Side:シグナム


さて、ピコと言う新しい仲間が出来た訳だが……博士、何を難しい顔をしているんだ?そんなに眉間に皺を寄せていると目の周りにカ
ラスの足跡が出来てしまうぞ?
ピコが復活した事が、そんなに不思議だったのか?



「あぁ、不思議と言えば不思議だが、ピコの言っていたミタマの声がする、と言うのがな。」

「其れが何か問題でもあるのか?
 確かにミタマの声と言うのは、普通は其のミタマを宿したモノノフにしか聞こえないモノだが、ピコは謎が多いカラクリ人形だ。モノノ
 フでは不可能な事が出来ても不思議ではない。」

「其れはそうだが……考えてみれば、私達はそもそも何で空間転移したんだ?」

「何故?言われてみれば確かに其の通りだ。」

時を超えた私にかかっている呪い……と言うのは、少々考え過ぎな様な気がするし、転移先にグウェンが居たのはそもそも偶然だっ
た訳だから関係ない――となると、一体何が原因だ?
何が……そうだ、空間転移の光に包まれた直後、ミタマの、柳生十兵衛の声が聞こえた。



「ミタマの声が……?またミタマか……しかも柳生十兵衛の声。
 ……待て、柳生十兵衛は徳川の時代の人物だったな?――『安』の領域は、徳川の時代の異物が多く出現している場所だ。
 此れは、偶然か?」



確かに偶然にしては出来過ぎている……まさか、空間転移とミタマには何か関係があると言うのだろうか?









討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務144
『氷解した謎、ミタマの力』










して、其れから黙ってしまったが大丈夫か博士?考え過ぎて脳が処理能力を超えてしまったか?



「ふ……ふっふっふっ……わっはっはっ!!そうか、そう言う事か!!謎は全て解けたぞシグナム!!」

「おわぁ!行き成り笑い出すんじゃねぇ、驚くだろうが!!」



時継の言う通りだぞ博士。流石の私も今のには流石に驚いた……余り顔に出る方ではないから分かりにくいかも知れないが、異界
を探索していたら行き成り目の前にゴウエンマが現れたのと同じ位驚いた。
で、謎が解けたとは?



「手を貸せ。浄化実験をやり直す。」

「……は?」

いや少し待て、浄化実験をやり直す事と謎が解けた事には何か関係があるのか?……何も起きなければそれでいいが、鬼の手が
爆発して左手を失うとか、嫌だぞ私は。



「大丈夫だ。足りなかった欠片が埋まった。今度は恐らく成功する。矢張り私は天才だな。」

「いや、其処は絶対に成功すると言って欲しい所なんだが……と言うか、自ら天才と称するなら、失敗が無いようにしてくれ。」

言うだけ無駄かもしれないけど一応言っておく。
まぁ、此れが空間転移の謎を解くのに必要だと言うのならばやるしかあるまい……元より博士の助手の身だから、断る事など出来る
筈もないからな。



・・・・・・・・・・・・・・・

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・・・・・・・・・

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・・・



で、準備完了。
カラクリ部隊は又しても博士の研究所の外にある異界植物の前に集合だ。



「……オイオイ、また失敗しねぇだろうな?」

「心配するな、抜かりはないさ――シグナム、この実験の成否はお前に掛かっている。」

「……え?」

否、私に掛かっているとはどういう事だ博士?話が全く見えん……そもそもにして、其れは物凄く責任重大じゃないか?直前でそん
な事を言わなくても良いだろう。
緊張して失敗したらどうする。



「お前はそんなタマではないだろう。
 空間転移した時にミタマの声が聞こえたのは偶然じゃない。其れは恐らくミタマがお前に伝えようとしているんだ――瘴気の穴の存
 在を。」

「!!」

瘴気の穴……転移した先に有ったアレか!
『安』の領域に有った瘴気の穴を、柳生十兵衛のミタマが教えてくれた……そう言う事で良いのか?



