Side:シグナム
よもや、私がカラクリ部隊の隊長になるとは青天の霹靂だったが、任命された以上はその任を熟さねばなるまい――其れが出来なく
ては、博士に申し訳が立たんからな。
取り敢えず『安』の領域に繰り出して、目的とする『遺跡』と思われる場所までやって来たのだが、ここが『遺跡』で間違いないか?
「あぁ、間違いなくここが遺跡だ。
全員準備は良いか?今から遺跡に入ってカラクリ石を手に入れる。」
「カラクリ石?其れは何だ博士?」
「聞いた事のない石ですが……」
「何だ、お前達も身に付けているじゃないか。」
私達も身に付けている、だと?
……まさか、鬼の手にはそのカラクリ石とやらが使われているのか?
「お、流石に気付いたか。
お前達の左手……鬼の手の中心で輝いている石こそ、カラクリ石だ。」
「此れが?」
「想像を具現化する力の結晶だ。
遺跡に眠っていたのを私が発掘した。」
「俺の身体も、其れで動いているらしいぜ。」
何と、此れがカラクリ石……そして、時継が動けているのもこの石のおかげとはな。
だが、鬼の手の力の源が、このカラクリ石だと言うのならば、絶対にこの遺跡で確保せねばなるまい……鬼の手が普及すれば『鬼』
との戦いも有利になる上に、此れだけの力もったカラクリ石ならば、他の使い方も出来るかも知れないからな。
「無論、今回は鬼の手以外に使う。
集めたカラクリ石を、瘴気の穴を塞ぐための触媒とするのさ……上手く行くかどうかは、実践してみないと分からんが。」
「ぶっつけ本番と言う訳か……致し方ないか。」
さて、どうなるかだな。
討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務142
『遺跡のバトルだ、本気で行くぜ!』
そして突入した遺跡の内部だが……ふむ、特筆してみるべき物はない感じだ――博士が求めていたカラクリ石と言うのも、見える範
囲には見えないな?
其れとも、遺跡の入り口付近には存在していない代物なのか……だとしたら、遺跡の深い場所まで行く必要があるな。――ん?
『ピコ、パピコ。』
傘を被ったからくり人形が……此れは、時継の兄弟か?
「あぁ、その認識で間違いではない。
コイツ等も時継同様のからくり人形だが、コイツ等は言うなれば量産型だ、時継とは違う――時継とは違い、そいつ等には魂がない
んだ。
そいつ等は、文字通りのからくり人形に過ぎん。」
「そう、か。」
「私達は地下1階まで行く、通して貰うぞ。」
『ピコ……ピココ……ピッ。博士ヨクキタ、博士トオレ。』
「「「「!!!」」」」
此れは、驚いたな?博士の事を認識して、通行許可を出すとは……見た目は可愛らしいが、彼等は遺跡の小さな番人と言う訳か。
妙な連中が入り込まないようにしているのか……だとしたら、何故博士が通れるのか若干謎だが。
「シグナム、お前今若干失礼な事を考えていなかったか?」
「何故博士を認識しているのか不思議でな。」
「あぁ、其れか?なに、実に単純な事だ、壊れて放置されていたコイツ等を私が復活させたんだ。
ほら、ぼさっとするな。行くぞシグナム。」
『ボサットシテンナヨ。』
「……口の悪さは親譲りか。
時継よ、兄として弟をもっとちゃんと教育してやってくれないか?」
「俺が言って聞くかよ。
アイツ等にとって博士は母親みてぇなモンだ……母親に従順なガキってのは、兄貴の言う事なんぞ碌に聞かねぇって相場が決まっ
てるもんだ、悲しい事にな。」
「成程、納得だ。」
「……す、凄すぎて目が回りそうだ。」
其れには慣れるしかないぞグウェン。
博士の所に居ると言う事は、此れから先も此れ位の驚きは日常的に起きると言う事だからね……さて、遺跡の地下1階には何があ
るのだろうか?
