Side:シグナム


任務を終えてマホロバに帰還し、禊で穢れを落としたのだが……此れから如何する博士?



「私は研究所に戻ってカラクリ石を精製する。
 後で私の所に来い、面白い実験を見せてやる。」

「其れは光栄だが……何やら微妙に嫌な予感がするのだが、私だけか?」

「いや、そいつは俺もだぜシグナム。
 コイツが『面白い』なんて言うのは大概碌なモンじゃねぇ……行くなら充分用心して行けよ?」

「用心しても、どうしようもない事態と言うのが存在するのが世の中と言うモノなのだがな時継……果たして、私は明日の朝日を拝む
 事が出来るのか、不安になって来た。」

「……失礼な事を言うなお前達。
 ただ面白いだけでなく、この実験の結果によっては『鬼』との戦いに於いて、有効な手段を手に入れる事が出来るかも知れんぞ?」



其れは本当か?
ならば、多少の危険はあったとしても見ておくべきかもしれんな。



「ふっふっふ、楽しみにしておけ。
 取り敢えずご苦労だった。次も宜しくな。」

「あぁ、任せておけ。」

さてと、禊も済ませたし、軽く食事でもしてから博士の研究所に向かうとするか。……よろず屋で肉か魚を買って、囲炉裏で焼いて食
べるか、其れとも久遠に調理してもらうか、さて何方にしようかな。










討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務143
『実験とカラクリ人形と鬼の手と』










結局、ただ焼くだけと言うのも味気ないので、よろず屋で買った肉や野菜を久遠に調理して貰ったんだが、中々に美味かった。
米に肉や野菜が入った茶色い汁を掛けた、辛味の利いた一品――『かれいらいす』と言ってたかな?……初めて食べた筈なのに何
処か懐かしい感じがしたのは、記憶を失う前に食べた事があったからなのかも知れん。
さて、良い感じに腹も満たされたので博士の研究所にやって来たのだが……何だ、私だけでなく皆来ていたのか?



「流石に気になっちまってな?カラクリ石を使って何かやるらしいぜ?
 其れよりも、あのカラクリ人形売れねぇかな?上手く行きゃ一攫千金だぜ。」

「そうかも知れんが、其れは止めておけ焔。
 彼は永劫とも思える時を生き、遺跡を守り続けて来た英雄だ……大人しく眠らせてやるのが情と言うモノだろう?――お前だって、
 死後売り物にされるのは嫌だろう?」

「冗談だっつーの。
 流石の俺も其処まで人の道に外れた事はしねぇっての。そんな事をしたら紅月に殺されちまうぜ。」

「……否定出来んな其れは。」

ま、冗談ならば良いさ。
其れで博士、此れから何を始めると言うんだ?



「来たかシグナム。其れでは早速始めるとしよう。」

「だから何を?」

「良いから見て居ろ。
 今からこの異界の植物を桜の枝木に変える。」



異界の植物を桜の枝木に?
あるモノをマッタク別の何かに変えてしまうとは、まるで錬金術だが、本当にそんな事が出来るのだろうか?――などと考えているい
る間に、博士は鬼の手を異界の植物に突き出して……



――ビビビビビビビビ……



其処から、鬼の手ではない何かが伸びている……何だろう此れは?光線か?



「おお……!?なんだこりゃ!」

「刮目してみろ諸君、此れが私の研究の成果だ!」



――ボカン!!



……博士、盛大な爆発音とともに光線が途切れ、異界の植物は異界の植物のままなのだが、此れは一体如何言う事が説明して貰
えるだろうか?
凡人の私にも分かるように説明してくれるととてもありがたいのだが?



「ゲホゲホッ!何してんだタコ!」

「博士、此れは一体……」

「何も変わってないが……」

「……失敗したんだろうよ。あんまし深く追求してやるな。」



……矢張り失敗だったのか。
『失敗は成功の基』、『失敗は成功の母』と言うらしいから、失敗したからと言って落ち込まずに、此れからも『鬼』との戦いに有益な研
究を続けてくれ博士。



「……何時まで見ている心算だ。とっととモノノフの仕事に戻れ。」

「テメェが呼んだんだろうが……」



その意見には同意だ焔。
だが、失敗したとは言え、貴女は一体何をしようとして居たんだ博士?



「……鬼の手を使えばやれると思ったんだがな――矢張り、あと一押しが足りないか。
 鬼の手には、人の想像力を増幅する力がある……桜の木を思い浮かべて、其れを具現化しようとしたが……触媒であるカラクリ石
 が足りないのか、根本的に理論が間違っているのか……何か糸口でもあると良いんだが。」

「糸口か……」

確かに其れがあれば研究に進展があるのかもしれないが、そう巧くは行くまい。
そう言えば博士、遺跡から持ち帰ったカラクリ人形は如何した?埋めて墓を作ってやらねばならないが……



「研究所の中に放り込んである。」

「研究所の中か。」

研究所の中に入ってみると、確かに居たな。
量産型のカラクリ人形が倒れている……今にも起き上がりそうだが――オイ、私の声が聞こえるか?



