Side:シグナム


鍛冶屋よ、私の剣は仕上がったか?



「シグナムさん、この通りでさ!」

「ふむ、良い仕事だな。」

私の連結刃は特殊な武器だからこれ以上の強化は出来ないと事だったが、鍛える事は出来るから、出撃前に鍛錬して貰ったが、な
かなかの仕事だな。
見た目には変化は無いが、刃の強さと切れ味が増している……此れならば、どんな『鬼』が現れても斬り捨てる事が出来るだろう。
いや、実にいい仕事だった。なので、お代には少し色を付けておこう。



「そんな……俺たちゃ、出来る事をしてるだけです。
 シグナムさん達の方が大変なんですから、くれぐれも無理だけはしないで下さい。」

「……善処しよう。」

鍛冶屋の青年から無理をするなと言われるとはな……だが、善処するが私は『鬼』を滅ぼす為なら、どんな無理も無茶も受け入れて
やる心算だ。
それが、私の役目とも言えるからね。









討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務145
『異界の浄化だ、汚物は消毒だ!』










さて、準備は整ったので、『安』の領域に有った瘴気の穴とやらに向かっているんだが……道中に次から次へと湧いて来る『鬼』には
うんざりだが、鍛えて貰った十束の試し斬りには丁度良いとも言えるか。
夜の時間帯故に『鬼』は凶暴化しているが、幾ら来ようとも小型のガキばかりでは話にならん。



「いや、其れでもこの数はうぜぇだろ……こちとら別の目的があるんだ、里周辺の『鬼』なんざ、サムライか近衛に任せりゃいいだろ。
 手柄の取り合いさせとけよ?」

「サムライ?近衛?……仲が悪いのか其の2つは?」

「仲が悪いなんてもんじゃねぇぞグウェン。
 ありゃ、微妙な力の拮抗で水平を保ってるヤジロベーみてぇなモンだ。切っ掛けさえありゃ、あっという間に水平崩壊で、下手すりゃ
 どっちかが全滅するまで終わらねぇ殺し合いに発展しちまうかもな。」

「八雲も刀也も、互いに相手に譲歩できる性格ではありませんからね……夫々の部隊は腕利きのモノノフが揃っているので、協力
 する事が出来れば、マホロバはもっと良くなると思うのですが……」

「其れが出来んから、この状態なのだろう。
 まぁ、今は其れも如何でも良い事だが……気をつけろ諸君、少しばかり面倒な奴が出て来たぞ?」



……如何やらその様だな?
現れたのは小型の『鬼』の中では上位の力を持つヌエの黄泉体の集団か……此れまで里周辺でヌエを見た事は無かったが、今宵
はヌエが人里の周囲に現れる程、夜の魔力とでも言う力が強いと言う事か。
良いだろう、纏めて相手になってやる。



「本気でだりぃな。無視して先進もうぜ?」

「いや、此れは流石に無視できんだろう焔。」

「めんどくせぇなオイ……ったく、小型の『鬼』なら一撃でぶっ倒せる爆弾でも作れよ誰か。」



……確かに、そんな物が有れば小型の『鬼』との戦闘は格段に楽になるだろうが、少なくとも博士に頼んでも作ってはくれないだろう
な……『面白くなさそうだ』とか言う理由で。
兎に角、先ずはヌエを――



「此処は我等にお任せを、シグナム殿。」

「お前は、サムライの翡翠か!」

「以前助太刀して頂いた礼、今此処で返します。」



倒そうと思った所で現れたのは、サムライに所属するモノノフ『翡翠』が率いるサムライ小隊。
如何やら彼女達は、夜間の里周辺の見回りをしている最中に私達を発見し、戦闘に参加したらしい……以前の礼とは、律儀なのか
生真面目なのか。
だが、私達にはやるべき事があるので、正直助かった。
スマンが、此処は任せるぞ。