カラクリ石を集めるだけとは言え、遺跡もまた『鬼』の住処である異界の一部……内部に『鬼』が潜んでいる可能性は充分に考えられ
るから、用心をしてし過ぎる事は無かろうな。
『オマエ、博士ノ仲間?』
「……シグナムだ。」
『シグナム……オボエタ。
ナンダカ、ナツカシイニオイ……ココトオレ、スキニトオレ。』
あぁ、そうさせて貰うぞ。
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カラクリ人形に通して貰い地下1階まで来た訳だが、1階とは違って可成りの広さがあるな?1階はあくまでも入り口に過ぎなかったと
言う事か……此処にカラクリ石があるのか?
「あぁ、そう言えば言い忘れていた。
此れから『鬼』が出てくる。気を付けるんだな?」
……は?
「はぁ?何言ってんだテメェは?」
お前の言う事は尤もだな焔。
異界にある以上『鬼』が居るのではないかとは思ったが、こうもハッキリと『鬼』が出てくると言われれば、そう言いたくもなる――と言
うか、そんな重要な事を、今思い出したかのように言わないでくれ。
『グガァァァァァァァァァァァ!!』
「おいおいおい、ざっけんなよ!!!」
と言ってる傍から、大型の『鬼』が現れたか。
コイツはカゼキリか?10年前の横浜では大層暴れてくれた『鬼』……素早い動きは、熟練のモノノフであっても苦戦する相手だな。
だが、其れは兎も角として、此れは一体如何言う事だ博士?
「遺跡の防衛機能だ。とっくの昔に壊れているがな。
侵入者を排除するために『鬼』を呼び寄せる!」
「そう言うのは早く言えタコ!」
「あのカラクリ人形が、通すと言ったじゃないか!」
「遺跡の制御を失っているんだ。
何せ数万年も前の代物だからな。」
「そう言われてしまえば其れまでだが、ならばあのカラクリ人形は、一体何の為に番人を続けている!」
「意味はない。ただ自分の義務を全うしているだけだ。」
自分の義務を……何だ、何かが引っ掛かる?
此れは記憶の欠片?嘗ての私もまた、意味がなく己の義務を全うしていた事があると言うのだろうか……だが、だとしたら私は只義
務を果たすためだけに『鬼』と戦っていたのだろうか?
いや、そんな筈はない!記憶がなくとも、魂に刻まれた原初の思いは消えん……私は、『鬼』から人々を守るべくモノノフになったの
だ……其れは意味のない義務などではない!!
「『鬼』はカラクリ石を媒介にして実体化している。倒して手に入れるぞシグナム。」
「了解した!」
このカゼキリを倒せばカラクリ石が手に入る――何とも分かり易いじゃないか。
カゼキリは素早い動きでモノノフを撹乱する難敵だが、動ける範囲が制限される室内では、其の力を十全に発揮する事は出来まい。
一気に討ち滅ぼす……紫電一閃!!
――バキィィィィン!!!
「凄い!一撃で足を消し飛ばした!!!」
「ふ、お前が事前に断祓を使っていてくれたおかげだグウェン――だからこそ、破壊部位の即時浄化が出来た訳だからね。」
そして部位破壊された『鬼』は激昂してマガツヒ状態となる……凶暴化によって攻撃力は上昇するが、深層生命力が剥き出しになる
から防御力は低下する――この状況で攻め込まない選択肢はない!!
一気に畳み掛けるぞ紅月!!
「お任せを!!」
「オイオイ、俺も忘れんなよ!」
焔も加わって、私は神風、紅月は繚乱、焔は神楽でカゼキリを斬って斬って斬りまくる……鬼の目でカゼキリの生命力を確認したら、
ガリガリと削れているのだから恐ろしいな。
そして、其れだけではなく、グウェンが見事な盾剣捌きでカゼキリを攻撃し、時継と博士は銃の攻撃でカゼキリの動きを制限してくれ
ているから戦いやすい事この上ない。
広い空間ならば、苦戦したかもしれないが、室内のように限られた空間では、カゼキリは驚異たり得んな。
だがら、此れで終わりだ……鬼の手!!
