Side:シグナム
紅月からの頼みを聞き、其れでオヌホウコを撃破し、里に戻って来て禊をして……そして今は博士の研究所にやって来たのだが、もう
動いて良いのか?
「貴女は……また会ったな?えぇと……シグナムで良かったかな?」
「あぁ、其れで間違いない。」
「シグナムか、良い響きだ。
私を里までおぶってくれたと聞いた。ありがとう。」
何、大した事ではないさ――だが、何故怪我をしていたんだ?
「あの『鬼』にやられた。鉤爪を避け切れなかった。
さっき目覚めたばかりで、余り状況が呑み込めていない――此処は、マホロバの里だろうか?」
「あぁ、マホロバの里だが、其れが何か?」
「……そうか。
図らずも目的地に辿り着けたらしい――私は霊山出身のモノノフ、グウェン。西の最前線の戦いに協力したくて来た。
途中で、あの『鬼』に襲われて逃げていたんだが……結果的に貴女達を巻き込んでしまった……スマナイ。」
其れに関しては謝るなグウェン。
確かに予想外の戦闘ではあったが、『鬼』と戦うのはモノノフの宿命――なれば、『鬼』との戦闘に巻き込まれたというのは逆に僥倖。
『鬼』を討つ機会が来たという事なのだからな。
とは言え、お前がなぜあそこに1人で居たのかは疑問が残るので、其れには応えて貰うけれどな。
討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務140
『謎のモノノフその名はグウェン』
さて、此処からどう攻めるかだが……
「……何してんだこんな所で?」
「時継か。」
まさかの此処で時継参戦か……正直な事を言わせて貰うのならば、お前がこの瞬間に参戦して来るとは思わなかった――完全に予
想外だったよ。
で、何か用か?
「用と言えば用なんだが、誰だそいつ?見ねぇ顔だな?」
「…………」
「おい、、何かしゃべったら如何だ?」
「リ……リビングメイル!?」
「うお!ビックリした!行き成り叫ぶな!!」
「どうやって動いているんだ?魔法か?錬金術か?」
だが、時継の存在にグウェンが驚いてしまったようだな?……まぁ、時継の様な存在が普通に動いているというのは驚愕ものなのは
間違い無いが、時継が動いているのは魔法でも錬金術でもない、カラクリだ。
「カラクリ……此れが――良かったら、中を見せてくれないか?」
「……あ、こら何しやがる!ちょ、変なとこ触るんじゃ…………あっーーーーーーーーーー!!!」
其れに興味を持ったグウェンによって時継は……時継、私はお前の事を忘れない――本当の勇者であったお前の事は、永劫この胸
に刻み込んでおく。……だから、迷わずに逝くと良い。
「オイコラ、勝手に殺してんじゃねぇ!!」
「冗談だ冗談……で、満足したかグウェン?」
「あぁ……凄いな、此れがカラクリか……」
「……悪いな博士。もう、お嫁に行けねぇぜ……」
『お前は男だろ』と言うのは無粋なのだろうなぁ……まぁ、実際問題として、時継が人間の身体であったら、グウェンのやった事は普通
に強制猥褻が適用できるだろうからな。
「……博士?」
「……騒がしいぞ、馬鹿共。」
来たのか博士……だが、その馬鹿共には私も入っているんじゃないだろうな?
――いや、そもそも『馬鹿共』と複数形で言うのが間違っている。馬鹿な事言ってるのは、自称勇者で声だけならば割といい男だと思
うカラクリ人形だけだ。
「待てこら、俺だけ馬鹿扱いにするんじゃねぇ!!」
「何時まで外にいる心算だ?怪我人は大人しく寝ていろ。」
「って、無視かよ!!」
「……すまない。」
「って、そりゃ俺と博士のどっちに対するスマナイだオイ!
はぁ……コイツは一体何なんだ博士、シグナム?」
異界で出会ったのだ。
素性は良く分からんがモノノフである事は間違いない上に、腕も中々のモノだ――重厚な盾で攻撃を防ぎ、身の丈近い長剣を片手で
軽々と扱うのだからな。
で、如何したグウェン?博士の顔に何かついているか?
「……博士と言ったか?」
「……其れが如何した?」
「貴女は、カラクリを研究する博士か……?」
「そうだが、私に何か用か?」
如何やらグウェンは、博士に何か用があるみたいだが……?
「英国の、イグニールド公爵を知ってるか!」
「……随分懐かしい名が出たな?アイツの知り合いか?」
「……本当に……貴女が……?
……やっと会えた。……私はイグニールド公爵の孫、グウェンドリン・ウィルトシャー。貴女に手紙を届けに来た。
今から10年前、横浜の外国人居留地に。」
「!……話を聞こうか。」
博士に手紙を届けに来たのか……だが、10年前の横浜と言えばオオマガドキが起きた際の最前線だった場所であり、私が戦ってい
た場所でもある。
グウェンの話を聞けば、ホンの少しでも記憶が戻るかも知れんな。
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さて、博士の研究所に場所を移して何だが、まず最初に、イグニールド公爵とは、一体何者なのだ?
