
っているのならば、中型の『鬼』相手に後れを取る事も有るまい――気合が空回りしなければ、だがな。
何にしても此の防衛線、守り切らねばな。



「如何して此処にサムライが?近衛の増援は如何したの?」

「……たまたま里に居たんでな。
 増援はない。俺達だけで相手をする。」

「北からも『鬼』が近づいている……近衛はそっちの相手に向かった!」

「挟撃されたって事……やってくれるわ。
 良いわ、日頃の恨みはなしよ……此処は一緒に戦って!」

「言われるまでもない!」



そして、近衛とサムライと言う事で反目しあってしまうのではないかと危惧したのだが、如何やらそんな事も無さそうだ……反目しあっ
ていても、いざと言う時には協力し合う事が出来る奴も存在すると言う事なのだろうね。
だが、其れならば不安はない……一気に叩きのめすだけだ。








――――――








Side:アインス


珍しくウタカタに来客が有ったと思ったら、百鬼隊が来ていたのか……久しいな相馬?かれこれ2年ぶりか?



「イズチカナタと戦って以来だから大体その位か……お前は変わらんなアインス?相変わらず、『鬼』共を撃滅していると見える。
 あの凄まじい噂以上の噂はないのか?」

「素手で部位を引き千切り、咢で角を噛み砕いた以上の噂が……実はある。
 大型の『鬼』を持ち上げて飛び上がり、そのまま脳天から地面に突き立て、更に其処から背骨折をしたと言うモノなのだが如何だろ
 うか?」

「其れは噂か?」

「いや、事実だ。」

「だろうな……お前ならばやりかねん。」



スマンな、私は何分チート無限のバグキャラだから常識などと言うモノは一切通じないんだ。
其れよりも、ウタカタに何用だ?



「いや、ウタカタに直接の用事はないんだが、目的地への道中だから寄らせて貰っただけだ……と言うのは、建前でお前と桜花を誘
 いに来たんだ。」

「私と、アインスを?」

「如何してだ相馬?」

「少し野暮用でマホロバの里に行く事になってな。
 それでお前達が、異世界でマホロバのモノノフに会ったと言っていたのを思い出してな……それで、一緒に行かないかと思ってな。
 2年ぶりに戦友と会うのも良かろう。」

「「!!」」


マホロバの里にか……其れは、確かに良いかも知れないな?
2年前、異世界で共に戦ったモノノフが、今どうしているのか気にならないと言えば嘘になるからな……有り難く同行させて貰うよ。

そこから話の流れでソフィーも一緒に行く事になったのは御愛嬌かな?……まぁ、オヤッさんから『良い機会だから、オメェも外の飯を
喰ってこい』と言われたら断れないからね。

にしても、2年ぶりか……会うのが楽しみだな、紅月、時継。











 
To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場