――ギュル……ガシィィィィィ!!
鬼の手でカゼキリの尻尾を掴み、其のまま何度も前に後ろに叩きつけた後に放り投げ、落ちて来た所に鬼の手の渾身の左拳を叩き
込んでやる。
この一撃でカゼキリは生命力が尽きて消滅……素早い大型の『鬼』も、室内では敵ではなかったか。
――シュゥゥゥン……バシュン
如何やら、倒せたようだな。
「ったく、もうちっと真面な職場が欲しいぜ。」
「この青い石がカラクリ石か?鬼の手と同じだな。」
恐らくはそうなのだろうな。
だがそれ以上に――
――キィィィン……バシュン!
『世直しの旅へ参ろうか。』
――ミタマ『水戸光圀』を手に入れた。
新たなミタマを獲得したか……かの有名な水戸黄門をこの身に宿せるとは光栄だな。
「よし、一旦上に戻るぞ。先に行きたければ、今度自分で来るんだな。」
そうだな、先ずは戻るとしよう。
と言う事で1階に戻って来たのだが……此れは、カラクリ人形が倒れている?……呼びかけても反応はない……何があったんだ?
「寿命が来たらしいな。カラクリ石の反応が完全に消えている。
動力源たる石が死んだ……こうなるともうどうしようもない。――もう眠らせてやれ。想像もできない長い時間、ずっとここを護って来
たんだ……」
「お前は任務を全うした……ゆっくり眠りな、兄弟。」
「……勇者よ、如何か安らかに。」
「もうここに用はない……帰るぞ。――如何したシグナム?」
コイツを放っておく事は出来ん。
連れ帰れないだろうか?せめて墓標を立ててやろう……其れが、勇者への手向けだ。
「どっちでもいいから早く帰ろうぜ?腹減ったぜったく。……此れ位、運ぶの簡単だろ?」
「……其れもそうだな。」
「……やれやれ、お人好しどもめ。いいさ、ひとまず帰るとしよう。」
お人好しでも良いじゃないか……其れがカラクリ部隊なのだからね。
ともあれ、取り敢えず目的は果たしたから、帰るとするかマホロバに――長き時に渡って遺跡を守って来た勇者の墓標も作ってやら
ねばならないからな。
To Be Continued… 
おまけ:本日の禊場
さてと、異界探索をした後は禊で穢れを落とさねばだ。
今回はグウェンと紅月が一緒だ……博士も居ればよかったんだが、如何やら禊よりも研究の方が大事らしい……穢れに対する耐性
でも持っているのかもな。
「綺麗な肌ですねシグナム?」
「うひゃう!い、行き成り触るな紅月!驚くだろう!!」
「其れは失礼しました……ですが、絹のようにきめ細かな白い肌――少し嫉妬してしまいそうです。」
「いや、其れはグウェンもだろう?グウェンの肌だって綺麗だぞ?」
「そうか?私は紅月の肌だって綺麗だと思うぞ?紅月はスタイルも良いし、羨ましい限りだ。」
「ふふ、シグナムは19歳、グウェンは23歳……対する私は28歳。
この歳にして未婚とは、完全なる行き遅れ、売れ残りの行かず後家……はぁ、若いと言うのは良いですね。」
紅月よ……(汗)
28歳だってまだまだ十分に若いだろうに。……まぁ、如何あっても相手が見つからなかったその時は、私が貰ってやるさ。
「……本当ですね?」
「あの、紅月さん?」
「本当ですね?本当に貰ってくれるんですねシグナム!!」
「落ち着け紅月ーーー!!!」
まさか冗談を本気に取られるとは思わなかったよ……グウェンと一緒に、何とか抑える事が出来たが、凄く疲れたな。
でその直後に、時間を確かめずに入って来た焔に対して、私達の鉄拳が炸裂したのは当然だな……マッタク、焔は学ばない奴だね。
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