『…………』



反応がない……矢張り、もう機能を停止してしまったのか。
……いや、諦めるのはまだ早い。調子の悪い機械は叩くと調子が良くなる事があるのだと言う事を、実に都合のいい形で思い出した
ぞ!確か、斜め45度からの手刀が最も効果的だったはずだ。
取り敢えず、てい。



――スパコーン!オリコーン!ロリコーン!



何だ此の効果音は……(汗)



『ピ……ピコ……』

「……反応した、だと?」

此れは脈ありか?……更に叩いてみるか。今度はもっと強く。えぇぇやぁ、モンゴリアン!!!



――モンゴリベンジャー!!ボイスBy小西克幸



……うん、もう突っ込まない。突っ込んだら負けだこれは。



『ピ……ピコピコ……ピコッ!イタイ、何スル。
 カラクリ人形ニ対スル暴行禁止――アレ、ココ何処?謎ノ場所ニ迷イ込ンデシマッタ……』




だがそれ以上に驚くべき事は、昨日を停止した筈のカラクリ人形が、再び動き始めた事だ――取り敢えず、今の自分の状況に戸惑
って居るんだろうが、お前は遺跡で倒れて、其れで此処に運び込まれたんだ。



『倒レテ運バレタ……?』

「博士が言うには、カラクリ石の寿命と言う事らしい。」

『カラクリ石ノ寿命……ナラ仕方ナイ。
 アレ……ナラ何デ立ッテル?世ノ中ハ謎デイッパイ……』


「言われてみれば何で立ってるんだお前?と言うか、世の中は謎で満ちているとか、中々に哲学的だな。」

「……如何した、何を騒いでいる?」



博士か……見てくれ、昨日を停止した筈のカラクリ人形が生き返ったぞ。



「此れは……」

「おぉ?起き上がっていやがる。」

「シグナム、どうやって目覚めさせた?」



如何と言われても困るのだが、普通に叩いただけだ。
1回目は斜め45度の手刀で、2回目はモンゴリアンチョップでだがな。



「叩いたら直った?そんなふざけた話があるか。」

『博士、此処何処ダ?量産型、ナンデココニイル?』

「ふむ……本当に目覚めているようだな?
 カラクリ石の輝きも復活している……如何言う訳だ?……まだまだ私の知らない秘密があるらしい。」

「……良かった。」



良かったか……私も同じ気持ちだグウェン。



『……ナンダカ、ナツカシイニオイ……量産型、シバラクココニイテイイカ?』

「悪い訳がない。好きなだけ此処に居ると良いさ――構わないだろう博士?」

「あぁ、構わんよ。
 そいつもまた、良い研究材料になりそうだからな……ま、貴重な研究資料だから丁重に扱わせて貰うさ。」

「だとさ。」

『量産型、カンシャカンゲキ。』

「とは言え、ずっとここに置くわけにもいかん。
 シグナム、コイツはお前の家の前の大工に預けておく――素材の採取でも手伝って貰え。瘴気の影響を受けないから活動限界も
 ない。
 改修できるように、絡繰の設計書を渡しておこう。」



其れは有り難いが、遺跡の方は良いのか?



「その内戻せば良いさ、時間は幾らでもある。」

「適当だなマッタク……」

『量産型、満足シタラ帰ル。』

「では名前が必要ですね?何時までも量産型では呼びにくいです。」



と、此処でカラクリの名前と来たか。
名は体を表すと言うから、此処は慎重に……



「めんどくせぇ、ピコピコ言ってるから、ピコで良いだろ。」

「んな、安直な。」

「す、素敵だな!!」



――遊びは終わりだ!俺からは逃げられねぇんだよ!決めるぜぇぇ!!



焔の安直な案に対して、まさか素敵だと言うとは思わなかったぞグウェン……見ろ、余りに予想外の事態が起きた事で、あの博士す
らずっこけてしまったからね。



「素敵なのかよ!!」

「時継、其れは私も思ったよ。」

「じゃあ、お前は今日からピコだ。宜しくな。」

『分カッタ。量産型ハ、今日カラピコ。ヨロシクシグナム。』



そしてそのまま流れるように名前がピコで決定されてしまったか……ピコ、ピコねぇ……可愛らしくて悪くはないんだが、時継の事を
考えると、もっとこう大層な名前の方が良い気がしてならない。
だからと言って、他の名前が思い付く訳では無いのだけれどね。



「なんだかな……同じカラクリとして同情するぜ。」

「心中察するよ時継。」

『トコロデ……サッキカラ声聞コエル。』



む……声だと?



『ミタマノ声……ザワメキ聞コエル――ガヤガヤ、ガヤガヤ……残念、何言ッテルカ不明。』

「シグナムの中のミタマか?何個も宿してるからな。」



私の中のミタマの声に反応したのか?
確かに私はこの身に複数のミタマを宿しているが、其れに反応したのはお前が初めてだピコ――だが、此のピコの鋭さと、ピコの復
活を考えると、ピコは『鬼』との戦いに於いて、何らかの功績を残すと考えて間違いないだろう。
そして、ピコの存在が博士の研究を加速させる事になるのを願わずには居られん――博士の研究が発展すれば、必ず『鬼』との戦い
が有利になるかも知れないからね。

取り敢えず今は、死の淵から生還した新たな仲間の追加を、喜ぶべき時だな。











 
To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場