「私は考え違いをしていた。異界を生み出しているのは『鬼』の力だと思っていた。」

「ちょっと待て、そうじゃなかったら何なんだよ?」

「『鬼』の力じゃない、ミタマだ。」

「「「「「!!」」」」」



ミタマが異界を生み出している、だと?一体如何言う事だ!
ミタマはモノノフと共に『鬼』と戦う存在……其れが異界を生み出しているなど、信じられん。



「『鬼』は時間を捻じ曲げ、あらゆる時代の遺物をこの世界に持って来る。
 その結果生まれるのが異界……此れは私達にとって常識だった。――だが、真実は少し違うらしい。
 『鬼』はミタマを利用して、別の時間への扉を開いていたんだ。」

「どういう事ですか?」



紅月の言う通りだな、もう少し分かり易く説明して貰えないか?博士は其れで分かっているのだろうが、我々の様な凡人には少々理
解が難しい。



「ミタマは過去の英雄の魂――つまり此処とは違う、別の時間の記憶を持っている。
 その記憶を媒介に、別の時間への通路を開く……その通路を使って、別の時間の遺物をこの世界に持って来る。……其れが異界
 を生み出す方法だったのさ。
 そしてあの瘴気の穴は、ミタマが開いた時間の扉そのもの……つまり、ミタマの力を使えば閉じられる。」

「そう言う事か……ミタマが開けた扉ならミタマの力を使えば閉じられるのは道理だな。」

「理解したか?そして、此れが実験の成否がお前に掛かって居る理由でもある。
 シグナム、鬼の手を異界の植物に向けてかざしてみろ。そして、柳生十兵衛のミタマを呼び覚ませ!」



分かった……鬼の手に柳生十兵衛のミタマを宿し……柳生の剣豪よ、其の力を私に貸してくれ!!



――ビビビビビビビビビ!!



『柳生の剣、お貸しする。』



――ドカン!!!




此れは、爆発と同時に異界の植物が桜の鉢植えに変わっただと?博士、此れは一体……



「何だこりゃ、桜の花に……変わりやがった……」

「……見つけた。此れが瘴気の穴を塞ぐ方法だ。」

「此れが瘴気の穴を塞ぐ方法?」

「ってオイ、何処に行く心算だ!?」

「決まっている。瘴気の穴を塞ぎに行くぞ。
 道は開かれた。今こそ異界を取り戻す戦いを始める時だ。さぁ、行くぞ諸君!!」



ヤレヤレ、遺跡から戻って来て一息つけたと思ったらまた出撃か?……人使いが荒いと文句を言う所なのだろうが、瘴気の穴を塞ぐ
事が出来ると言うのならば、喜んで出撃しようじゃないか。
瘴気の穴を塞ぐ事が出来れば、最低でも異界の瘴気濃度を薄くする事が出来るだろうからな。行こう博士。



「行きましょう博士。異界を取り戻すのは、モノノフの悲願です。」

「異界を取り戻すってんなら、勇者が出張らねぇ理由がねぇ。当然行かせて貰うぜ。」

「遺跡から戻って来たばっかりだってのにかったりぃ……けど、異界を取り戻しゃ『鬼』共もたじたじだろ?
 こちとら散々『鬼』には迷惑被ってんだ、今度はアイツ等に慌てて貰おうじゃねぇか。人間様舐めんじゃねぇってな。」

「私も行かせて貰う。私もカラクリ部隊の一員だからな。」

「はっはっはっ!よくぞ言ってくれた諸君。
 其れでこそ私が見込んだだけの事は有る……『安』の領域で見つけた瘴気の穴の所に向かうぞ。
 あのふざけた穴を塞いでやる!」

「「「「「了解だ。」しました。」したぜ。」だぜ。」した。」


目指すは『安』の領域で見つけた瘴気の穴だ。
ミタマの力を使えばその穴を塞ぐ事が出来ると言うのならば、複数のミタマを宿す事の出来る私の存在は必須だ……私は、異界を人
の手に取り戻す為に、過去から未来へ飛ばされたのかも知れないな。

取り敢えず、出撃前に鍛冶屋で武器を鍛錬したりと、準備を整えておいた方が良さそうだな。











 
To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場