Side:シグナム


期せずして新たな仲間が加わった訳だが、グウェンの実力は疑いようもないから、カラクリ部隊に所属させるのは道理で有ると言える
だろう……これ程の力を持ったモノノフが近衛かサムライのどちらかに加勢したら、戦力バランスが崩壊しかねないからな。



「やれやれ、何だかよく分からねぇ事になったな?
 大体お前等何処に行ってたんだ?何処にも居ねぇから探しちまったじゃねぇか。」

「少しばかり『安』の領域にな。
 そこで、彼女と会って、見た事もない『鬼』と一戦交えて、里に戻って来たと言う訳だ。」

「何だそりゃ?まぁ、俺は仲間が増える分には歓迎だぜ。
 その分、博士にこき使われずに済む。仕事は分担してやらねぇとな。」



仲間が増えるのを歓迎する理由はそっちか?……分担どころか、博士ならば人数が増えたのを良い事に、より無茶な注文を出して来
るのではないかと思うのだがな。
時に、その博士は一体何処に?グウェンと禊から戻って来てから姿が見えないが……



「おま、空恐ろしい事言ってんじゃねぇシグナム!!確かにその可能性はあるけどよ!
 はぁ……カラクリ部隊に平穏はねぇのか……博士なら、風に当たるとか言って出て行ったぜ。――何か悩んでるみてぇだったが、話
 でも聞いてみたらどうだ。」

「悩み?」

博士がか?
珍しい事もあるモノだ……そうだな、話でも聞いてみるか――其れにしても、私もグウェンも外で博士には会ってないのだが、一体如
何やって外に出たのか?
……研究所には裏口があるのかも知れないな。









討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務141
『此れが新たなカラクリ部隊だ!』










其れは其れとして、如何かしたかグウェン?



「なんだか突然スマナイ。
 オオマガドキが起きてから、各地を流浪しながら博士を探していたんだ。
 ここで会えるとは思ってなかったから、つい舞い上がってしまった……そう言えばシグナム、貴女も横浜に居たと言っていたが……」

「オオマガドキの横浜、その最前線で戦っていた……らしい。」

「らしい、とは?」



私は記憶の大部分を失っていてな。
自分の名前、自分がモノノフである事、自分がオオマガドキの戦に参加していた事を除き、略全ての記憶を失くしているんだ。



「そうだったのか?其れは、大変だな……だが、貴女も横浜に居たと言うのは不思議な縁だ。
 横浜を生き抜いた貴女と共に戦えるとは光栄だ。どうか、宜しくお願いする。」

「あぁ、此方こそな。」

そう言えば、グウェン同様に私の『シグナム』と言う名も日本人ではないな?私もグウェン同様、異国からやって来た存在なのかも知
れないな。
さて、博士だが……本当に外に居たか。



「……どうした?お前も風に当たりに来たか?
 此処は良い風が吹く……そうだ、八雲に話は通ったのか?」

「一応な。
 後日グウェンに挨拶に来させれば、マホロバへの滞在を認めるそうだ。」

「そうか……手間をかけたな。」



この程度、大した手間ではないさ。
其れよりもどうしたんだ博士?時継が、何か悩んでいるようだったと言っていたが、本当に何かに悩んでいるみたいだ……貴女がそう
なるとはらしくない。



「……如何思うシグナム?」

「如何思う、とは?」

「今回の一連の事象……私とお前が異界に飛ばされ、其処でグウェンと出会い、そのグウェンは私の事を探していた――偶然で片付
 けるにしては出来過ぎている。
 何か意味があるように私には思える――誰かが何かを伝えようとしている……そんな感じだ。」

「確かに、言われてみればその通りだな?」

「それに、グウェンと言うモノノフ、アイツは何の目的で此処に来たのか……」



?貴女を探していたんじゃないのか博士?



「其れはそうだが、だからと言ってアイツが此処にいた理由にはならん。私がマホロバに居たのは偶然に過ぎん。
 其れに、あの龍の様な『鬼』、あんなモノは見た事がない。」

「確かに貴女がマホロバに居たのは偶然に過ぎないか……そして、あの『龍鬼』とも言うべき『鬼』は私も知らん――少なくとも、10年
 前には存在していない『鬼』だったよ。」

とは言え、グウェンに聞いても口は割らないだろうけれどな――どうにもあの『鬼』は、彼女にとって因縁浅からぬ相手のようだしね。



「まぁ、其れは其れで構わんが……誰しも己の胸に秘めた志があるものだ。
 アイツにも鬼の手を渡しておこう。戦力が必要なら遠慮なく連れて行け。」

「あぁ、そうさせて貰う。」

新たな鬼の手の使用者誕生だな。
カラクリ部隊が成果を挙げれば、鬼の手の有効性を示す事が出来ると同時に、信用を――結びを得る事が出来るから、鬼の手の使い
手は多いに越した事はない。
言われるまでもなく、彼女の力が必要ならば連れて行かせて貰う。彼女ほどのモノノフを遊ばせておく道理がないからな。



「任せたぞ。……さて、もう夜も更けた。今日は帰って休め。
 明日、改めてカラクリ研究所に来てくれるか?全員に話しておきたい事がある――お前と共に見つけた大発見についてな。」