「任せて下さい。シグナム殿達も、やるべき事とやらを済ませてしまって下さい。
 あ、其れからもし良かったら時々サムライが暮らしている区画に遊びに来て下さい。隊長が『中々見所のある奴だ』と言っていたの
 で、貴女に興味を持っている者も少なくありませんので。」

「……機会があればそうさせて貰う。」

見所がある、か。刀也は私の事を、其れなりに認めていると言う事か。
……イカン、如何しても初対面の印象から八雲より刀也の方に好感を持っているな?近衛にもサムライにも肩入れする心算はない
のだが、今現在何方に好感が有るかと言えば間違いなくサムライだな。
翡翠も、人間的に善人みたいだしね。

取り敢えずヌエ達は彼女達に任せて、私達は目的の場所に向かうとしよう。



「助太刀あんがとさん。お互い生きて帰れたら、飯でも奢ってやるよ。」

「……軽口をたたかねぇって事は出来ねぇのかテメェは。」

「時継、焔は少し馬鹿なので大目に見てあげてください。」

「そうか、馬鹿じゃ仕方ねぇか。」

「焔は馬鹿なのか?」

「馬鹿か利口かで言えば間違いなく馬鹿だ。ほら、さっさと行くぞ馬鹿。」

「オイコラ、人に向かって馬鹿馬鹿連呼すんじゃねぇ!!」



……緊張感の欠片も感じないが、其れがカラクリ部隊の良い所と言えるかもしれん。緊張し過ぎずに、戦場であっても皆が自然体で
居るからこそ、どんな『鬼』が相手でも対抗する事が出来る訳だからな。


さてと監視小屋に到着したが、ここから先は異界――『安』の領域だ。
里周辺とは比べ物に成らない位、『鬼』の凶暴性は上がっているし、其処ら辺を普通に大型の『鬼』がうろついている場所だから、努
々油断しないようにだな。



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さて、そろそろ目的の場所に到着するが、その道中に有った事を簡潔に纏めてみよう。


・マフチと遭遇したので、鬼の手で足を全部切り落とした後に総攻撃で滅殺した。
・カゼキリと遭遇したので、鬼の手で両前足を完全破壊した後に切り刻んだ。
・カガチメと遭遇したので、全ての部位を完全破壊してダルマ(?)にした後に3枚卸にした。
・ゴウエンマと遭遇したが、流石に真面に相手にしてる暇はないので、皆でその辺に居た小型の『鬼』を鬼の手で掴んで投げつけて
 怯んだ隙に全力で離脱した。
・天狐が居た。可愛かった。



……此の短時間で4体もの大型の『鬼』と遭遇するとはな……しかもその内3体は普通に倒してしまったし。
ゴウエンマも、相手しても良かったんだが、コイツは他の3体とは格が違うから簡単に倒せる相手ではないので、今回は非常に不本
意ではあるが戦闘を回避させて貰った。

そんなこんなで目的地に到着だ。……宙に開いた大きな穴、改めて見ても異様な光景だな。



「此れが瘴気の吹き出る穴ですか……?」

「……確かにスゲェ瘴気だ。
 早くしねぇとこっちがヤバいぜ。」

「分かっている。早速始めるぞ。」



始めるのは良いんだが、具体的に何をすればいいんだ博士?



「全員、鬼の手を穴に向かってかざせ。」

「穴に?こうか?」



グウェン?
此れは、そうか!先程の異界の植物の浄化と同じか様にか!ならば、覇!



「そうだ、それで良い。
 次に、頭の中に思い浮かべろ。この穴が消えて、周囲から瘴気が消え去った風景を。」

「瘴気が消えた風景ねぇ?」

「その風景を具現化する。鬼の手を起動しろ!」



そして博士の号令で、全員が瘴気の穴に向かって鬼の手をかざし……其処から力の綱とも言えるモノが瘴気の穴に向かって突き刺
さっただと?
此れは一体……?