「イグニールド公爵アレックス。英国の貴族で、考古学者、冒険家だ。
物好きな老人でな、アトランティスやらシャンバラだの、世界中の伝説を追って旅をしていた――どこかで遺跡の伝承を聞き、私を訪
ねて来たらしい。
カラクリを見て、随分と嬉しそうにしていた。」
「其れはまた何とも豪胆な御老人だ……伝説でしかないモノを追い続けるとは――未知なる存在に浪漫を感じるのは、分からないで
もないけれどな。」
「……爺様は信じていたんだ。
この世界には誰も知らない、手を触れた事のない秘密が隠されていると――子供の頃に、色んな伝説を聞かせて貰った。」
「アイツは、今?」
「……亡くなってしまった。」
「……そうか。」
だが、その公爵殿も鬼籍に入ってしまわれたのか……せめてその魂が、安らぐ事の出来る場所に旅立った事を願うばかりだな。
ん?となるとグウェン、お前の手紙と言うのは若しかして、公爵殿が今わの際にお前に託したモノか?
「あぁ、その通りだシグナム。
この手紙を持って、横浜の博士に会いに行けと……そして10年前、私はこの地にやって来た。
だが、直ぐにオオマガドキが起こって、モノノフの部隊に拾われたんだ。その後、霊山でモノノフに……何時か、博士に出会えたら渡
そうと、『手紙』を肌身離さず持っていた。……如何か、受け取って欲しい。」
「10年越しの知人からの手紙だ、如何する博士?」
「突き返したりはしねぇよな?」
「10年越しの手紙を誰が突き返すか馬鹿者……どれ、まずは読んでみるか。
ふむ……成程な。」
何と書いてるのだ博士?
「…………英語で書いてあるのでサッパリ分からん。」
――オベリスク・ゴッドハンド・クラッシャー!!!
神の鉄槌を喰らったかの如き衝撃を受けて、私も時継もグウェンもものの見事にずっこけた!
読めなかったのに『成程な』ではないだろう博士!!
「冗談だ、大筋は分かる。
『遺跡の封印を解こうとする者がいる。戦いに備えよ――其れと、グウェンの事を頼む。真っすぐで優しい可愛い孫だ。』だそうだ。」
要らん冗談は無しにしてくれ博士。
しかし、グウェンの事を頼むというのは兎も角、『遺跡の封印を解こうとする者がいる』と言うのは聞き捨てならんな?――『安』の領域
で見かけた遺跡からは大きな力を感じた……その封印を解いたら何が起きるか分からん。
最悪の場合は、オオマガドキ以上の厄災が起きかねんぞ?
「……私以外にも不届き者がいるらしい。」
「遺跡の封印を解く?分かるように説明しろよ。」
「遺跡にはカラクリが眠っている……其れを利用しようとする者が居るんだろう。
あの遺跡は世界中に点在し、地下深くに封印されて来た……オオマガドキが起こらなければ、あぁして地上に出て来る事もなかった
ろう。
10年前にその封印を暴こうとしたとすれば、そいつは只の人ではない……世界の秘密について、何かを知って居る奴だ。
警戒しておくべきだろうな。」
こんな事を言ったらアレだが、貴女もその1人ではないのか博士?
「私は只の墓荒らしさ。
……グウェン、よく手紙を届けてくれた。10年、長い旅だったろう?」
「どうかな?無我夢中だったから分からない。」
「長い旅と言えば、コイツも横浜から10年の時間を旅して来た。な、シグナム?」
って、此処で私に振るのか博士!?
いや、まぁ間違った事は言ってはいないが……行き成り話を振られるというのは、存外驚くモノだぞ?
「横浜……?貴女も横浜から来たのか?」
「あぁ、一応な。」
10年前のオオマガドキの時に、私は横浜の最前線で戦っていたんだ……もしかしたら何処かですれ違っていたかもしれんな――そ
の辺は、話し始めると長くなりそうだからまた今度だが。
そう言えば、マホロバに用があったんじゃないのかグウェン?
「……そうだ、この地での戦いに協力したい。」
「其れは有り難い申し出だが、つてはあるのか?」
「いや……残念ながら……」
ならば、博士の研究所に居候すると言うのはどうだ?……其れ位、構わんだろう博士?
「あぁ、マッタク問題ない。」
「良いのか!」
「ちょ、お前また!!」
ふふ、そう言うな時継。
グウェンが無事に生活できるとなれば公爵殿も喜ぶだろうさ――流石にただ飯食いとは行かないから、モノノフとして働いて貰う事に
なるがな。
「願ってもない!ありがとう!!」
「今この時より、お前は私達の仲間だ……頼りにさせて貰うぞグウェン。」
期せずして新たな戦力がカラクリ部隊に加わったが、この事を八雲に報告しなくてはと考えると憂鬱だ……だが、だからと言って踏み
倒す事が出来るモノでもないからな――仕方ないから行くしかないか。
だが、其れとは別に、歓迎するぞグウェン。ようこそ、マホロバの里に!!
To Be Continued… 
おまけ:本日の禊場
それでだ、此処が禊場だグウェン。
「此れが禊場か……身も心も引き締まる感じがするな?」
「霊験あらたかな冷水をその身に受ければ、多くの人がそう感じるだろうな。」
ともあれ、お前は私よりも異界の瘴気を受けていたんだが、確りと禊を行って穢れを落としておけ――異界の瘴気を身体の中に残して
於いたら、其れが致命傷になりかねないからな。
「了解だ……それにしても、貴女は凄いな?」
「なにが?とは敢えて聞かん。」
聞かずとも分かるからね。――マッタク、我ながらよくもまぁ、此処まで育ったモノだと思うよ。
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