「大発見と言うとアレか……了解した。
 お疲れ様だ博士……Hab einen schönen Traum.(良き夢を。)」

「……何処の言葉だ其れは?」

「……知らん、唐突に頭に浮かんだ。」

此れは、ますます私が異国の出身である可能性が高くなって来たな?……マッタク持って、私は一体何者なのだろうか……



・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



あふ……良く寝たな。
バッチリ眠った事で気分爽快、今日も一日頑張りましょうと言う所だ……欲を言うのならば、寝起きに瓶牛乳を一気飲みしたかったけ
れどね……此れもまた失われた記憶の片鱗か。
出来れば、もう少し役立つ記憶が蘇って欲しい物だが、そう簡単には行かぬのだろうな。
取り敢えず、昨日言われた通りにカラクリ研究所に来たのだが……



「来たか、シグナム。早速始めるとしよう。」

「始めるって、何をだ?」

「其れは直ぐに分かる。
 今日集まって貰ったのは他でもない。お前達に大事な話がある。」

「話?鬼の手外すんじゃねぇのかよ?」

「博士、その前にこちらの方は?」



あぁ、そう言えば紅月と焔は初めて会うんだったな?
まずは自己紹介だグウェン。



「スマナイ、挨拶が遅くなった。
 私はグウェンドリン。霊山から流れてきたモノノフだ。異界で倒れた所をシグナムと博士に助けられた。
 グウェンと呼んでくれればありがたい。」

「事情を話しておこう。此れからする話に関わる事だ。」



確かに今回の事は特殊な例だから、事情を話しておかねばだな。








――博士説明中。暫し待て。待ちきれぬのならば……無限踏破でもやって時間を潰すが良い。








「と、言う訳で2人で空間転移した。此処までは理解できたな?」

「出来るか!なんだそりゃ!例の身体が青く光る奴か!?」



で、ザックリとした説明があった訳のだが、時継の言うように理解出来ないだろうな……当事者である私ですら、何が起きたのか理解
出来てないのだから。



「そうだ。だが今は細かい事は如何でも良い。問題は、其処で見つけた瘴気の穴だ。」



……空間転移と言う超常現象を『細かい事』で済ます事が出来るのは、世界中何処を探しても博士だけだろうな……凡百な科学者だ
ったら、研究対象として飛びつく所だろうに。
だがまぁ、あの瘴気の穴と比べれば空間転移其の物は些細なモノかもな……して、あの瘴気の穴を何とするか博士?



「私はこの発見で、自分の仮説が正しい事の確証を得た。
 ……私は、2年前此のマホロバにやって来て、このカラクリ研究所を開設した――その目的はただ1つ、異界を浄化し、人の手に取
 り戻す事だ。」



異界を浄化し、人の手に取り戻す、だと?そんな事が可能なのか?



「異界は人を殺す瘴気に満ちている。
 此れが広がる限り、人の滅亡は避けられない――だが、もし異界を浄化できれば、この滅びの宿命も覆す事が出来る。
 私は異界を調べ、瘴気の放出と流入に一定の流れと規則性がある事を見出した。
 そして、1つの仮説に行きついた。」

「……その仮説とは?」

「……異界には、何処かに大量の瘴気を噴出する噴出孔がある。
 其れを塞げば、異界全体の瘴気の減少、ないしは消滅させられる筈だと。無論、此れは1つの仮説にすぎなかった。昨日までは。」



私達があの場所で見た瘴気の穴、あれが瘴気の噴出孔だと、そう言う事か!!



「其の通りだシグナム。
 此れより、その穴を塞ぐ。」

「ちょ、ちょっと待て!そんな事言ったって、どうやる心算だ?」



瘴気の穴を塞ぐのには賛成だが、時継の言うようにどうやる心算だ?
いかに私であっても、中空に現れた瘴気の穴を切って捨てる事は出来んぞ?……銀髪赤目の黒衣の戦士ならば、問答無用で空間
ごと吹き飛ばしてしまうのかも知れないがな。……と言うか、其れ誰だ?



「其れを此れから探すのさ。
 道は険しい。誰も通った事のない道だ――だが、だからこそ行く価値がある。
 私は、その道を一緒に行く仲間をずっと探していた。
 私に力を貸せ!この暗黒の世界を切り開くために!」

「……今更聞くまでもねぇ。俺は行くぜ!そういう約束なんでな。――お前は如何する、シグナム?」

「ふ、行くに決まっているだろう時継?」

「……私の目に狂いはなかったな。」

「私も行こう、博士。
 私は『鬼』に勝つ為に来た。異界の浄化は其れに通じる道だと思う。」

「面白そうじゃねぇか?あのバケモン共が吠え面かくのを見てみてぇ。」

「……行きましょう、博士。
 本当に異界を取り戻せるのなら、其れは全てのモノノフが参加すべき戦です。」



満場一致、だな。



「では、今日よりお前達は一つの部隊だ。
 部隊の指揮はお前に任せる、シグナム。――扉を開いたのはお前だ。今後もその特異体質を充分に活かせ。」

「私が隊長と言う事か?……大任だが、その任拝領させて貰う。」

「新入りが頭ねぇ?ま、それはそれで面白れぇ――で、具体的に何すりゃいいんだよ?」

「いい質問だ。
 此れから我々はある場所に向かう。其れは……『遺跡』だ。」



遺跡、だと?
異界で見た、あの巨大な建造物か!!――古代の遺物との事だったが、態々そこに向かうと言うのは、其処に何かがあると言う事に
他ならない。
あの場所に、一体何があると言うのだろうな?



『古代ベルカの遺産……ではありません。』



……取り敢えず、今だけは大人しくしていてくれ私の失われた記憶よ。











 
To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場