「想像を止めるな!頭の中に風景を描き続けろ!
 シグナム、後はお前の力にかかっている!お前の中のミタマは、ここの本当の風景を知っている筈だ!
 江戸の時代の、瘴気の穴などない風景を!其れを触媒にこの穴を塞ぐ!
 研究所での実験が成功したのは、お前がミタマの記憶を引き出したからだ!
 今度も同じ事が出来る筈だ!其れが、扉を開く最後の鍵だ!!
 やれシグナム!ミタマの記憶を具現化しろ!!」



この力の綱は切っ掛けに過ぎない……其れを形にする為の鍵は私と言う事か。
マッタク持って責任重大だが、そう言う事ならばやらせて貰おう。――多少の不安が無いと言えば嘘になるだろうが、研究所での実
験は成功した。
あの時と同じようにやれば巧く行くはずだ。
私の中に宿る、江戸時代のミタマ、柳生十兵衛よ、今一度私にその力を貸せ!!



――キィィィン……



『しかと見届けた。』



――バシュゥゥゥゥン!!!




……此れは、瘴気の穴が消えた?いや、其れだけじゃなくて瘴気其の物が消えた……成功した、のか?



「意味分かんねぇな……何がどうなった……?」

「此れが……異界の浄化……」

「本当に消えやがった……瘴気が消えたぞ博士!」

「ふ……ふっふっふ……やったぞシグナム。我々は異界の浄化に成功した!」

「……信じられません。
 異界の深部に、これほど清浄な空気が……」

「……眉唾だと思ってたけどな……こうなると信じるしかねぇ。」

「博士、貴女は……」

「大した奴だぜ、マッタクよ。」



本当に大したモノだよ貴女は。
よもや本当に異界を浄化してしまうとは思っていなかった――この事実が皆に伝われば鬼の手の有効性を広める事にもなると同時
に信頼も得られる。
貴女の事だ、其処まで織り込み済みだったのだろうな……本当に底が知れない人だ。



「ふっ……今頃理解したか。
 ……シグナム、この作戦はお前なしには成功しなかった。いや、此れからもしない。――良く、この時代に来てくれた。」

「……若しかしたら、偶然では無いのかも知れんな。」

「時間転移の事か?……確かに、何か因縁めいたものを感じるな。
 ……兎も角、何時までも喜びに浸っている訳にもいかん。此処を我々の活動拠点にする。色々と運び込むぞ、手を貸せ。」

「はぁ?まーだ仕事あんのかよ!」

「……貴女は文句が多いな?其れではまた紅月に叱られるぞ?」

「ヤロ……余計な事……」

「……焔、手伝ってくれますね?」

「………………」



ハハ、意外な伏兵にしてやられたな焔?
紅月に睨まれたら断る事は出来まい……大人しく手伝え。そもそもにして、お前もカラクリ部隊の一員なのだから手伝うのは当然の
事だからな。



「こうもアッサリ決まるとは……何か弱みでも握られてんのかお前?」

「……前に半殺しにされた記憶がちょっとな。」

「「「「……」」」」(汗)


半殺しとは穏やかではないが、そんな目に遭ったのならば確かに紅月に逆らう事は出来ないか……下手に逆らって半殺しにされた
ら堪ったモノではないからね。
……取り敢えず、仕事にかかるか。



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拠点の整備自体は、マホロバにある跳界石と安の拠点の跳界石を使う事で驚くほどアッサリと行う事が出来た……空間の瞬間移動
を可能にする跳界石はどうなってるのか知りたい気分だよ。
ともあれ、此れで一先ず目的は果たし、マホロバの里にただいまだ。



「さて、一度研究所に戻って……」

「……ちょっと待て、様子がおかしいぜ。」



里に戻って一息吐けると思ったのだが、如何やらそうも行かないらしいな?
此れは……本部に近衛が集結してるのか?……私達が異界を浄化しに行ってる間に何が起きたと言うんだ――禊をして休もうと思
っていたが、如何やらそれどころではなさそうだ。
今度は一体、どんな厄介事が起きたと言うのやらだな……











 
To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場